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《神》の古具使い  作者: 桃姫
覇紋編 SIDE.D
247/385

247話:思い出の地

SIDE.?


 しかし、今回は失敗した、そうつくづく思う。異世界、と聞いたとき、向こうがどうなっているか分からないという話だったので、重装備で来たのだが、流石に、こんな状態で、街中に降りればコスプレ、酷ければ警察に事情聴取されるだろう。お金もないので、ホテルを借りることもできない。金品の売買にも身分証明が必要だけど、おそらくもう死んだことになっているであろう私の身分証明書が有効だとは思えない。保険証で、どうにかなればいいんだけど。


「とりあえず、宿の確保をしたいところだな」


 ルーカスさんの言葉に皆が頷くけれど、私は、どうすればいいか考えていた。このままだったら、車道を堂々と歩きそうだし、どうにかしてお金を確保して、あと、服をどうにかしなくてはならないだろう。そう思って、まず、頭に浮かぶ頼りになる人が……覇紋さん。しかし、彼に連絡をしようにも、10円玉すらない状況で、しかも公衆電話なんていうものはとうの昔にすたれたこの時代に、彼への連絡手段はなかった。


 しかし、鷹乃町、そこは、私と陽斗の暮らした思い出の地。元老議会がそこにいるというのなら、土地勘もある私が有利だろうけど……。あの地に誰か頼りになる人はいるだろうか。


 そう考えて、ある人が私の頭によぎる。そうだ、彼女なら、私に力を貸してくれるかもしれない。割と親しかったし、今もまだ、あの町にいることだろう。


 そうとなれば、人目につかないように静かに移動するしかない。でもこの山道が、おそらくあの山道ともなれば、鷹之町までは車で30分ほどかかる。だが、この面々なら、魔法でどうにかなるだろう。


「ヨーコさん。私に合わせて転移を使ってください。現地人に見つかると厄介ですから」


 たぶん、都市開発でもしてなければ、あの住宅街は現存だろう。そう思って、ヨーコさんに頼むと、ヨーコさんが頷いた。そして……

 転移した先は、住宅街の路地裏。滅多に人の通らない場所だ。ここなら、あとは慎重に行けば人に見つかることはないだろう。そう思って、路地から出ようとしたとき、


「あら、変な格好ね。珍しい……わけでもないか。問題ないでしょうし、行くわよ零桜華」


 2人の少女に見られてしまった。だが、普通にスルーしていってしまう。月明かりしかない暗がりだったからか、とほっと一息ついていると、周りを興味深そうに見ている仲間たちが目に入る。このままだったらブロック塀を壊しかねないので、目的の人物の住まう場所を目指す。


 そして、見えた。電気はついている。これは家にいる可能性も高いし、チラリとその家の奥を見る。そこにはボロアパートがあった。そう、あそこに私と陽斗は住んでいた。今は、過去を振り返っている場合ではないので、インターフォンを押す。


「はい、篠宮よ」


 女性の鋭い声がなった。その様子を皆が興味深そうに見ているが、今は説明するよりも先に、ここに助力を乞おう。


「私です。覚えていませんか?」


 インターフォンに顔を見せながら、そういうと、インターフォンの向こうの女性は、ハッとしたような顔をする。


「久しぶりね。ずっと家は借りっぱなしにしてたみたいだけど、2年くらいどこ行ってたの?鍵はなくしちゃった?」


 その言葉に、驚き、部屋の方を見る。明かりはついていない、が、誰か住んでいない、とも言いきれないだろう。でも、どことなく、あの部屋はそのままになっているような気がしている。


「あ~、ちょっと事情がありまして、5人ほど、泊める場所を探していまして」


 本当は頼りたくはないんだけれど、当てがないから仕方がないんです、と心の中で謝りながら、答えを待つ。


「あ~、あのアパートに5人は無理かー。まっ、そうね。いいわ、鍵は開いてるから上がってきていいわよ」


「ありがとうございます、真希さん!」


 篠宮真希さん。私のかつてのご近所さんであり、私にいろいろと教えてくれて、平日にお邪魔するくらいには仲のいい人でした。


「みなさん、行きましょう」


 私は全員を先導して家に上がらせてもらう。はやてちゃんは寝ているだろうから、静かにするようにと全員に伝え、また、玄関で靴を脱がせるのも忘れなかった。まあ、靴を脱ぐときにガチャガチャと音が鳴ったのは仕方がないだろう。


「お邪魔します。お久しぶりです、真希さん。夜分遅くに大勢で押しかけてすみません」


 私を含めた6人を見て、真希さんは少ししか驚いた様子が見られなかった。それに対して逆にびっくりした。この鎧の男女6人を連れた知人が訪れた状況で、ここまで冷静でいられるのは普通ではない。


「ふぅん、マジな鎧ね。こりゃ、異世界産でしょうし、ふぅん、2年もどこ行ってるのかと思ったら異世界にトリップ?」


 真希さんはジロジロと観察するような目で皆を見るが、皆も部屋を観察しているのでお相子と言ったところか。


「ええ、まあ、自分の意思ではないんですけどね。とりあえず、あれでは目立つので、せめて人目につかないように、と家をお借りしました」


 私が頭を下げると真希さんは笑った。


「まあ、全然かまわないわよ。それで、どうするの?」


 あっけらかんと私たちを受け入れた。普通は断るところだろうが、この人は何か違う、そう思った通りなのだろう。


「じゃあ、この部屋だけ貸してもらえれば構いません」


 私の言葉に、「そっ」とだけ言うと真希さんはスマートフォンを取り出した。そして、手早く誰かに連絡を取る。


「あれは何だ?」


「あれはスマートフォンといって、連絡用魔法を魔法の使えない一般人……つまり私たち帝国軍の人間以外でも使えるようにしたもので、機械(ロストロジック)のようなものです」


