239話:霊王の焔
SIDE.D
結構ヤバいわね、これは。マーリン、流石は、チート満載のアーサー王伝説の中でも万能とかいうチート。魔法だけじゃなく、何かしらの奇跡とかそう言った系統の呪術や呪いを使えるわね。それと、無制限っぽい魔力に、超堅い障壁。大魔導師ってのは伊達じゃないのね。
「チェッ、面倒な感じよね。あんた、旭日と互角くらいの剣技だわ」
あら、お褒めに預かり光栄ね。ただ、このままじゃあ、アタシですらヤバイ可能性があるわね。負けもしないけど勝てもしないってところかしら。いえ、本気を出せばどうにか……。
「このままでは、埒があきませんね。紳司さんのお姉さま、一旦、御下がりください。ここは、私が相手をしましょう」
旭璃……?今、旭璃が戦うっていったのかしら。あー、戦えるの?それに戦えたとしても、どのくらい強いのかしら。
「大丈夫なの?」
あたしの問いかけに、旭璃は笑顔で頷きながら「はい」と答える。まあ、そういうからには大丈夫なんでしょうけど……。
「そうか、お前は知らなかったな、上位変身と言う埒外の力を。正確には、お前の【蒼刻】も該当すると言えなくもないんだが、規模が違うからな。【蒼刻】をもう少し弱くした感じだな。霊王だというのなら使えるだろう。
……しかし、霊王、か。あれが現世に甦る、と言うのはどうにも思えないんだがな」
あたしの中にいるグラムがそんなことを言う。上位変身、ですって?
「上位変身」
その瞬間、旭璃の身体は大きな【力場】の奔流に飲み込まれたわ。何よ、これ。一時的に凄く力が上がったように感じるわね……。
「上位変身?!こりゃ、ちょっとヤバイかもしれないわね……」
マーリンも警戒して半歩後ろに下がった。でも、旭璃は、それでも止まらなかったわ。言葉を続けたのよ。
「私はまだ、あと1回の上位変身を残していますよ」
そう言いながら、左手を空にかざす旭璃。まだ、何かがある、そう感じずにはいられないほどの【力場】がどこかから攻めあがってくる来るように感じる。
「――【霊王化】」
ゴォオオオと言う音と共に、辺り一帯の地面にひびが入ったのが分かるわ。どうなってるのかしら。
「――来たれ、
世界を統べ、なお世界を破壊しようとした暴虐の王よ。我が魂の調べに導かれ、我が最奥より蘇らん。我が体に眠る【霊王の鎧】、【霊王の剣】、【霊王の盾】、【霊王の馬】、【霊王の■】、【霊王の焔】よ、目覚め我が身と一つになれ。
地獄、霊界、冥界、死界、数ある死を……死した者の魂をその身に集め、永遠に回る輪廻に刃向う【霊の王】。それすなわち、神に背き、神を殺す者なり。
さあ、我は【霊なる王】にして【霊を統べし王】、八百万の神を喰らい、されど【天なる神】に四散させられた敗者だ。ゆえに、我は甦る。再びの【神】への叛逆のために」
まるで、【霊王】を宿すように、そして言葉が進むにつれて、まるで自分が【霊王】そのものであるかのように言葉が紡がれていたわ。
それにしても死した者の魂をその身に集め、永遠に回る輪廻に刃向う【霊の王】、ね。前に、グラムに死んだら人間の魂は、天界か冥界に詰められてまっさらになってコネコネジョッキンして、新しい魂にするって聞いたけど、その仕組みに刃向っているってことでしょうね。まさに、運命を覆す者ってことなのかしら。
武骨なまでの漆黒の甲冑が、人の丈を優に超える漆黒の大剣が、人の丈ほどの大きな黒塗りの盾が、黒い体に青い炎のたてがみをなびかせる馬が、そして、その周りを踊る青白い魂の焔たちが、旭璃の周りに出現していた。
「【霊王】顕現、【霊王兵装(未完成)】」
そして、全てを旭璃が纏った。それは禍々しくもどことなく怪しげな、黒騎士よりも死神と呼ぶにふさわしい感じね。
「へぇ、これが【霊王】」
あたしは思わずつぶやいた。そう、その力は、おそらく、人の域を越えた別種の何かの域まで来ているんじゃないかしら。
「爆ぜろ、死をまき散らせ」
虚空を大剣が舞う、それと共に、青白い魂の焔たちが炎の壁となってマーリンに迫る。
「やっちょ、嘘、聞いてないっての?!」
マーリンは、慌てて巨大な障壁を展開するが急場で造ったものよ、強大な一撃に耐えられるはずもなくあっさり霧散してしまったわ。
「ちょ、無理ィー!」
マーリンが叫び、それと同時に旭璃が勝利を確信して【霊王化】と上位変身を解いた瞬間のことだった。まるで時空が裂けるように「何か」がやってきたのよ。
そして、その何かが、手に持つ細長い何かを青白い魂の焔たちに当てた瞬間に青白い魂の焔たちは霧散した。完全に一遍残らず消え去ったのよ。
