20話:姉弟の交流
「ん?」
あたしは一応声を上げた。すると、紳司が、場の空気を読むように、あたしの目をまじまじ見ながらも、あくまで興味なさげな声で言う。
「何だ、姉さんか」
しかし、その視線は、あたしの胸に固定されている。あたしの胸も割りと大きいほうだから紳司の目を引くのも無理は無いわね。
「紳司じゃない。珍しいわね、朝風呂?」
あたしは動じない。弟が姉に欲情しようとも気にしないのよ。それが姉ってもの……。
「シャワーでも浴びようかと思ってね。姉さんこそ珍しいじゃん」
どうやら紳司もシャワーだったらしいわね。ふむ、こんどはお尻を見てるわね、紳司……。この子、大丈夫かしら。
そんな思考を払うように、まばたきを幾度かして言う。ちなみに、紳司の言う珍しいってのは、あたしが朝風呂することではなく、朝早く起きていることの方だ。
「ん~、まあ、今日はちょっと色々あってね。変な夢見たのよ」
あたしの言葉に、紳司はようやく、あたしの体から目線を外した。どんだけあたしの体を見たいのよ。
「真っ黒な、そんな夢。そんで、あたしにしちゃ珍しく早く起きたわけよ」
あたしの発言に、紳司が目を丸くした。なんか知ってんのかしら?まあ、どうでもいいけどね。
「まあ、部活入って気疲れしてたんじゃない?」
まだ行ってないけどね!
そんな話をしながら、紳司は、服を脱ぎだした。たぶん、一緒に入るってことだろう。
「まあ、変な部活だけど、面白い部活ではあるわよ。たぶん」
なにぶん、行っていないので断言はできんけど……。きっと楽しいはずよ。
「なんて部活だっけ?」
あたしは、少し曖昧になりつつある、自分が通うことになる部活の名前を頬に手を当てながら言う。そのとき、胸が揺れた。そして、それを紳司が注視していた。
「んと、古研」
「え?股間」
紳司が、あたしの股間を見ようとするので、思いっきり蹴り上げた。
チッ、ギリギリのところで身を引いてたのか、クリティカルヒットはしなかったわ。ちなみに、あたしは、体毛が薄いのか、生えていない。何が、とは言わないが……。腋毛も脛気も生えないのよね……。
「ごふっ」
クリティカルではないとはいえ当たったのだから、紳司に少しはダメージを与えられたのだろう。
「古研だっちゅーの!」
あたしは、紳司に怒鳴った。
「古代文明研究部の略称」
うろ覚えだが、きっとそうだったはずよ。うん、きっと、たぶん……。
「何か、超能力研究をやってるみたいなのよね」
あたしはとにかく、鷹月の勧誘を見ても、十月は鷹月が何らかの能力を持っていることを知っていたとしか思えない。「せいじん」。あたしに言った「はじん」が「刃神」であるなら、きっと星の力を宿すことから「星神」なんだろうと思うわ。
そんな話をしながら、あたしと紳司は、風呂場に入った。ウチの風呂場はさほど広くないけど、2人で入れるくらいは広い。
「それで、何でそんな部活に入ったんだ?姉さん、ずっと帰宅部だったじゃん」
あたしのおっぱいを見ながら紳司はそんな風に切り出した。あたしは、当たり障りのないように、おおむねの返事を返す。
「十月ってクラスメイトに誘われたのよ。人数少なくて廃部危機だから入ってくれって」
そう言ってから、紳司が、少し困惑していたのを、あたしの胸から目線が逸れていたことで理解したあたしは、きっとあたしと同じ疑問を抱いたのだと思い、補足した。
「ああ、十月って書いて『とつき』よ。占う夏で占夏。占夏十月よ」
変わった名前よね。紳司も同じこと思ったのだろう。
「何で姉さんを誘ったんだ?」
まあ、そら、あたしのことを全て把握してるわけではないにしろ昔から交流のある人間ではないってことは、紳司は悟ったのだろう。
「あぁ……、なんか、はやてとか友則とかにも声かけてたけど断られて、そんで、特段仲が良いわけじゃないけどそれなりに話すあたしに声がかかったのよ」
あたしは、紳司に大体の経緯を説明した。それで納得するかどうかはさておき、まあ、おおよそは分かるだろう。
「あっ、はやてってのは篠宮はやてって子であたしとも仲がいい女子。友則は小暮友則っつって、本人達は否定してるけどラブラブのカップルよ」
一応、注釈を加えておいた。
「そういや、あんたも今日から生徒会なんだっけ?」
あたしも、紳司の方の事情に口を突っ込むことにする。一方的にあたしだけ言われたんじゃ不公平だからね。
すると、紳司が、姉さんがまさか覚えてるとは……!みたいな顔をした。しばいたろうか?
