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《神》の古具使い  作者: 桃姫
古具編 SIDE.D
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23話:談笑と談話

 はやての意味不明の発言に、あたしが首を傾げる。するとはやては、何かを力説するように、拳に力を込めて胸の前に当て、あたしを諭すように見た。


「あのね、暗音ちゃん。わたし、思うの。暗音ちゃんの笑顔って、何か、どこと無く嘘っぽいなって」


 嘘っぽいって失礼な。まあ、ある意味正しいのかもしんないけどね?あたしは基本的に顔に出にくいタイプだ。まあ、紳司や父さんなんかもそうだから、きっと遺伝なんだろうとあたしは思っている。


「そう?」


 あたしはとぼけた振りをしながらはやてに聞いた。するとはやては、少し怒った顔で言う。


「そうだよぉ」


 そう言ってから、再度、あたしの顔を見て、うぅ~んと唸って、小首を傾げて、もっかい唸る。


「でも、さっきは、本当の笑顔だった気がして、それで、わたし、思わず見惚れちゃったよ」


 はやてがそんなことを言い出したので、あたしは、思わず眉根を寄せて、拗ねる様にそっぽを向いた。


「ふ~ん、どうせ、あたしは普段は可愛らしくありませんよ~」


 わざとらしくそっぽを向いたら、そこに、十月がいつの間にか立っていた。びっくりしたわよ。


「あら、十月。何か用?」


 あたしは、そう十月に話しかけた。十月は、そっと、話しかけた。


「なんそうがでてる」


 難相?


「それと、そっちのふたり……」


 十月がはやてと友則を指して言う。


「こどもの、なまえはきめた?」


 ぶふぅ、っと何かを噴き出すはやてと友則。まさか、もう、子供が出来ている段階だったとは……。流石のあたしも驚きだわ。


 まあ、尤も、もう夫妻だろう、と噂になっているこの二人のことだから、別段おかしくないんだけどね。


「こ、子供?は、はやすぎるって」


 はやすぎるってことは、子供は出来てないけど、そういうことをする関係って認識でいいのよね。むふふ。


「いや、はやいも何もねぇーから!」


 友則が慌ててツッコむも誰も聞いていなかった。かくいうあたしも対して気にしてなかったし。


「あなたのきらいな『かみなり』を『なくす』ようにねがうなまえが『吉』」


 へぇ、はやてって雷、嫌いだったのね。疾風迅雷って組み合わせもあるのにね。疾風(しっぷう)疾風(はやて)とも読むのよ。


「ふぇ?なんでわたしが雷が苦手なの知ってるの?」


 あら?十月とはそれなりに仲がよかったのだから知っているものかと思っていたら、はやてには、それを知られた覚えがないらしい。友則も頷いていた。どうやら友則以外知らないことだったのだろう。


「じょうしき」


 言い切った?!そうね、十月にとっては常識だったのかも知れないわね。あたしは、十月を少し不思議なものを見るような目で見ていたことだろう。


「それにしても雷を無くすかぁ?む、無雷(むらい)?」


 無雷ってそりゃ、無理があるわよ。


「流石に無理があるだろ。普通に『雷無(らいむ)』でいいんじゃないのか?」


 友則もあたしと同じく無理があると思ったらしい。ちなみに、雷無もそれなりに無理があると思うんだけどね。


「それで、いい。それが、いずれ、くろきりゅうのみちびきてとなりて、しろきりゅうのみちびきてとであう、はず」


 ぼそりとあたしにしか聞こえない程度の声量で十月は言った。黒き龍の導き手となりて、白き龍の導き手と出会う?


「あくまとてんし、けいかくのなれのはて」


 十月の意味深な発言の意味はよく分からなかったけれど、それはきっとあたしには関係の無いことなのだろう。


「そう、それは、きっと『悪魔(あくま)でも魔女(まじょ)』、なのだよ」


 なぜか、いつものひらがな言葉ではなく、普通のイントネーションで、「悪魔でも魔女」と言った。


 あたしは、どこと無く、ツッコんではいけないな、と思い、それをスルーする。


「それで、あんたはそんなことを言うためだけにでてきたの?」


 出てくる、とは妙な表現だが、十月は、どこから沸いて出てるのか分からないので正しい表現ともいえる。


「きょうのほうかご、ぶしつにあんないするから、のこってて」


 十月は、あたしにそう言った。なるほど、それが本当の用事ってことね。あたしは、やれやれと肩を竦めながら息をついた。







 放課後、教室で、十月を待つ。友則とはやては薄情にも、とっとと帰ってしまったので、一人で、ボーっとしている。すると、何の前触れもなく、あたしの視界に影がかかった。少し驚きながら、影の主を見る。


