18話:星の導き
突然だけれど、星座はいくつあるか知っているかしら?昔、紳司と私で調べたとき、88星座だったり、多少の増減が見られ89だったりしたけれど、基本的に88星座が一般的とされていたのよ。
無論、紳司は全て記憶しているでしょうし、あたしも大体は記憶しているわ。
12星座、一般的に使われている星座占いとか誕生日の星座とかの星座。黄道十二宮によって、黄道を分割支配してるんだけど。牡羊座、牡牛座、双子座、蟹座、獅子座、乙女座、天秤座、蠍座、射手座、山羊座、水瓶座、魚座の12個である。
そして13星座は、それらに蛇遣い座を加えた、黄道を通過する星座のこと。
さて、あたしが何故、そんな話を始めたかといえば、編入生の鷹月の所為に他ならない。あたしは、どちらかと言えば星には疎い人間なのよ。
実のことを言うと、あたしは、昼休み、その鷹月に呼び出されたのよ。屋上で、2人で何か話すことになって、今、この話をしているわけ。
「それで、その13星座が何だってのよ?」
あたしが苛立ち混じりに聞くと、鷹月は、少しおびえたように身を引いたが、それでもあたしに言う。
「俺は、昔から変な力があるですよ。それも星に関わる」
……?何を言っているのかはさっぱり分からんけれど、超能力者ってことかしら?そもそも何であたしにその話をするし?
「し、知っといてほしかったんです。そ、その一目ぼれで!」
ふむ、意味がわからない言葉は全て聞き流すとして、星に関わる力、ね。星座、星……。星に関わるから星座というわけじゃないわよね?
「そ、その、今のは、あの」
星、ほし、せい……。せい?そういえば、十月の奴、「せいじん」って言ってたわね。星人?それとも……。
「えっと……!」
「うっさい、静かに!」
さっきからブツブツと五月蝿い鷹月を黙らせる。そして、集中して考える。星、恒星、惑星……。星座、太陽系、星。天の川。
「ちょいと、その力とやら使ってみなさいよ」
あたしが言うと、鷹月は、目を丸くしていた。そして、オドオドと少し迷うようにあたしに言う。
「え、でも」
「でももなにもない。早くしろ」
あたしの威圧の込めた言葉に、ヒィイと声を上げながらも、態勢を整える。使うのかしら?
「分かりました……。《星天の黄道》」
スター、アイテム?普通に考えたら「Star.Item」よね?「星の道具」ってことかしら、まんまね。
「第五・星死鎌《リオーネ》」
まるで、星屑が流れ落ちるかのように、光の粒子たちが鷹月の手に集まってく。あたしは、その光が何なのか、見極めかねた。分からなかったのよ。
そして、その光が、煌々と周囲を淡く照らすような大鎌となっていく。なるほど、第五、ね。あたしは、それの意図することがだいたい分かったわ。
「獅子座の『ししの大鎌』、かしら」
あたしが言うと、鷹月は、目を見開いた。そんなに驚くことだったかしら?紳司でも同じ答えに辿り着いたはずだけど?
「獅子座の右側はクエスチョンマークを反転させたような形をしているのよね。それが鎌みたく見えるってんで、『ししの大鎌』。星座で言うならライオンのタテガミんとこね」
紳司っぽく、偉ぶった説明をしてみた。
「え、ええ、レグルスから上に6星のことです」
なるほど、星座を象徴した超能力ってことね。しかし、よく分からないから、紳司に話すのは後ね。あの子、知ったら真っ先にこういったことに首を突っ込んでくるから。
「他にも使えんの?全13個ってこと?」
あたしの疑問に鷹月が答える。
「えっと、全部で14個……だと思います」
14?牡羊座、牡牛座、双子座、蟹座、獅子座、乙女座、天秤座、蠍座、射手座、山羊座、水瓶座、魚座、蛇遣い座のほかにもあるってこと?
「俺にもよく分かってなくて……」
ふぅん、ま、そうね……、黄道を通るものだけじゃないってことかしら?天の赤道とか白道も関係してくるってことかしら?