「あんた、今、失礼なこと考えなかった?」
そういうと紳司は目を逸らした。話も逸らす気だな、コイツ。
「確かに俺は、今日から生徒会だ。生徒会の顧問に誘われてな……」
そうは言うが、紳司のことだから、きっと、美人がいたとかそんな理由に決まってる。それ以外で、紳司が積極的になるはずがない。
っと、あたしは、シャワーで全身にぬるめのお湯をかけて、意識を覚醒させる。そして、シャンプーを取って泡立たせてからワシャワシャと髪につける。紳司は、強くやると髪が傷むって怒るんだけど、シャンプーは少し強いくらいでもいいと思うのよね……。
あたしがシャンプーで髪と格闘している最中に身体を洗っていたのだろう。シャワーは紳司が持っていた。
「あ、紳司、かけて」
紳司がシャワーを持っているなら、かけてもらったほうが効率的というものだ。
「かけるぞ」
「うい~」
紳司の合図とともに目をつぶった。紳司が泡を流していっているのがよく分かる。泡が目に入らないように、そっと目をひらくと、あたしの局部にちょうど泡が残っていた。これが紳司の「えっちな力」か……。
「ん~」
あたしは、流れていく泡がくすぐったく、そんな声を漏らしてしまった。まあ、たゆんたゆんなあたしの胸は、流れてくる泡を谷間の方へと寄せるのよね。だから胸元と谷間の直線下上にあるあそこに泡が流れ着くのは必然なんだけどね。
「リンスもする?」
紳司が聞いてくるので、あたしは、少し迷ってから言う。
「ん~、する~」
たぶん、紳司もすでにボトルとタオルの準備済みだったのだろう。
紳司がタオルで軽くあたしの頭を撫でた。これが逆だったなら胸を押し付けたりするのだが……。
そして、リンスの冷たさが頭皮に伝わる。紳司が丁寧に髪にリンスを浸透させていく。
「流して~」
「まだだ」
いつものことながら、紳司はあたしの髪について厳しいわね。
「もう少し浸透させないと、まだ全体にいきわたってない」
もう十分だと思うんだけど……。
「さて、流すぞ~」
「ん~」
そうして、紳司があたしの髪にシャワーをあてた。
「んひゃっ」
まるで撫でられるようにシャワーが当てられて、驚きのあまり、妙な声を漏らしてしまった。
「さて、と」
紳司は、あたしの髪を流し終えると、シャワーをとめて、いつもの位置に戻してから風呂場を出た。
再び脱衣所で、あたしと紳司は、身体を拭き始める。あたしは、まず、髪を軽く拭いてから脇、胸下、そして全身を拭く。まだ、少し水気が残っているけど、こんなもんでいいかしらね。
そう思った瞬間、
「姉さん!」
紳司が語調を強めて言う。
「ほら、髪、濡れたままだって。タオル巻くからじっとして」
そう言って、紳司はあたしの髪を束ねてまとめてから、その上にターバンのようにタオルを巻いた。
「んもぉ~」
うっとうしいので、あたしは、そうやって唸った。しかし、紳司は、解こうとはしなかった。
「紳司って妙にあたしの髪に拘るわよね」
そういいながらあたしはショーツに足を通す。それを紳司が思いっきり凝視している。穴が開きそうなほどあたしのパンツを凝視しているのだ。弟よ、さすがにそれは変態過ぎないだろうか……。
「ちょっと、人のパンツじろじろみないでよ」
そんなことを言うと、わざとらしく、紳司は視線を逸らした。そうして、紳司はパンツを穿いて、シャツを着て、制服に袖を通し始めた。いいわよね、楽で。
あたしは、ショーツを穿くと、締め付けと食い込みが気になり、パチンと、持ち上げてずらして放す。ちょっと小さいせいでかなり食い込むのよね……。
そして、ブラをつける。これがまた、朝から面倒なのよね。ストラップを腕に通し、すこし前傾になって、ブラをおっぱいにあわせてからホックを留める。こんとき、ストラップをキチンとせず緩くしておくこと!そうして、緩んだストラップにより隙間を作って、おっぱいをカップの中に押し込む。ストラップを整える。
それを両胸ともやって、ブラの装着が完了する。
ちなみに、紳司はずっと、あたしがブラをつける様子を見ていた。それにしてもホックが後ろにあると留めるときに手を、こう、後ろに伸ばしてやらなきゃいけないのが面倒なのよね。フロントホックってどうなのかしら?
てーかいっそのこと、スポブラ……スポーツブラとかにした方が楽なんじゃないのかしら?針金が入ってないやつもあるし。
もしくは、いっそのことつけないとか?って、こんなこと言ってるから、はやてにナチュラル痴女って言われるのよね、きっと。
「姉さんは、服着ないの?」
紳司は知っているくせに一応、律儀にも、あたしに服を着ないのか、と聞いてきた。ふむ、いつものあたしの行動を考えてみなさいよ。
「ん~、着ない」
そう言って、あたしは、脱衣所のドアを開けた。紳司とあたしが脱衣所を出て、動きが止まった。
「あら……」
母さんが通りかかったのだ。偶然にも、このタイミングで、よ。まあ、別にこのタイミングだろうがどうだろうが構わないんだけどね?
「おはようございます、紳司君、暗音さん」
母さんが何事もないように普通に挨拶をした。まあ、そういう反応が普通なのかしらね?
「今日は珍しく二人とも早いんですね……」
母さんが頬に手を当てながら、のほほんと言った。あたしと紳司が脱衣所にいたのはなんとも思っていないみたいね。きっと、顔を洗っただけみたいにおもったのかしら?
「それに……、あら?ここ、お風呂場ですよね?」
そういって母さんは、あたしの火照った身体を見た。ほんのり紅くそまった体と全身からでる湯気。そして、かすかに濡れたあたしの柔肌。
「……」
何も言わない母さん。何があったのか考えているのだろう。長考している。
「…………、紳司君、暗音さん、いくら仲がいいからと言って、その……劣情を催して、きょ、姉弟でするのは、その、どうかと思いますよ?」
なるほど、母さんは、姉弟で、あんなことやこんなことをしていたと勘違いしているらしい。そんな事実はない。酷い勘違いよね。
実際あったことと言えば、紳司がおっぱい、もとい、あたしの全身を視姦していたくらいのものよね。
……、あまり勘違いではないのかもしれないわね。
まあ、どうでもいいんだけどね。