240話:集結
イシュタルによって連れてこられた場所は、魔法少女たちと魔法使いたちが戦う戦場だった。派手な格好の魔法少女とローブに身を隠した魔法使いたちの魔法の打ち合いに、思わず目がくらみそうになる。そんな戦いを止めるために、この地にやってきたんだ。そう思い、覚悟を決める。あの攻撃を止めるんだ、と意気込んだ、その時、それはやってきた。まばゆい一迅の光。
それが剣の攻撃によるものだと気付いたのは、地面についた傷跡を見たときだった。それほどまでも圧倒的な攻撃、大威力の斬撃を放てる来訪者。それは俺の見知った人物だった。
茶色の髪、そして、手に持つ大剣。それは、星の煌めく五星剣。そう、彼女は、世界管理委員会No.5、篠宮液梨その人である。だが、それだけではなかった。その対極に、同じように、別の存在も現れていた。
深紅の髪と緑の瞳。かざすだけで炎の溢れる右手。それは、まるで、魔王のような風貌の男だった。その姿に、俺は、既視感を覚える。どことなくだが、知人のアホ魔王に似ている気がしたのだ。
そして、さらに、ツインテールの女子高生もいる。あれは、県立蓮霞高校の制服だな。
「我は世界管理委員会No.1ヴァルガヴィラ・ヴァンデムが孫、六大魔王が1人、ヴァシュライン・ヴァンデム也!」
「叫ぶなっての。世界管理委員会No.2デュアル=ツインベル」
「これ以上、この戦いを続けるというのなら、我々世界管理委員会が戦いに介入する。今すぐにこの戦いをやめよ」
やっぱり動いてたってわけか。それにしても、ヴァルガヴィラ・ヴァンデムが孫……、そうか、あのバカと勇者の息子、か。
勇者、レル・フレール=ヴィスカンテと魔王の娘、ヴェノーチェ・ヴァンデム。俺がかつて、【王刀・火喰】をあげた2人。その息子こそが、ヴァシュライン・ヴァンデムだ。
「む、そこの男よ。胸元から感じる魔力、我が仲間、アルデンテ・クロムヘルトの物だと思うのだが、相違ないか?」
なっ……。流石に絶句。あの2人の息子とアルデンテ・クロムヘルトが仲間、だと。ってことは世界管理委員会だったってのか。いや、まて、こいつは、自分のナンバーを言っていない。つまり世界管理委員会の人間ではないってことか。だったら六大魔王って方なのか?
「あら、六大魔王、アルデンテ・クロムヘルト?……ああ、二代目の方ね。あの子、結局元の世界に戻らなかったから。ナナナと一緒に異世界に転移したそうよ。アルレリアスととかいう世界にね」
ナナナ……、ナナナ・ナルナーゼ。こちらもまた知っている名前だ。どうなっているんだ、俺の知り合いとデュアル=ツインベルと言う女子高生が知り合っているなんて。おかしすぎるぞ。
「そういえば、時間軸的に言えば、彼らは、まだ、旅立った直後だったわね。整合性ってのは本当に厄介なものよ」
話が見えてこないんだが。結局どういうことなんだろうか。時間がどうとか言われてもよくわからないが、アルデンテとナナナは、結局、あの世界の生まれではなかったってことなんだろう。
「ああ、これは、友……アルデンテ・クロムヘルトの残した、俺の鍛冶場だ。
そう、この俺、六花信司の鍛冶場なんだよ」
その言葉を聞いたヴァシュライン・ヴァンデムは、俺のことを信じられないものを見るような目で見ていた。そうか、両親から俺のことを聞いていたのかな?
「まさか、あの、刀鍛冶シンジ・リッカ、であると……?!」
あの、ってどのだよ、ってツッコミたくなったが、そこはスルーしてやろう。しかし、世界は広いようで狭いものだ、とはよく言ったものだな、と言う気分になってきたよ。
「両親から聞いていたのか?てか、子孫はフレール=ヴィスカンテを名乗っているくせに、なんでお前は、母方の姓なんだよ」
子孫である久那さんと葉那は、フレール=ヴィスカンテだが、なんで、ヴァシュラインは母方のヴァンデムはなのか、非常に謎だ。
「我は独り身だ。そちらは、弟のラルの末裔だろう。我ら六大魔王は、現在六代目となるが、婚約していたのは……ミュリエル=ヘンデクスくらいのものだろう。アルデンテも独り身で生涯を終えたようだし、アルス・ディル・デルタミアは……あれが婚約できるなら我など等に婚約しているに決まっている。ミュール・ヘル・ムルニラは営みの最中に恋人を高まった思いで爆死させてしまって以来、そのトラウマと快感から爆発しながら出ないと子作りできない体質だからな……カグヤならその相手ができるであろうが、女に興味はなさそうだし。ヴェル・ヴィルヘルンドは、常に消滅の力を纏っているから手をつなぐことすら不可能ときた」
ん?待てよ。アルデンテ・クロムヘルト、ヴァシュライン・ヴァンデム、ミュリエル=ヘンデクス、アルス・ディル・デルタミア、ミュール・ヘル・ムルニラ、カグヤ、ヴェル・ヴィルヘンド。七人いないか、これ。
「ちょっと、迦具夜君も一応、あれは人間であって、夜しか不死身じゃないんだから、あの変態の相手をできるとか言うカテゴリーに入れないで。クラスメイトなのよ?」
夜は不死身な存在を人間とは言わない。しかし、クラスメイトってことは、カグヤと言うのは、六大魔王じゃないってことなんだろう。
「おしゃべりはその辺にしておこう。……来るぞ。ふん、あいつもいるのか」
液梨さんは、どこか嬉しそうに、そう言った。あいつ……、それに来るって誰が?
