236話:神眼と魔眼
勝ったのは俺だった。俺の斬撃は、じいちゃんの服を切り裂いていたのだ。そう、蒼の奔流を突っ切り、じいちゃんの元まで到達していた。だから、俺の勝ち。全力の一撃を撃ちあって、その一撃を破った方が勝ちなのは、よくある話である。そして、全体攻撃と一点集中攻撃、どちらが相手に届かせることができるか、と言うと、全範囲ならともかく一面が迫ってくるだけならば、一点集中で突破できる。
「まあ、こんなもんだろ。てか、【力場】の数は俺の方が多いのに1つの生産量はお前の方が多いんだよ。仕方なく、聖の力まで使っちまったじゃないか」
そうなのか?【力場】からの生産量まではよくわからなかったな。まあ、正確に一個を出して比べるわけじゃないからな。明確な差異まで分からないのは仕方ないからな。姉さんはきっと分かるんだろうけど……。
「あら、終わったの?」
そんなとき、イシュタルがふと現れた。イシュタルと共に消えた男のほうは姿が見えないな。どうしたんだろうか。
「ああ、あの男の方は、きっと、本拠地にでも帰ってるわよ。しばらく起きれない体でね」
何をしたんだ、一体。まあ、どうでもいいか。とりあえず、これで、終わったのかな。あとは、まあ、他にもくるであろう、イシュタルの兄の仲間を退けて……、あれ、退けてどうするんだ?
「あー、とりあえず、俺は、美園が待ってるから帰るぞ。ったく、もう、いろいろと厄介なことに巻き込まれるなー。あー、ったく」
じいちゃんは、そう言って、どこかへ消えてしまう。さて、と、これからどうしようか。てか、どうしたらいいんだろうか。
「それで、どうするんだよ。ここで、ずっと防衛戦するわけにもいくまいし、そもそも、どうして、こんなことになっているんだ?」
てか、そもそも、イシュタルはいつから魔法少女になったんだろうか。マナカさんやタケルたちと同期なのか?
「私が魔法少女になったのは、あの世界を放浪中に、ひょんなことからなっただけで、初期メンバーの1人よ。まあ、みんなと一緒に居た機関は短かったけれど。
そもそも魔法少女独立連盟自体、世界魔法少女連盟とMS独立団の2ヶ所の連盟だからね。世界魔法少女連盟は、【国士無双】が率いていた、あの世界の魔法少女が集う連盟で、私の居たMS独立団は、【愛玩の淑女】魔法少女ドレッド=ファンドが率いていたのよ。ただ、ファンドは、無形悪鬼に、背後を取られ、死亡。その後に、無形悪鬼によって、多くの戦力を欠いた両方で、協定を組み、魔法少女独立連盟となったのよ。
無形悪鬼攻略戦、出入悪鬼殲滅戦、群鳥悪鬼殲滅戦、心臓の女王最終決戦の4つの戦いしか一緒じゃなかったから、最初にマナカに魔法少女独立保守機構に誘われた時も断る予定だったのよ?」
ジャバウォック、バンダースナッチ、チャシャ猫、ジャブジャブ、ハートの女王、ってことは、全部、不思議の国のアリス関連か。
「でも断るに断れない状況になってね。それで、ここに所属したんだけど、私は、秘法の鍵……【賢者の石】と【万物融解液】の生成する鍵となる碑文、エメラルドタブレットを持っているのよ」
エメラルドタブレット、錬金術の原典が記されているとされるものか。だが、そんなものを持っていたところで、凄腕の錬金術師が集まってるんだから、いらないだろう。
「そもそもヘルメス・トリスメギストスも【最古の術師】に所属しているから、エメラルドタブレットの内容が欲しいわけじゃないのよ」
ヘルメス・トリスメギストス、3つの世代に存在する錬金術師か。それもアダムの孫、ピタゴラスの師、エジプトの都市計画者としていずれの世代でも名を残しているのだ。
「エメラルドタブレットは全部で3編あって、錬金術を記すもの、占星術を示すもの、風水を示すものの3つ。私が持っているのは、錬金術のものよ。占星術は、エドワードが、風水は諸葛孔明が保持してるそうよ」
これまた凄い名前が出てくるな。エドワードって誰だ?エドワード・ケリーだろうか。ジョン・ディーと手を組んでいた。
諸葛孔明は言わずと知れた三国志の武将にして知将。諸葛亮、字は孔明であり、彼の智謀はかなり知られているものだろう。
「なるほど、つまりは、そのエメラルドタブレットから、錬金術の秘儀がバレるのを恐れてるわけだ」
錬金術師たちにとっては貴重な財産であるわけで、それをただでくれてやるかってことかな。
「まあ、そうね。それと、兄は、私を取り戻したいみたいだけど」
ふぅん、そうなのか。それは、それとして、結局のところ、イシュタルはどうしたいんだろうか。戻りたいのか、そうじゃないのか。いや、戻りたいんだったら、戦わずに戻るだろうけど。
「今、どうしたいんだ、って顔で見てたわね。私は、戻る気もないし、ここにいる気もないのよ」
じゃあ、どうするんだよ。てか、秋世みたいな察しの良さだよな。やっぱり心を読んでるんじゃないのか?
