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《神》の古具使い  作者: 桃姫
龍神編 SIDE.GOD
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172話:龍神の部屋

 銀朱の時に包まれて、次の瞬間には、周りの景色が一変していた。暗い生徒会室ではなく、どこかの広い部屋。いくつか扉があって、あと、ソファもあるがそれ以外に何もない殺風景(さっぷうけい)な部屋だった。ここが龍神の部屋というやつなのだろうか。そう思いながら周囲を見渡していると、突如、上から声が響いてきた。


「天龍寺の秋世っ子か。随分ぶりではないか。前に来たのはどのくらい前だったか……」


 そんな声に俺たちは上を見上げて、驚きで声も出なかった。なお、俺は多少驚いた程度だったが。秋世は、もともと知っているため、普通に俺たちにあれを紹介する。


「龍神様よ。私たち《チーム三鷹丘》の中でも、様々なことに協力してくださる方で、《聖剣》の修復なんかも担当しているわ」


 《聖剣》騒動の時に、修復する協力者の話があったな。それが、この龍神なのだろう。それにしてもこの【力場】は……ゾッとする。複数の魂があるかのように、幾つもの……それこそ幾百、幾万もの魂が混在しているような感じがする。

 おそらく、何らかの形で魂を1つの依代(よりしろ)に集めているんだろう。その力が何によるものかは分からないが、他人の魂を集めて1つの人格を作るなんて不可能に近いことをやっているのだから、かなり凄い力が作用しているに違いない。


「しかし、アストラル体の集合とはな」


 昨日、今日のリュイン・シュナイザーちゃんに会っていた時に言っていたアストラル体。《古具》とは無関係だが、本来の意味とは外れた魂という意味を持つ。対義語がアッシャーである。

 カバラ的な言葉で言えば、原初の光が4つの世界に分かれ、霊界(アツィルト)創造界(ベリアー)形成界(イェツラー)(アストラル界ともいう)、物質界(アッシャー)となっている。物質を形成するアストラル体と形成されているアッシャー体は対の存在であると言えるだろう。


「相変わらず歩く図書館は……」


 と、何やら俺に俺の分だけではない恨みを込めてぶつぶつと呟く秋世。歩く図書館って何なんだよ。まあ、どうせ、父さんとかのあだ名なんだろうが。


「あ、龍神様、白羅(びゃくら)さんと煉巫(れんむ)さんはいますか?」


 秋世の問いに、龍神は、渋い顔をして……るのかはよくわからないが、渋い声で、少し困り気味に言う。


「それが少し前から急に行方が分からなくなってな。どこへ行ったかなど、こっちが知りたいものだ」


 行方不明らしい。そういえば、秋世曰く、じいちゃんとばあちゃんも去年のクリスマス以来行方不明らしいな。古参の《チーム三鷹丘》のメンバーは、行方不明になることが多いのだろうか。あの場に1人たりとも古参のメンバーが集まれなかったことから行動範囲が広いのは予想していたけどな。


「そうなんですか。新しい生徒会役員に彼女たちを紹介しておきたかったんですが。それにしても、いったいどこに行ってしまったんでしょうかね?」


 秋世は龍神に問いかける。いや、龍神も知らんだろうに。と、そんなことを話していると、まばゆく光って、急に2人の人影が現れた。


 一人は、金銀色(プラチナブロンド)の腰元くらいまで伸ばした長い髪をした20歳くらいの女性。さほど胸はないが全体的に整ったプロポーションで、可愛いと綺麗の中間点くらいの容姿をしていた。


 もう一人は、燃えるような朱色の髪を首もとで2つに結んだおさげが特徴の美女だった。大きな胸に、くびれた腰、突き出たお尻、とものすごくいいプロポーションで、グラマラスさは、ミュラー先輩以上かもしれない。


「あ~、疲れたわ……」


 金銀色の髪をした女性が現れるなりソファに座って、そう口にした。それに対して朱色の髪の女性も、その対面に腰を掛けて言う。


「全くですわ。急にあんなところに飛ばされて、戦えと言われましても」


 この2人が、秋世の言っていた2人何だろうな。てか、今の転移も秋世と同系統の《古具》かなんかだったりするんだろうか。


「帰ってきたのか。今の転移光は何だ?」


 龍神が2人に問いかけた。転移光ってのは、転移するときに生じていた光のことだろうな。しかし、問いかけたということは、2人の《古具》ではないということだろう。


「【異世界万魔殿(パンデモニウム)】というらしいわね。あ、そうそう、雷璃(らいり)お姉ちゃんと黒霞(くろか)お姉ちゃんに会ったわよ。2人とも元気そうにしてたわよ」


 パンデモニウム……ってラテン語で、日本語では万魔殿だよな。意味合いとしては「デーモンの全て」って意味だったはず。それと転移の何が関係あるのかはよくわからない。


「そうか雷璃と黒霞に会ったのか……。あいつらも、こちらに顔を見せに来ればいいのに」


 どうやら龍神の関係者のようである2人の名前が出たが、秋世もあまりピンと来てないようなので《チーム三鷹丘》の人間ではないことは確かだろう。


「それよりも、客がいる。挨拶をしっかりしておけ」


 龍神の言葉に、こちらを振り向く2人。その綺麗な瞳が俺たちの……主に俺のあたりを捉えると大きく見開かれて固まった。どうしたんだろうか。


「あなたは、……青葉(あおば)紳司(しんじ)様で間違いなさそうですわね」


 どうやら俺のことを知っているらしい。まあ、《チーム三鷹丘》の人間ならわからない話でもないか。


「まさか、連続で会うことになるとはね。はじめまして、よね、氷室(ひむろ)白羅(びゃくら)よ。さっきまで暗音(あのん)ちゃんとは一緒に戦ってたのよ」


 姉さんと一緒に戦っていた、だと。どういうことかは分からんが、姉さんの名前も知っているみたいだし事実なんだろう。


「暗……誰?」


 秋世は、姉さんのことを知らない。まあ、俺が教えてないから、ほかの誰かに

教えてもらってなければ知らないのも当然だろう。


「ふふっ、私は朱野宮(あけのみや)煉巫(れんむ)ですわ」


 朱色の髪をした女性が、朱野宮煉巫さんだ。父さんが変態だと言っていたが、一見したところ、特にそんな様子はないが……。


「趣味は甚振(いたぶ)られることなので、時間があったら痛めつけてくださいませ」


 あ、うん、変態だった。父さんの言う通り、真性のMの人だった。姉さんもこれと会っていたんだよな、大丈夫だったかな?


