237話:神の眼
俺の一族がどうだのと言われても、俺と姉さんがいかに異常かと言われても、俺にはあまりピン、とこなかった。だって、正直なところ、俺は、そこまで凄い人間ではないし、姉さんは常軌を逸しているどころか、異常すぎてヤバイレベルだろう。
むしろ、そんなことよりも、これからをどうするかを決めたかったし、それに、イシュタルの目の力を学んでおきたかったのだ。何せ、あるのとないのじゃ、俺の戦闘が結構変わってくるからな。じいちゃんとの戦いだって、【変形の神眼】が無ければ、全力の斬り合いに持っていく前にやられていたかもしれないしな。
しかし、おそらくだが、俺の学んだ【変形の神眼】は、威力、この場合は、変形させることのできる強さだが、それが低いだろう。てか、ヤング率とかどうなってんだ、これ、だからな。
と言うわけで、神眼を見せてもらったのだが、
【原初の神眼】、能力は不明。口頭での説明だけだった。しかし、要領を得ず、学べず。
【幻視の神眼】、幻覚を見せることのできる能力で、効果の範囲は視界一帯。認識阻害等にも使えるそうだ。
【防壁の神眼】、さっきも見た防壁を張る能力で、効果の範囲は視界一帯。また、強度はかなり強く、俺が【蒼刻】状態で切り付けてやっと切れる。
【魔法の神眼】、あらゆる魔法を使うことのできる能力で、しかし目から出す関係上、不可能な魔法も幾つか存在する。種類も豊富で応用方法も多く便利そうだ。
【忘却の神眼】、記憶を消去させることと記憶から消去することのできる能力。一見、今の二つは同じ意味に思えるが、記憶を消すほうは、あったことを消し去る能力で、記憶から消すほうは、その物体そのものを忘れているために、認識できない。つまり、三角形と言う形を記憶から消されたら、三角形と言うものが分からないのではなく、認識できなくなるってことだ。
【誘惑の神眼】、見た相手を誘惑する、魅了することのできる能力で、ただ、チャームと違うのは、愛情や劣情的な意味での魅了ではなく、尊敬や敬愛と言う意味での、それこそ、信仰って言葉のほうが正しい能力だ。
【流転の神眼】、流転……移り変わる、の言葉通りに、物体の時間を自在に進めることができる。しかし戻すことができないのが難点だ。自然な流れに成長させる、と言う力。
【分析の神眼】、全ての解を求める分析の瞳。いわゆるステータスのようなものを表示することができるようだ。俺の場合精度が低すぎて名前くらいしか分からないものになっていたがな。
【自己の神眼】、他人の自己を認識させる能力。要するに、幻覚解除や、記憶操作によって記憶を失った人を元に戻すことができる能力だ。
【変形の神眼】、俺が学んだのと同様に、万物を変形させる能力だ。イシュタルは精密な変形までできるようで、石の薔薇を造ることもできる。
【軌道の神眼】、自分の視界にある物体の軌道を読むことができる。つまり浮遊物はおろか、人や物の動線なんかも分かるってことだ。
【収納の神眼】、所謂ストレージやアイテムボックスといったゲームにあるような能力で、自分の視界に収めたものを異空間に収納できるらしい。
【覚醒の神眼】、視界に収めた相手の潜在能力を引き出す能力で、決して新しい人々のことではない。
【入替の神眼】、物体の位置、魂、あらゆるものを入れ替えることができるが、視界に入っているものだけなので範囲はたかが知れている。また、鏡を利用した範囲の拡張は不可能で、鏡の中の場所は、鏡と認識されて、鏡と入れ替わるだけ。
【創獣の神眼】、聖なる獣を視界に呼び出す能力。ユニコーンとかそんなのが出てくる。俺には、ウサギくらいの変な獣しか出せなかった。
【透視の神眼】、物体を透視するほかに、心を透かし見ることもできるなど汎用性の高い能力。
【幸福の神眼】、全ての幸福につながる能力らしいが、口頭での説明だけだった上にはぐらかされたので不明。
【星詠の神眼】、目に星が浮かぶ。その間、全ての星からあらゆることを聞くことのできる占星術と神託の合わさったような能力。
【切断の神眼】、視界の範囲を全て切り裂く能力。視界に収めたものは全て斬るので、制御は効かず、敵味方関係ないため、1対多の殲滅戦にしか役に立たないそうだ。
【消滅の神眼】、視界の範囲を全て消し去る能力。【血染眼】や【死染眼】と言う魔眼の下位互換にすぎないらしい。
【終結の神眼】、最期を告げる眼らしいが、詳細はイシュタル自身も分かっていならしい。
