17話:黒と白の出会い
教室に入ると、いつもの2人に絡まれた。あたしとこいつ等が仲良くなったのってどんな理由だったかは、もう、覚えてないわ。
「おはよ」
「うっす」
はやてと友則。篠宮はやてと小暮友則は、ラブラブのカップル(本人否定)である。
確か、幼馴染で、よく遊んでいたらしく、どじっ娘だが小悪魔のはやてと純情真面目青年の友則はいい意味でバランスが取れてると思うわ。
はやては、茶髪のボブショート。軽く「ゆるふわ」した感じの髪型が特徴で、胸はない方。目はくりんと大きく、ぷるぷるの唇は桜色で、もう、こうなんてゆーか可愛い。そんな感じの美少女である。
友則の方は、えー、そのー、普通。よくも悪くも普通って感じ?こう、紳司のグレードを4.5くらい下げた感じ。
「はよっす」
あたしは、適当に挨拶すると、席に腰掛けた。すると、はやてと友則もあたしの席の周りに集まる。
「相変わらず顔だけはいいよな、青葉は」
友則がそんなことを言ってくる。朝っぱらから気持ち悪い顔で気持ち悪いことを言われたら気分が悪くなるわね。
「キモい」
「うん、気持ち悪いよトモ君」
あたしとはやてが言うと友則は、ガーンと落ち込むように膝を付いた。キモい。
「はやてにまで?!」
はやてにまでキモいと言われて随分とショックだったんでしょーね。
「そういや、青葉って、弟がいるんだったよな?」
「急になによ?」
こいつの脈絡の無さも異常よね。ちなみに、あたしに弟が居るのは、意外とみんな知ってたりする。
「いや、青葉の弟ってどんな感じなのかなってさ」
友則の意味不な発言にあたしは、眉根を寄せた。いや、うん、ね。スマホに紳司の写真は入ってるんだけどね。
「はい、これ」
あたしは、紳司の写真を友則に見せた。はやても気になるみたいで、あたしのスマホを覗き込む。
「え、マジ?」
「うわぁ、イケメンだねぇ」
友則、はやてがそんなふうに答えた。しかし、イケメンっていつの時代の言葉よ?滅多に聞かないわよ?
「ババくせぇよ、はやて」
「うん、古い人っぽい」
友則とあたしがはやてに言った。はやてが憤慨して、そっぽを向いた。すると何かに気づいたような顔をした。あたしは怪訝に感じ、聞いてみる。
「どうかしたの?」
あたしに聞かれて、はやては、あたしの右斜め後ろを見る。つられてあたしも振り向いた。
「なにか……?」
そこには、魔女がいた。なんてベタなことは言わないわ。でも、限りなくそれに近い風貌の女子生徒がいた。
まるで血が通っていないような真っ白な肌と目が隠れるほどに長い漆黒の髪。暗がりで見れば幽霊と見間違えるんじゃないかってくらいの希薄な気配。
「十月ちゃん!」
とつき……?どういう字を書くのかしら。あたしの考えも他所にはやてととつきは話を続けた。
「しのみや、さん。こぐれ、さん。ぶかつ、やらない?こだいぶんめいけんきゅうぶ」
いまいち聞き取りづらいわね。まあ、いいわ。それにしても古代文明研究部?聞いたこと無いんだけど。
「あ~、私は、ちょっと……」
「俺もな~」
そして、即座に拒否するはやてと友則。ふぅ~ん、でも、古代文明、ね。ちょと興味あるわ。
「ぶいんぶそく、ぶかつそんぼうのきき」
なるほど、部員不足で部活存亡の危機ってことね。
「なら、あたしが入るわよ?」
あたしがそういう。すると、とつきは少し意外そうな顔をして、あたしのことを見た。どうかしたのかしら?
「よげんのこ『黒き者』はじんがはいるなら、じゅうぶん」
黒き者?はじん?なんじゃそりゃ?
あたしの疑問を置いたまま、とつきは、気づいたらいなかった。
「何なの、あの子」
あたしの呟きに、はやてが答えてくれる。
「占夏十月。占う夏の十月ってかいてそう読むんだよ」
ふぅ~ん十月ね。面白そうな子じゃないの。あたしは、不覚にも、あの子に興味を抱いてしまった。
「いいわすれた」
そして、再び、いつの間にかあたしの後ろにいた十月。ここまで気配が希薄なのは驚きね。まあ、こういう察知方面は紳司の方が得意だから仕方ないか。
「きょうはぶかつやすみだよ」
十月が言った。なるほど、今日はないのね。じゃあ、明日から、か。
「ぶちょうには、あしたから、あたらしいこがはいるっていっておく」
さて、どんな部活なのかしらね?
朝のホームルームが始まったわ。いつものように、ウチの担任の廿日雨束だ。まるで教師としての威厳が無いので呼び捨てでよし。ボサボサの頭とボーボーの髭。ヨレヨレのスーツを着崩したおっさんよ。
「はい、そいじゃー、ホームルームはじめっぞ」
やる気の無いその声に、こちらのやる気も削がれていく。まあ、元よりやる気なんてないんだけど。
「あ~、それと、面倒だが、編入生がいるってんで、紹介だ~。ほれ、鷹月」
なんてやる気ない呼びかけよ……。
「あ、はい」
入ってきたのは、今朝の金髪のぶつかってきた奴だった。なるほど、ウチのクラスへの編入生だったのね。
「えっと、鷹月輝です。陽西高校から編入してきました」
陽西高校?確か、どっかの有名な進学校だったわね。だったら、三鷹丘の方がよかったんじゃないかしら?向こうの方が、いい大学にいけるから。
「趣味は天体観測と歴史研究です」
そんなことを言っておじぎをした。ふむ、中々に様になってるわね。
「『白き者』せいじん」
ボソリと、十月がそう言ったように聞こえた。白き者?せいじん?さっきのあたしに言ってたのと対になってるみたいだけど……。
「じゃ、質問、なんか適当に」
そんな風に廿日が言うので、あたしが、一応聞いた。
「なんで三鷹丘に編入しなかったの?」
あたしが言ったので、鷹月が、あたしの方を向いた。そして、あたしの方を見て、少し驚いた顔をしたけど、何なの?
「……っと、あ、あー、その、三鷹丘に編入しなかったのは、……、三鷹丘に会いたくない奴がいたっていうか」
へぇ?会いたくない奴、ね。紳司に今度聞いてみるとするかな。鷹月って知ってる?って聞きまわさせれば、一人くらい浮かぶんじゃなかろうか。
「紫炎の奴さえいなければ……、あ、まあ、そんな感じでこっちに編入しました」
しえん?それがその会いたくない奴ってことね。
「はいるぶかつ、きまってる?」
そんなとき、十月が別の質問を切り出した。鷹月は、そっちに反応する。
「えっと、まだ、決めてないけど……」
そう言った鷹月の反応を見て、十月が言う。
「なら、こだいぶんめいけんきゅうぶにはいらない?」
そういや、趣味は歴史研究って言ってたし、ちょうどいいんじゃないの?この部活。
「古代文明?興味ありますね」
好反応を得られた十月は満足そうにしている。あたしは、別に、どっちでもいいんだけど。
「じゃあ、あしたぶかつにきて」
「あ、はい、わかりました」
そんな風にして、質問の時間は終わった。