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《神》の古具使い  作者: 桃姫
古具編 SIDE.D
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19話:黒色の正夢

 どうなってんのよ?なんてぼやいても、きっと意味が無いんだろうな……って思いながら、あたしは、溜息を漏らす。これは、きっと夢だ。そう、夢に違いない。


 明晰夢ってやつね。あ~、やだやだ。夢は夢のままが一番よ。夢だと分かってる夢ほど辛いってね。


 しっかし、黒いわね……。


 表現の仕様が無いほどに黒い。漆黒で、純黒で、黒々とした、そんな夢。自分の姿だけが、その真っ黒な空間に浮いている。光があるわけでもないのに、あたしは、自分の体が見えることが不思議で仕方が無かった。


「っ!」


 痛っ?!


 あたしは、急に右腕に感じた鋭い痛みに、驚きのあまり右足を半歩下げた。その瞬間、右足と右脇腹に、何かに刺されたような痛みを感じる。まるで、そう、右腕は刃物に切られ、右足と脇腹は、刃物が刺さったような、そんな感じだ。


 ぶっちゃけ、生理痛よりも痛い。生理痛がジンジン、ズンズン体の中から長時間の痛みだとしたら、これは、ジンジンとして触ると痛いが、しばらくすると痛みが引いてくる。


 あれ、もしかして、生理痛の方が痛いかも。

 瞬間的な痛みは、こっちの方が痛いけど。


 ってーのは、きっとヤバ過ぎて感覚が麻痺してきたんだろうな。こうやって、無駄なこと考えて痛みから目を逸らすので精一杯だわ。


 てーか、痛みから目を逸らすために痛みのことを考えてどうすんのよ。


 なんてんだろ、あれだ、針の(むしろ)ってやつよ。……って違うわね。どちらかと言うと「鉄の処女(アイアン・メイデン)」ってやつね。

 あれ、扉閉じた時点で刺さるんだっけ?まっ、変わんないわよ!


 きっと、あたしも数歩動いただけで、全身、切り傷だらけね。幼気(いたいけ)な美少女に傷を付けまくるとか正気の沙汰じゃないわね!自分で美少女とか言うな。


「ったく、あたしが何したってんのよ」


 そうやってぼやきながら、あたしは、右足を半歩前に進めた。さっきまで足があった位置よ。


「チッ」


 もはや感覚が無いわね。地面にキチンと足がついてるのかすら分からないほどだわ……。右腕も感覚なし。


 ハァ……。感覚が無いなら、いけるかしら?


 あんましたくないのよねえ……。


 そう思いながらも、あたしは、右腕を前へと伸ばす。たとえ、腕が切断されようと、たとえ、腕が刃に切り刻まれようと、たとえ、腕が刃に深く刺されようと。


 あたしは肯定する。この闇を。


 闇の中、ひたすらに前へと手を伸ばす。まるで、暗闇の中で光を捜し求めるように。森に迷い込み出口を探すように。

 あるいは、闇の奥の、更なる闇を求めるかのように。


 そしてあたしはめぐり合う。夢の中でめぐり合う。


 まるで、この夢を象徴するかのように、鈍く禍々しく、黒く暗い光を放つ「ナニカ」に。それが何なのかは分からない。けれど、あたしは、話しかける。


「お前は、何だ」


 まるで、その正体を模索するかのように、問いかけた。返答は無く、無言。しかし、5分だっただろうか10分だっただろうか。それとももっと果てしなく長い時間だったのかもしれない。


 長い沈黙の果てに、ようやくそれは口を開く。


「くくっ」


 まるで笑い声のようだ。発声されるたびに、キンキンと金属がぶつかり合うような不快な音を鳴らす。


「くはっ、ははははははは!」


 まるで、とてつもなくおかしなものを見つけたような、そんな笑い声。狂った化け物の笑い声だった。


「まさか、この俺が臆するときがこようとは、(まこと)に面白い」


 低く沈んだ暗い声。だが、その声は、かすかに喜んでいるようにも聞こえた。


「この刃神(はじん)と謳われた俺が、このような小娘に……。あの馬鹿の言っていた面白いこととはこれか……。いつの世も、俺を宿したものは、刃の苦痛に耐えかね死んだのだが、どうやら貴様は違うらしいな」


 「ナニカ」は、そういうと、あたしのことを見た。初めて、そこで、「ナニカ」の全景が見えた気がした。暗い闇の中で、存在する「化け物」。


 全長は、ウチの校舎くらいあるんじゃなかろうか。巨大な塊だ。先ほど、あたしに刺さったのは、この「ナニカ」の体表を覆う尖ったものだ。


 一瞬、ハリネズミみたく、トゲが生えてるのかと思ったけど、違った。それは、刃だった。まるで、様々な剣や刀を体から生やしているような。そして、その所為で、一体、何の生き物なのかすら分からない。


