175話:炎の聖剣と龍神
俺は、ユノン先輩のところから、俺たちが最初にいたソファと扉しかない殺風景な部屋に来ていた。そこではミュラー先輩が龍神から《赫炎の剣》について聞いているはずだったからだ。すると、ソファに座って寛いでいる20代くらいの茶髪の髪をポニーテイルにした女性と、同じ年頃くらいの俺や父さんに似た男性がミュラー先輩とともに龍神と話していた。
その男性の横に立てかけてある刀は……【王刀・火喰】だった。確か、あの刀は俺が預けたレル・フレール=ヴィスカンテの子孫である久那・フレール=ヴィスカンテ曰く、妹の葉那・フレール=ヴィスカンテが持っているかも、とのことだったが、なんであれがここにあるんだ?
「そういえば龍神。俺たちと入れ替わりに、あのクリスマスの日に誰か来てたみたいだけど、誰だったんだ?」
男性……ええい、もう、おそらくじいちゃんだろう。てか、俺と父さんにそっくりでそのどちらでもないなら、基本的にじいちゃんしか考えられんだろ。じいちゃんが、龍神にそんなことを問いかけた。そういえば、秋世もじいちゃんたちは去年のクリスマスから行方不明、みたいなことを言ってたな。
「ああ、あやつらか……。アオヨ・シィ・レファリスとリリオ・ララリースというものでな。ある世界のある大陸にある魔術の発展した国の高名な賢者と機械技術の発展した国の王族だったらしいが駆け落ちしたと言っていた。アオヨのほうは二木の末裔というより、傍流の傍流で血も流れているかもわからない、名前だけの存在だったがな。しかし、お主と同じ【蒼刻】の使い手だった」
【蒼刻】の使い手がほかにもいるってことか……?と一瞬思ったが、シィ・レファリスは蒼紅と並ぶ、俺の直系の子孫だ。途中で蒼刃の人間の血も入っているから【蒼刻】を継いでいるのは道理だ。
「へぇ、血が繋がっているかわからないのは【蒼刻の藍紗】以来だな」
ん、【蒼刻の藍紗】ってのは初めて聞く名前だな。まあ、【蒼刻】が使えるってことは血が繋がってるんだろう。
「アオヨ・シィ・レファリスは、六花信司の直系で、蒼刃の血筋を汲む蒼紅とシィ・レファリスのうちのシィ・レファリスの
人間だと思うから【蒼刻】が使えても不思議はないはずだ」
俺は、そういいながらソファのほうへ行く。じいちゃんとばあちゃん、それにミュラー先輩がこっちを見る。
「あ、シンジくん。こっちに来てたんだ」
ミュラー先輩が俺に言った。それで、俺が青葉紳司だってことがじいちゃんとばあちゃんにも分かったんだろう。
「ほう、あの双子の片割れが大きくなったなぁ……」
「ええ、本当ですね。随分とたくましくなったように見えます」
「そうね、気が付けば、普通に私よりも大きくなってるじゃないの」
と、3人の声がした。……3人?じいちゃんとばあちゃんと、もう1人、少女のような声がどこかからしたのだが……
「聖よ。帰っていたのなら顔くらい見せんか。一応、お前も龍神の子の1人なのだから」
聖……って聖大叔母さんか。でも姿が見当たらないな。どこにいるんだろうか……。
――サァ
微かな風と共に、ソファの一角に蒼い【力場】が構成されて姿を象っていく。そして、中学生くらいの少女の姿になったのだ。
「それは失礼。私としては顔を見せいていたつもりだったんだけど、こっちが見えてもそっちは見えてなかったら顔を見せたことにはならないわね」
蒼髪蒼眼の少女には強い【蒼き力場】を感じる。やはり、あの人は青葉聖本人なんだろう。でもついさっきまで姿が見えなかったはずなのにどこにいたんだ。
「えっと、シンジ君の知り合いなの?」
どうやらじいちゃんたちと俺の関係を明確に知っているわけではないようだ。まあ、じいちゃんのことを知っているのは、ミュラー先輩の過去話を聞いたときに、なんとなくわかっていたんだが、本当に知り合いとはな。
「うちのじいちゃんとばあちゃんと大叔母さんだ。じいちゃんとミュラー先輩は知り合いだったよな」
俺の言葉に頷くミュラー先輩とじいちゃん。それにしても、ミュラー先輩って以外にもうちに縁があるな。姉さん以外には会ったことがあるんではなかろうか。
「それにしても紳司は何をしてるんだ?」
何の脈絡もない質問ではあるがおおよその意味は分かるので、俺はその意を汲んで答える。
「ちょっと見学をしにな。それよりも、その【王刀・火喰】はどこで手に入れたんだ?まさか、売られてたとか言わんでくれよ。葉那・フレール=ヴィスカンテが持っていたはずなんだが」
まさか本当に売ったとか、そんなことはないよな。そうだよな、久那さん。流石に、そうだったらヴィスカンテ家の評価がダダ下がりなんだが。
「おや、あの金の亡者と知り合いだったのか……?」
金の亡者、久那さんから聞いていた通りの人物だったのか。恐ろしや、ヴェノーチェの血筋というのは恐ろしいものだ。
