203話:荒唐
突然だが、荒唐無稽と言う言葉の荒唐と言う言葉の意味はご存じだろうか。荒唐無稽とは、もともとは、2つの言葉があったが、意味が近かったので統合されて、荒唐無稽と言う形になったもので、言うことや考えていることに根拠がなく、とりとめのないことと言う意味だ。
荒唐とは、荒と言う字が「途方もなく広い」、唐と言う字が「ものすごく大きい」と言う意味をあらわして、荒唐となると「言うことに根拠がなく、とりとめないさま」と言う意味になる。
はてさて、一体もって、なんでこのような話を始めたかと言うと、始まりは、あの日、テストの2日目、月曜日のことだった。土曜日の【幼刀・御神楽】、【神刀・里神楽】の件の衝撃も若干薄れてきた日のこと。それは突如として起こった。
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そんな声が頭に響いたと思ったら、俺は、気が付けば、よくわからない場所にいた。そう、荒唐無稽な話だろう。俺もそう思う。しかし、分からない場所にいるのは事実だ。
そもそも、周囲は一般住宅で、到底、異世界に召喚されたとか、タイムスリップしたとか、そんなことではないのは確かだ。
でも、その住宅街も、どこかおかしいように感じる。違和感を目で追って探すと……なるほど、花だ。花がない。
もちろん、その花は女の子を指している言葉ではなく、そのまま花を指し示している。今は夏……冬ならともかく、一般的に玄関などを華やかにする花は、春夏秋には、基本的に飾ってあるものだ。それが一切ない。
そういえば、犬小屋はあれど犬はいない。あまり見なくなったが絶滅したわけではない屯する猫も見られない。……生物が、いない?
そうだ、生物とされるものが一切いないんだ。と言うことは人間もいないはず。なのに、なんで俺はここにいられるんだろうか。
静けさが支配する空間に、俺は、一瞬、ある影を捉えた。人影……とは限らないが、確かに動体だ。機械、あるいは、人外かもしれないが、何かに会えるだけましだろう。
俺は、急いでその影を追ってみる。誰でもいい、誰かいてくれ。
「あぁん?何だってんだ?」
その声は、低い男の声だった。ガラの悪い男のような声。俺は、その声に向かって進んでいく。
「テメェ、何考えてやがる……?」
誰かと話しているのか……。でも、相手の声は聞こえないな。電話、それともテレパシー……。
「んぁ?そこにいるのは誰だぁ?」
俺のこと、だよな。出て行ってみようかな。別に怪しいことはしてないし、きっと大丈夫だよな。
「あの……」
俺が出ていくと、そこには、1人の男がいた。染めたような雑な金髪、サングラス、そして、ピアス。
「ぁああん、んだ、ガキか」
その男は、20歳くらいの青年だった。不良……なのか?でも、その辺の不良とはどこか違うようにも見える。
「えっと、あなたは……?」
俺の質問に、男は、眉を吊り上げて、俺の顔を覗き込んでくる。ジロジロと品定めをするように、しばらく視線が続いた後、男は、口を開く。
「テメェ、……セトのところの《神遣者》じゃねぇのか……?」
セト……?瀬戸?一体誰のことを言っているのかは分からないが、俺の知り合いにはいないな。俺が首をかしげていると、男は、ため息をつく。
「ったく、んで、テメェみたいなガキがこんなとこで何やってやがる。ここはガキの来るところじゃねぇーぞ」
ボリボリと頭を掻きながら、サングラスの奥の眼を鈍く光らせて、俺の肩に手を置く。ギリギリと力が籠るが、特にそこまで痛いほどではない。
「なるほど、ヤワではねぇーわけか」
何がしたいんだ、この男は。俺が疑問に思っていると、男が俺の背中を思いっきり叩く。パァン!と乾いた音が静かな世界に水滴が落ちたように広まっていった。
「へぇ、コイツでビクともしねぇのな。ガキはガキでも、まだマシな奴ってこった」
何かを納得するように、男がそう呟いていた。俺は、ヒリヒリと痛む背中をさすりながら、男の正体をうかがう。【力場】を見るに、見た目通りの年齢だろう。特におかしな点はないはずだが、どうにもこの男には、違和感がぬぐえない。
「ガキ、テメェ、なんて名前だぁ?」
男の問いがあまりにも唐突すぎて、一瞬意味が分からなかったが、名前を問われたのだと悟り、答える。
「青葉紳司……です」
男は値踏みするように、俺の名前を考えていたが、ニヤリと笑う。
「なるほど、良い名前じゃねぇか。オレは、七上晴臣だ」
七上晴臣と名乗った男は、俺についてくるように促した。どうやら七上さんは、ここらの……この空間のことを知っているようだ。
「テメェはどうやって、ここに入ってきた?」
どうやって、って聞かれても返答に困るな……。この場合は、素直に言うのが一番だろうから、そのまま言うけど信じてくれっかな?