「貴様、名をなんと言う」


 「ナニカ」がそうやって、あたしに聞いてきた。あたしは、普通に名前を告げる。


「青葉、暗音」


 あたしの名を聞くと、「ナニカ」は、驚いたように、体中の刃を振るわせた。そして、愉快そうに笑った。


蒼刃(あおば)……、あの馬鹿の娘か?」


 馬鹿?少なくとも、あの父さんを馬鹿と称するのは、相当難しい。何せ、頭のよさだけで言えば世界最強クラスだ。


「いや、違うな。あの馬鹿の子供が、こんなにも頭がよさそうなわけがあるまい」


 酷い言い草だ。誰のことかは知らないが、こんな化け物にまで馬鹿扱いとは……。


「しかし、あの馬鹿も俺を封じたまま、どこへ消えおったのだ。いまや、刃神の座をあの(いぬ)に譲ったとは言え、いつまでも魂を縛り付けるような真似をしおってからに」


 はじん……、十月も言っていたわよね。「黒き者」、はじんって。はじんってのは一体何なのかしら。


「はじん、ってーのは?」


 あたしの言葉に、「ナニカ」はつまらなさそうに言った。


「刃神。刃の神だ」


 刃の神で「はじん」。そのままね。刃神の座を狗に譲った?狗?どういう意味かしら。


「ふん、俺とて、好きで狗っころに譲ったわけではない。まあ、今となっては、ベリオルグを含め、あの狗……(ジン)も、封じられた。残ったのは、雑魚だらけだからな。俺が頂点に立つのは難しくないのだろうな」


 ベリオルグに、ジン?誰かの名前だろうか。あたしにはよく分からないけど、コイツなりに思い入れがあるのだろうか。


「疑問そうな顔だな。青葉の名を持ちながらも、知らぬことか。ふむ、では、昔話をしよう。この夢もまだ、長いからな」


 「ナニカ」は、そう言うと、語りだす。あたしの知らない物語を。


「かつて、俺は、12神と呼ばれる存在であった。どこの神話だ、と聞かれれば、ムスペリア神話だ、と答えるべきか。

 12の神、その中に炎神と呼ばれる座と刃神と呼ばれる座があった。炎神・紅炎龍のベリオルグ。奴ほど凄いものはおらんかったな。かく言う俺ですら、奴とは互角か、あるいは勝てんかったかもしれん。


 そして、俺は、かつて、刃神の座につき、奴を他の10の神とともに見上げていた。しかし、ある日、俺に挑むものがあった。何でも、惚れた女を嫁にするために、神を下しにきたとか言う狼人だった。……こちらでは、亜人種と表現すればいいのか。


 奴が惚れたのは、国を治める王の四女だった。紅蓮の王の四女、エルセ・セルト・エルシリアと言う女でな。


 そして、奴は、俺を下した。神を打ち払ったのだ。身に余るほどの黒き刃の狗となりて、俺を神の座から引き摺り下ろしたのだよ。

 そして、奴は炎神と並ぶほどに強くなり、12の神の中でもその2神こそ最強とされるようになったということだ」


 あたしは、「ナニカ」の話を冗談だと思いながら聞いていた。そういえば、封じられた、とか言っていたが、それはどういうことなのだろう。


「この話には続きがある。俺は、その後、世界を放浪し蒼刃(あおば)蒼天(そうてん)と名乗る者に封じられ、人に宿るようになった。


 そして、炎神・紅炎龍ベリオルグ、最強の神は、先の狗の嫁の父、紅蓮王によってその身に封じられた。紅蓮王の封じの能力と妻を犠牲にベリオルグは、紅蓮の王の魂に縛り付けられたのだ。こちらでは、第六龍人種と呼ばれるのだったか?それに後天的になったのだよ。


 さらに、あの狗は、神に封じられた。俺と同じように、人の身に宿るように、な。神が神を封じるのはおかしいんじゃないかってか?流石に本物の神には敵わなかったんだろう」


 これは、この「ナニカ」が考えた中二設定なのかしら?よく分からないけれど、紅蓮王ってのが一番強いってことでいいんかしら?


「その最強の龍をぶっ殺した……もとい、封じた紅蓮王ってのは、何者なのよ?」


 あたしが、「ナニカ」に聞くと、「ナニカ」が溜息を漏らすように言った。


「奴は一介の人間に過ぎなかった。持ち前の強い力を持った、ただの賢王だったのだよ。しかし、奴の妻が異常だったのだ。【彼の物を封ずる者(エルシア)】だったのだから」


 エルシア。娘の名前がエルシリア。十分にありえる関係性よね。まあ、意味はほとんどわかんないんだけど。


 今度母さんに聞いてみるか。そうしたら、何かしら分かるかもしれないからね。


「ふむ、さて、そろそろ時間だろうか」


 「ナニカ」がそう言った。って、ちょっと待て、「この夢もまだ、長いからな」って言って、もう時間かい。短いな。








 気がつけば、朝だった。あたしの体には傷一つ無く、普通の朝だった。ベッドで寝てたし、いつもどおり、全裸だった。


 それにしても変な夢だったわね……。おかげで、寝汗でびっしょりよ。


 何も着てなかったのが幸いしたわね。ブラとか汗で、おっぱいにピッチリくっつからやなのよね。


「シャワー浴びよ」


 あたしは、そう思い、シャワーを浴びるために下着を持って階段を降りる。途中、紳司の部屋から、少し騒がしい音がしたけれど、どうかしたのかしら?悪い夢でも見て飛び起きたのかしら?


 鼻歌交じりで、脱衣所に入る。下着セット……、ま、色違うのでこの場合、ブラとショーツと言う組み合わせのことを指して、セットブラ&ショーツではない、を洗濯機の上において、さて、入ろう、と言うときに、脱衣所のドアが開いた。


 紳司がいた。


 あたしは別段、恥ずかしがることも嫌がることもなかった。

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