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《神》の古具使い  作者: 桃姫
龍神編 SIDE.GOD
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178話:静巴の古具

 俺は、自分の《古具》について調べるために蔵書室にこもっている静巴と、その案内と手伝いをしている氷室白羅さんのところに行くことにした。静巴のところに行ったら、秋世の顔を見て、由梨香を迎えに行こう……と、今後の予定を組み立てながら進む。


 龍神の部屋と呼ばれるここは、そこそこの広さがあり、扉も無数に存在しているために、道に迷いやすくはあるが、流石に迷うことはない。ただ、蔵書室は何か所か存在していて、俺と秋世と由梨香がいた部屋に行く途中にもあったし、そこ以外にも存在しているわけだ。


 問題は、蔵書室までは迷わずに行けても、どの蔵書室にいるかわからないことだ。場所を移動する可能性もあるのが難点で、ここの蔵書室には何もなかったから別のところに行こう、って話になってあっちこっちいかれてたら、俺のさっき行った部屋にいる可能性だってあるのだ。


 さて、どうやって探すかな。どうにも、俺の能力は攻撃に偏っている傾向があるので、人探しには向いていない。せいぜい、【力場】で探知することぐらいしかできない。それにしたって、大まかな位置が分かってないと難しいことだ。

 しかも、探知には脳の中にいる住人達は何の役にも立たないと来たもんだがらどうしようもない。


『悪うございました。わたくしたちは自分の授けられた物以上の力は使えないのです』


 マー子の謝罪を聞き流しながら、俺は、あちこちの部屋を探してみる。しかし、どこにも2人の姿は見られない。流石に嫌気がさしてくるな……。


 もう、次あたりでやめにしようか、とそんなことを考えながら、何部屋目か分からない蔵書室の扉を開けた。そこには、――女神がいた。

 正確に記すなら、長い白銀の髪、とても美しい顔、綺麗に整った裸体、それらがまとめて目に飛び込んできたのだ。女神と見間違えても仕方がないだろう。


『主よ、目を逸らさぬのかえ?』


 ヒイロ、俺は、この瞬間を網膜に焼き付けるんだ、邪魔をしないでくれ。これほどの美貌、プラチナブロンド、そして全裸、これを焼き付けずして何が男か。断言しよう、男なら、間違いなく目が釘付けになって離れない。


『いや、信兄ぃ、普通に変質者だぜィ?』


 ヒー子、それを言うな。それに断じて変質者ではない、ラッキースケベだ!この現象は俺が意図して起こしたものではないから、偶然が起こしてくれる幸運、ラッキースケベというやつなのだよ!


 とにかく俺は、その女神が誰なのか、というのことがしばらく分からなかったが、その顔までを完全に記憶し尽くして、改めて検分した結果、その正体が分かったのだ。


 ――氷室白羅さん。俺のじいちゃんの知り合いにして、すさまじい美貌を持つ《チーム三鷹丘》の一員だ。


「あ、紳司君、ね」


 白羅さんが俺を目にとめたようだ。しかし、全裸なのは気にしていないみたいだな。孫や子供を見る目だ。まあ、それに関してはどうでもいいのだが、……いや、怒られずに済む、という点に関してはラッキーだったと言えるか。


「あ、どうも。静巴はいますか?ちょっと様子を見に来たんですけど」


 俺も表面上は白羅さんの裸体をスルーする方向で行くことにする。取り繕って、気にしてないふりをしつつ、静巴に用事があることを告げた。すると、白羅さんは、俺に一冊の本を差し出してくる。


「これは……?」


 俺は、本を受け取って、中身に目を通す……が、読むことはできない。いや、正確には表紙のみは読むことができた。その本のタイトルは「神の章(アリス)」と書いてる。


「その本を、静巴ちゃんは、読むことができたの。わたしは、読めなかったわよ?」


 静巴は、読むことができた、ということは、本の中身が分かったのだろう。俺は表紙しか読めない点を考えると、その辺に何か違いがあるのかもしれない。


「それで、これを読んだ静巴は、どうしたんですか?」


 肝心の静巴の姿は一向に見えない。なにか情報をつかんだのなら、それを有効活用していそうなのに、その姿すら見えないのはどういうことなんだろうか。


「静巴ちゃんは、結局、その本を読んでも自分の《古具》についての謎は解けなかったみたいで別の本を探してるわ。ただ、わたし、思うのよね。あの《古具》は本来存在しないものなんじゃないかって」


 でも、亜種だと聞いた気がする。元の《古具》が存在しないのに亜種もへったくれもないと思うんだが。


「そもそも《紅天の紅翼(レッド・ヘブン)》、《蒼天の蒼翼(ブルー・ヘブン)》などと言う《古具》は本当に存在するのかしらね。名前だけで、何の情報もないっていうのは流石におかしいとおもわないかしら」


 おかしいとは思う。だが、断言はできないし、静巴が《古具》使いでないのだとしたら、さっき……ミランダとの戦いの最後に見せたあれはいったい何だというのだろうか。


 静巴の固有の力、というのは無理があるだろう。だって、翼が生えていたのだから。まるで、その《古具》、《紅天の蒼翼ヘブンズ・パラドックス》の名前を体現したかのようなあの力が、魔力も【力場】も関係のないあの力が《古具》以外の何かであるという可能性は、確実ではないが、ありえないと言っていい気がする。


 では、どんな力なのか。あの時、静巴が《古具》を発現したと思われる瞬間に、俺は、ミランダの槍を魔力で弾いた。それは、俺が魔法を使ったということなのだろうか。しかし、俺は、今世はおろか、前世でも魔法を使ったことはないのだ。

