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《神》の古具使い  作者: 桃姫
前世編 SIDE.D
221/385

221話:絶望の少女(中編)

SIDE.MRIA(with catastrophe)


 魔法少女独立保守機構と呼ばれる組織が存在する世界の近くに、テルミアの奇蹟と呼ばれる鉱石を多く持つ世界が存在したわ。その世界は、他の世界と同様に時間が流れ、人間たちが文明を築いていたのよ。まあ、この辺は推測なんだけどね。私もまだその世界に生まれる前の話だったから。


 そして、ある時に、悲劇が起こったわ。それは本当に偶然だった。とある人物の些細な行動をきっかけに、幽賊害蟲と呼ばれるものが世界に生まれ、暴虐の限りを尽くしたのよ。

 5世紀の最悪の事件、426年から435年までの10年にも亘る間、人類はなすすべがなかった。ボコボコに蹂躙されるだけの10年が過ぎ、そして、人類にようやく希望がさしたのよ。

 黎明の王、後にそう呼ばれる男、黄羅(きら)による人類の反撃が開始されたのよ。そして、「人類は、剣を持って戦うべきだ。このまま虫に蹂躙されていていいわけがない。組織を立ち上げるのだ。奴等と戦うための組織を」と言う反撃宣言と共に、436年に対幽賊害蟲部隊、通称ネメシスが立ち上げられたわ。


 それから100年あまりの時が流れて、生まれたのが私。そして、私の弟よ。

 色の一族。黎明の王、黄羅を筆頭に、赤羽(くろは)黒減(こくげん)蒼刃(あおば)……極東の島国を発端に、そこにはそう呼ばれる者たちがいたのよ。極東ではね、他の大陸と違って、妖怪と言う害蟲に似た別の存在が既に存在していた。それを退治していたがために、黄羅も害蟲と戦えたわ。


 そして、それだけでなく、色の一族には大きな力が秘められていた。その色の一族が絶えることは、その世界にとって良くないことであったが、極東の人間は、それを時代の流れと、任せるままにしていたのよ。

 しかし、極東に近い、大陸の東の端にある国が、それを良しとしなかった。捨てるのなら、自分たちがもらうと、その存在をコピーしようとしたのよ。それが色の一族の予備であり、色の一族の劣化コピー。


 そうして私たちは、最初のコピーによって、生み出されて、その時が来るまで、理の外に廃絶されていたわ。


「紫麗華、君の本家は、もう2人しか残っていないみたいだね」


 そんな風に、まるで、劇かミュージカルのような芝居がかった口調で、私に言ってきたのは、朱頂蘭(あまりりす)。朱色の予備よ。


「そういうあんたの朱野宮は、もう1人しか残ってないみたいじゃないの。蒼刃は先んじて全滅して、青葉が出て行っちゃったけど、赤の予備は相変わらず不在みたいだし」


 そう、この頃には、黒減が完全な人としての個体がいなくなり黒棟(こくとう)が、黄羅はとうの昔にいなくなり黄昏(たそがれ)が、白城(しらき)が死に絶え白王(はくおう)が、この場所を発っていたわ。残っているのは朱の予備の朱頂蘭と紫の予備の私と、赤の予備だけ。


「ははっ、最後まで残るのは君になりそうだね、紫麗華。だが、この状況なら時期に君も行くことになるだろう。その時は向こうで会えることを祈っている」


 私たち色の予備は、一族の繁殖をするという関係上、全て女として生まれている。男なら戦場に駆り出し、女でも戦場に駆り出す世界だものね。下品な言い方をすると男だと子種をばらまく時間すらないってことよ。