「それで、ここで何をするんだよ」


 俺は秋世に問いかけた。すると、秋世は特に何も考えてなかったのか、ちょっと困った顔をした。


「市原さんは煉巫さんに、ファルファムさんは龍神様に、静巴さんは能力がよくわかってないから白羅さんと蔵書を調べてもらおうとは考えていたけど、紳司君については……特に考えてなかったわ」


 あのちょっと微妙な顔、そして由梨香をチラチラと気にした感じ……他の面々にはやるべきことを押し付けて、俺とイチャイチャする予定だったけど、由梨香が邪魔くさいな、という顔だ。


「しょうがない、俺は由梨香と秋世と、どっかで調べごととかしてるさ」


 秋世とだけいると由梨香が不満は漏らさないだろうが、不機嫌にはなりそうだし、かといって由梨香とだけいると秋世がいじけそうだし……、ということで2人と一緒にいることにしたのだ。


「あ、ついでに、シャワー借りたいんだけど大丈夫ですよね、龍神様」


 秋世が龍神に問いかけた。てか、ここ、シャワーとかあるのか。まあ、宿泊できる準備でもなければ、このタイミングでここに連れてきたりはしないか。

 そうして、俺たちは、それぞれに移動することになった。俺と秋世と由梨香は、本が大量に積まれた部屋の奥の部屋にある、3つの扉の一番左の扉に入る。秋世曰く、真ん中の扉が「氷龍の部屋だから」らしい。右の扉は「雷龍と闇龍の部屋」で、俺たちのいる部屋が「氷龍の部屋、その2」で無害な部屋らしい。1と2でどう違うのかはわからん。


「さて、と。私たちは、この部屋で寝泊まりすることになるわよ。他の面々は各々で部屋を決めるでしょ」


 曰く、この場所に部屋は無数にあるらしい。原理は知らん。てか、そんなに部屋があるなら俺たちも個々で部屋をとってもいいんじゃなかろうか。


「シャワーは部屋のそっちにあるし、ベッドは、ここよ。3人で、ってか大人が5人でも余裕をもって寝れるサイズなのよ」


 キングサイズってレベルじゃなかった。壁に面して全体がベッドになっていたのだ。この部屋の設計主は何を考えてこんな設計にしたんだろうか。


「紳司様は、この後、どうされますか?」


 由梨香が俺のスケジュールを確認してきた。ふむ、どうするか。ここにある蔵書とやらも興味はあるが、しかし、あの時、秋世は「修行もできる」と言っていたよな。


「秋世、修行もできる、とか言ってたけどどこにあるんだ?」


 俺の言葉に、秋世はきょとんとしていた。そして、首を傾げながら俺に答える。


「修行場は、隣の氷龍の部屋よ。でも、紳司君、《古具》もないのに、何の修行をするの?」


 ああ、そういえば、《古具》のことはまだ言ってないんだったな。そろそろ説明してもいいころかもしれないけど、面倒だから生徒会のメンツには全員にまとめて説明したいな。


「体力トレーニングとかだな。今回の一件で力は必要だと思ったから」


 それはそれで事実である。正直に言ってトレーニングを本格的にやっておかないと、対人戦で《古具》が通じない状況に陥った時にどうしようもないことが分かったからな。今回は、偶然、【魔剣・グラフィオ】を呼べたからよかったものの、相手が剣の腕前で上ったら簡単に負けていただろう。


「でしたら、自分が体力トレーニング用の予定を組みましょうか」


 由梨香が提案してくれたので、無下には断れないから頷いて答えることにする。


「ああ、頼むよ」


 と、言ってもトレーニングに(いそ)しむのは明日になってからだろうけどな。今日はここに泊まって翌朝には生徒会室に帰るんだろうし。


「あ、ちなみに、しばらく泊まっていくから、しばらくは、隣の部屋の環境を考えて雪地トレーニングを構成したほうがいいわよ?」


 ん……?何泊かしていくって言ったか?そりゃちょっと無理があるだろう。学校をサボるのか、学校に行ってからここに戻ってくるのか、どっちにしろ、俺はともかく静巴とかは、無理があるだろう。家も忙しいのに。


「って、あ、そか、紳司君は、途中、桜麻先生のところに行ってたから聞いてなかったのかしら。ここでの時間の流れは、外の時間の流れと違うのよ。こっちで何日か過ごしても外では数時間しかたってないってこと」


 なるほど、逆ウラシマ太郎ってことか。竜宮城の逆ってことだ。中にいたら外がものすごく時間がかかってたのが竜宮城で、こっちでしばらく過ごしても外では1日しか経ってないのがここか。


「まあ、隣の部屋での訓練は、結構過酷だから気を付けてね」


 秋世はよっぽど隣の部屋に行きたくないんだろうか。どんな場所なんだろうか……。雪地って言ってたし、でも部屋に雪が積もってるわけないよな……。

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