そして、そこにいたのは、一人の高校生くらいの青年だったわ。爽やかな好青年をほうふつとさせる輝にも似た感じの、ね。そして、その手には、鞘に収まったままの大剣があった。つまり、青白い魂の焔たちを無効化したのは、あの大剣、と言うことになるわ。でも、そんな剣をあたしは……そうであると予想できる範囲で1振りしか思い浮かべられないのよ。
「あ……、あ、旭日っ」
マーリンがその青年を呼んだわ。旭日……あさ、ひ……まさか、ね。でも剣のこともあるし、名前、それにマーリン、キャメロット。そこから導き出されるこの男の正体は……。
「アーサー王の転生体ってことろかしら。恐ろしいもんが出てきたわね」
あたしの言葉に、青年はぽかんと、マーリンは苦笑を、それぞれそんな顔をしていたわ。予想的中ってことよね。
先ほどの青白い魂の焔たちを無効化したのは、まさかとは思っていたけれど、エクスカリバーの鞘の力、持ち主に如何なる傷をもつけないという力じゃないか、って思ったんだけど。旭日、あさひ、あーさーひ、アーサー彼ってね。
「こりゃ、参った。その通り、俺は雪織旭日。一応、アーサーの……あー一般的に言うところのアーサー王の転生体だ。って、自分の名前に自分で『王』とかつけちゃうのはあんまり嫌なんだが」
「あんた、当時から謙遜気味だったわよね。だから、本気も出さないし、女も取られんのよ」
旭日とマーリン、2人はそんな風に会話を交わす。中々に普通の感じの会話ね。なんかもっと仰々しい会話とか荘厳な会話をするイメージがあったんだけど。
「うっさいなー。それよりもわざわざ来てやったのにその態度はどうなんだよ」
なんか普通の高校生ね。ちょっと唖然とするあたしと、そして爺さんと高校生のイチャラブを見せつけられている旭璃と昏音。
そこに、再び別の来訪者が現れるわ。黒い穴から、2人の人影がヌッと現れた。一見、20歳くらいに見える、その2人は……
「あ、清二さん!」
旭日がそう呼んだ。そう、その2人は何を隠そう、あたしの祖父母よ。祖父の青葉清二と祖母の青葉美園。つまりじいちゃんとばあちゃんなのよ。てか、旭日、知り合いなのね。
「ん、ああ、旭日君か。それと、マーリン」
「ああ、彼が件のアーサー王ですか」
あー、この件、じいちゃんばあちゃんも絡んでるの?零桜華を迎えに行けるかしら、これ。かなり厄介ごとっぽいんだけど……。
「お、それに、暗音もいるのか。さっき紳司ともやりあったし、今日はつくづく家族に縁がある一日だな。……あの子、可愛いな」
ん、じいちゃんが小声で、何か言ったわよね。てか「可愛い」って言ったわよね。あの子……旭璃と昏音のどっちよ?昏音だった場合はいろいろヤバいけど、まあ、子供可愛いってことなら納得よね。
「って、痛い痛い、美園、無言で足を踏むなっ!」
ばあちゃんがじいちゃんの足を無言でぐりぐりと踏んでいた。そして、ばあちゃんはじいちゃんの胸倉をつかむとイラついた顔で言う。
「あなたは昔っからそうですよ。胸の薄い娘を見ると可愛い可愛いと、何ですか、普通が嫌いですかっ?!普通じゃダメなんですかっ?!」
ばあちゃん、激おこ。てか、じいちゃん……ひんぬー好きだったのね。ああ、なんて悲しい事実。あれ、でも紳司って全般オッケーだったわよね。まあ、その辺は個人の趣向だから遺伝とか関係ないってことでしょうけど。
「てか、じいちゃんもばあちゃんも、こんなところで何やってんの。紳司とやったってことは、噛んでんでしょ、この一件」
あたしの言葉に、苦笑するじいちゃんばあちゃん、そして、じいちゃんばあちゃんを見てあたしの言葉と合わせて考えて驚く旭日とマーリンと旭璃。特に驚いた様子が無いのは昏音だけね。
「噛んでた、が正確だな。イシュタルを奪還する仕事をしてたけど、紳司に阻まれたから、帰ってきた」
へぇ、紳司が勝ったのね。あの子、最近、いろいろと家に帰りもせずやってたみたいだし、新しい力でも手に入れてるんでしょう。
「まあ、世界管理委員会のNo.5も動き出したみたいだし、そろそろ引き時だとは思ってたんだがな」
世界管理委員会、またあいつら?つくづく縁があるわね。さって、と、あたしは、戦闘態勢を解除して、とっとと、【霊王の眼】とやらを回収するとしましょうか。
「あ、そだ、じいちゃん、桜井って家、知ってるでしょ?そこに、あたしの娘の零桜華がいるから迎えに行って家に案内しといて。今のあたしの祖父母って言えば通じるでしょうから、頼んだわよ」
そういって、マーリンが来る前に、昏音が開いた穴に昏音と旭璃を引っ張り込んだわ。とっとと片付けましょうか。




