227話:「厄」の名を継ぐ者
「爆天落」。「焦土地方」の引き金と言うアナウンスの通り、ある都市を焦土に吹き飛ばした異常種よ。ただ、驚いた理由はそれだけじゃないのよ。その焦土と化した地域は、およそ、あたしたちの世界のアフリカ大陸の北半分くらい。それを焦土にする化け物が相手っていうのは正直言ってヤバイ。爆発されたら、この魔装空挺どころか、B支部、D支部あたりまで被害が出かねないのよ。おそらく、爆発が近いから出てきたんだと思うけど、だとしたら爆発する前に倒さないといけないわ。
そして、おそらく、そのタイムリミットまでは、さほど時間が無いわよ。あって、1日。なかったら、今すぐにでもってことろね。だから非常に危険何でしょうけど。それにしてもSランク1名、Aランク6名ね。ありがたい戦力ではあるんだけれど、どの程度使えるのかしらね。ぶっちゃけ戦力にならないんだったらいらないんだけど。邪魔になるだけだしね。
――なお、先陣を切っているSランク、Aランクは、B支部からの救援だそうです。間もなく、戦場上空になりますのでご注意下さい。
何ですって、B支部からの協力者、ねぇ。ふぅん……もしかして、とは思うけどどうかしらね。6って数も一致しちゃうあたり、あたしとしてはそうだと予想するんだけど。
「戦場上空に着いたわ。不知火たちは、ここで待機していてちょうだい。あたしと桜子と紫麗華で、下の助けに入ってくる。静屡もそれでいいわね」
なお、【魔装太刀・ムラクモオリジナル】は、静屡に返却済みよ。あたしが使うと、静屡の戦力が落ちるからSランクが一人欠けることになるわ。なら、あたしはレプリカで戦えばいいってだけよ。あたしゃ、レプリカでもSランク相当の実力は出せるもの。
それよりも問題は、250の害蟲よ。おそらく、「爆天落」は体長が600m近くあるはずよ。図鑑で見たもの。それほどの大きさってことは、少なくとも先陣を切っている面々は、全員が「爆天落」と戦っていると考えていいでしょうし、そうでもしなきゃ止まらないもの。
さて、どうするかしら。こんな時、紳司の《古具》なんかだったら、一発逆転の手を導き出せるんでしょうけど、お生憎様あたしの《古具》はあたしの考える刀、剣しか形にできないし、周囲を切り刻むにしても、人が多い戦場じゃ、皆殺し以外には使えないわ。その点は紫麗華の蜻蛉切もおなじでしょうし。でも、個々撃破は手段としてあまり取りたくないのよね時間の浪費が激しすぎるもの。
250の害蟲を殲滅しつつ「爆天落」が爆発する前に倒す。この2つの条件をクリアするには、スピードを持ったものが250の害蟲を相手して、パワー系が「爆天落」を落とすしかないってことよ。ただ、スピードだけでどうにかなるか、と言えば、そういうわけでもないし、パワーだけでどうにかなるわけでもないんだけど。
「チッ、向こうにマシな戦力がいれば形勢逆転できなくもないんだけど、あたしの勘が当たってるかどうかね」
そう呟きながら、戦場を見下ろした。そして、その姿を確認する。予感的中、あまりの運の良さに、思わず口角が上がったわ。あたしが「爆天落」を、あの子たちが250の害蟲を、こうすれば行けるはずよ。
「桜子、紫麗華、あんたらは、害蟲の方をお願い。あたしは降りてすぐに『爆天落』を潰しにかかるわ。そして、2人じゃキツイでしょうけど、たぶん助っ人を飛ばせると思うから安心してちょうだい」
そう言いながら、あたしは黒衣を纏う。前世でも前々世でも、その色だけは変わらなかった漆黒の衣装を。戦場に似つかわしくない漆黒のドレスとその顔を覆い隠す黒いベール。その姿は、さながら「漆黒の花嫁」ってところかしら。
「さあ、降りるわよ!」
そしてあたしは、ロープを使わずに地面に降り立った。落下時に、地面を《黒刃の死神》で細かく切り裂いてその衝撃で勢いを減らしたのよ。
「さあ、さて、懐かしい顔を拝むとしましょうかね」
余はで害蟲を斬り飛ばしながら、「爆天落」のところにいる7人を見る。見覚えのあるのが6……人、覚えがないのが1人。でも、どことなくあいつの面影があるわ。ってことは、そう言うことなんでしょうね。
「あの人が、最年少タイでSランクになった『災厄の人形師』っす」
ハハッ、良い名前じゃないの。災厄、ね。あいつの子孫ならピッタリじゃないの。てか、子孫にも同じ字を使っているのかもしれないわね。
