223話:再開の時
普通のマンションの一室。管理人が南方院財閥関係の三鷹丘にあるマンションよ。まあ、所謂父さんの関係者がよく使っているマンションなんだけれど、偶然か必然か、そこにあたしの妹は住んでいるらしいわ。しかし、まあ、生徒会長は生徒会と言う御名目があるからいいけど、あたし等は入るの難しいんじゃないかしら?この辺で鷹之町第二高校の生徒会長ってのは、意外と権力があって、三鷹丘の生徒会ほどじゃないけど融通が利くものよ。
でも、あたし等、簡単に言ってしまえば、ただの部活中の学生じゃないの?無理くない?不知火の権力も南方院家の権力の前だと無力だしね。
「で、結局入れないわけ?」
不知火が交渉したが、結局のところ入ることはできないってことらしいわ。はぁ……呆れて物も言えないわね。仕方がない、か……。そう思って、父さんに連絡を入れるわ。
「もしもし」
割とすぐに通話状態になったんだけど、今は大丈夫な状況なのかしら。まあ、ダメなら電話に出ないでしょうけど。
『どうした暗音。お前が電話をかけてくるなんて珍しいな。普段は自分で物事を解決する癖に』
そういえば、昨日の時点で、母さんたちは、なんかチーム三鷹丘としての用事ができてたみたいだけど、父さんは参加してたのかしら。
「ちょっと、協力してほしいことがあってね。あたしの体質ってか、前世の縁ってのはつくづく厄介ってことが分かったのよ。
そういえば、昨日、母さんたちは何かあったらしいのよ。たぶん紳司もね。あたしは別口で動いてたから知らないけど。
ま、それよりも南方院家のあのマンションに入りたいんだけど、口利きしてくれない?」
あたしの言葉に、父さんは電話口で少々唸っていたわ。どうかしたのかしら。すると電話の向こうで、甲高い女性の声が響いた。
『オウジ、オランダのミーリエが……』
『チッ、俺が到着するまで待てっつたろーがっ!ああ、もう、面倒な!
悪い、暗音、口利きは、適当にやっとくから5分くらい待ってろ!』
なんか、結構大事っぽいのに巻き込まれてるわね。父さんも相変わらずってことかしら。5分でどうにかなるのかしらね、まあ父さんのことだからやってのけるでしょうけど。
……と思ったら母さんからメッセージが送られてきた。何かしら、って考えるまでもなくさっきの件よね。
『暗音さん、受付で、青葉暗音と名乗れば通れるようにしておきました。ちょうど昨日の件で南方院さんと一緒に居たのが幸いしましたね。青葉君はしばらく音信不通になるでしょうから、お父さんに連絡を取りたい場合は、わたしに連絡を入れてください。
それと、念のために、受付で名前と一緒に1196452と言う数字を口にすると確実性が増します』
あー、なるほど、母さんは機能の一件で南方院の人と一緒に居たのね。通りで連絡が早いわけね。まあ、ラッキーと言うかなんというか。それにしても数字の羅列はなんなのよ、暗号、それともパスワード?
「ま、とりあえず入れる権利は得たわね」
そう呟きながら、マンションの入り口を入り、部屋番号を入力せずに受付に通じる番号を入力したわ。待つことしばし、音声が流れる。
『はい、こちら受付です。何のご用でしょうか』
マニュアル対応ね。そう思いながら、あたしは、自分の名前と先ほどの番号の羅列をこたえるわ。
「青葉暗音。1196452」
すると、電話の向こうが無音になる。そして、機械的な音声のアナウンスが開始されたわ。
『登録番号1196452番……DLALにアクセス、ビューアーを起動、■■■■のIDによりリンク。どのような情報を引き出しますか?』
DLAL、ダイレクトリンクアーカイブライブラリと言ったところかしら。へぇ、調べごとができるのね。じゃあ、ついでにちょっと調べちゃおうかしら。
「《終焉の少女》」
発声した瞬間に脳裏にその情報が転写されるように映し出されたわ。何々……、えっと……。
――終焉の少女。《神性》と対になる《魔性》をその身に宿し、転生を自発的ではなく自然的に起こしている存在。それゆえに【超自然的輪廻転生存在】と呼ばれている。これ以上の閲覧は上級権限が必要。
特に目新しい情報はないわね。【超自然的輪廻転生存在】なんていうイタい名称くらいじゃないのよ。
「チェッ、使えないわね。まあ、いいわ。こういうのもあるってことね。で、これは入れるのかしら。あー、開くっぽいわね」
あたしは、マンションの外で話している不知火、十月、怜斗、輝、讃ちゃん、桜子に呼びかける。
「ほら、入れるようにしたわよ。とっとと行きましょう」
マンションに入ろうとするあたしの後をみんなが追ってくる。そんなにあわてなくても、1人が中に入れば中から簡単に開けられるでしょうに。この辺は、マンションの設計上仕方のないことで、随分前からこの問題点は言われてるけど解決はされてないわね。つまり、誰かが出てくるのと入れ違いになるか、誰かが入った後をついていけば中に入ることは簡単にできるのよ。確かにマンションの一室一室には鍵が付いているかもしれないけど、結局は外に出るときにロビーなんかを通らなきゃいけないんだからストーカーなんかに対する配慮が不十分ってことで対策のために監視カメラを増やすとかはやってるんだけどね。
「君には本当に驚かされるな。どうやってここを開けさせたんだい?」
不知火の疑問に、あたしはやれやれと肩を竦める。すると、桜子が呆れたような半眼でぼそりというわ。
「もう、彼……いえ、彼女に常識は通じないのよ。もう、相変わらず、なんていうか……はぁ……」
ため息つくなっちゅーのよ。てか、ため息尽きたいのはこっちだっつーのよ。もう、あたしの苦労が無意味だったって分かっちゃったんだもの。
黄金の髪を靡かせながら、妙にスタイルのいい体のくせに上半身は長袖の制服を着て、ものすごいミニスカを穿いている美少女。あたしはその姿に見覚えがあったわ。そう、何を隠そう、ミュラー・ディ・ファルファムその人に違いないのだから。
三鷹丘学園生徒会副会長のミュラー・ディ・ファルファム。紳司の先輩に当たるわね。前に紳司の部屋で全裸で紳司とベッドで何かヤバイことやって時に見てるから、見間違わないわよ?
