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《神》の古具使い  作者: 桃姫
覇紋編 SIDE.D
249/385

249話:元老議会の思惑

SIDE.HARUE


 私は覇紋さんに全てを話した。そして、覇紋さんはそれを受け入れてくれた。ホッと一息つきながら、私たちは、覇紋さんの家に移動することになったので、覇紋さんのリムジンに乗車する。相変わらずのリムジンだが、やはり運転席には由梨香さんも俊隆さんもいなかった。代わりにいたのは、鞠華ちゃん。もう、運転できる年齢なのだろう。私の常識が間違っていなければ、18歳になれば運転ができるはずなので、高校3年生なら不可能ではないはず。


 それにしても元老議会の動向が気になる。この世界に来た理由も、大体の推察はできているのだが、それ以上の確信を得られる材料が無いのだ。おそらく、と言う推測はできているだけあって、相手が動く日も目途がついているけど……。


 新月。それが宗教的に重大な意味を持つこともある。カランドール教ヴァードベル新派と元老院は強くつながっていたらしい。だからこそ、新月が大きな意味を持つ。現在は、七月末。もうじき、新月がやってくる。


 カランドール教は元来、創造神カランドールを信仰する善幸宗教だった。しかし、その中のヴァードベル新派は、文字通り新しくできた派閥なのだが、創造神カランドールと戦った邪神ヴァードベルこそ真の神と崇める邪神派であり、月と太陽と言う創造の象徴が無い、新月の夜こそが邪神復活の時である。しかし、バルステランドのあるあの世界……ヴァチェンズには月が5つあり、新月になるのは2千年に一度と言うから、ほとんど復活は無理だ。次の新月まで、約260年もあるらしい。そう、あの世界では無理なのだ。だから、元老議会はこの世界に逃げてきて、この世界で邪神ヴァードベルを復活させようとしている……のではないか、と言うのが帝国首脳部の考え。首脳部……と言うより、帝国軍参謀のガラッジェさんの意見だが。


 元老議会は、ヴァードベル新派帝国本部の連中と結託して、帝国と法国と公国とドルヴァイス村から邪神の欠片を奪っているので、おそらく間違いない、とされているのだが、信義は不明。覇紋さんには、まだこのことは言っていない。


 覇紋さんを巻き込みたくはない、と思った。言えば、絶対に彼は私に協力するという。それだけの確信はある。でも、これは私たちのこと。家を借りはするけど、元老議会と邪神、その徒は私たちが潰す。


 邪神ヴァードベルの11の徒は、第零位から第十位までの位階序列があって、零位が一番強い、と言う定番の設定付きだけれど、その強さは、創造神の召喚した5人の勇者が犠牲を出しながら戦ってようやく互角と言うほどに強かったそうだ。そんな相手に勝てるかどうかは、ともかくとして、この世界の一般人がそんなものに遭遇したら確実に殺されてしまう。だからこそ、私たち……もとい、私を除いたトップたちが戦う。


 第零位は勇者王伽藍(がらん)が相打ったことで名称も力も知られていないが、間違いなく危険。勇者王伽藍は、第八位、第六位、第五位、第四位を単独で殺すほどに強かったと言われている。それと相打つというのは相当な強さだろう。


 第一位徒ゲルヴェンド。英雄王祠堂(しどう)と魔王飛鳥(あすか)が戦い、英雄王祠堂(しどう)を犠牲に倒したと言われている。


 第二位徒ヴァン。英傑王天堂(てんどう)が屠った不死身の怪物。英傑王天堂(てんどう)の持っていた万物を切り裂く獣の剣でのみ切り殺すことができると言われている。


 第三位徒ガルズレットルーズ。無名王によって屠られた。無名王自体が名を持たぬために、どういう存在か知られていないが、ガルズレットルーズは炎を操るそうだ。


 第四位徒シュヴァールン。勇者王伽藍(がらん)が一撃で屠ったと言われている悪魔の子供。幻術が得意と言われているが、勇者王伽藍(がらん)には幻術は通じないので一撃だったそうだ、


 第五位徒ビュスタルフ。勇者王伽藍(がらん)によって一撃で屠られた獣のような怪物。知性がほとんどないと言われている。


 第六位徒デュセルフ。勇者王伽藍(がらん)によって一撃で屠られた堕天使のような存在と言われている。邪神の徒の中で唯一光の魔法を使えることから、対悪特化の勇者王伽藍(がらん)が第零位の次に苦戦したと言われている。


 第七位徒ジューゼフ。聖剣王アストロフによって屠られた。しかし、聖剣王アストロフはこの戦闘において、重傷を負い後の戦いに参加できなくなったと言われている。ジューゼフの能力は絶対防壁。一定以上の威力が無ければ傷をつけることができないという。


 第八位徒アストード。勇者王伽藍(がらん)によって一撃で屠られた龍種の雑兵らしい。なぜ、雑兵が徒を務めているかと言うと、龍種は邪神によって大半を滅ぼされて、残った者たちが邪神についたので、大半の強者はもういなくなっていたからとされる説が一般的。


