251話:考察
ったく、今回は、いろいろと厄介そうね。まあ、尤も、邪神とやらが復活する、と言うのをイシュタルが予言している以上、誰が、どうあがいても変えられない……いいえ、帰られるでしょうけど、いずれ邪神が蘇ることは変わらないみたいね。彼女の予言は、キリハの予言とは違って、なんか微妙らしいけど、それでも、邪神はいつか確実に復活する。いま、敵を殺しても先延ばしになるだけだとか。
そして、復活した奴らは、再度封印することはできない。と言うよりも、完全に殺すことを目標にしないと、いずれ、また復活するだけなのよね。向こうの世界の創造神とやらも倒したらしいけど、あくまで殺してはいない。と言うか殺せなかったみたいなのよ。
どうにも、紳司とあたしの見解だけど、神にも邪神を殺しきることができずに封印して、それをいくつかの欠片に配下と共に分解封印したパターンってのが一番ありそうなのよね。ほとんど想像だけど。
邪神に限らず、邪な存在ってのはどの神話にも必ずと言ってもいいほどでてくるわけで、それをどうにかするにしても、神々が殺すってのはあんまりなわけで、結局封印とかになるわけよ。尤も、殺し合いをするような結末の神々の黄昏……世界の終わり、ラグナロクなんていうのがあるっちゃあるけどね。ゾロアスターとか見たく封印で終わるパターンが多いわ。そして、封印されても解放の時を待って力をつけてるってパターンよ。
紳司曰く、神と言うのは、信仰の対象であると同時に、神然とした超越的な力があるからこそ神であると認定されるのが大半であり、また、大自然そのものとされることの方が多い。だからこそ、たとえば全ての現象を1つの神による奇跡と認定する一神教があれば、それぞれに分類して役割を持たせる多神教、そして究極的に全ての役割を持たせたのが、たとえば風で木が揺れるのを木の神と葉の神と風の神と……と分ける日本の八百万の神と言うことになるわけね。
……何の話?まあ、いいわ。要するに、神が信仰されている以上凄い力を持っているというのは言われているはずで、でも、その敵と言うことは信仰されている神と互角かそれ以上の力を持っているということになるのよ。何せ、相打ったり、倒せなかったり、ってことになるんだからね。
どういう神話かってのは詳しく知らないけど、確か、おおざっぱになぞっていたのを聞いた限り、5人の勇者ってのを創造神が召喚したってのは、おそらく、邪神と配下をまるっと相手して敵う自信がなかったからなんでしょうね。ってことは、つまり、それらが復活したら、5人の勇者+創造神ってくらいの力がないと勝てないっちゅーことよ。しかも、その力があっても殺せないってのは、大体分かったでしょうから、要するにそれ以上の力を持って、生まれた邪神を殺せばこの一件は解決ね。
まあ、それが容易じゃないってのが、よくわかるでしょうけど。神に匹敵する力でもダメなものを単身では普通は無理、不可能ってことになるのよ。
それに、おそらく新月なんて分かりやすい日にことを起こしそうだし、それなら、まあ、かなり危ないわよね。新月なんて、基本的に化物の時間だからね。まあ、昼が善、夜が悪として、月が悪の加護となる例、たとえば吸血鬼や狼男ね、そういったのもあるけど、太陽神や月の女神なんてのがいるくらいで、つまり、どちらも善神の加護があるということになるのよ。
で、と言うことは、よ、普通に考えて邪神絶好調ヒャッハーって状態なわけじゃない?普通に考えたら勝ち目ないわよね。
そもそも、新月の夜なら、神の加護が弱まって、そのうえ邪神の力が強まるから復活できるってことでしょうからね、無敵状態でもおかしくないわ。
まあ、元の強さってのが分からないからどうともいえないんだけど、神っていうからには強いんでしょうね。
「別に神だから強いとは限らんな。俺とベリオルグと刃以外のムスペル12神がそこまで強くないように場所や世界によってそういうのはまちまちだ」
などとあたしの中のグラムファリオが急に言うのよ。久々ね。グラムファリオ、宵闇に輝く刃の獣、あたしの中に宿る《黒刃の死神》と一つの存在よ。そういえばコイツは元刃神だったわね。忘れてたわ。
「忘れないでほしいな、元とはいえ、立派な神だったのだから」
ガシャガシャと音を立てているけど、きっと胸を張っているってことよね。分かりづら過ぎ……。
「しかし、邪神と言えど、たとえば悪神とどう違うと思う?」
邪神と悪神の違い……?ほとんど違わないんじゃないかしら。そもそも悪神なんて呼び方をしているのが少ないだけで、全部いっしょくたじゃないのかしら。えと、悪神はロキとかよね。
「悪神とは悪事を働く神ではあるが、邪神が働くのは悪事ではない、暴虐であるということだ」
