242話:真相へ
俺は、今、このテーブルにいる面々を見渡した。そこにあった顔はそうそうたるメンツ。魔法少女独立保守機構CEOマナカ・I・シューティスター、【最古の術師】錬金術師派クリスチャン・ローゼンクロイツ、魔法少女独立保守機構服飾デザイン企画担当部長神楽野宮昏音、その妹の神楽野宮旭璃、世界管理委員会【副委員長】No.2デュアル=ツインベル、同じく【剣術指南】No.5篠宮液梨、元魔法少女独立連盟主将【国士無双の睦月】国立睦月、同じく先鋒【七対子の烈篠宮烈、俺の姉の青葉暗音、そして、今回の騒動の中心人物である【奇跡の子】イシュタル・ローゼンクロイツ。
総勢11人で、魔法少女独立保守機構本部の「大食堂」の席についていた。なお、【最古の術師】錬金術師派のサンジェルマン伯爵とカリオストロ伯爵、魔法少女独立保守機構主要メンバー、世界管理委員会No.1の孫【六大魔王】ヴァシュライン・ヴァンデム、元魔法少女独立連盟の他主要メンバー、などは、全員別室待機中。人数が多いと話が進まないってことになったのだ。
そんなわけで、なぜか、俺の膝の上に座るイシュタルと、それを恨めしそうに見ている旭璃を視界に入れながら、居心地の悪さを感じている俺である。なんで、俺がここにいるんだよ。明らかに場違いじゃねぇか。
「それで、要するに、あんたらの言い分としては、『イシュタルがいじめられている』ってタレこみがあったから、ってことでいいの?」
姉さんが我が物顔で仕切っている。流石だな。俺の出る幕はないし、帰りたいんだが、まあ、イシュタルを連れて帰る以上、そんなことをできないのは分かっている。
「んで、魔法少女側は、『クリスチャンがイシュタルを狙っている』ってタレこみがあったって?」
姉さんが肩を竦める。しかし、どういうことだろうか。このタレこみ、両側に似たようなタレこみがあったってことだろう?それも、対立をあおるように。
「それで、昏音たちには、イシュタルが【霊王の眼】を持っているって言うタレこみが会って、元魔法少女たちにはそれぞれ魔法少女独立保守機構が危機に瀕しているってメールが来たわけね。
それで、世界管理委員会は、異常な魔力と時空の揺れを確認して、それでここにやってきたってことよね」
姉さんのまとめたとおりの流れなのだが、俺にはどうも違和感を覚えずにはいられない。裏でタレこみをしたやつ。全部そいつの手のひらの上なんじゃないか、って思うくらいに誘導された感じがする。
「そもそも、タケルってのが、修学旅行のときの全裸童女でいいんでしょうけど、なんで、紳司の学校に移動したのよ?そこから疑問はいろいろとあるんだけど。生徒だとしても、ヤバい攻撃受けた後に、もしかした人がいるかもしれない自分の思い入れのある場所に転移すると思う?
いくら祝日で人がいる可能性が少ないって言っても戦えば校舎は壊れるでしょうし、そんなことにならないように、どっか山奥とかに行くもんじゃないの?」
姉さんの言葉は、俺の脳を揺さぶった。そうだ、そういえば、タケルはどうして意識も跳びかけたその状況で、三鷹丘学園にやってきのか。
無意識に昨日まで通っていた学園を選んでしまった、そういう可能性もある。しかし、転移場所として、誰もいない学園と言うのはおかしいのである。姉さんの言っていた思い入れ云々のこともあるだろうが、それほどヤバイ状況で、「誰もいない場所」に移動して、敵が追ってきたら、普通は回復する前にやられてしまうに決まっている。だから、せめて仲間のいる場所に転移するはずだ。あの時点で、魔法少女独立保守機構の本部は、ほとんど侵攻されていなくて、周囲の時空間を取り囲まれるように展開されていたようだから、領地内に転移するのは場所特定や攻める足掛かりを作るからダメにしても、近場の仲間のいる場所に行くのは不可能じゃないはずだろう。
それなのに、転移したのが誰もいないはずの三鷹丘学園で、しかも偶然俺が来ていた、そのうえ、俺が通るであろう廊下にピンポイントで血を流して倒れているなんて出来すぎているにもほどがある。ご都合主義もいいところだ。
「それにタレこみを流した奴の目的も不明瞭すぎるわ」
ああ、それは俺も感じた。不思議な点が多すぎる。しかし、皆不思議そうな顔をしていた。どうして気づかん。一応凄い機関のトップっぽい奴らだろう?
