191話:龍の集う場所――闇の龍
あたしの名前を聞いてどこか驚いたような顔をする雷璃。どうかしたのかしら。そんなに変な名前じゃないと思うんだけれど、もしかして雷璃の中ではキラキラネーム級の名前だったかしら。まあ、細波雷璃って名前もどうかと思うけどね。何よ雷璃って。どんな由来?雷の龍を宿してるから「雷」?じゃあ、「璃」ってどっから来てるのよ。てかどういう意味でつけてんのよ。ガラスとか紺青色的な意味よ。
「なるほど、青葉、……三神の一柱、青葉家の人間ってことでいいんですよね。かつて天宮塔騎士団の騎士団長、蒼刃蒼天の。奇しくも、あの家は、かつて蒼天様以外はほとんどいなかった状態ですからね。必然的に、元団長の……直接の面識はありませんが、あの最強と謳われた……あー、馬鹿だけど最強と謳われた蒼刃蒼天様の血筋とは、……心強……いですよ?」
なんで尻窄んだのよ。てか、だからうちの先祖、馬鹿にされすぎでしょ。馬鹿だけど最強って何よ、脳筋だったの?!
「脳筋ではないが、バカだったな」
うっさいわよ、グラム。まあ、あたしの先祖がどうだろうが、あたしには関係のないことだしね。先祖は先祖、あたしはあたしなんだから。と、まあ、お決まりともいえるセリフを言ったところで、あまり意味もないのだけれど。
「ったく、んな先祖の話はどうでもいいのよ。ぶっちゃけ、そいつのことはよく知らないしね。一応、直系の子孫ではあるんだけど、どうにも自覚はないから」
正確に言えば、蒼刃、青葉、蒼紅、シィ・レファリス、この4家の人間には、確実に蒼刃蒼天の血が流れているのよ。結局のところ、絶対にどこかでつながっているからね。
「でも、神については知っているということですよね」
まあ、グラムからいろいろ聞いてたからね、とは答えないわ。グラムはこの中で唯一龍ではない、つまり、あたしの存在が怪しまれるから。だから、あえて答える。
「かつて、大きな戦争で死に、契約により神の座に押しあげられた者、でしょ?」
あたしはそういう風に説明を受けているのよ。前世では、かなりの近い間柄だったっぽいしね。確か、曽祖父だったはずよ。
「そう、篠宮無双、緋葉、蒼刃蒼天。この3人は白城事件で神へと至ったんです」
雷璃はそんな風に言うけど、それはこっちも知ってるちゅーの。それにしても、煉巫が朱野宮家だからあたしと煉巫の三神の家系2人がいるのね。これで、篠宮なんかがいたらかなりびっくりなんだけど、そうそう都合よくいくものじゃないでしょうからね。惜しいところで揃わないってのがよくあることなのよ。
「まあ、そんなことよりも、とっとと、次の部屋を開けましょうよ。あー、誰か、次が誰って予言できない?」
いや、ないってのは分かってるんだけどさ、一々面倒だし、こっちが、相手が何もか分かってたほうが気楽ってのはあるじゃない?
「もしかしたら黒霞かもしれませんね」
黒霞?まあ、この流れからして【黒髪の闇喰い姫】ってことでしょうね。黒って名前についてるし。安直だけど、雷璃の名前を考えると当たってるでしょうね。
「【黒髪の闇喰い姫】?」
あたしの問いかけに、雷璃は頷いた。どうやら、龍神の子等は、なんとなく属性にあった名前が……そうでもないわね。聖大叔母様なんて終焉と聖は真逆でしょうし。
「そうです。私の義妹でもありますが。それにしても、白羅と言い、あちらの2人と言い、龍の気配からして第六龍人種ですが、あなたは、妙な気配がしますが、本当に第六龍人種ですか?」
あら、あたしと同じく気配で判別するタイプの人間かしらね。いえ、まあ、それなりに凄い人間だから【力場】が得意なタイプなんでしょうね。あたしもピリピリとした【力場】を感じるし。
「あら、生憎と、第六龍人種らしいわよ。あたしも力は使えないんだけど、そんな風に主張してきたのよ」
グレート・オブ・ドラゴン。あたしの中にいた謎の龍。光と燦ちゃんの最期の場所にいた悲しき龍皇女。まずは、あいつが何なのかを解明しないといけないんだけどね。
「そうですか。目覚めきっていない第六龍人種、それにしては中に何かを宿しているようですが……」
そんな話をしながら、隣の部屋……6番の部屋の前まできた。そして、蝶番を斬って、中に侵入する。その瞬間、【力場】の発現と遅いかかる意思を感じて、とっさに漆黒のフリルドレスと【宵剣・ファリオレーサー】を生み出して、前方へと向ける。強大な【力場】による闇の波動ともいえる波状攻撃に、剣に力が加わったり加わらなかったりを繰り返して罅が入りつつある。
――グォオオオ
チッ、ガチガチと【宵剣・ファリオレーサー】が悲鳴を上げるのを感じながら、【力場】を形成して、こちらの「切る」という概念に「斬る」を上書きする。
――ザンッ
そして、闇の波動を切り裂いたわ。危ないわね、急に斬りかかってきたから【蒼刻】になって、【力場】を上げる時間がなかったじゃないの。波状攻撃が止むと、即座にドレスから鷹之町第二高校の制服に戻って、攻撃してきた主を見る。未だ交戦状態を維持しようとする、その女に雷璃が呼びかけた。