 それから数日もしないうちに、朱頂蘭は、この世界を発ったわ。そうして、私は一人になってしまった。一人の間は、何もすることがなくずっとボーっとしていたのよ。


 そして、その時を迎えた。紫の一族が残り1人なった瞬間。何やら、監視対象の魔力の増大と共に、私は、その地へと召喚されたわ。

 病院だったわ。その病院には、急病人が溢れていた。害蟲との戦いが長引き、怪我人も多く出ていたのよ。


「これは……」


 私の姿は、ロキの力によって、濃紫の長い髪を持つ美貌溢れる美女となっていたわ。でも、見覚えのないものを手に持っていたことには驚いた。機械的ロジックの組み込まれた長い槍、それこそ、【魔装大槍・蜻蛉切(とんぼきり)】。マリア・ルーンヘクサとなった今でも呼び出すことのできる愛機よ。


「おや、その【魔装大槍】……、紫雨(むらさめ)一華(いちか)殿の血縁の方ですね。えっと、403号室にあなたの……甥ですかね、紫雨零士君が眠っています。染井さんと言う方と同室ですね」


 なんか、勝手に話が通ったけど、これが、この世界の運命力。因果の改変による影響と言うやつでしょう。でも、もう、遅いと思うわよ。召喚されたということは、その甥だのなんだのが死んだってことなんだから。

 そう思っていたわ。でも、違った。生きていた。その赤子は確かに生きていた。父を亡くし、母は赤子を生むと同時に息尽きたが、赤子は生まれたと同時に膨大な魔力を放ち……そして、私の召喚。


 はて、ここで私は思った。どうして、この赤子が生きているにも関わらず、私は呼ばれたのか。でも、気づいたのよ。今までの【終焉の少女(わたしたち)】が驚くほどに強い魔力をその身に秘めている、そして、それゆえに、存在が消えたように感じたことに。


「零士……」


 私は、その赤子につけられた零士と言う名前に驚嘆する。ゼロ。その数字にはよくよく縁のあるとつくづく思ってはいたんだけれど、流石に、ここまで、とはね。


「さあ、行くわよ」


 私は、その赤子を育てることにしたわ。あらゆる人生を生き、子供も幾度か生んだことのある、この身だけれど子供を育てるなんてことはしたことが無いのよね。







 そうして、6年の月日が流れた。私は、自分の命が短いことも悟っていたのよ。魔力の安定化、それはすなわち、零士が生きていることの証明。つまり、零士の魔力が完全に安定したとき、私は……予備はなかったことになる。


 とうとう、寿命……もとい、運命に殺されるのだ、と確信に至ったころに、私は、染井家に零士を託し、その地を発ったわ。人の居ぬ地にて、その命をまっとうして、次の【終焉の少女】へと生まれ変わるために。


「このような大陸の真ん中、害蟲の巣食う地に、うら若き乙女がなに用か?」


 不意に聞こえた声に振り向くと、そこには、男がいた。赤髪に全身に妙な模様を浮かべた、私の《魔性》にも近い、禍々しいほどの何かを渦巻かせている。


「あら、うら若き、とは有り難いお言葉ね。でも、生憎と、私は、そんな風に言われるほどに若くはないわ。あなた、名前は?」


 私の問いかけに、その男は、自嘲気味の笑みを漏らしながら言う。


「俺に名乗る家名はもうないのでな、ただの音絶(おとたつ)とでも名乗っておこう」


 音絶、そう、この頃は、本名を知らなかっただけ、後に知った話だと、この音絶は、本名を赤羽(あかは)音無(おとなし)。赤羽の一族の人間にして、制約を破ったがゆえに、家を出奔した武人だそうよ。


「そう、私は、紫雨紫麗華。もう、死ぬ者よ。音絶、貴方にお願いがあるんだけれど、出会ったばかりの相手に頼むことではないことくらい承知しているけれど、私のことを……殺してくれない?」