「それと、もう1人のSランクがこっちに向かっているらしいっす。『黒衣の魔剣』さん。出自不明の剣士らしいっすね」
……まさかね。フフッ、そんなわけないものね。それよりも、さっさと指示を出しましょうか。特に、あの超素早い黄色いのにね。
「雷華、林華、清華!お前らは、雑魚害蟲の方に回れ!お前らの代わりは俺が担う!」
大陸共通言語で、そんな風に叫ぶ。そう、その叫んだ相手は、かつての戦友にして、俺の個人的秘書を務めていた黒減清華。そして、その姉妹である雷華と林華よ。なお、個人的ではない秘書は、褐色美人系の姉妹秘書。
「チッ、どこの誰かしりませんけどっ!」
「……聞く義理なし」
「行く、それが一番だから。そうでしょう、我が主様」
2人の首根っこを掴んで引っ張っていく清華。ありがたいわね。そして、残りの3人の姉妹とその主と思われるSランクの人形遣い。
「火榮、山華、風華!主人を連れて跳べ!デカいのぶっ放すからよ!」
あたしは、ムラクモレプリカに魔力を込めて、斬撃として「爆天落」に向けて打ち放つ。
「叢雲流、奥義『天之羽々斬』」
二閃の斬撃が、全てを飲み込むような巨大な白い光となって「爆天落」に当たる。けど、倒してないのは知ってたわ。その程度で倒れるほどヤワじゃないでしょうしね。でも、こんなもんになると弱点なんてのは関係ないし、どうしようもないわね。ただの物量突破ってことでしょうけど、……それ、いつもと変わらなくない?
「叢雲流……だって?!」
山華が驚愕の声を上げていたわ。さて、このさっきの3人と目の前にいる3人を含む6人……正確に言えば6機が、第四世代魔装人形『風林火陰山雷』シリーズよ。独自の機構を搭載したナハトと呼ばれるものを積んでいる最強の機械よ。その実態は、稀代の天才人形技師、黒減桃悟郎が自分の娘を全て機械化した者であり、ほとんど人間と変わりないのよ。痛いものは痛いでしょうしね。そういう点は人間に近い分、普通の機会よりも弱点が増えてるけど、少なくとも機械が壊れるまで寿命はないってことね。
「やっほ、久しいな、お前ら!それと、そっちのチビは知らんが、厄魔の子孫かなにかか?」
厄魔、……椎名厄魔。本人は二流だったけど、人形捌きは一流。そんな人形遣いよ。清華を除く『風林火陰山雷』シリーズを操り、幾多の害蟲を排除した男。
「おじい様を知ってるの?!」
あら、やっぱ孫だったのね。どことなく面影があるっちゃあるけど、誰との間に生まれたのかしら。あの厄魔が、人形をほっぽって誰かとイチャつけるわけないんだけどね。
「厄哭。そいつは、厄魔の戦友よ。たぶんだけど」
火榮がそんな風に言ったわ。なるほど、厄哭っていうのね。変わった名前だけど、厄魔もそうだし、あたしも人のことを言えないわよね。
「んなわけあるかっての。第一、あいつは男だろ?こいつは女じゃねぇーか」
山華のそんな言葉をあたしは聞き流しながら、そっと、ムラクモレプリカを構える。さて、さっさとこの害蟲を退治しちゃわないとね。
厄哭は戦力外として、実質戦力は風林火陰山雷の3機とあたしと静屡の5人ってところかしら。でも、この混戦した戦場だと、周囲を滅ぼす「紫雨太刀」は使えないのよね。この戦況をひっくり返すには、もっと別の手立てがいるのよ。ただ、5人で、あたしの必殺技なしでどうにかなるかってのは、ちょっと微妙なところよね。《古具》を使って地面から串刺しにしようかしら。それとも、直接真っ二つに斬るか……。でも、真っ二つにした瞬間に爆発しても困るわよね。いえ、それはどう倒しても一緒なんでしょうけどね。
こういう時、万能性の高い《古具》のやつがうらやましいわよ。例えば、紳司のところの何とかっていう女教師。あの転移系の《古具》、《銀朱の時っていうやつとかね。あれがあれば、コイツを海の底に沈めて大解決なんだけど。まあ、そんな都合いい力は持ってないわよね。
「ああ、もう、こういうメンドくせぇのが一番嫌いなんだよ、この俺はッ」
ムラクモレプリカと【宵剣・ファリオレーサー】の2刀流。この双剣のように構えた感じ。どことなく蒼子さんにも似た、でも、それとは違う独特の構え。あたしの血の奥で使えと滾るように溢れてくるその感情に身を任せて、その構えを取ったのよ。
――そう、それでいいのよ
まるで、そう言っているかのように感じるその力を、今、まっすぐに解き放つ!