「特に不思議な点は感じられないと思うけど?」
イシュタルが皆の代表のように姉さんに問いかけたので、姉さんの代わりに俺が説明をすることにしよう。
「あまりにも複数にタレこみをしている。魔法少女独立保守機構と【最古の術師】の対立を煽りたいのなら、その2つと……あとはせいぜい元魔法少女独立連盟程度でいい。それなのに、昏音と旭璃ちゃんにまでタレこんだ理由が分からない。魔法少女独立保守機構の内部分裂にしては、目的物がイシュタルにとって軽すぎる、いらないものだし、対立しない可能性もある。
それに、何より、その2人が『姉さん』を連れてきたという点も引っかかる。他にも、情報がアバウトすぎるのに、あまりにもうまく動きすぎているのは、その程度の情報でも動くことを見据えていたのかもしれないってことだな。
まあ、他にもいろいろ目的があるかのように、この戦況を動かしているっぽい人物がいることは確かだな。タケルの転移や、タレこみに関しては同一人物の仕業と見たほうがいいだろう」
俺と姉さんを、わざわざ連れてくるなんていう真似をしたのが引っ掛かる。何か意味があるのだろう。それに、世界管理委員会も引っかかる。
「まあ、あたしも紳司と同じことを考えていたんだけれど、他にも世界管理委員会、あんたらも引っかかるのよ。普通に考えて、魔法少女独立保守機構と【最古の術師】が対立したら、魔力も出るし時空間がゆがみもするでしょう。そうしたら必然的に世界管理委員会ってのが出張ってくるってことは分かってたはずよ。なのに何の対策もしていなかった。つまり、あんた等の介入は織り込み済みってことか、別に介入されても構わなかったってことじゃないのかしら」
姉さんは俺の思っていたことをズバリと言ってくれた。その通り、だからこそ、この戦いは終わることができたのだ。まあ、相手の想像だと、もう少し介入が遅れていたのかもしれないし、その辺はよくわからないからな。
「それに関してはNo.0が心当たりがあると言って出て行ってしまったわ。だから、もしかしたら、貴方たちの言うとおりかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
……はぁ、貴方たちと話していると、迦具夜君と話している気分になって嫌になるわ。もういいかしら」
デュアル=ツインベルがそう言った。それにしても彼女も彼女で謎が多いが、彼女の言うカグヤと言う人物も中々に謎が多いようだ。クラスメイト、と言っていたり、夜は不死身だったり、よくわからないにもほどがある。
「ええ、でその結果は、予想通り、と言うことよ」
不意に、湧き上がる声。それは、テーブルの中心からだった。どことなく既視感のある声に、胸の奥がもやっとしたような気がするが、一体、誰の声だ?
そう思っていると、謎の女性が現れる。顔を見せないためか、はたまた別に理由があるのか、フードを深くかぶっていた。
そして、その瞳がこちらを捉えた……ような気がした。その瞬間、彼女は、ビクッと肩を揺らした。
「そ、……んな、いや、気のせいか」
不意に漏らした言葉を聞き返す間もなく、俺とそして、姉さんを見て、再び肩を揺らした。しかし、そこには安堵も交じっているようにも感じられる。彼女が、もしかして……
「驚いた。まさか、さっきの既視感は、こちらのほうだったのだな。蒼刃蒼天と■■■■。まさに生き写しじゃないか。ずっと見守ってきただけあって、やはり、感慨深いものを感じるのだな。
そうは思わないか、【師匠】。お前も、あの子をしっかりと覚えているだろう。それに【魔王】のことも、な。それゆえに、非常に壮観だ」
なぜか液梨さんと話す、この人物こそが、No.0なのだろう。しかし、フードの奥、その淡い蒼紫の光を見た、……ことがあるような気がする。でも、全く覚えがないんだが。……ん?姉さんも、どうやら、何か見覚えがあるような感じだな。
「あんた、……綺羅々・ワールドエンダーじゃないの?」
綺羅々・ワールドエンダー。その名前を聞いた瞬間に、何かをわしづかみにされたような、そんな違和感が体中を巡った。むず痒い。何だろう、この感じは……。ピリピリするようなギラギラするような、優しい様な、悲しい様な、そんな不思議な感覚。これは、一体……。
「ほう、名前を……、やはりあの子の記憶が……」