 私は、彼らに部屋中の物を説明していく。テレビ、照明、キッチン器具……様々なものを教えていた。


「って訳で、あたしじゃあ、どうにもならんのよ。はぁ……?アンドヴァリの指輪?何よそれ。別名アンドヴァラナウト?それが何だっていうのよ。ドワーフの遺産にして、黄金の龍の?って、あっちょ、そういうわけでそれどころじゃない、じゃないっつーの、ちょっと、王司?王司?あ、切った、切ったわね。チッ、使えないんだから」


 真希さんは誰かに報告と言うか助力を乞おうとしていた見たいだけど忙しくて断れたようで……。真希さんはスマートフォンを机の上に投げるようにおいて、ソファにどっさりと腰を掛けた。


「まあ、いいわ。ったく、異世界関係だったら、世界管理委員会がちょっかい出してくるかもしれないから気を付けろよって言って切られたんだけど、そもそも世界管理委員会ってなによって話よね。まーいいわ。あなたたちも腰かけたら。生憎と予備の布団なんてものはうちにはないけど我慢して頂戴」


 真希さんの言葉に従って、床や椅子、ソファにそれぞれ腰を掛ける。それにしても、異世界なんて言葉を口にするということは真希さんも異世界に行ったことがあるのだろうか。なんてことを考えながら、私は、思いふける。覇紋さんは今、どこで何をしているのか、と。


「うぅん、お母さん、こんな夜遅くに、何……?」


 階段を降りるゆったりとした音が響く。どうやら、娘のはやてちゃんだ。起こしてしまったようで、申し訳なく思う。


「あれ、お客さん?どうも、娘の篠宮はやてです」


 寝ぼけ眼でペコリと頭を下げるはやてちゃんに、皆がおどろいた。そう、それは、真希さんがあまりにも若く見えるから、とても娘が……それもこんな大きな娘がいるとは思っていなかったのだろう。


「ああ、はやて、ちょっと、泊めることになってね。てか、この子等、いつまでもうちに置いとくわけにもいかんから、どっか泊まれそうな当てない?流石に家だと狭すぎるっしょ?」


 全員に確認を取るように言う真希さん。まあ、確かにいつまでもここにいるわけにもいかないし、そうしてもらえる方がありがたい。


「う~ん、ちょっと待って?暗音ちゃんに聞いてみる。起きてるかな?」


 そう言って、スマートフォンを操作するはやてちゃん。電話をしているのか、耳元にスマートフォンを当てる。


「何よ、なんか用?って、零桜華、寝相悪すぎ、あんたよくそんなんで魔装空挺とかで移動をできてたわね。高速移動できる世代は怖いわー」


 はやてちゃんが思わずスマートフォンを取り落しそうになる。どうやら、スピーカーモードになっていたようだ。そしてこの声、先ほど路地の前で聞いた声。


「あ、暗音ちゃん、夜遅くにごめんね?6人くらい緊急で泊まれる場所ってある?」


 はやてちゃんがそんな風に電話の向こうに問いかけた。すると、電話の向こうの女は、あっけらかんと言い返す。


「そりゃ、あんた、6人くらいならどっかのホテルにでも押し込めばいいじゃない。それがだめなら漫画喫茶か、カラオケ?それ以外になると、……友達の家を頼るくらいしかないでしょうけど」


 そう言ってから、一瞬間が空いて、そして、何かを知っているかのような口調で、電話の向こうの女は言う。


「もし、その6人が突如異世界からやってきてしまった人たちで、それを隠匿、もしくは、目立ってはいけないからなるべく穏便に済ませたいって場合だったとしたら……」


「したら?」


 何だ、この女、なぜ、そこまでこちらの状況を、と思わず身構えてしまう。まるで、全ての状況が分かっているかのように、彼女はその先の言葉を紡ぐ。


「不知火あたりにでも押し付けるのが最適よ」


 その名前を私は知っていた。そう、ずっと、ずっと考えていた覇紋さんの苗字。そして、彼女たちの言う不知火とは、間違いなく、覇紋さんのこと。


「え~、いくらなんでも、ひどすぎない?」


「大丈夫よ。おそらく、ね。ねぇ、イシュタル、あんたの神眼で見たんでしょ、その行く末を」


 電話の向こうで、電話の向こうの誰かに聞いた。そして、幼い少女の声で返事が返ってくる。


「不死の男、そして、その愛を受けし女、それが交錯するのは、もうじき、かしら。うん、大丈夫、不知火覇紋、その男に全てを任せれば、ね」


 不知火覇紋。そう、覇紋さん。


「まあ、覇紋にはあたしから連絡しといてあげるわよ。じゃあ、ってこのっ、零桜華、父を足蹴にするとはいい度胸じゃないの!」


 ツーツーと通話を終了した音が響いていた。ただ、私の頭の中には、覇紋さんのことしかなかったのだけれど。

 今回は暗音ちゃんは裏方に回る、と考えてください。

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