「私はね、ある日にキリハに予言をされたのよ。マナカが『勝利と言う運命で結ばれた運命の人と出会う』っていう趣旨の予言を受けたのと同じ日に、私は私で、別の予言があったわ。それも、マナカは無理やり聞き出したのに対して、私には、向こうから言ってきたのよ。
それが、こんな予言だったのよね。
『《神の古具使い》、やがて天上へと至る第七の種族へとたどり着く者にして、三界連盟の盟主・青葉煉司の父であり、また天明煉紅と謳われた青葉紅司の父でもあり、金翼の天使と結ばれる七峰青の父でもあり、メテオトルテの半身を妻に持つ青葉宵司の父にして、黒天白者の異名を持つ青葉裕司、武道を極めた青葉雷司、世界を崩壊させるほどの力を宿した青葉姫聖、異界に召喚されたのちに革命を起こす青葉紳由梨など、数多のこれからの時空における時代を築くものの父である蒼き鍛冶師、それがあなたの運命の相手』
てね」
俺の子供は何人いるんだよ。ところどころ、誰かをほうふつとさせるような気がするが、よくわからないな。確実に俺の息子であるとは断言できないし、いろいろとツッコミどころがありすぎるだろう。
「だから、私は、貴方についていくわ。兄でも、マナカでもなく、貴方に、ね」
俺についてきてもいいことなんてないと思うんだが、まあ、家に空き部屋はいくつかあるから、母さんも断らないだろうけど、本当にいいのか?
「……ッ。グッ……こ、このタイミングで【霊王の眼】が反応を……?まさか、目を狙ってきているのかしら?」
急に眼を抑えてうずくまるイシュタル。しかし、【霊王】、はて、どこかで聞いたような。って、ああ、そうか、あのツルペタの旭璃ちゃんか。それと姉の先ほどもマナカさんたちのところで名前が出ていた所要で席をはずしている昏音。
「【霊王の眼】ってのはそんなに大事なものなのか?」
俺は、イシュタルに、そう聞いてみた。すると、こともなさげに、目を押さえながら答える。
「いらないわよ。正直言って、取ってもらえるならとっとと取ってほしいくらいなのよ。何せ、持っているだけで、魔力を貪り喰らうんだから。【霊王】復活のために、ね。だからこそ、【汚染眼】でその効果を落としているのに」
【汚染眼】……?聞いたことが無いんだが、それは魔眼か何かだろうか。神眼にしては、ギリシャ文字の名前が入ってないし。
「そもそも、【霊王】が蘇ったところで、世界のゆがみが大きくなるだけなんだけど、そんなもんを復活させようなんて物好きがいるのね」
「ん、仲間なんじゃないのか、昏音は」
俺が昏音の名前を出すと、イシュタルは意外そうな顔をした。そして、しばし考えるような動作をしてから、納得したように手を叩いた。
「なるほど、あの変態ね」
あ、やっぱ変態って認識なんだな。しかし霊王の遺産とやらを集める旅に出たそうだが、あとどのくらい残ってるんだろうか。てか、集めてどうするつもりなんだろうな。【霊王】である旭璃がどうとかって話だったけど。
「まあ、あの変態のことだから悪く使わないでしょうし、会ったら渡しましょうか。絶望的な変態だけれど、生まれは名門らしく、一応礼儀作法もできてるしね」
あまり変態て連呼してやるなよ。まあ、あの服をデザインしているのが昏音だとしたら変態だがな。まあ、俺的には目の保養になるからいいんだけどさ。
「それにしても、蒼の一族は本当に不思議なものね。篠宮がその時代の革命児だとしたら、蒼刃はその時代を切り開く者だと思うわ。朱野宮は、その世界を照らして、そうやって世界は成り立っているって思うと感慨深いわね」
時代を切り開く者、ね。でも、姉さんは、切り開くって言うより転覆させる問題児、もしくは革命児だよな。まあ、姉さんはおいておくにしても、時代を切り開くって言われてもイメージがわかないんだよな。
「蒼刃、青葉、七峰、蒼紅、シィ・レファリス……、今や、【蒼き血潮】が流れる一族はこんなにも増えたのよ」
……ん?七峰は母さんの実家だけど、別に母さんの家は【蒼刻】を使えるわけじゃないだろう。
「あら、知らないの?七峰紫苑と紫狼の亡くなった母は、旧姓を蒼刃散緋、蒼刃の直系の子孫にして【雨の剣】と【魂の剣】の双剣使いだったそうよ」
初耳だ。しかし、そうだったのか。てことは、母さんも【蒼刻】になれるんだろうか。その辺の話はあまり聞いてないからな。あー、でも、母さんの感覚としては、「蒼子」だからこそ【蒼刻】ができるんじゃなかろうか。……うーん、【蒼刻】は魂に刻まれているものであり、血に刻まれているものだからな。何とも言えんな。
「まあ、貴方たち姉弟は、並みいる青葉の家系の中でも異常だけどね。蒼刃の血族同士が積み重なった所為か、はたまた転生のおかげか、異常なほどの存在になっているもの。私としては、貴方たちの運命が、その魂を引き寄せて転生させたと思っているんだけどね。【創生の神】蒼天の生み出す力、それはすなわち鍛冶ともいえ、そして、【■■の神】■■■■と同様に転生を果たした最強の存在。常軌を逸した神の域に届きそうな存在なのだから」
え~、遅れに遅れて申し訳ありません。しかし、山場は乗り切りました。前期最大の難関だと思われる課題は終了。あとは、テストばかり。勉強しないと単位がヤバそうですが、今までほど忙しくはないでしょう。
と、言うわけで、何とか頑張って書くスピードを上げていこうと思います。