「気が付いたら、ここにいましたけど?」
俺が恐る恐る言うと、七上さんは、「フッ」と笑った。その笑いは嘲笑とかではなく、予想通りと、ほくそ笑むような、そんな笑み。
「ヤッパ、テメェもその口か……。クッソ、あのアマ、次会ったらぶっ殺してやる」
あのアマ……女、さっきのセトとか言う人のことだろうか。それとも別の……。とにかく、ここにはその人が関与しているようだ。
「まあ、いい。とりあえず、テメェを師匠のところに連れてってやるよ」
先公……、教師?誰のことだろうか。この空間に、他に誰かがいるのは確かであるが、そのアマだのセトだのとは違う人物のようだ。
たわいもない世間話に花を咲かせることもなく、しばらく歩いて行くと、どこからか、妙な笑い声が聞こえてきた。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
息をつく間もな高笑いをする少女の声。その声に対する七上さんの反応をうかがうが、特に気にした様子はないようだ。ってことは、この人が、彼の言う先公のことなのだろうか。
「おい、師匠。馬鹿みたいに笑ってねぇで、この巻き込まれた奴をどうにかしやがれ」
巻き込まれた……?俺は、何かに巻き込まれてここにいるってことだろうか。つくづく厄介ごとに好かれているな……。
「ハハハハハッ、ハッ、いや、失礼。中々に興味深い存在だったもので、つい、笑ってしまった」
その体からにじみ出る【力場】は、並大抵のものではなかった。少なくとも、俺よりも強い……。姉さんと五分五分くらいの不気味なまでの強さ。
「それ、オレん時にも言ってやがったな」
七上さんの時にも?でも、七上さんからは特に不思議な【力場】は感じられないけど。いや、もしかして、感じられないからこそ、なのか?
「そりゃ、そうさ。七上晴臣、君ほどの力を有しながら、それは一切【力場】を介さない、純粋なまでの身体能力なのだから」
身体能力が高い……ってどのくらいなんだろうか。実際に見てみないと分からないけど、この異常な人が認めるってことは、かなり異常なんじゃなかろうか。
「ま、そんなことはおいておこう。初めまして、篠宮液梨だ」
その姿を改めてみて、その腰に下がる剣が分かった。あの剣は、独特の力が秘められた連星刀剣だ。
「五星剣……ッ!」
この人も連星刀剣保持者の一人なのか。七星加奈、静、火雲、東雲楪。今分かっている4人の保持者の誰でもない、
「へぇ。刀剣の名前まで知っているということは知り合いに保持者がいるのかな。その通り、これは連星刀剣の一振り、五星剣と言う」
まさか、こんなところで、持ち主に会うとは。この人は何者だろうか。
「それにしても、保持者は、……夏桜じゃないだろうし、楪ちゃんか、それとも天使・静?」
夏桜。知らない名前だけど、……もしかして、火雲の名前なのか?火雲夏桜、なんかしっくりくるな。で、天使静は、種違いの娘だ。
「七星加奈、それと静」
俺の答えに、篠宮液梨と言う少女……見た目通りの年齢ではないので、女性って表現のほうがいいか。篠宮液梨と言う女性が、笑った。
「そう……そう!七星!将院を討ったあの子か!」
将院。龍ヶ浜崎将院。七星加奈が戦った《魔堂王会》の仲間、唯一人、行方が分からず、七星加奈がこの世界にいないと言っていた人物。
「あの子たちからは師匠、とか呼ばれているが、別にそんな呼び方はしなくていいよ。ナンバー5……と言う名前を名乗るのもどうかと思うけど。世界管理委員会、剣術師範兼No5」
世界管理委員会……、姉さんからも聞いたことのあるし、それに七星加奈もあのとき言っていた。やはり、か。
「ぁんだか、よくわからねぇが、早く帰してやれよ」
七上さんが、液梨さんに言った。液梨さんは、「ああ」と呟いて、七上さんに言う。
「悪かったよ。晴臣、君も帰っていい。もう、ここでやるべきことは終わった」
片手にスマートフォン、片手にガラパゴスケータイを持って、彼女は笑いながら言った。てか、なんで2つも持ってるんだ?
「先ほど、鈴々から連絡があってね、彼女と要監視対象が世界を離れたから、その穴埋めにいかなくちゃならない。カグヤ姫の末裔とツインベルの行方末を見てみたかったんだけど、仕事が優先だかね」
カグヤ姫の末裔……?よくわからないけど、結局、何なんだ、この人。そんな感じのことを聞くと、彼女は答えた。
「神に最も近く、最も遠い存在……。君とは違うのだよ。君は、神に最も近くて、やっぱり最も近い存在だから。そうだろ、蒼刃蒼天君」
いや、青葉紳司だから。
「なりそこないの神様と、神になれる者……。君は、どちらだろうな」
なりそこないの、神……。
「それと、1つ忠告するなら、【神魔刀・里神楽】を完成させることだ。それが、……神に……」
その瞬間、目の前の風景が掻き消え、気が付けば元の教室に戻っていた……が、横には七上さん。結局、何だったんだ?
え~、一週間で2枚レポートは鬼畜過ぎです。死にます。時間なさ過ぎて、これをあいた時間に書くのに3日もかかりました。
また、しばらく間隔が空きそうですが、日曜に頑張って書こうと思います(レポートを……)




