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《神》の古具使い  作者: 桃姫
覇紋編 SIDE.D
246/385

246話:プロローグ

SIDE.?


 全ては、あの日より始まった。天上の月を見上げ、あの日のことを思い出す。全てを、失った、あの日を。早くに夫を亡くし、愛に飢えた私と愛し合った、禁忌の恋の話の結末を。


 私は、21歳の時に婚約した。相手の男性は、その数日後に事故死。はれて未亡人となったの。しかし、諦められるわけもなく、周囲は「残念だったね。新しい人を見つけて支えてもらいな」と言うのを無視して、必死に彼の墓に縋り付いていました。そんなある日、私は出会ってしまったのです。

 白……灰色や黒の墓石が乱立する墓地において、非常に目立つ真っ白な服を着て、小柄なメイド服を着た少女を連れ歩く姿は、墓地であるはずなのに異空間にいるかのように錯覚させられます。


「少しいいかな?」


 その真っ白な男に声をかけられる。その時は涙で視界がゆがんで、よく顔も見えて田舎たけれど、彼は、常人離れした見た目をしていました。


「この墓は、園城寺(おんじょうじ)陽斗(はると)君の墓、と言うことでいいのかな?」


 私は頷く。園城寺(おんじょうじ)陽斗(はると)、それが夫の名前。もう、この世にいない最愛の人の名前。


「そうか……本当に。馬鹿だな、君と言う奴は。私に黙って先に行こうとは……。あの約束を……夢をかなえると約束したのは嘘だったのかい?」


 墓に花を供えながら彼はそう言います。その物言いは、まるで、本当に親しい友人のような、そんな態度。でも、彼から知り合いに男の人がいるという話は聞いていません。そもそも、彼の実家は、ただのサラリーマンで、彼自身もボロアパートに住んでいました。こんな身なりのよさそうな人と知り合いなはずが……


「陽斗……。陽埜(はるの)は最後まで君のことを罵るだろうね。だから、私からは、キツいことはここまでにしよう。私の、最高の友人、陽斗よ冥福を祈るさ」


 彼の友人、それも彼を最高の友人とまで言うこの人は誰なのだろうか。そう思って、私は涙をぬぐって、その姿を見る。見た目は明らかに子供。それも18歳くらいの。


「ぼっちゃま、対価を払う時間が迫っておりますが……。本当に、あの対価でよろしいんでしょうか。私ごときが口出しするものではないかもしれませんが」


 対価……何の話でしょうか。


「ああ、分かっている。この見た目の対価はもうすでに支払った。もうじき元に戻るだろうし、そのくらいは分かっているさ。この私、不知火(しらぬい)覇紋(はもん)のことは、私自身が一番な」


 不知火……、確か、有名な埼玉の家だったかな、と対して知っているわけでもない知識でそんな風に思っていました。


「それにしても、陽斗……死ぬようなタマじゃないと思っていたんだがな。存外、人と言うのは脆いものだ」


 冷酷な言葉に苛立ち、文句を言ってやろうかと思って、彼の顔を見ると、そこには、涙が流れていた。そう、泣いていたの。


「ところで、君は……、もしかして陽斗の?」


 彼の言葉に頷きます。すると、驚いたような目で私のことを観察するように見て、こういいました。


「あの家の出には見えないが……なるほど、そういうことか。ようやく合点がいったというものだ。なるほど、陽斗は君のために、家を出た、と言うわけか」


 家を……出た?仕事のために実家を離れた、とは聞いていたけれど、それだけで、別に他の理由は聞いていなかった。


「園城寺、と言う家を知らないかい?まあ、仕方がないか。滋賀の家なのだがね、そこの家も、私の家と同様に力をもっていてね、陽斗はそこの長男。つまりは跡取り息子だったのだよ。もちろん、私とも交流があってね。……だが、そんなある日、彼は家を出て行ってしまった。

 確か、所用で東京の響乃に顔を出していた後、帰ってきてすぐのことだったかな。彼は、彼の持っているものの最低限だけ持って、家を出て行方をくらましていたんだ。私の家が勢力を上げて調べて、ようやく見つけたら、このありさま、彼はもう、墓の下だったというわけさ。陽埜(はるの)になんと説明したらよいか……」


 陽埜(はるの)、さっきも出てきた名前。陽斗の関係者だということはなんとなくニュアンスで分かっていたんです。

 そこに一台の車がやってくる。墓所の入り口に停まり、そこから、陽斗に似た少女が下りて小走りでやってきた。黒の長い髪を持つまるで日本人形みたいな少女。


「覇紋、兄さんは……?!」


 彼女が陽埜なのだろう。そして、兄さん、と言う発言から彼女が陽斗の妹であることも分かった。


「そこさ……」


 彼の言葉に、陽埜は絶望した顔をしていた。それほどまでに、兄妹の中が深かったのだろうか。でも、陽斗は妹の話をしたことはなかった。それは自分が妹のことをおもいださないためだったのか……。