「十月」


 あたしが十月にそう呼びかけた。十月は、こくんと頷いた。どうやら迎えに来たらしい。あたしは、席を立ち上がった。


「こっち」


 ついて来いってことかしらね。あたしは、十月の後を追うように歩き出す。十月の歩くペースはそこそこ遅く、のろのろ歩きだった。しかし、足音が無い。

 ペタリともキュとも音が立たない。さらに衣擦れの音すらほとんどない。怖いくらい音を立てずに移動する。


「十月、あんた、よくそんなに音を立てずに移動できるわね」


 あたしは思ったことを口にした。すると十月はボソリと静かに呟くようにあたしに言う。


「じじょはつきしたがうときにおとをたてぬもの」


 は?次女?などとそんなボケはせず、侍女であることはすぐに分かった。どうやら、誰かの侍女らしい。侍女らしさは微塵もないけど。


「へぇ、侍女?誰の?」


 あたしがそう問うと、十月は目を丸くした。そんなにおかしなことを言っただろうか。別に変なことは言ってないはずだけど。


「ふつう、じじょは、あるじのなをしらぬひとにもらさぬもの」


 あ~、そうね。無用心に、主の情報を漏らす侍女はいないってことね。


「さいきんは、なかば、しょうどうのはけぐちでもあるけど」


 ぶふっとあたしは、思わず吹き出した。なんてことを口にするのよ、こいつ……。衝動のはけ口って、つまりは、そういうことよね。


「侍女ってそんなことまですんの?」


 あたしは思わず問いかけた。十月は、音を立てずに振り返りながら首を傾げてこういった。


「じじょでもしょじょじゃないよ」


 ぶふっと再びあたしは、思わず吹き出した。げほっ、ごほっ。むだに「し」と「ょ」が多いわね。


「処女じゃないゆーなっ!」


 処女厨に叩かれるでしょーがっ!まあ、この子がヒロインってことはないんだろうけど。何の話よ?


「てーか、別にうまくもなんともないわよ!」


 あたしはツッコミながらも、十月の貧相な体を見た。見事なまでのツルペタだ。嘘をついたわ。多少の凹凸がある。


「これであたしより大人の階段を上っているとか……」


 あたしは、羨ましさと驚きの半々の目で、十月を見た。あたしの処女は誰で散るのだろうか……。紳司かしらね。


「姉×弟ものって需要あるのかしら?」


 ブツブツとあたしは呟きながら、そういえば、と見回す。鷹月はどうしたのかしら?あいつも同じ部活に入るって言ってたわよね?

 そう思っていたら、鷹月があたしと十月を追うように走ってきた。どうやら置いていってしまったらしい。


「待ってくださいよ!ったく、酷いな……」


 鷹月は、困惑の表情とともに、あたし達に追いついた。いえ、むしろ、今追いついたほうが正解だったのだ。

 いかにも「ああいった」話に耐性がなさそうな鷹月がさっきの話を聞いていられるかどうか、微妙なところだったからである。


「鷹月って、どう……、何でもないわ」


 さっきの流れから、鷹月に一応聞こうと思ったが、やめた。答えは聞くまでもなさそうだからね。


「……、鷹月って巨乳派?貧乳派?」


 なんとなく、鷹月に聞いてみる。すると鷹月は、あたしと十月の胸をなるべく見ないようにしながら見た。あたしのそれなりに大きな胸と十月の貧相な胸。


「えっと、ど、どちらでも、その、はい」


 一応あたしと十月に気を使ったのだろう。まあ、少し茶化してみるか。そう思いあたしは、からかう。


「へぇ、どんなおっぱいでも好き、っと」


「へ?!」


 あたしの発言に顔を真っ赤にして目を丸くして驚く鷹月。慌てて首を横にぶんぶんと振って否定する。


「ち、違いますって」


 鷹月が否定すれど、あたしは、肩をすくめるだけだった。そして、十月は、そんなやりとりを聞いて言った。


「うちのあるじは、どちらもすきだと……」


 十月の主ってどんな奴なのよ。


「でも、あたしのからだがいちばん、て、ゆってた」


 ぶはっ、とあたしが吹き出した。なるほど、ロリコンか。十月の主、なんともいえない奴なんだろうな。


「からだのあいしょうがばつぐんらしい」


 何やかんや言って、一番無害そうな十月こそ、一番口を塞がなくてはならないのではないだろうか。いや、その十月の主ってのも相当だけど。


 そう思いながら、あたしと十月と鷹月は、《古代文明研究部》の部室の前に着くのだった。

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