171話:プロローグ
俺たち、三鷹丘学園の生徒会は、先ほどの《魔堂王会》の襲撃を掻い潜り全員を倒し終えて、事後処理を母さんたち《チーム三鷹丘》に任せた。生徒会の顧問である天龍寺秋世が、龍神の部屋と呼ばれる場所に案内するとのことで、ビッチカラーの代表色であるピンクの髪を流麗に靡かせる超絶美女にして生徒会長の市原ユノン先輩を筆頭に生徒会の面々で夜の三鷹丘学園に入り、そのまま生徒会室を目指す。
秋世の《銀朱の時》で瞬間移動すればいいんじゃないか、と思うんだが、それを言うと、
「あまり《古具》にばっか頼ってるといざというときに困るのよ。このくらいの範囲なんだから歩きなさい」
などと言うのだ。まあ歩くのはやぶさかではないけどな……。そんなこんなで校舎に入る。この三鷹丘学園高等部に定時制……夜間授業というのはないため、現在、校舎内にいるのは宿直の教師と居残りしていた教師、巡回の警備員くらいだろう。そして、今は見回りの時間外だから見つかることはないはずだ。
そう思って、移動していると職員用の玄関へと向かう方向に人影が見えた気がしたのだ。……こんな時間に人が?
俺は少し疑問に思ったので、生徒会室に向かう列の最後尾からそっと外れて、職員玄関のほうに向かってみた。そうそう不審者や侵入者ということはないだろうから、先の予想通り居残りの教師か何かだろう。
忍び足で近寄ると、スーツ姿で肩に赤いバッグをかけているのは、俺の見知った教師だった。俺は、そっと気配を偽り自然体にして、背後に忍び寄ると声をかける。
「由梨香、今から帰るのか?」
俺の言葉に、俺の前任の担任教師であり、元生徒会顧問でもある上に、現在は俺のメイドを務めるという謎の経歴を持つ教師、桜麻由梨香だ。
「ひゃんっ」
そんな可愛い悲鳴を上げて、背後にいる俺のほうを振り返った。驚いたように目を見開いて、暗い廊下の薄ら淡い月明かりを頼りに俺のことを視認したんだろう。
「紳司様?!
もう、驚かさないでください。……というより紳司様、下校時間は当に過ぎていますが、この時間にこのようなところで何をしていらっしゃるんでしょうか」
由梨香が、不思議そうに俺に問いかけてくる。由梨香こそ、こんな時間まで何をやっていたんだろうか。
「俺は、生徒会の仕事だ。ああ、残ってたわけじゃなくて、今、用事があって生徒会役員全員で入ってきたんだ。他の役員は、生徒会室に向かってるけど、俺はこっちに気配を感じて見に来たんだよ」
俺の答えに由梨香はなるほど、とうなずいていた。そして、由梨香は、手に持っていた靴を再び自分の下駄箱にしまうと、
「では、自分も付き添います」
そういうと、いつものように俺の数歩後ろを歩く。俺は、前から隣を歩け、と言ってるんだがな……。
「それで、お前は、なんでこんな時間まで残っていたんだ。お前も女なんだから、こんなに遅くなると危険だぞ。……ああ、お前、車通勤だったか」
そういえば、ユノン先輩の家族がこっちに来てたから、会いに行くために車を用意してもらったんだったな、昨日。あれが由梨香のものなら車で通勤しているんだろう。
「ご心配いただいき嬉しく思いますが、紳司様のおっしゃったとおり、車で通勤していますのでご安心してください。自分がこの時間まで残っていた理由に関しましては、本来、今日の宿直は自分の当番だったので準備をしていたのですが、明日の宿直当番である橘先生が急用のため自分と交代することになったので、この時間での帰宅となりました。常時ならもっと早く帰っておりますので紳司様の心配には及びません」
なるほど、橘先生ってのは橘鳴凛先生(24歳独身)のことだろう。水泳部の顧問をやっているので何度か会ったこともある。
しかし、橘先生の急用ってなんだろうか。やっぱ独身でも彼女とかいるんだろうか。少し狙っていただけに悔しい。……い、いや、俺には静巴がいるからいいもんね。ね、狙ってたとはいえ、別に悔しくなんかないし……やっぱ悔しい。
「橘先生の用事ってのは何なんだろうな」
俺はつい、由梨香にそんなことを問いかけてしまう。由梨香は、なぜそんなことを聞くんだろうか、といった表情で、
「プライベートなことはわかりませんが、実家に一時的に帰らなきゃならなくなったとか言っていましたね。両親が帰ってこいって言ってたかと」
何だ、両親の都合か。……両親の具合が悪いのだろうか。それとも、ああ、お見合いとか?あとは……って、そんなことを考えても仕方ないか。
「とりあえず、とっとと生徒会の方と合流するか」
俺は、由梨香を引き連れて、ちょっと急いで生徒会の方へと向かう。すると、追いつくのは、案外容易だった。てか、全員、トイレに行ってたらしく、俺がいなかったことにもい気づいてなかったようだ。
「さて、と。じゃあ、巡回が来る前にとっとと生徒会室に行っちゃいましょうか」
秋世が仕切りなおしたところで、由梨香が秋世に向かって口を開いた。てか、さっきからいるのに気づかれない由梨香って……。
「それで、生徒会室に行ってから移動するのですか?」
由梨香の問いかけに、生徒会の面々が振り向いた。そして、俺の後ろにいる由梨香に驚いて目を丸くしていた。
「さ、桜麻先生っ?!いつからいたんですか?」
秋世が由梨香に問いかける。由梨香は、俺の顔を窺っていたので、俺は頷いた。