 つまり、俺にできるはずのないことを、静巴の力がやらせた、ということになる。ならば、由梨香のように、自分や相手に能力を付加する力か、と言うと違うと思う。

 あれは、まるで、俺自身の力を呼び覚ましたかのような感覚だったからだ。しかし、前世の力ではない。ならば、何の力だというのだろう。


『御館様の力なのに、御館様の力ではない、というのは、どういうことでしょうかね』


 そう、そこだ。俺の力なのに俺のものではないっていうのが引っ掛かるのだ。普通なら、前世の俺の記憶にあってしかるべきなのだろうが……


「何か、覚えていないか……?」


 俺の声に、白羅さんが「え?」と声を漏らした気がするが、どうやら、声に出してしまっていたようだ。しかし、3人は俺の疑問に答える。


『申し訳ありませんが、わたくしには記憶にございません。魔力は、基本的にわたくしか、アルデンテさんを介していましたので』


 アルデンテ・クロムヘルトか。懐かしい名前を……。しかし、おそらくアルデンテ・クロムヘルトに聞いたところで、マー子と同じ答えが返ってくるだろう。


『信兄ぃ、あっちも心当たりはないぜィ?』


 うん、もとより、お前には期待していないので安心しろ。いや、しかし、ヒー子はともかく、ヒイロはどうだろうか。


『すまぬが、吾も分からぬえ』


 ヒイロもダメか。まあ、仕方ないことだろう。何せ、俺のことなのに俺自身にも心当たりがないものを、他人に聞いたところで答えが返ってくるとはもとより思ってなかったからな。


「だとしたら、《古具》によって呼び覚まされたのは、……血か?」


 過去の力、今の力、どちらの潜在能力でもないのに、引き出される力があるとしたら、それは受け継がれた「血」に他ならないだろう。でも、うちの……青葉、もとい、蒼刃の「血」……ブルー・ブラッドは、【蒼刻(そうこく)】を意味するし、そもそも天国(ヘブン)との関連性が見受けられない。


 なぜ、静巴は、天使の翼を顕現させたんだ。それにもきっと意味があるはずだ。姉さんが黒のフリルドレスに身にまとうことにも、きっと意味がある。全ての《古具》はそれになるだけの意味があると思う。しかし、やはりどんなことを考えても、そこにはつながらない。


「天……天使」


 そういえば白い部屋の文字は静巴のことを「――天道(てんどう)()我等(われら)。その道標(みちしるべ)は、(くれない)(あお)(はら)んだ矛盾(むじゅん)天使(てんし)。第一は、天使を(ひろ)え」と書いていた。つまり、静巴の力は天使に準ずるということだ。だが、父さんの知っている天使とはおそらく別の、シンフォリア天使団とは全く別の存在のことだと思う。


 だが、だとしたら何なのか、という答えには分からないとしか答えられないだろう。静巴は、あれから発現させる様子はないし、制御ができないのだろうし、やっぱり今答えを《求めるのは早急過ぎたということだろうか。


「ヒー子も、マー子も、ヒイロも分からないってんだから、今は考えるだけ無駄ってことだろうな」


 そんな風に呟いた後、白羅さんのポカーンとした様子が目に入った。あ、声に出してたんだっけか。ちょっと説明をしておくか。


「独り言って、言い訳が通るとは思ってないので言いますが、俺の中には父さんや姉さんと同じように宿っているものがあるんですよ。あ、誰にも言ってないので内緒でお願いしますよ」


「ってことだぜィ。全裸のねーちゃん」


「ええ。あ、御館様、この声は、先ほど喰らった魔力を媒体に、外に聞こえるようにしているだけです。普段はその状態にしていないのでご注意を」


「そういうことだのうて」


 3人が白羅さんに聞こえる声でそんな風に言った。なるほど、これも、次の計画にも関係しているってことだな、おそらく。


「わかったわ。……紳司君、それみんなに言ってない?」


 言われてみれば、さっきも煉巫さんに同じことを言ったような気がするけど、それに、由梨香とかにもだいぶ前にそんなことを言った気がしないでもない。


「ははっ、そんなわけないじゃないですか」


 とりあえず苦笑いしながら、静巴がここにいないなら長居する意味もないな、と思いながら、先に秋世のところに行くことを決めた、その場を後にした。

 しかし、秋世はシャワーを浴びた後は何をしているんだろうか……ん、何か忘れているような。そこで気づき、再びドアを開いた。


「そういえば、白羅さんは、なんで裸だったんでしょうか?」


 今更ながらに、そこが気になったので聞いてみた。すると、白羅さんは、自分の身体を見て、自分が裸だったことに気付いたようだ。


「あ~、わたし、氷龍をその身に宿している所為で暑がりなの。だから、無意識に脱いでることがあるのよ」


 氷龍、か。それにしても宿しているものがその身に影響を与えるのか。火龍を宿してても、体が熱くて脱ぎそうだよな。てか、みんな脱ぎそうだ。


 そんなことを考えながら俺は、秋世のもとへと向かった。

 え~、ぎりぎり今日に間に合った感じですね。

 静巴が出てこないのにタイトルは静巴。これまでのタイトルで登場人物の名前が今章ははっきり明記されていないことを考えると、出てくるキャラは明記されず「炎の龍」とか「火を喰らう者」とかになるわけです。

 なのでタイトル時点で静巴が出てこないのは確定していたという……

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