そんな風に呟くNo.0を見ながら、俺は、そんなフードの女を見て、思うのだった。――こいつは信用できない――と。信用してはならない相手だということを本能が悟ったように、そんな感じがしてしまうほどに、警戒している。
「まあ、お前が何者だろうと、どうでもいいが、その心当たりとは、何だったんだ?」
俺の問いかけに、No.0は、その悪名を言う。
「【天兇の魔女】だ」
【天兇の魔女】の名前は、タケルからも聞いた。【滅びの刻を待つ者】のリーダーであるって話をな。
「【天兇の魔女】フィーラ・ブレッセンド=スプリングフォールか……」
すらっと俺の口から出た知らない名前。姉さんもしかめっ面をしたので、聞き覚えがあるのだろうか。
「【天兇の魔女】フィーラ・ブレッセンド=スプリングフォール。時空暦以前から存在している魔女の一人で、太古の魔術の担い手の中なら、おそらく他の追随を許さないほどに強いだろう。特に特殊系の魔法を得意とし、魔術体系で言うなら転移、空間操作、精神操作、無効化魔法などが得意だったな」
俺の言葉に、皆唖然としていたが、姉さんは、少し「そうだったかしら」と呟いていたので、やはり何かあるのだろう。
「よく知っているな……そういえば、馬鹿とアレは一戦交えたことがあったか」
No.0は訳知り顔で頷いた。
「ふん、たかが、魔女風情が、我々【最古の術師】を利用するか……」
クリスチャンがそう嘆く。しかし、【天兇の魔女】は「たかが」と言うような枠には入っていないだろう。どちらかと言えば、悪魔の域に片足をツッコんでいそうな人物だからな、たぶん。
「さあな、しかし、そういえば、あいつは、刀を持っていたな」
刀……その単語を聞いて反応してしまったのは鍛冶師としてのさだめだろうか。しかし、どのような刀だろうか。
「【鮮花】と言っていたかな?」
ゾワッとした。まさか、その刀の名前を聞くことになろうとは思っていなかったのだ。それは決して語ってはいけない、■■振りの刀の一振り、「花」の名を冠す妖刀たちの1つだ。時空間統括管理局ができる前、そう時空暦以前に打たれた伝説の刀。信司ですら、嘘か真か、その真偽を確認できずに、一振りたりとも見たことがなかったのだが、その一振りを【天兇の魔女】が持っている、だと……。
「興味深いな、噂だと、常人が手にすることはできず触れると死に至る……いや、それは一振りだけだったか。だとすると、【鮮花】の能力は、全てでそれぞれ違う能力を宿したシリーズものか。ナオトの【日】と同じで、何か意味のあるなぞらえなのか、それとも統一感を出すためだけか……。鍛冶師としては前者の方が多いんだが、それも断定はできない。しかし、あれが、刀身は、一切の曲り刃毀れ傷なし、さびることはなく、その美しい波紋は全てを魅了し、そして、死を与えることに特化した、刀の極意。俺とは違うタイプの刀鍛冶ではあったが、その仕事を見てみたいものはあるな。
殺人刀の技術は活人刀の技術にも活かすことはできるだろうし、ああ、どんなものなんだろうか?!見たんだろ、教えてくれ」
俺は膝の上に乗っけたイシュタルをもお構いなしに、No.0にぐっと迫った。イシュタルは当然落下する。
「いやに食いつきがいいな。驚いた」
No.0はちょっと引き気味だ、てか、全員引いている。なんだよ、別にいいだろ。興味があるんだ。早く教えてほしい。
「流石は前世が刀鍛冶なだけあって、刀ごとには興味津々ね」
姉さんが呆れた目で俺のことを見ていた。と言うよりも全員が引き半分、呆れ半分で見ていたのだ。
「信兄ぃは、相変わらずだぜィ」
「本当に変わりませんわ、御館様は」
「それが主のいいところやぇ」
「そうね、そうかもしれないわ」
「そうですね」
「ふぁあ、しかし、あの刀か……」
ヒー子、マー子、ヒイロ、カグラ、サト子、ヨー子の順にそう言った。まあ、こいつら以外には理解できないことだろうし、呆れるのも無理はない。
しかし、No.0だけは違った。その肩が最初よりも大きく揺れ、ものすごく動揺しているようだった。そして微かに震えた声で言った。
「前世が鍛冶師、と言ったな。どこのどの鍛冶師だ。いいから早く答えろ。返答次第では、今すぐに行動に移さねばならないかもしれない」
何をそんなに焦っているんだ。別に隠すことでもないからいいけど、そんなに有名じゃなかったから知らないと思うが?
