233話:魔法少女
穴をくぐるとそこは、小学校のようなつくりをした建物の中だった。もしかして、ここが魔法少女独立保守機構の本部なのだろうか。まあ、少女や童女たちが集まるのだから小学校でも違和感はないんだがな。そうなると、俺だけ小学校に来てしまった高校生みたいな違和感バリバリで嫌になるんだが。
そして、タケルの後をついていくこと、数分、渡り廊下をくぐり、たどり着いたのは体育館のような場所だった。
「遅くなってすまんす」
タケルがそんな風に言って体育館に入っていった。そして、俺も後をついて入ると、そこにいたのは、魔法少女たちだった。中には見知った顔もあるが、ほとんど知らない顔なのがなぁー。ただの小学校の出し物の手伝いに来た高校生みたいになってる感がある。知り合いばっかだったら、出し物を見に来た高校生になって、まだマシになるんだが。……マシか?
「そりゃ構わんさ。回復にも手間取っただろうし、てか、早い方だと思うけど、そっちの子は誰よ?」
おっきなピコピコハンマーを持った少女がそんな風に言った。茶髪の短髪で、頭にねじり鉢巻きをしてるが、どことなく、俺と似通った鍛冶師の雰囲気を感じる。そして、地味に活発な少女って感じがしてロリ可愛い。
「あの子は、青葉紳司君だよぉ?私の妹といろいろある」
そう発言したのは、明津灘家の魔法少女、明津灘偉鶴さんだ。人妻である。明るい感じがするが、ちょっとぶりっ子ぽい感じがする。
「うん、王司さんの息子の、ね。ども、魔法少女独立保守機構CEOのマナカ・I・シューティスターです。そっちのさっき発言してたのが、魔法の杖製作委員会会長の魔法少女ぱわふる∵はんまーちゃん」
魔法の杖製作委員会?通りで俺と似た鍛冶師風の雰囲気を感じたわけだ。すると、その少女が口を開く。
「あたしゃ、魔法の杖製作委員会会長の魔法少女ぱわふる∵はんまーだ。∵は、なぜならばを意味するぜ。本名は九十九里希鉄っていう」
それを皮切りに、魔法少女たちが俺に自己紹介を始める。マナカ・I・シューティスターの隣に立っているピンクの髪の長いツインテールの少女がまず挨拶をした。
「医務管理副部長のメディア・A・アストルファのじゃ。現在は、石化しているため不在の管理部長シューゼル・S・シルファリオンの代役として医務管理部長代理の座におる。本名は冥光天院春菊じゃな」
なんか凄い名前がごつい人が出てきたな。冥光天院……聞いたことが無いが、どこかの名家だろうか。
「MAAちゃんは、魔法天使ハルっていう、こっちとは違う毛色なんだよー」
魔法天使……、違うって言うのは、元から天使ってことだろうか。いや、よくわからんな。そもそも天使ってそんな簡単になれるもんなのだろうか。
「魔法天使と天使は別の物だからね。天使ってのは、シンフォリアの天使とか【彼の物】の眷属とか、第二翼人種くらいだけど、中には例外もあるんだよ。特に管理事務長のキリハ・U・ファミーユが予言したことだけど、これからしばらく先の時間軸に、2匹の龍が現れて、1匹は悪魔へと、1匹は天使へと、宿した人間を昇華させるという話なんだよね。そう『悪魔でも魔女』で、『天使でも魔法使い』なんだよ」
そんな風によくわからないことを言うマナカさん。そして、眼鏡をかけたスーツ姿の秘書のような幼女が口を開く。
「私は、魔法少女普及活動統計係の魔法司書ふぃじかる∝みるきぃこと後先咲胡です。会議などでは書記を務めますので」
ぺこりと礼儀正しくお辞儀をした。そして、この場で俺に自己紹介をしてないのは1人になった。
「あとは【処女厨】と不在の変態デザイナーの2人だね」
ん?おかしな単語が2連続で聞こえたような気がするんだけど、気のせいかな。いや、気のせいじゃないだろう。どういうことだよ。
「誰が【処女厨】ですかっ!魔法少女☆処女計画主任の魔法処女初咲初子って名前があるんですよ」
1人だけちょっと年齢高めの少女と女性の中間くらいの雰囲気だ。それにしても、なぜに【処女厨】なんだ……。俺は、【処女厨】ちゃうぞ。人妻、未亡人でもいけるから……、しかし、流石にあそこにいる人妻幼女は対象外だがな。
「まあ、これに加えて、変態デザイナーが1人、ちょっと所用で不在なのと、死んでしまったキリハ・U・ファミーユ氏と前談の通り、石化でいらっしゃらないシューゼル・S・シルファリオン氏が我々の主要メンバーとなります」
咲胡さんがそういって付け加えた。変態デザイナーってのは、この間のパーティーであったあいつのことなんだろうなー。