いや、極論言えば、暴虐も悪事でしょうに。何言ってんだ、コイツ。まあ、いいわよ。それにしても、邪神ね。そういえば、死神も「神」よね……。
あ、そだ、悪神ロキと言えば、うちの身内に本人がいるじゃないの。あの子に聞けば何か……ってそこまでする必要もないわね。どうせ、聞いても明確な定義が出てくるわけじゃないでしょうし。
「姉さん、イシュタルから聞いた情報を持ってきたんだけど」
んあ?ガラガラと戸を開けて、入ってきたのは紳司だった。まあ、声で分かってたんだけど。
「ちょっと、紳司、今日はシャワーじゃなくて浸かるから2人で入るのはきついわよ?」
あたしは、湯船につかりながらそう言った。無論、紳司は裸で、あたしも裸。なお、この関係を知った零桜華は、呆れたような顔をしてから、一転「ああ、まあ、男同士みたいなもんね、そうね」と言って納得ていたわ。まあ、あたしが自分が男だったこともある、と知る前からこうなんだけどね。
「分かってるよ。てか、姉さん、また適当に髪の毛洗っただろ。きちんとしないとダメだって言ってるだろ?」
紳司は口うるさく言ってくるけど、今はそれどころじゃないわよ。イシュタルから詳しく話を聞いてきたっていってたんだからそれを話して欲しいわね。
「……分かったよ、話すよ。話してほしそうな顔をしてたから、もう。俺が聞いた話だと、その世界にも予言が伝わってるって。それは写し心って言う魔眼の効果で知ったらしいんだけどね。で、その予言ていうのは地方によって異なっていて、でもね、俺は気づいたんだ。もしかしたら全部が全部本当になるんじゃないかってね」
そうして紳司は予言の内容を語りだした。
「邪神復活せしは、異地。その地にて、5人の勇者戦えり、されど敵わぬ。6人目の勇者、戦うも敵わず、不死なるものそれを庇いて死する。7人目の勇者現れ、徒と邪神を倒す」
「邪神復活せしは、異地。法も枷も無き世界にて、6人の勇者無残に散り、7人目の化け物が全てを屠る」
「邪神復活せしは、異地。邪悪なる神、全てを滅ぼさん勢いで挑む者優に倒す。されど、7人目、……闇を纏った者が邪悪を討つだろう」
「邪神復活せしは、異地。復活した邪なる神を食い殺すのは同じ神である。そうして、邪神は完全に滅び二度と蘇らぬであろう」
この4つの予言ってのが全部一緒ってことね。「邪神復活せしは、異地」と言うフレーズは共通。つまり、異世界で邪神が目覚めるのは本当ってことね。そんでもって、最初のが「5人の勇者戦えり、されど敵わぬ。6人目の勇者、戦うも敵わず、不死なるものそれを庇いて死する」、次のが「6人の勇者無残に散り」、次のが「挑む者優に倒す」これらのことから導き出せるのは、まず5人が戦って負けるのが確定、そしてそのあとにもう1人の勇者が現れて負けるのも確定ってことかしら。ついでに、不死の者ってのが死ぬ、と。
そんでもって、「7人目の勇者現れ、徒と邪神を倒す」「7人目の化け物が全てを屠る」「7人目、……闇を纏った者が邪悪を討つだろう」「同じ神である。そうして、邪神は完全に滅び二度と蘇らぬであろう」、つまり、7人目が勝つということは確定だと思うわ。ただ、その正体が勇者で化け物で闇を纏っていて神。訳が分からんわ。まあ、でも、化け物じみた力を持つ勇者で、能力は闇を使って、神としての力も使える、みたいな?
「勇者と言うのは邪神と戦う者の俗称で、闇の力を持つ化物のような神、とか?」
まあ、そうよね、考えたら無限に浮かぶじゃないの。こりゃダメね。ま、誰が倒そうと関係ないんだけど……
――ふふっ、誰が倒そうと、か
何よ、含みのある言い方ね、夢幻刃龍皇。何よ、なんか知ってるなら話しなさいよ。
――いや、何、この話にはこういう捉え方もある、と言うだけの話だ。あくまで、あたしの考察にすぎないしな。
そう言っている間に、紳司が体を洗い終える。かなりきついけど、バスタブに無理やり2人で浸かる。風呂に入ってるってよりぎゅうぎゅうに詰られてる感覚よね。狭い。
「姉さん、狭いんだけど」
「紳司、あんたの肘がおっぱいに当たってんだけど」
無理して入るからこうなるのよね。で、何だっけ、グレート・オブ・ドラゴンの考察だったかしら?
――フッ、いるじゃないの、世界を救えるほどの勇者と言っても過言ではなく、生涯化け物と呼ばれ、闇夜を纏う、死神が……
ああ、なるほど、そういうことね。あたしは、グレート・オブ・ドラゴンの言葉に、ニヤリと笑って、それを紳司が気味悪そうに見ていた……ので、殴っといた。
昨日は、ちょっと本屋に行ったり、書類手続きのための住民票やらを取りに行ったりと時間がなく、更新できませんでした。すみません。




