201話:プロローグ
SIDE.MEIRIN
わたし、橘鳴凛は突然ながら親に呼び出されてしまったので、泣く泣く新幹線で帰郷中なんですぅ。わたしの実家は、九州は福岡県八女市にあるんです。その、少々変わった家柄でして、九州の観光名所で、パワースポットでもある日向神峡に関係のある一族でして、本名は、日向神鳴凛と言います。
橘は、母の旧姓で、日向神の苗字は関東では目立つだろうと、そちらを名乗ることにしていました。橘家は、元をたどると凄い神社の家系で、立原家という家系にたどり着くそうで、今でも、立原家から支援を受けている、と父が言っていましたね。
立原家には、市原、市瀬、瀧消、橘、立花、山岸、九条、京山などの家が親戚にあるそうです。
ふう、なんか真面目な話をしてたら授業してる時みたいな堅い口調になっちゃいましたねぇ。うん、もうちょっと砕けていこうかな。
それにしても、飛行機にすればよかったですかねぇ。流石に新幹線は時間がかかるし、飛行機でビューンって飛べばすぐだったと思うんだけど、いまだに飛行機は慣れないんですねぇ。空を飛んでいるのが信じられないっていうか……。
う~ん、それにしても、一体、何の話かな、お父さん。確かに結婚しろってうるさいけど、流石にお見合い話じゃないと思うんですよねぇ。それに、わたし、別に結婚する気がないんじゃなくて、する相手がないだけなんですよねぇ。
だって、よく考えてくださいよぉ。周りにいる男と言えば、教え子か、同僚ですよぉ。流石に教え子に手は出せないですしぃ、同僚はおじさんやおじいさんばかりで流石に……。まあ、教え子の中には、格好いいなって子もいるんですけどぉ、どうせ彼女とかいるんでしょうしぃ……。
ああ、でも、そういえば、前に何度か話したことがあるけど、学園一の王子様と名高い、青葉君は本当にカッコいいですから……。でも、まあ、たいてい、ああいう子は、誰かが手を付けていたりするのがお約束で、教師と生徒の恋愛なんて大抵失敗するものなんですよぉ。前に、授業中に入ってきたことがあった時は、明日咲さんに用があったようだしぃ。
って、なんで、こんな教え子の話なんてしてるんだろう。絶対、ダメなのに……。でも、付き合うんなら彼みたいな人がいいと思っちゃうんですよねぇ。
でも、わたしの家は特殊だから、両親が許可するとは思えないですし、まあ、大抵の人は両親の審査で落ちちゃうんですよね。ですから、お見合いとかの話はないと思うんですけれど、じゃあ、何の話でしょぉーねぇ。
青葉君、かぁ。何をしてるのかなぁ……、なんてふと考えてみて、そこで気づくんです。考えちゃダメだって。
教師と生徒の禁断の恋、それは誘惑の果実、艶美な物語、そして苦悩の物語。
それはフィクションだから思えることなんだなぁ、とわたしは、教師になってから痛感しました。リスクと恋を天秤にかけると、明らかにリスクが重すぎる、だから頓挫するんですよ。
普通に考えて、成り立つことがないんですぅ。だからこそ、物語のテーマとしては、取り上げられやすいテーマなんですけどねぇ。わたしだって憧れないわけじゃないですよぉ?
あ~、そんなことを考えているうちに、福岡についちゃった。
福岡県八女市にある実家。それなりに大きな家なんですよぉ?表札には日向神とはっきりと書かれていますぅ。凄く珍しい苗字ですよねぇ?
家の玄関へと続く道の途中に、一台のリムジンが停められていました。この車は、確か、立原家の方の車でしたねぇ。
玄関の前には、立原家の護衛と思われる方々が仰々しく並んでいますぅ。ちょっと、怖いかも。玄関へ向かっていくと、護衛の方々はわたしに頭を下げます。
「お帰りなさい、お嬢様!」
へぅ……、呼ばれ慣れてないので、ちょっと恥ずかしい……どころか、めっちゃ恥ずかしいぃ……。
「こ、こんにちは……」
ぺこぺこと頭を下げながら、こっそりと中に入って……、うぅ、自分ちなのにぃ……。今は来客中みたいだけど、一応、応接室に顔を出さなきゃいけないのかなぁ?
うぅ、立原家にはお世話になっているから挨拶をしなきゃならないんですぅ。今の三鷹丘に借りているマンションだって立原家の人が融通を利かせてくれたから用意できたんですよぉ?
気乗りはしないけど、行かないわけにはいかないんだよぉ……。はぁ、仕方がないので、顔を出してきましょー。
しばらく歩いて、応接室にたどり着いたから、障子をノックして、返事を待ってから開いて入ります。
「あら、鳴凛さん、お久しぶりね」
応接室で両親と話をしていたのは、立原舞子さん。実質、立原家の全てを握っていると言っても過言ではない人なんですぅ。
「お、お久しぶりですぅ」
ぺこりと頭を下げて、退出しようとしたら、舞子さんに止められちゃいます。
「ほら、鳴凛さん、座っていきなさい」
舞子さんに言われて、わたしは断ることもできないので、空いている席、舞子さんがここに座りなさいとばかりに軽く叩いている舞子さんの隣の席に座りますぅ。……うぅ、なんでこんな緊張する席にぃ……。
「それじゃあ、お話を再開しましょうか。それで、これ以上日向神峡に、あれを安置できないとはどういうことかしら」
舞子さんと両親が会話の続きを始めて……日向神峡に安置?あそこに何かが安置してあったんだっけ?