「黒霞、敵ではないですよ。私、雷璃です。大丈夫でしたか?」
いや、大丈夫でしたか、はあたしに対する言葉であるべきでしょ。こちとらいきなり飛んできた攻撃を粉砕……もとい斬砕するのに苦労したんだから。
「雷璃。雷璃ぃ~!」
雷璃に飛びつく黒霞。はぁ、ったく、なんであたしが攻撃を受けにゃならんのよ。ったく扉は蹴り倒さずに手でもって入りゃよかったわよ。扉持ったままだったら攻撃は扉に当たってディスペルされてたんだから。
「凄かったわね、黒霞姉の黒色波状光線。目瞑ってたから何が起こったのか分からなかったわ」
と白羅が役立たず発言をしているので、それを無視しながら、あたしは、部屋に上がり込んでいく。そして、冷蔵庫を開けて龍の瞳の雫を回収し、荷物持ちの白羅に放り投げる。白羅には、今までの部屋で回収した龍の瞳の雫を全部抱えさせているわ。だって、ぶっちゃけそれくらいしか役に立ちそうにないし。
「あ、そっちの黒い子、中々やるじゃん。アタシ、闇羽黒霞」
黒い子って、全体的に、あんたのほうが黒いじゃないのよ。真っ黒な髪に、雷璃と色違いの黒の制服。階級は雷璃と同じね。でも力は、雷璃のほうが断然強いわね。1、2段階黒霞のほうが下だわ。
「あたしは青葉暗音よ」
一応、自己紹介されたから自己紹介を返しながら、考えるわ。残りの部屋は、1部屋。最後の1人っては誰なのか。聖大叔母様かしら。それくらいしか、あたしの知る第六龍人種がいないってことだけなんだけどね。まあ、それに関しちゃ、あたしの知識不足が半端ないから、ちょっと聞いてみましょうかしら。
「ねえ、残りの部屋、最後の1人って誰か予想つく?」
白羅と雷璃に、聞いてみる。しかし、白羅は首を横に振った。そして、雷璃は、「いえ、微妙ですが」と前口上を述べながらも頷いた。なるほど、雷璃のほうがやっぱり役に立つわね。
「兄様なら、あるいは、呼ばれている可能性はありますが……」
なんか、妙に歯切れが悪いわね。それに、どこか言いにくそうにしているというか、なんというか。
「兄様は、実は、先の大戦で、亡くなったとされているんです。スーパーメイド、【月龍天紅】のシュピード・オルレアナを追い詰めるも、赤の世界へと転移ばされてしまったと。ですから、私と黒霞は、兄様を探していたんですが……」
大戦で亡くなった、ね。なんか、どっかで聞いたような話だけど、その雷璃の言葉に頷くように黒霞も言う。
「うん、――兄が死ぬはずないんだよ」
最初の方の声が萎んでいたので、肝心のその人物の名前は聞こえなかったけど、2人の兄ってことは龍神の子等の中にいて、しかも最強クラスってことは、【血塗れ太陽】だと思うわよ。
「【血塗れ太陽】のことよね。でも、死んでるって……?」
そう言ってから、背後から気配が近づいてくることに気付く。そして、その気配から男の声が聞こえた。
「ああ、【血塗れ太陽】。奴は死んだよ。あの戦いで、我が前主の紅蓮の王の前で、異界に飛ばされてな。そう、奴の友であったんだ」
声の主は、背後に迫ってきていた煉巫の中にいる龍、紅炎龍ベリオルグだったわ。
なるほど、紅蓮の王の死んだ友、それが【血塗れ太陽】だったのね。通りで、どこかで聞いたようなだと思ったわ。
「【血塗れの月】、【紅蓮の王】、【氷の女王】、【妖精女王】、【ラクスヴァの姫神】、そして【血塗れ太陽】。あの戦争では多くの英雄がいたが、【血塗れ太陽】だけは強さが別格だった。流石は、最強の血統種と言ったところだろう。だが、いくら奴でも赤の世界では生きることは……」
ベリオルグの言葉に、不満そうに、でも、それに不満を言えないとばかりに覇を食いしばって震える雷璃。そう、雷璃の方。雰囲気からして、怒って怒鳴り散らすのは黒霞の方だと思ってたんだけど、逆っぽいわね。
「まあ、そんな話はいいわよ。今は、隣の部屋にいるのか、いないのか、ってことよ。まあ、あたしはいないに一票ね。
あ、これは、死んでるからってわけじゃないわよ。あたしよりも強い人間が、蝶番に気付かないわけがないし、気づかなくても雷璃見たく壁を破壊できるでしょうから、こんなに時間が経っているのに出てこないのはおかしいってことだから」
それはずっと考えていたもの。あたしの知っている第六龍人種は、ここにいる面々と、聖大叔母様と、そして【血塗れ太陽】だけ。なのに、あたしは、あたしの知っている第六龍人種はもういない、として白羅と雷璃に問いかけたのよ。なぜ、その時に【血塗れ太陽】を念頭に置かなかったかってのはこれが理由。だから、最後の部屋は、絶対に雷璃よりも弱い第六龍人種か、あたし同様、まざ目覚めていない第六龍人種って可能性が高いわね。まあ、空室って可能性もゼロじゃないけど。
「それで、煉巫は何の用かしら?」