「兄さん……、何、勝手に死んでるんですか……。ラニィの……あの人の研究を引き継ぐって言ってたじゃないですか!それを……なんで!」


 墓石に抱き付きながら、彼女は泣いた。ラニィ、研究、よくわからない言葉が飛び交う中、彼女がこちらを向いた。


「……ラニィ?」


 え……。流石に、私は、そんな外人じみた名前ではないので、戸惑うことしかできなかったが、彼が妙に興味深そうな反応を示した。


「ほぉ、ラニィ・エル・リークスとはこのような見た目の人物だったのか?」


 ラニィ・エル・リークス?聞いたことのない名前。でも、陽埜は私のことをそう呼んだ。


「ううん、ラニィは、もっと髪の色が明るかった。たぶん、別人、かな。もしかして、兄さんの恋人か何かですか?」


 彼女の問いかけに静かに頷いた。すると、どこか、嘆息するように息を吐かれてしまった。どこか至らなかったのだろうか、と首を傾げる。


「あなたは、……きっと、兄さんに見た目だけで選ばれたんですよ」


 その言葉は、私の胸に電撃のように突き刺さった。まるで、その言葉が真実であるかのように、私の頭には、彼のあらゆる行動や視線が流れた。


「あなたは、ラニィに似ていたから兄さんに選ばれたんです。まるで、ラニィを相手にしているように、兄さんは微笑んだでしょうね。でも、決して、それは恋ではなかったでしょう。だから、一つ、聞きます。――抱かれましたか?」


 思わず、息を呑んだ。そう、私は彼に抱かれていない。ずっと何度せがんでも結婚してからと言われ、婚約した日に言っても結局はしてくれなかった。私の様子から、是非を感じ取ったのでしょう。彼女は頷いた。


「そういうことですよ」


 そう言って、彼女は私の肩を叩き、行ってしまった。私は、そのまま、先ほどまでとは別の意味で泣き崩れたのです。


「はぁ、とりあえず、家まで送ろう。車に乗ってくれ」


 そうして、私は彼、不知火覇紋の車に乗ったのでした。そして、運転席にいたメイド、桜麻由梨香さんや黒羅俊隆さんによって、支えられて、でも、その2人は、引退をして、一緒に居た小柄なメイドを覇紋さんが引き取り、そして、私の面倒もよく見てもらっていた。



 私がそんな彼に恋心を抱くまで、そんなに時間は要さなかったのである。



 そして、運命の日、不知火覇紋は、その時点で15歳。先ほども言ったように、18歳くらいの見た目、と言ったのに、実年齢が15歳なのにはそれなりに理由があるようでしたが、答えてはもらえなかった。けれど、愛してはもらえた。愛し合って、それでも身分に差は会って……。


 その日は、満月の夜。私と覇紋さんと鞠華は道をゆっくりと歩いていた。青信号、少し危ない山道と言えど、舗装もガードレールもしっかりとした道。本来なら、こんなところで事故など起こるはずもなかった。だけれど、私と覇紋は車に……突如やってきたトラックに轢かれた。


 これに関しては運が悪かった、偶然の重なりとしか言えない。青信号なのにツッコんできたトラック、それから身を挺して守ろうとした鞠華。しかし、鞠華に驚いた運転手は、慌ててハンドルを切った。そして、それが私と覇紋さんの方に向かってツッコんできた。そうして、地面に伏せる私の元に、鞠華の覇紋さんへの声が聞こえた。


「覇紋様、意識をしっかりとお持ちください!《不死の大火(イモータル・フレア)》の対価を……、私の命を早く!!」


 そんな声を聴いている私に向かって、別の車が突っ込んできて……


――ドンッ


 そのあとは、覚えていない。たぶん、ガードレールを越えて山の中に転がり落ちていったのだろう。


 目を覚ませば……


「おい、大丈夫か?」


 妙な男が私の顔をのぞき込んでいた。その身なりは、妙な感じで、日本人にはとても見えない。まるで吹き替え映画を見ているように、口の動きとは全く違うのに、日本語で相手の言葉が伝わってくる。


「ここは……」


 私の短い問いかけに、男はこういう。


「バルステランドだ」


 そう、目が覚めたらそこは異世界。それも、戦乱の世の戦いの最中、私は、戦場で死体と共に倒れていたらしい。


 そうして、このバルステランド帝国に拾われた私は、恩を返すために働き、つらい思いをしながらも、覇紋さんのことを思い懸命に励んだ。そうして、励むこと4年、私は、帝国軍第零師団給仕係りとなり、彼らを支えた。師団長・ファーランド・エル・リークス、彼は妹を戦争で亡くしたが、私がその妹に似ているので、何かと面倒を見てくれているそうだ。副師団長・ルーカス・デンドマン、彼は優しい人だ。だが、誰よりも勇敢で、誰よりも気高い本当の戦士。戦士長・バンド、彼は平民の出ながら最強と謳われる零師団に入団し、誰よりも早く前線へ出て戦っている。弓兵長・ヨーコ・トウゴウ、彼女は東の小国の出で、誰よりも正確に弓を射れる。殿(しんがり)・ドゴス・メノシウス、彼は、私を拾ってくれた男で、裏リーダー。


 そして、戦争を……戦乱を引き起こした張本人である元老議会が、秘術で異世界に跳んだので、今あげた面々と私が異世界に追うことになったのだ。


 そうして、今、私は……


「なんだ?ここは。道にしちゃ随分と綺麗で平らだ。それにこの白い線は何だ?この小さい壁のようなものも見たことがないし、光っているぞ?」


 ファーランドさんがそう言って、周囲を観察する中、私は、一人、胸中の思いを押しとどめていた。そう、ここは、この場所は、私が死にかけた、あの山の中だ。


「まあ、いい。とりあえず元老議会の糞爺どもをとっとと見つけるぞ。術で探知……っつても、あれで分かるのは地名だけだったか?異世界じゃあ、意味ねぇか。まあ、いい、やらねぇよりはましか」


「場所、出ました。……タカノマチ?」

 と言うわけで覇紋編です。彼に関しては、いろいろと考えていたのですが、由梨香や十月の設定の回収を先にしたために、こんな後番に。まあ、ぶっちゃけた話、彼の話はいつでも回収できるから、という理由で後回しにしていたんですが。

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