「はい、昨今、妙に『パワースポット』がブームになっているのはご存じでいらっしゃいますよね」
あぁ、パワースポット、そういえば、関東に出てからよく聞くようになりましたねぇ。昔は全然聞かなかったのに……。
「ええ、立原本家の、立原神社もパワースポットとして人気ですからね。集客に託けて、お守りやら祈祷やらでお金を儲けていますよ」
少し狡いようにも思えますけど、神社などはそうでもしなくては経営難になりますぅ。まあ、立原家は、そんなことをしなくても、……副業?と言えばいいんですかねぇ、それで経営できてしまうんですけれど。政治家……?総理大臣……?
「その『パワースポット』ブームのせいで日向神峡にも人が多く訪れるようになったのですが、そのせいで、あちこちに人が侵入し、あの場所も安全とは言えなくなりました」
パワースポットは、不思議な力が感じられる場所、みたいな意味ですよねぇ?エネルギースポットとか気場みたいな言い方も、……あったような?
「なるほど、そういうことですか。あれらのものは、あの場に封印している……、と言う体にはしていますが、実質、置いていただけなので、別にどこかに移動するのは問題ありませんが……」
あれら……ってことは何個かあるんですよねぇ?一体、何なのでしょうか。わたしが疑問に思っていると、舞子さんが、こちらを見て微笑んでいました。え、なに?
「時に、鳴凛さんは、三鷹丘で元気にやっていますか?」
急に、何の脈絡もなく、舞子さんが、わたしにそんな話を振ってきたので、ちょっと困惑。な、なんでしょ?
「は、はいぃ、げ、元気で、やってますけど……?」
おどおどと、そんな風に答えたんだけど、な、なんで、そんなことを聞くんでしょうか?もしかしてマンションに住めなくなった、とか?
「三鷹丘学園高等部の青葉紳司と言う生徒を知っていますか?」
え、青葉君……、なんで、青葉君の名前を舞子さんが知っているんでしょう?いくら格好がいいと評判でも、流石に怖いんですけどぉ……。
「は、はい。何度か、会ったことはありますけど?」
頭の中に青葉君の姿を思い浮かべながら、舞子さんにそんな風に返しました。すると、舞子さんは「うふふ」と微笑みます、ちょっと怖いぃ……。
「ふふっ、では、あれは、鳴凛さんに託すとしましょう。いえ、あくまで私の提案ですけれど」
舞子さん、それは提案ではなく強要ですぅ。逆らえないの、分かってるくせにぃ……。
「分かりました、あれは、鳴凛に授けましょう」
お母さんが、そういって、大きな何かを持ってきました。ものすごく重そうですけれど、、これはいったい何でしょうかぁ?
「【幼刀・御神楽】と打ちかけの刀、この2つは、立原家が、封印の名目で日向神峡に安置していましたが、昨今の事情を考えるに、安置できなくなりつつあります。ですから、鳴凛さん、あなたがこれを持っていなさい。そうすれば、いずれ、曾孫と……」
あの子……、三鷹丘に舞子さんのお知り合いがいらっしゃるんですかねぇ?と、とにかく、そんなものを貰っても困るんですぅ。
「よ、妖刀って危ないんじゃぁ……」
妖しい刀と書いて妖刀。そんなもの持ちたくないよぉ……?そんなことを考えていると、それを読んだかのように見透かして、舞子さんが言うのです。
「その妖刀ではないわ。幼き刀と書いて幼刀」
幼き刀……。そう聞くと多少は怖くなくなって……こないですぅ、刀ですもん。うぅ、なんでこんなことに……。
「その刀は、あなたを運命へと導く刀になるでしょう」
え、舞子さん、それは、一体、どういう……。
「ふふっ、運命、ね。いつの間にやら、私はそんな神任せの言葉を口にするほど他人頼りになったのかしら。まあ、篠宮無双のような人が神ならば、それに思いを任せてみるのも悪くない、かしら」
そんな意味深な言葉と共に、わたしには【幼刀・御神楽】ともう1つ、打ちかけの刀を渡されてしまいましたぁ。
「そんなものを持って新幹線に乗るのはあれでしょうし、今日はここに泊まって、明日、三鷹丘に送ってあげるわ。久々に先輩や紅紗ちゃんにも会いたいしね」
こうして、わたしは変なものを両親から……あるいは、舞子さんから授かったのでした。
え~、鳴凛の口調が安定しないのは、こういったキャラを書き慣れてないからです。てか、鳴凛は難しいので、もう、SIDE.MEIRINは書くことが無いでしょう。