そして、黒髪をいじりながら、歩く少女。その瞳は紅と蒼。その常人離れした容姿の子についても、あたしは知ってる。修学旅行の時に会ったものね。そう、花月静巴ちゃんよ。
三鷹丘学園生徒会書記の花月静巴。紳司と同級生で、紳司の前世の嫁。あたしのご先祖様でもあるっていうのが驚きよね。
そして、その2人が慣れたように鍵でドアを開閉しているってことは、ここの住人ってことよね。つまり、少し待っていれば2人を説得して中に入るって手を取れたのに……。
「まあ、過ぎたことを気にしていても仕方ないわね。それで、紫麗華の部屋は何号室よ。あのバカ、いなかったら承知しないわよ?」
ぶつぶつと呟きながら、不知火から紫麗華の個人情報の書かれた資料の入っているタブレットを奪い取り、部屋番号を確認してエレベーターへと向かう。本当なら、いっそのこと、【力場】から【力場】に短距離転移したほうがやりやすいんだけどね。紫麗華の【黒き力場】のせいでうまく転移できなさそうだからいいわ。それともいっそのことジャンプして廊下から上の階の廊下に飛び移ろうかしら?
「4階ね」
やっと来たエレベーターに乗り込んで、4階のボタンを押す。マンションのエレベーターはそれほど大人数が乗ることを想定していないから若干狭い気がするわね。これなら地下駐車場とつながっている方を使うべきだったかしら。地下駐車場との直通は、車に荷物を積むことや、車から降ろした荷物を持ってあがることを考えて広いエレベーターが使われる傾向があるのよね。まあ、マンションによっては、エレベーターの広さは統一だから変わらないってのが一般的だけど。
「……てか、あいつって」
そう、あいつはあたしと雨柄ぐらいにしか認識できないってことだったわよね。だとしたら、どうやってマンションを借りたのかしら。いえ、それどころか、《終焉の少女》が上位存在で、本当に一般人に見えないのなら、どうして紫麗華は、万人に見ることができたのかしら。
――なるほど、そう言った考え方をしたことがなかったな。俺はてっきり、《終焉の少女》にゆかりがあるからこそ視認できるんだと思っていたんだが……。
あたしの中の零士がそんな風に言った。そう、そうよ、なんでこんなことに気付かなかったのかしら。だって、七星加奈の話だと、森の魔女として恐れられていた、って紳司が言っていたのよ。つまり、みんなに見られていたことがあるってことじゃないのよ。
じゃあ、どうして……。いえ、そうね、《終焉の少女》はナナホシ=カナに自分がこの世界にとどまっていることを悟られたくないはずよね。だから、極限まで見られないように、人に情報が漏れないようにしているとしたら……。
つまり、この世の誰にも見えないようにしているだけだとしたら、本来見えない存在となっていてもおかしくないわよね。つまり自分の意思で、姿を見せる消せるができるんじゃないのかしら。そして、そんな力を発動している状態にも関わらず、姿を視認され、声を聞かれれば、あたしが異常だってことが分かるってわけね。
「でも、どんな力かしら。紫麗華……蜻蛉切って武器を持っているって話は聞いていたけど、蜻蛉切って確か本多忠勝が愛用した槍の名前よね。蜻蛉が穂先に止まったら切れてしまったって話が有名な。
姿を消すのとは関係なさそうね。じゃあ、何よ。いえ、何か違和感があるんだけど……」
そんなことを考えているうちに紫麗華の家の前にたどり着くわ。そして、チャイムを鳴らす。
――ピンポーン
玄関まで誰かが歩いてきて、扉を開ける。その姿が一瞬、大人になった紫麗華のような姿で目を見張った。けれど、すぐに、黒髪の5、6歳の幼女の姿に見えるようになったわ。
「な~るほど、姿を消すんじゃなくて、姿を偽る能力なのね」
紳司のところの全裸マント童女と同じようにね。ただし、あれは【力場】だからふとしたきっかけでバレる危険性も高いけど。
「違うわ。――世界を偽る力よ」
不敵に微笑む《終焉の少女》。なるほど、世界を偽る力、ね。凄い力じゃないの。
「トリックスターの力よ。それにしても、わざわざ何の用かしら、青葉暗音。ぞろぞろと引き連れ……」
その言葉が止まったのは、引き連れている面々の中に小さく手を振っている桜子の姿を見つけたからでしょうね。
「え、うそ……染井、桜子……?」
「やっほー、紫麗華」
え~、更新が少々滞りました。大学の課題が忙しくて……。はい、言い訳です。まあ、と言うわけで、ちなみにDLALが起動したのは偶然で、本来、あの番号は、紫苑が暗音の存在の薄さを考慮して番号予約もしたからです。
なぜかあたしの中で、第12次戦国ブームが来てます。蜻蛉切とかもその影響。この間、某何とかさんの野望の新刊を買って1から読み直したからでしょうか。
と言うわけで、次回もなるべく早く更新していこうと思います。