勇者の息子にして勇者、レル・フレール=ヴィスカンテと魔王の娘にして魔族、ヴェノーチェ・ヴァンデム。その2人の間に生まれた子孫、久那・フレール=ヴィスカンテと葉那・フレール=ヴィスカンテは、その2人の性格すらもどことなく継いでいるように思える。レルの誠実さを継ぐ久那さん、ヴェノーチェの貪欲さを継ぐ葉那、どことなく似ている気がする。
「こいつは、俺に400万で売りつけてきたんだが、押し売りにもほどがあったぞ」
え、押し付けられたのか、400万で。
「だから、別にあのような取引に応じる必要はなかったんですよ」
美薗ばあちゃんがじいちゃんに憤慨する。400万でもらってきたのか、てか、400万で手放すなよ。先祖代々伝わってきたものだろうに……。
「まあ、純金貨400枚だから実際はそれ以上の価値があるはずだけどな。あのくらいなら別に構わん」
じいちゃんは太っ腹だな。ついでに俺にお小遣いをくれればいいんだが、まあ、甘えるわけにもいくまいて。
「そうだ、ミュラーって言ったっけ、お小遣いに金貨2枚くらいどうだ?」
って、ミュラー先輩にポンポンお金を渡してる?!超びっくりしたんだが、俺には……くれなさそうだな。俺だったら、男は自分で稼げとか言いそうだし。
「え、悪いですよ。受け取れませんって」
ミュラー先輩が受け取りを拒否した。それが俺に回ってくることは……ないか。それにしても、じいちゃんはミュラー先輩に妙に優しいな。
「でも、どうしてあたしに、こんなにお小遣いを……?」
ミュラー先輩が恐る恐る、と言ったようにじいちゃんに問いかける。それに対して、答えたのはばあちゃんのほうだった。
「どうせ紳司はあなたと結婚するんでしょう。副会長だし」
副会長、というのは何か関係あるんだろうか。ばあちゃんは、副会長に何か思いがあるのか、ないのか。
「美薗、お前、自分が副会長だったからって……」
あ、ばあちゃんも生徒会の副会長だったのか。どおりで、妙に副会長を推すんだな。いや、関係ないだろ。役職で結婚相手は決めんわ。
「シンジ君、あの……、うん、……いいよ」
え、何が?!意味わからんわ。どういうこと。結婚してもいいってことなのか。え、本当にいいのか。金髪巨乳と結婚できるのか。
「って、まあ、今のところ結婚とかは考えてないけどな。さっきも由梨香と似たような話をしたし」
もっとも、由梨香のほうはもっと生々しい感じのヤる、ヤらないって話だったけどな。その話をすると、じいちゃんとばあちゃんと聖大叔母さんが、首をかしげる。
「あ、由梨香ってのは俺のメイドで元担任だよ」
俺が一応説明程度に教える。すると、じいちゃんが微妙な顔をしていた。あ、ばあちゃんと大叔母さんはなんか納得という顔をしてた。
「お前、教師にも手を出してんのかよ」
「呆れているところ悪いですけど、特に人のこと言えませんよ」
「ほんと、そうよね」
ああ、やっぱり。てか、まあ、俺は教師に手を出しているわけじゃないんだけど
な。そもそも、何もしていないから手を出すも何もないだろう。
「おっと、そろそろ、俺たちは帰らせてもらうぞ。異世界にいたせいで、美薗の誕生日もろくに祝えなかったからな。ちょこっと、パーティでも開くとするさ」
じいちゃんはそういうと、【王刀・火喰】を俺に放り投げてきた。どうして俺に……?
「お前のほうが、それについて詳しそうだから預けとく」
まあ、俺が誰よりもこの刀については詳しいだろうが、しかし【精霊神界】はもう使えないだろうし。ああ、【精霊神界】とは、たとえば、【神刀・桜砕】のように魔力がたまれば人格が表に出てくるが、それは魔力が多いからだ。そうではなくても、実は刀には刀の霊というか、精霊が宿っている。それと対話できる場所こそ【精霊神界】なのである。
「あ~、もらってもな、【精霊神界】が使えればヒー子に会えるんだが」
俺の打った刀で【精霊神界】を使ったことがあるのは3本、【神刀・桜砕】はその中に入っていない。【王刀・火喰】と他の2本だけだ。それに、【精霊神界】で刀と対話できるのは、打った本人と刀が持ち主と見ためたものだけだからな。現在は、葉那かじいちゃんだけだろう。
「まあ、いいや、いずれ使うこともあるかもしれないし」
そうして、俺が受けとったのを見届けるとじいちゃんとばあちゃんは、消えた。大叔母さんは気が付いたらいなかった。てか、秋世なしでここから帰られるのか?
「む、また何らかの厄介ごとに巻き込まれたようだな。帰りはあの扉からだ。それの前に、何らかの術によって異界に飛ばされた可能性が高い」
龍神がそんな風に言った。そして、そこには一枚のカードが落ちている。俺は拾い上げると、そこに書いてあるものを見て、首をひねる。
「薔薇に巻きつかれた十字架……?」
薔薇十字団……、いや、クリスチャン・ローゼンクロイツか。どんな意図でこんなカードを……?
「まあ、あいつらならば大丈夫だろう。それで《聖剣》についてだが」
こうして聖剣についての話が始まったので、俺はいつまでもいても邪魔だろうからここを後にすることにした。
タイトル詐欺すぎませんかね?
ノートパソコンだと打ちにくいですね。執筆スピードが落ちてます。