いや、大きな【力場】がこっちに向かってきている。それも、愛美さんやタケルとかとは比べ物にならないほど大きな【力場】の持ち主が。
――キランッ
そんな音が聞こえた気がした。そして、そのまま、地面に何かが落下する。そこには、オーラ、そう5色のオーラをそれぞれ纏う5人の少女がいた。
「【槍槓のヴェルフ】こと、ヴェルフール・ヴェルナーデ!見参ッ!」
銀髪隻眼に大きな爪を手と足に装備した、おおよそ魔法少女には見えない純色の青のオーラを纏った少女。
「【河底撈魚使いの舞魚】こと、久我昌舞魚、登場っ!」
大きな青い宝石をはめ込んだ一般的な魔法使いの使う杖と、魔女の帽子に制服の上からローブと言う魔法少女独立保守機構の連中と比べたら数十倍マシな魔法少女。それが純色の黄色のオーラを纏っていた。
「【清一色の清子】こと、清住清子よ」
眼鏡をくいっと上げながらそういう少女は、普通の私服だった。どこにも魔法少女らしさのない、普通のちょっと根暗そうな少女。純色の緑の輝きを放つオーラに身を包んでいた。
「【七対子の烈】こと篠宮烈、ここに」
茶髪に茶色の瞳、大きな槍を地面に突き刺し……どうやら、地面に深く刺さって落ちたのはあの槍のようだ。そんな槍を持つ少女。篠宮と言った。そう液梨さんと同じ苗字なのだ。オーラの色は純色の白。
「【国士無双の睦月】こと国立睦月、永遠の12歳だコンチクショー!」
意味の分からないことを叫ぶ黒髪赤目の少女。手には大きな剣を持っている。そして、白のロングコートに、赤と黒のマフラー。ちょっと中二をこじらせちゃった感のある風貌の少女は純色の赤のオーラを放っていた。
これが魔法少女独立連盟時代のトップ5。最強の5人だろう。まさに最強、怒った姉さんを前にしたときのような【力場】の強さだ。
「ふん、派手に登場することしかできぬガキめ」
そういって現れたのは、金髪赤目で、純白の鎧、しかもそこに赤薔薇の飾りが彫られた綺麗な鎧を着た、しかもその背には金色の、赤薔薇にまかれた十字の剣まで刺さっている。風貌は明らかな騎士だが、彼は錬金術師だ。
「クリスチャン・ローゼンクロイツ……」
篠宮烈、篠宮液梨さん両名が、クリスチャンを睨んでいる。なんだ、何か、あるのだろうか。
「ふっ、若造どもが群おってからに」
そして、ナイスミドルなおっさんがその後ろに控えていた。どことなく高貴そうなその人物は……
「アレッサンドロ・ディ・カリオストロ。依代ではなく本体か」
アレッサンドロ・ディ・カリオストロ、だと。その本名はジュゼッペ・バルサモだと言われていたが、このおっさんがそのカリオストロ伯爵なのか。
「ふぅん、錬金術派トップで行くで言うからなんでかって思ったら、魔法少女たちの中にもいるわねぇ、こういうの。……でも、あたしとしては、あちらの……蒼の子が一番厄介かしら」
そして、最後の女性。ローブで身を包み、魔法使いのような風貌だが、錬金術派と言うからには錬金術師なんだろう。
「おい、サンジェルマン、その気持ちの悪い女の声をやめろ。と言うか、女であることをやめろ。何がどうしてそうなった」
サンジェルマン……?!クリスチャンが言うには彼女……彼かも知れんが声は完全に女であった。
「失礼ね。今は、女よ。体、作り変えるたびにいちいち嫌味な反応しないでほしいわ」
「その口調が気持ち悪いんだ!体が変わったからと言ってお前が心まで女になったわけではないだろう?!」
「失礼ね、あたしは女よ、今は」
何か意味不明なやりとりだが、体を作り変えた。その表現に違和感を感じたが、おそらくホムンクルスのような容器を造って、そこに魂を入れているんだろう。
そして、さらなる来訪者。漆黒の美姫。まさに黒色。そう形容するしかない、姉さんだった。正確に言うと、ここにつくなり、颯爽と黒いドレスを身に纏った姉さん。その後ろには、神楽野宮旭璃ちゃんと昏音がいる。
「あら、なんか厄介なときに来ちゃったみたいね。もう、嫌になっちゃうわ」
そういって、姉さんは、ため息をつく。
ここに各組織の最強戦力が結集したのだった。しかし、もう、戦う様子はない。世界管理委員会の介入で、戦う気は毛頭そがれていたからだ。
しかし、この戦い、収まったのはいいが、何者かが裏でいろいろと動いているようで気味が悪いな……。