【蒼穹の神眼】、蒼穹の力をその身に宿すらしいが、詳細はイシュタル自身も分かっていならしい。
【熾炎の神眼】、熾に落ちる炎を視界の範囲に出すらしいが、ただの炎とどう違うのかは不明。
【終焉の神眼】、能力は不明。口頭での説明だけだった。しかし、要領を得ず、学べず。
以上、24個が神眼らしい。よくわからない能力も多いが、あとは、21の魔眼だな。
先ほどの【汚染眼】はおそらく魔眼なのだろう。あと、【霊王の眼】も魔眼なのかもしれない。
「まあ、ざっとこんな感じよ。それにしても、自分で言うのもなんだけど、神眼を宿しすぎよね。さしもの神眼造りと魔眼喰らいの彼女にもこんなに持っていないでしょうね」
彼女……?知り合いなのか、それとも一方的に知っているだけなのか、しかし、神眼造りと魔眼喰らい、か。ふかねえのことだよな。
「それにしても、魔眼を見せてもらおうにも、ちょっと休憩を入れたいしな、ちょっと休むか」
俺の提案に、イシュタルはジト目で、俺のことを見ていた。どうかしたんだろうか。って、まあ、言われなくても理由は分かっているんだがな。
「いつ敵が来るのかも分からないのに、そんなことをしている場合かってことだろ?大丈夫大丈夫、いざとなればどうにかできるだろ?」
「私がどうにかするのね……。まあ、いいわよ。じゃあ、そこで休みましょうか」
保健室だからな、ベッドくらいある。と言うわけで、俺とイシュタルは、ベッドで休むことにした。
――ドサッ
なんとなく、押し倒してみる。静巴よりも小柄で、本当に子どもの身体をしているイシュタル。一瞬、その瞳が紫に妖しく光ったような気がしたが気のせいだろう。
「ちょっ、何?!」
イシュタルは、体格の関係上、あっさりと俺に押し倒されてしまう。しかし、眼で防ごうと思えば防げたはずだ。つまり……
「だ、ダメだって」
口ではこういってるけど、ってやつだな。俺は、そのまま、平たい双丘に顔を埋めてみる。俺の吐息がくすぐったいのか、身を捩る。頬を紅潮させて、少し瞳に涙を浮かべる様子は背徳的で、何か目覚めてはいけないものに目覚めてしまいそうになる。
「大丈夫、痛くしないから」
そう言って、彼女の服に手をかける。そこで、イシュタルが、何かに気付いたようにハッとして、思いっきり俺のことを蹴りあげた。
「うっ、ぐぉ……」
そして、イシュタルは立ち上がると、虚空に向かって、怒鳴るように、何かを恨めしく思うような口調で言った。
「ちょっと、ステルファン!あんたは、もう!」
ステルファン……?
「ちょっと、勝手に人の名前を略さないでくださいます?もう、アタクシには、ステファニー・ド・ル・ファンスターって名前があるんですのよぉ?」
どこからともなく、そんな声が聞こえてきた。そして、紫色の靄のようなものが生まれて人の形を成す。
「イヒヒッ、初めまして。随分と若くて新鮮な男だったものですから、つい」
「なぁにがついよ。勝手に私の《牢愛の魔眼》から出てきて、発動するなんて」
《牢愛の魔眼》ってことは、さっきの紫に光った目は気のせいじゃなかったのか。と言うか、押し倒したのは、その目の所為か……。
「あ、押し倒したのはアタクシのせいじゃございませんよぉ?そのあとの行為に関しては、アタクシが関与してますけどねぇ」
……。俺は、無言になった。それと同時に、イシュタルの冷たい視線が俺に突き刺さる。気マズいので、少し話題転換。
「それで、こいつは21の魔眼の1つってことでいいんだよな?」
あからさまに話題を変えたせいで、「うわー、こいつ、話逸らした」と言う目でイシュタルとステファニーが見てくる。う、うっさいなー、細かいこと気にすんなよ。
「ええ、21の魔眼の1つ《牢愛の魔眼》よ。このバカは、それに宿っているサキュバスで、元々はそのサキュバスに憑りつかれた令嬢らしいんだけど、なにがどうしてかこんな変態になっちゃって、その魂が瞳として魔眼になったのよ」
つまり、無名のサキュバスがステファニー・ド・ル・ファンスターと言う令嬢に憑りつく。すんごくエッチな女の子になる。サキュバスの力で男を虜にしまくる。そして、死んじゃったらその魂は瞳として魔眼となったってことらしい。
「イヒヒヒッ、邪魔者は消えるとしますよ。アタクシも馬に蹴られて死ぬのはごめんですので、あ、もう死んでましたか」
そう言って、靄が消え去った。
「もう、ステルファンは悪戯しかしないんだから」
え~、ほぼほぼ説明回でした。




