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《神》の古具使い  作者: 桃姫
龍神編 SIDE.GOD
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176話:刃主一体

 俺は、調べ物をしているであろう静巴とその手伝いをしているであろう氷室白羅さんのいる蔵書室へ向かおうとしていたが、途中で、妙な部屋があることに気が付いた。不可思議な部屋で、よくわからないが、どうやら大きな石像が展示してあるようだ。どことなく変な石像に既視感を覚えながら、じいちゃんに渡された【王刀(おうとう)火喰(ひくい)】を持ちながら、その部屋の中を少し調べてみた。特に変なものはないが、なんの石造なんだろうか。


 そこで、俺は思い出す。「見識の魔像」と呼ばれた特殊な石像が、ちょうどこんな形をしていたのだ。俺は、ふと、あることを思い立ち【王刀(おうとう)火喰(ひくい)】を抜刀する。

 そして、その刀身を優しく撫でながら、「見識の魔像」に当て、命令するように言の葉を唱えた。


「――魔を喰らえ」


 【王刀(おうとう)火喰(ひくい)】には俺にしか役に立たない隠された力が3つある。1つが火を喰らうこと、2つ目が魔を喰らうこと、3つ目が火を吐くこと。これらは鍛冶の時の火の調節、魔力量の調節、仕上げに欠かせない3つの要素で、刀を打つ上では欠かせないものだった。だから、俺にしか使えないし役に立たないんだよ。


 その隠し要素ゆえに、こいつの中の精霊は少々特殊なことになっていて、刃先の精霊・ヒー子が火を喰らう、(みね)のマー子が魔力を喰らう、刃のヒイロが火を吐く、と3体の精霊を1つの刀に押し込めている。そのせいで、刀はボロボロだし、普通の斬る力は衰えている。それゆえに完全ではないし、満足もいってなかった。しかし、【神刀(しんとう)桜砕(おうさい)】を打った後は鍛冶師を続けようとも思ってなかったので、この刀をレルに渡したのだ。どうせ、もう、使うまいと考えていたのだが……


――シュゥウ


 まるで煙を吐くかのような音とともに、「見識の魔像」はただの石の塊へと変貌していく。魔力を吸い取っているのだ。つまり、マー子の力が発動していることを意味している。


 ってことは、俺は、この刀に認められているってことか。なら、【精霊神界】であいつらに会うことができるかもしれない。


 【王刀(おうとう)火喰(ひくい)】を地面に置き、その刀身を触りながら、別の場所を触る。それが刀の世界への入り口だ。


 【精霊神界】という特殊な場所を知っていたのは、あの世界では俺だけで、他の誰も、この精霊たちのことを知らない。いや、正確には、たまに魔力を込めすぎて刀が人格を持つことがあるな、くらいの認識だったんだ。

 ただ、それは違う。魔力を込めすぎたら表に出てこれるだけで、どんな刀にも精霊が存在するってことだ。


 そして景色が変わる。荒廃した大地が俺を包んでいた。そこには俺1人ではなく、俺のほかに3人がいる……のだが、姿が見えない。


「おい、ヒー子!」


 俺は、一番会っていたヒー子に呼びかけてみる……。しかし、反応はない。なぜだろうか、いつもなら飛んできていたのに。


「マー子、ヒイロ!」


 他の2人も呼んでみるが反応はない。なんでだ……、結構不安なんだが。仕方ない、【精霊神界】を少し進んでみるか。あんまり奥まで行ったことはないんだが……。


 しばらく荒廃した大地を進むと、小川のせせらぎのようなものが聞こえてきて、川があるのか、なんてことを思いながらまっすぐに進むと、大きな岩の前あたりで俺に声がかかる。


「ちょっと、いったい、どこのどなたか知りませんが、そこでお止まりください」


 この声、マー子か。なんで、岩の陰から声をかけてくるんだ。姿を見せればいいのに。そんなことを考えながらマー子の言葉に耳を傾ける。


「よもや御館様以外に【精霊神界】に入ってこれる人間がいるとは思ってませんでしたが、これは……少し……」


 ん、何だ、これは少し、何だよ。なんか間違えたかな。……思考を巡らせることしばし、俺は気づいた。


「あ、抜き身のまま【精霊神界】に入ってきちまった」


 刀身は精霊の身体、正確には部位ごとに体を構成しているものが違い心金(しんがね)が心、棟金(むねがね)が頭、刃金(はのかね)が胴体、側金(がわがね)が手足を構成している。

 鍔が髪留め、柄が靴や草履を構成している。では、鞘は、というと、服を構成しているのだ。つまり、鞘から抜いた状態、ということは、精霊たちは服を着ていないことになるんだ。