「あっと、俺は、青葉紳司だ。そうだな、一応、お前らも自己紹介をしておけ」
そういって俺が声をかけたお前らと言うのは、俺の中にいる6人のことだった。そうして、自己紹介を始める。
「あっちは、ヒー子。【王刀・火喰】の精霊だぜィ」
「わたくしは、マー子。同じく【王刀・火喰】の精霊です」
「吾は、ヒイロ。吾もまた、【王刀・火喰】の精霊」
「わ、わたしは【神魔刀・里神楽】の【魔刀】を担当します、サト子です」
「私は、【神魔刀・里神楽】の【神刀】のカグラよ」
「我が王の名により我が名をこたえよう。我は【幼刀・御神楽】が精霊ヨー子である」
一般人には声を聴かれるとあれだが、魔法少女なんて連中なら大丈夫だろう。それに、刀の力を使う関係上、知らせておいた方が何かと便利だからな。
「それにしても、魔法少女独立保守機構って、結構な組織なんだよな。どういう成り立ちなんだ?」
俺のふと思った疑問にマナカさんが「いやいやいや」と大げさに反応する。何か変なことをいっただろうか。
「今の会話の流れで、なんで急にそんなことを言い出すの?!てか、今の6人誰?!腹話術?!」
オーバーリアクションだなぁー。まあ、子供なら仕方ない……のか?てか、その前に子供の定義に当てはめてしまっていいんだろうか?
「いや、気になったし」
俺の返答に、マナカさんは、呆れた顔で、「あ、こいつ、王司さんの息子だわー」って眼で見ている。失礼な。
「まあ、いいよ、うん、答えよっか。魔法少女独立保守機の成り立ちだったよね。別に隠すようなことでもないし、知ってる人は知ってるからね。
魔法少女独立連盟。全ての始まりにして魔法少女の頂点、国立睦月が率いた全員が一騎当千の魔法少女と言う先鋭部隊だったの。まあ、わたしもその1人。愛藤愛美、あの頃の2つ名は【リンシャンの愛美】だよ」
リンシャン……?嶺上開花と言う麻雀の牌の字のように、嶺の上と言う意味の言葉だが、そういった類の魔法を使えるんだろうか?
「【国士無双の睦月】、【槍槓使いのヴェルフ】、【河底撈魚使いの舞魚】、【七対子の烈】、【清一色の清子】。最強の5人のその下にいたのがわたしだよ」
全部麻雀かい。てことは、さっきのリンシャンも嶺上開花じゃん。魔法少女が麻雀スンナっての。
「悪鬼。その世界で一般的に用いられていた呼称でね、わたしやカナデン、しほりちゃんは、魔物って呼んでたんだけどね。その正体は、魔石に込められた魔力を喰らった人間や動物だったんだけど、わたしたちには、それを浄化するだけの力があったの。だから魔法少女は決起して、魔法少女独立連盟として、魔石を人工的に作って悪鬼を量産する奴らを一網打尽に滅ぼして、そのあと、カナデンの力で異世界にも進出するようになって、その頃に、リーダーと四天王の5人が不在となったことで、わたしが新グループを作り上げた、それが魔法少女独立保守機構なの」
なるほど、知らない名前だらけだが、昔の仲間と共に会った組織で上位5人が消えたからマナカさんが率いているのか。しかし、なぜ、その5人は消えたんだろうか。話し方からすると死んでいないように聞こえるんだが。
「その5人は今、どうしているんだ?」
マナカさんは、その言葉に、ビクッとなった。猫かっ。しかし、何かを知っているんだろうな。でも、なんで、そんな反応をするんだろうか。
「国立先輩は、もう魔法少女ではないはず……」
魔法少女じゃない、ってどういうことだ。てか、そう簡単にやめられるもんなのだろうか。てか、なんでやめたんだろうか。
「だって、あの人、『魔法少女って永遠の若さを手に入れられるって思ってたけど、あたしの好きな人、30代くらいが好みって言うから、魔法少女やめるわ、ゴメン』て言ってたもん」
おもいっきりずっこけそうになった。なんだ、その理由は。てか、タケル見たく姿を偽ればよかったんじゃないのか、それは。いや、姿を偽っただけじゃダメなのかもしれんな。実態をきっちり持った幻想ではない、真の体で恋をしたかったんだろう。
「ん、おっと、敵さんのお出ましのようだね。わたしたちは、防衛に回るから、紳司君は、イシュタルっちを守ってくれないかな?」
俺がイシュタルを守ればいいのか。てか、どんな子なんだろうか、イシュタル・ローゼンクロイツって。
「てか、どこにいるんだ?」
「薔薇の柩って部屋にいるよ。途中まではボクが案内するから兄ちゃんはついてきて。薔薇の柩……通称、保健室へ」