 第九位徒ベルグール。英傑王天堂(てんどう)が屠った。グールの王とされ、真祖の吸血鬼に生み出されたが、真祖は異界に渡ったために、取り残された存在。


 第十位徒ドンガース。魔王飛鳥(あすか)が屠った。巨大な体躯の大きな獣で、一歩動くごとに地面が揺れる。胴体下が弱点。


 これら11の徒を倒さなくてはならない。その上、邪神までもが復活したとなれば、確実に私たちの手には負えないだろう。けれど、それでも、覇紋さんの力は借りない。

 バルステランド帝国にはある言い伝えがある。その言い伝えは、こうだ。


「邪神復活せしは、異地。その地にて、5人の勇者戦えり、されど叶わぬ。6人目の勇者、戦うも敵わず、不死なるものそれを庇いて死する。7人目の勇者現れ、徒と邪神を倒す」


 7人目の勇者、それが誰かは分からないけれど、その7人目が来れば、きっと私たちは勝てる。あの世界の人間ならリフテヘレン公国の絶鬼……リリレド・スパンニャーくらいか。




 そうこうしているうちに覇紋さんの家に着く。立派な家で、皆が驚いていた。普通に貴族の家ほどの大きさがあるのだから驚くのも無理はないだろう。この世界の普通の感性を知っている私からしても、昔は驚いた大きさだもの。


「部屋割は自由だ、しかし、晴廻、君だけは私と来てくれ」


 私だけ別室と言うことで、内心では、ものすごく舞い上がっていた。まあ、その、それは……まあ、してもらえると思ったし。せめて、シャワーは浴びたい。篠宮邸で、覇紋さんを待っている間に浴びさせてもらったけれど、それでも……こう、事の前には浴びておきたい。できれば剃毛もしたい。帝国にはそういう考えが根付いていないせいで、その……。法国の方では、汚らわしいものを排除するという意味で、みんなツルッツルらしい。


 覇紋さんの部屋は、普通に大きな部屋に高級そうな机とその上にいくつかの書類、そして、大きなベッド、本棚には難しそうな本、と昔と変わっていないようだった。


「晴廻、少し話があるんだが、いいか?」


 話、その覇紋さんの真面目な様子から察するに、割と深刻な話と言うのが待っているということ。


「はい、なんですか?」


 私は不安な心を隠すように平静を装い、覇紋さんの言葉の続きを待った。しかし、全然言葉の続きが出てこない。そして、しばらくの沈黙ののちに、覇紋さんが決心したように言う。


「すまない。実は、君が戻ってこないのでは、と言う不安から十月……いや鞠華を、その……抱いてしまった」


 何だ、そんなことか、と言うのが最初に浮かんだ思い。まあ、鞠華ちゃんなら仕方がないかな、と思うし、それに、私だって、元は陽斗さんに恋をしていたわけだし、お相子みたいなものかな、と思う。


「それでも君がまだ、私を受け入れてくれるというのなら、私は……」


 普通なら、ここで、裏切っておいて受け入れてくれるのならってどういうことよ、何、その上から目線……となる展開。しかし、私は、覇紋さんだから仕方がない、と納得する。この人はこういう人だから。そうやって納得ができないのなら、人と付き合っていくというのはきっと無理で、どこかで妥協する必要があって、この人と付き合う上で妥協するには私が全部折れていくしかないんだと思う。


 諦めているんじゃないか、と問われたら、たぶん「うん、そうかもしれない」と返すだろう。事実、半ば諦めている。でも、彼に秘密が多いのも、彼が上から目線なのも、全部含めて彼で、それに何より、彼は心が広い。優しすぎるから、仕方がないんだと思う。


「はい、受け入れますよ。覇紋さんも、私を受け入れてくれますか?」


 こんな、異世界なんて非常識に染まってしまった私のことを……、とそう聞いたら、覇紋さんは珍しく声を出して笑う。


「ハハハッ、それはもう、もちろんだ。それに、君程度で非常識では、私はやっていけないさ。もっと非常識でおかしな人物がいるからね。あれは非常識の塊だよ」


 そんな風に言う、非常識の塊だなんて覇紋さんが断言する、それほどの非常識な人間がいるのか、と私は、少し驚いていた。


「異世界の知識がある君ですら、彼女に会えば驚くに違いない。あれは、世界がどうとかの常識はないだろう」


 異世界の常識とかも関係ないほどの非常識、一体どんな人なんだろうか、と首を捻る。すると、覇紋さんは言った。


「実は、君を迎えに行くように言ったのがその非常識の塊でね」


 え……確か、あの時、私たちを覇紋さんに任せたのは、はやてちゃん……ではなく、その友達の……えーっと、名前が思い出せない。でも、女の子だったはず。彼女のことかな。


「青葉暗音君。私の後輩でね、同じ部活動をしている中だが、彼女ほど不思議な人間は知らない。私と君の関係を知っていた。念の為に確認するが、はやて君が彼女に連絡したときに君の名前は言っていないだろう?」


 私は頷いた。確かに言っていない。あの時、はやてちゃんは6人くらい泊める場所を探しているということを言っただけ。


「つまりは、そういうことだよ。知るはずのない、君との関係はおろか、君の名前まで知っていた。彼女はそういう人物なのだよ」


 どういう人物なのかはいまいち伝わってこないけれど、つまりはそういう人物なのだろう。なんでも知っている、と言うわけではないのだろうけれど、調査能力が高いのか、まるで帝国の暗殺部隊の人間みたいな人物だ。


「会ってみたいけど、会ってみたくない人ですね」


 私はそう呟いた。

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