「六花信司だよ。剣舞大国……剣帝王国で鍛冶師をしていた」
No.0はほっとしたように息をついた。何だったんだ、あの動揺っぷりは。結構冷静そうなのに、やはり信用はできない感じもするが、悪いやつではなさそうだしな。
「なるほど、あのNo.1ヴァルガヴィラ・ヴァンデムの娘と義息子に刀を送った鍛冶師か。
それで、【鮮花】についてだったな。詳しく見たわけではないからなんとも言えないが、黒っぽい刀身に紅色の波紋のような線があった。美しい刀だった。確か持ち手も黒と赤だったはずだ。あの女の手でよくは見えなかったがな」
黒い刀身の刀と言うのは、あまり確認されていない。ナオトの【妖刀・夜伽】なんかがそうだが、後は刀と言う概念ではあまり例を見ない。そこに紅の波紋ともなれば、ほとんどないと言っても過言ではないだろう。間違いない、それでこそ【鮮花】だ。
「ぐっ……やはり、実物がないと情報不足だな。ああ、打ったのは誰だろう。あの頃の刀鍛冶じゃないとなると、信司の代よりも前の鍛冶師なのか?しかし、あんなものをそんなに古い人物が……って、世界によって進行速度は全然違うんだったな。だとしたら、凄い鍛冶の技術を持つ刀鍛冶がいてもおかしくはない。
ええい!埒が明かん。こうなれば実際に【天兇の魔女】の魔女の元に行くか?いや、そんなことをしたところで見せてくれない気もするし……」
どうしたらいいだろうか。う~ん、もっと詳細を見たいところではあるが、見れないのなら仕方がない。
「ふむ、仕方ない、ここはいったんお預けだ。まあ、犯人も分かったし、誤解だってことも分かったんだ、これで全部解決だろう?」
俺の言葉に、皆が一様に「う、うん」とちょっと困ったような顔をして頷いたが、どうかしただろうか。
「ああ、あと、イシュタルは俺がもらっていくから。昏音と旭璃ちゃんは、後で、イシュタルの【霊王の眼】を貰うために一緒に元の世界に戻るか、姉さんも」
スムーズな流れで片付けようとしたが、流石に、イシュタルの件には反論が来た。チッ、流れのままに行けばいけると思ったんだが。
「待ちなさい、イシュタルは、うちのメンバーよ」
「待て、妹を渡すわけにはいかない」
愛美さんとクリスチャンが同時にそう言った。ふむ、やはりそうなるか。愛美さんは援護を頼もうと、国立さん、烈、昏音の方を見るが……
「リア充は死ねばいい」
「ふむ、私は興味がない。どうとでもすればいい。今の人間がやることで、睦月や私のような昔の人間が口を出すことじゃない、睦月もそう言いたかったのだろう」
「【霊王の眼】がもらえるなら、あとはイシュタルの好きなようにすればいいと思うよぉ?こういうのは本人の意思が大事で家族や仲間が束縛するもんじゃぁないでしょぉ?」
珍しくいいことを言うものだ、と一瞬思ったが、ぶっちゃけ、自分の目的の物さえもらえればどうでもいい、と言うことだった。
「イシュタル、お前は、どうしたいんだ?」
俺はイシュタルに問いかける。膝から落とされてムッとしていたイシュタルだが、俺の腕にしがみつき、こういった。
「私は、彼と共に行くわ。キリハの……あの子の予言でもあり、何より私自身の意思でもある。私がそうしたいと思ったのよ。だから、彼と……紳司と共に行く道を選ばせてもらうわ。
マナカ、ありがとうね。ここまで私を拾ってきてくれて。あいつらを……、そして悪鬼を倒して、そのあとも共に行こうと言ってくれたこと、感謝しているわ。
そして、兄、貴方には色々と言いたいことがあるけど、やっぱり、この一言しかないわ。ありがとう」
そういって、パッと俺の腕を離し後ろを振り返り、そのまま、無言で部屋を出て行ってしまう。ただ、俺は見てしまった。振り向いた彼女の眼から毀れる泪を。そして、小さく……本当に小さく、こうつぶやいたのだ。
「アリガト、お兄ちゃん」
え~、課題が一段落ついた、と思ったら、テストが難しすぎて単位落としそうな桃姫です。前にも言ったようにあたしは基本文系な人間でして、理系の大学に進んだからには物理があるわけですがさっぱり分からんです。そんでもって、物理の勉強漬け(強制)にされて、時間がなかったのです。
その反動7000字も書いてしまったのですよ。まあ、ぶっちゃけ反動と言うのは嘘で、時間の前後の関係上、242話と241話が本来逆だったので、242話はだいぶ前に基本ができていたので書き放題書いた結果がこれになります。