「あー、久々過ぎてすっかり忘れてた。悪いなマー子」


 俺が謝ると、マー子がひょいっと顔を出して、俺のほうを見てきた。なんか変なことを言っただろうか。


「もしかして、御館様ですか?」


 ああ、「マー子」と呼んだからだろうか、俺が六花信司であることに気が付いたのだろう。てか、呼ばずとも気づいてほしいものだ。……親心というかなんというか。


「ああ、ちょこっと容姿が違うけど、間違いなく信司だよ、マー子」


 優しく呼びかけると、マー子は、俺のほうに全裸で出てこようとした。しかし、岩影に消えてしまう。


信兄(しんに)ぃ!」


 ヒー子だった。赤褐色の肌に、燃えるような真っ赤な髪、鉄のような鈍い銅色の瞳、そして、口調とは裏腹の大人びた容姿した美少女。それがヒー子である。


「おう、ヒー子、元気にしてたか。って、あれ、ヒイロは?」


 ヒー子がいてもヒイロはいない。マー子も一緒だからヒイロもいると思ったんだがな。まあ、いないならいないで……


「主、お久しゅう。裸で呼び出すとはなかなかに『まにあっく』なことをしますな」


 ヒイロは普段は忍び装束なのだが、今は全裸という状態だ。それにしても素顔を初めて見た気がする。


「マー子、例の計画を実行しようぜィ」


 ヒー子がマー子にそんなことを言う。例の計画って何だ。俺は何も聞いてないんだが。マー子はハッとしたようにして、黒いをなびかせた。


「刃主一体ですわね。御館様が相手となれば、こちらとて本望となりましょう」


 刃主一体……。俺が刀と一体になるってことだろうか。どこの少年漫画だよ。それにそんな機能を搭載した覚えはない。


「どうやってやるんだよ」


 俺の呆れた言葉に、3人が「ふふん」「うふふ」「……ふむ」と笑っているであろう声を漏らした。なお、ヒー子、マー子、ヒイロの順である。


「御館様、忘れていませんこと?ヒーが炎を喰らい、ヒイが炎を吐く、この2つは循環しているにも関わらず、わたくしは魔力を喰らうだけで吐くことはありません。つまり、魔力は喰らう分だけ溜まっていくのです。その魔力を持ってすれば不可能ではないのです」


 ああ、なるほど、理に適っているというか、できないことはないというか。まあ、流石に4体も精霊を作る気にはなれなかったし。魔力の放出については考えてなかったな。ブースター役にでも作ればよかったか。


「刃主一体になれば、(われ)らと主は常に一心同体となりまする」


 なるほどな、俺が刀になるのか、刀が俺と融合するのかは分からないが、とにかく一緒になるとのことだ。しかし、それをしたところで俺にどんなメリットがあるのだろうか。


「主……『めりっと』……損得勘定で考えるのは主の悪い癖だと思いますな」


 ヒイロにそんなことを言われる。そんなに損得勘定で考えていただろうか。まあ、自分のことは自分ではわからんものなのだろう。


「ま、そーゆーことだな。信兄ぃはもうちと人情ってのを学んだほうがいいぜィ」


 ヒー子にまでそんなことを言われてしまった。俺はもしかしたら人間として相当やばいのかもしれないな。人情とかヒー子に言われるとは思ってなかった。


「それではとっと刃主一体を行いましょうか。この話しているうちに、先ほど吸った魔力を変換し終えましたから」


 マー子は手際がいいな。そういうことで、何やら刃主一体なるものを、俺の意志とは関係なく勝手に行うらしい。


「――喰らえ、わたくしたち(吾ら)(あっちたち)を!」


 あ、俺が喰らうのね。てっきり俺が捕食されるのかと思ったわ。よかった、いや、よくねぇや。てか、良いも悪いも意味わからんし。







 まばゆい光とともに、【精霊神界(レイルシル)】から解放される。俺の体に特に異常は……ない。じゃあ、刃主一体とは何なのか。


『信兄ぃ、こうゆーことだぜィ』


 頭の中にヒー子の声が響いた。思わずびっくりして【王刀(おうとう)火喰(ひくい)】を手から零してしまった。すると、【王刀(おうとう)火喰(ひくい)】が地面に落ちた瞬間に粒子となって消えてしまった。鞘も同様に気が付いたらなかったのだ。


『御館様、ご安心を。わたくしたちはいつでも呼び出すことができるように、御館様の魂と一体になっただけですので。ですから、御館様も火を喰らい、魔力を喰らい、火を吐くことができますわ』


 火は吐きたくないな。なんか汚いイメージがある。


『主よ、それは吾に対する嫌味ではあらんか?』


 ああ、いや、ヒイロに対して嫌味を言っているわけではないんだが、そういや、お前らの名前って随分と適当だったよな。ヒー子、マー子は火、魔力の魔、からそれぞれ取ってる。ヒイロは火の色だ。


『別にいいしょ。あっちらは気にしてないぜィ?』


 う~ん、じゃあ、一応正式名称として火鋳子(ひーこ)魔飽子(まーこ)火色(ひいろ)ということにしておこう。


『それが吾の新たな名か……て、吾、特に変わっておらぬような気がするのだが』


 まあ、ヒイロはそのままだからな。さて、とそれじゃあ、まあ、よくわからんイベントもこなしたところで、静巴のところへ向かうとするか。


『御館様、この刃主一体は、御館様の打った刀であればおおよその刀でも可能ですので、回収をしてみたらいかがでしょうか。【時雨落とし】もそれを望んでいるかと』


 いや、しー子は望んでいないだろう。現役で活躍中だろうしな。だが、【幼刀(ようとう)御神楽(みかぐら)】は回収したいがな。


 【幼刀】、あくまで【妖刀】ではない。(おさな)き刀と書いて【幼刀】だ。あれは、……あれの能力は、回収しておきたいと思っている。自分の力にしたいのではなく、危険すぎるからだ。あれを引き出せるのは俺だけだが、あれの自律自動学習機能は生きているだろう。よー子は、俺がいなくても振るわれる力を、振るわれた力を、刀身に当たったすべてを学習して己が中に蓄えるのだ。あれだけは、早めに回収してしまいたいんだがな。まあ、どこにあるかもわからないから回収するのは難しいだろう。

 今日はスーツを買いに行ってました。入学式はスーツですからね。でも、就活や成人式のことを考えるとしっかりしたのを買っておきたいじゃないですか。かといって、就活のことを念頭に置くと、線の濃いものはやめておいたほうがいいので、無難な無地のスーツを5時間近くかけて見聞して買いました。疲れました。そのせいで遅くなりました。言い訳は以上です。

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