白道ってのは、月の見かけ上の通り道のことよ。
「なるほどね。紳司が喜ぶ系統の話なのは確かなのよね……。いえ、でも、」
あたしはブツブツと呟きながら、考えをまとめようと必死に脳を回転させた。
「あの、紳司ってどなたなんです?」
「弟」
あたしは、鷹月の言葉に適当に返しつつ、模索した。
結局、昼休みが終わっても、考察は終わらず、授業は、全て考察に費やしたけど、結局、何もわかんなかったわ。
星、天。何かないかしらね……。
教室を出て、昇降口で靴を履き替え、学校の外へと出た。すると、妙に物々しい雰囲気を感じ取った。
「何?」
怪訝な顔で、あたしは、気配のするほうを見る。すると、黒衣を纏った男達と、それを統率するような女がいた。
女性といえばいいのか、まだ少女なのかは非常に曖昧だけど、まあ、ある説によると女の子は心がキラキラ輝いていれば女の子だそうな。しかし、まあ、あたしは女、と表現する。
女は、表現しがたい、和服を崩したような珍妙な、メイド喫茶「和」フェアみたいな感じの服を着てる。赤と金のコントラストの中に映える黒の髪は、漆黒ではなく、茶黒い。そして、女の目は、何かを恨むかのように、荒んだ鋭い目つきをしていた。親の仇でもみるかのように黒衣の男たちを睨んでいた。
いや、違うわね。1人だけ、彼女が優しい目で見る男がいた。どういう関係かしら。まあ、あたしには関係ないんだけど。
「チッ」
そう思って、ここを後にしようとした瞬間、舌打ちが聞こえたと同時に、男が1人寄ってくる。
彼女が優しい目で見ていた男だ。そういえば、どこと無く、女と似通った雰囲気がある。しかし、何か用だろうか。ちなみに舌打ちは女だろう。
「すまない、少し話を出来ないだろうか?」
男は、あたしにそう話しかけてきた。あたしは、怪訝な顔をしてカマをかけてみることにした。
「何?妹の前でナンパ?」
兄妹じゃないのだろうか、と思って、一応、そう言ってみたのだが、当たっていたらしい。一瞬、男の顔に動揺が現れた。
「驚いた。私と螢馬が兄妹だと一目で見抜くものがいるとは。似てない、とよく言われるのだがな」
あたしの勘がばっちし当たったらしい。しかし、似てないか?わりと似てると思うんだけどなぁ~。
「それで、なんの話よ」
あたしは男に本題を切り出すように話を振った。男は、「ああ、そうだったな」と言いながら、少しだけためらうような様子を見せた。
「何故、こちらに来たのかを教えてもらえるか?」
は?何言ってんだ、こいつ。学校の帰り道だからに決まって……、
そこで、あたしはどうしようもない悪寒にとらわれる。あたしを絡めとるように、不安感が周囲を漂う。
誰もいない。考え事をしていて気づかなかったけど、いつものこの時間なら、ここは、帰宅部や休みの部活の生徒が帰るために道で騒いでるものだけど、今日は、そう言った気配が一切ない。
奇妙だ。誰もいないなんて、おかしい。あたしの中で危険信号が鳴り響く。何か、あたしの認知できない常識外の出来事が起こっているようだから。
「帰り道よ。それがどうしたの?まさか、人払いしてるのにどうしてこっちに来れたんだ、とか言い出すわけじゃないでしょうね」
だからこそ、平静を装う。そして、相手の一挙一動を見る。視線の動き、顔の筋肉の動き、足や体重、重心の変化。
男は、視線を右上に流した。顔もにわかに引きつった。身体もわずかに後ろに引いたことから、正解だったと考えるべきかしら。
人払いの結界とかそういう類のもんかしら?まさか、そんなもんがあるとは思えんけど。あたしとしては、そんなものはなくて、全て偶然であってほしいんだよねぇ。
「貴殿も、裏の住人か。ならば、互いに観賞は無ということにしてくれないだろうか」
裏の住人、ね。いえいえ、あたしゃ、そんなに物騒なモンじゃねぇーですよ。
「我々は、今、少し、故あって、三鷹丘学園と言うところの関係者を探していてな。その作戦会議中というだけだ」
三鷹丘?ふぅん。まあ、どうでもいいわ。ただ……、
「あんた等がどこで何をしようと勝手だけど、ウチの弟に手をだした時は、」
あたしは、持ちうる全ての怒気を込めた殺意のこもる言葉を口にする。
「消すわよ」
その言葉に、男と女を除く、数人の黒衣の男達がおののくように二、三歩下がる。
「そうか、分かった。では、な」
男は、そういうと女と男達を連れてこの場を去っていく。あたしも、それに合わせるように、この場を去る。
その際、視界が一瞬、ブラックアウトした気がした。
気のせい……?
そんなことを思いながら、あたしは、帰宅するのであった。ちなみに、このとき、すでに鷹月の超常的な能力など記憶からすっぽぬけてた。
家に着くと、あたしは、母さんに、明日から部活に入る旨を伝えた。すると母さんは、別段、咎めることもなく、普通に許可した。
「別に、部活くらい咎めませんよ。自由にしてください。流石に、不純異性交友のために部活動に入る、とか言う理由だったとめますけど」
無論、毛頭そんな気はない。
「《古代文明研究部》って部活で、何するかはよくわかんないけど、部員が少ないんだって」
あたしは、簡単に母さんに説明する。すると、母さんは、頬に手を当て、考えるようなしぐさをした。
「確か、そこって、不知火の子がいる部活だって聞いてるけど、……暗音さん、大丈夫ですか?」
大丈夫って何よ。
この後、紳司が帰ってきて、ご飯を食べて寝た。