 自害を考えてたけど、それよりも他人に殺された方が幾分マシかしら。そんなことを思っていると、音絶は首を横に振った。


「それはできない相談だ。何せ、今の状況ならば、俺が貴殿の首を獲る前に、あの蟲どもが貴殿の首をかっさらうことだろう」


 そう、気が付けば、私は、害蟲の群れの中にいた。巨大な化け物が跋扈する中を、私は仕方がなく【魔装大槍・蜻蛉切(とんぼきり)】を構えたわ。


「切り伏せ、蜻蛉切」


 言霊を紡ぐ。それにより、魔力が蜻蛉切に注ぎ込まれ、そして、不可視の刃が周囲4km四方に縁を描くように伸び、その線上にいた蟲は全て切り伏せられるわ。


「ほぅ、これほどとはな……」


 音絶は、驚いていたけれど、私の蜻蛉切を躱しているあなたには言われたくはないのよね。何せ、蜻蛉切の有効範囲は、直系4kmの球状に広がっているのだから。地面も対象外。そして、その範囲に広がる不可視の刃を見抜けていなければ生きることはできないのよ。つまり、見えもしない所見の広範囲の不可視の刃を見事に避けきって見せたほどの才能を持つ男だったということ。


「さて、と、問題は、どう死ぬか、ってことよね。いっそのこと、今の蟲にでもこの命をくれてやればよかったかしら?」


 私の言葉に、音絶は聞く。


「それほどの強さを持つ貴殿が、何故死を選ぶ?」


「死が決まっているからよ。もう、私も長くはない。だから、それゆえに、死を選ぶのよ。」


「そうまでして、自然に逝く前に死を選ぶ理由は何だ。もう長くないのであれば、その天寿をまっとうすればよかろう」


 息のつかぬ口論。迷いもなく、間もなく、ついで口を出るのは本心だけだった。


「私も生きたいわよ。零士のそばで、ずっとずっと。でも、私は、零士とは違う。普通ではないわ。だからこそ、死が分かる。零士が生きれば私が死ぬ。零士が死ねば、私は生まれる。決して交わるはずのなかった運命が交わってしまったのよ。だからこそ、私は、弟を……血も繋がっていない、いえ、つながってはいるけど関係のない、弟を愛してしまっているの。それはいけないことなのかしら。そして、私はなぜ生きられないのかしら。幾千の時間を生きてきた【終焉の少女(わたし)】ですら、この因果(うんめい)と言う理をどうにもできないの。

 なぜ、なぜなのかしら。最初の女として生まれても夫と結ばれることもなく、トリックスターとして生まれても徒に神々をもてあそんだ挙句にその報いを受け、RE;として生まれ一城の主になるも人間に殺され、……幾度生まれ変わっても、私は決して永遠の幸せを得ることができない。それが神の力と反対の力を宿してしまった宿命だというの?

 ならば、私は、神を恨むわ9柱の原初の神も、その神に選ばれた神の物……【彼の物】も、全て全て、恨んで、この先の幾度も生まれ変わる人生を神だけを恨みながら生きていくわ」


 捲し立てるように早口に、心中を吐き出すように発した言葉。途中途中で、何を言っているか聞き取れないほどの声だったけど、それでもかまわない。別に音絶に言っているわけじゃないのよ。

 そう、全てを吐き出して、すっきりしたかっただけ。


「よくわからぬが、決して愛する人と共になれぬ運命(さだめ)と言うことか……。それは、悲しかろう。だが、転生輪廻。人はいずれ生まれ変わる。ふむ、願わくば、俺も生まれ変わったのなら、俺の娘と肩を並べたいものだ。

 よかろう、貴殿の願いをかなえる。しかし、俺は、この地で、お前が再びこの地にやってくるのをこの命が尽きるまで待っているだろう。そして、願わくば、もう一度、貴殿の尊顔を見る日が来ればよいと思っている」


 それが私と音絶の最後の会話だったわ。そうして、私は心臓を拳で貫かれて、即死した。

 え~、自分でも驚愕、まさかの前中後編になるとは……。次の話では、紫麗華と秋雨月霞、マリア・ルーンヘクサとしての【終焉の少女】の話になると思います。

 次話もできる限り早くお届けしたいのですが……どれくらいは未定と言うことで。では。

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