「先ほどから後ろを付いてきていたんですが気づきませんでしたか?」
由梨香の言葉に、静巴やミュラー先輩……俺のクラスメイトにして前世の妻でもある花月静巴と、《聖剣》と《古具》をその身に宿す金髪巨乳美女ミュラー・ディ・ファルファム先輩がひそひそと言葉を交わしていた。
「紳司様、そろそろ巡回の時間ですので、説明は後回しにしたほうがよいかと……」
由梨香はわざとみんなに聞こえる声、そう言った。それは、俺との関係者であるという主張と、それなりに状況を知っているということと、有益な情報で仲間であることをアピールしたのだ。
「とりあえず後の話は生徒会室でするぞ」
俺の言葉に、由梨香以外は、渋々といった表情で頷いて生徒会室に向かった。まあ、秋世がいる以上、警備員に見つかってもどうにかなりそうだけどな。引率の教師がいるのに悪戯扱いはされないだろう。それも生徒会役員全員で悪戯とか普通はあり得ないからな。まあ、融通の利かない警備員にあたったらそれまでだから、見つからないのが一番いいということは分かる。
そして、しばらくして生徒会室に着いた俺たちは、龍神の部屋とやらに行く前に、俺と由梨香の関係を説明するために暗い生徒会室の自分の席に座るのだった。
なぜ暗いか、というと、明かりがついていたら、いの一番に警備員が突っ込んでくるからだ。なお、生徒会室の鍵は、職員室に1つ、秋世が常時持つものが1つ、と2つしかない上に、他の教室の鍵とは形状が異なるために警備員でも開錠は不可能になっている。ただ、扉をバールのようなものでこじ開けられればそれで終わりだ。安心はできない。
「それで、関係だが、……市原先輩は知っていましたよね?」
昨日のユノン先輩の家族に会いに行った一件で、ユノン先輩には露見したことなので別に他の生徒会の面々に話したところで問題はないだろう。
「ええ、聞いたわ。メイドだっていう話よね?」
その話に秋世が呆れたような、驚いたような……とどのつまり珍妙な顔で俺を見ていた。何だよ、変な顔しやがって、可愛い顔が台無しだぞ。相変わらず、俺の中での秋世の好感度はよくわからんな。
「元担任教師を在学中にメイドにするなんてこと聞いたことはないわよ?てか、よくそんな風に騙くらかせたわね」
別に騙してなどいないのだが、秋世は俺が騙して、さらに誑かして、メイドにしたと思っているようだ。
「天龍寺先生、自分は騙されてなどいません。自分の意志で紳司様にお仕えしているのです。騙されても、誑かされても、脅されてもいません。仕えることは自分の人生の生き甲斐なのですから」
この人大丈夫か、という目でミュラー先輩が由梨香を見ていた。いや、正直に言って大丈夫ではない人だ。頭がちょっとどころではなくやられていて、変な宗教に入っているとしか思えないレベルだ。
「ご両親がメイドだったとか?」
ミュラー先輩の問い。どうなんだろうか、両親を亡くしてスーパーメイド、シュピード・オルレアナに育てられたって話だが。
「両親のことは知りませんが、おそらくメイドではなかったと思いますよ?自宅は普通の家でしたしね。今はマンション暮らしですが」
まあ、幼いころに亡くしてるんだからよく知らなくても当然か。シュピードが親みたいなものってことだろう。
「まあ、生き甲斐ってことで俺のメイドになったんだよ。修学旅行の最終日前日に市原家を潰す協力を得ようとしたらな」
そう言ってから俺は静巴の方を見た。なんで見たかって、そりゃ、話を振る為だっての。
「ほら、静巴はシュピード・オルレアナって覚えてるか。由梨香はあいつの弟子なんだが」
俺の問いかけに、静巴は少し考えてから、ハッと思い出したように俺のほうを見てきた。なるほど、やっぱり、静巴と静葉の記憶が完全に混ざっているんだな。
「あのライア・デュースのメイドのシュピード・オルレアナですか?刀を打ってくれとよく頼みに来ていた」
ふむ、俺の記憶とも相違はないようだ。しかし、シュピードはなぁ……、あんまり思い出したくないんだよなぁ。
「そういえば、シュピードは、今も健在ということなんですか?」
静巴は、シュピードが健在、もしくは最近まで生きていたという事実に疑問を感じているようだ。俺も正直に言って疑問だが、俺らのような転生体も正直言って謎なので人のことを言えない。
「まあ、スーパーメイドだしな」
どんなに長生きしても不思議ではないような気がする。気がするだけで、実際にそうだったら不思議なことこの上ないんだろうが。
「それで、これからどうするんだ?龍神の部屋とやらに行くんだろ?」
どうせ秋世の《銀朱の時》を使って転移するんだろう。俺の言葉に秋世が面倒くさそうな顔をしながら《銀朱の時》と唱える。その瞬間、目の前が銀朱の光に包まれて……。
え~、パソコンの調子が悪かったので、大学生活に向けて新しく買い換えました。キーボードがむっちゃ打ちづらいです。
と、まあ、あたしの至極私的なことはおいておいて、龍神編に突入いたしました。龍神に会うのは恒例みたいなものなので、今回もストーリーに組み込んだのです。
てか、買い換えたばかりで単語登録もしてないから「紳司」とか一発で変換できなくて大変でした……。今まで、ただでさえ多い誤字がこれからさらに増える恐れが……。がんばりたいと思います。