168話:教室にて
SIDE.SHINING
俺、鷹月輝は、昼休みに、姉さん……もとい暗音さんに急にこんなことを言われた。
「今日の放課後、バルムンク持ってる男と会うことになってるから」
正直に言って意味は分からなかった。だけど、暗音さんがそういうのだから事実なんだろう。しかし、バルムンク……俺が前世、蒼刃光として生きていた頃の愛剣だ。子供が出来てからは、子供に授けようと思って使ってはいなかったが、亡き八斗神火々璃母さんから受け継いだ遺品で、俺を象徴する様なものでもあったと思う。
でも、それを持っているってことは、俺等の子孫ってことなんだろうか。でも、その子孫が何でわざわざ持ってきたんだろうか。俺が蒼刃光だった、何てことが分かるわけじゃないだろうし。そもそも、現在、物的証拠と言えるものがないので、前世が蒼刃光であると自称する男でしかないわけだ。
尤も、俺としては、記憶も残っているし、讃ちゃんの話とも整合性が取れているから事実である核心はあるが、話をあわせているだけと言われたらそこまでだし。
「どうしてバルムンクをここに持ってきたのかって話は聞いてるの?」
暗音さんに尋ねてみる。まあ、聞いているだろうし、聞いていなくても答えはわかっているだろうから。
「あぁ……それねぇ……。蒼刃って名前からあたしにたどりついたみたいよ?まあ、たぶん、不知火辺りが入れ知恵したんでしょうけど」
と言うのだった。会話中で不知火先輩の名前が出ていたんだろうか、と考えたけど、出ていなくても辿り着くのが青葉暗音その人だっていうのを思い出した。
「まあ、その通りだよ。すまないね、私が放課後に、と言ったのに勝手に会いに行ってしまったみたいで」
そう言って、教室のドアのところから顔を覗かせていた不知火先輩。その後ろには占夏先輩もいる。
「どうでもいいわよ。ああ、それよりも、こっちの馬鹿と可愛子ちゃんが新入部員よ」
怜斗義兄さんと讃ちゃんを指差しながら暗音さんが言う。てか、怜斗義兄さんと呼んでるのに暗音さんを姉さんと呼ばないのはおかしい気もするけど。
「ほぅ、例の編入生かい?ふむ、君たちが言うからには関係者だろう」
関係者と言うのは「《古具》の」と言う言葉が付属するんだろうけど、まあ、概ねその通りなんだよな。いや、まあ、それだけじゃない、と言うのが事実か。
「この偉そうなのが不知火覇紋。こっちのちっこいのが……あ~……、今は占夏十月よ」
今は、と暗音さんが意味不明な物を付け足したがいつものことなのでスルーすることしにしよう。
「それで、あの蒼紅瑠音とか言うの、あんたの知り合いなんでしょ?」
暗音さんが問いかける。蒼紅……。京都の司中八家の稲荷家とも縁の有る家だと紫炎が言っていたような気もする。
「あっ、輝。蒼紅は、燦檎ちゃんの末裔だから、アンタのところの血筋よ?」
燦檎の子孫?!そうか、だから、俺のバルムンクを持っていたのか。納得がいったけど、何でわざわざ青葉と言う名前を頼りにここまで来たのかな?
暗音さんが囁いて教えてくれた言葉について、考えていると、不知火先輩が暗音さんの質問に答えていました。
「ああ、知り合いだよ。まあ、もっとも、友人と言えるほど互いを信用しているわけではないけれどね。あの人はあれで、とても謎の多いからね。まあ、見たら分かったと思うが」
その言葉に暗音さんと怜斗義兄さんが頷きました。それほどまでに特徴的な外見をしているんだろうか。ちょっと会うのが心配になってきたんだけど。まあ、ウチの子孫だし、悪い人ではない……と思いたい。
「それで、何でバルムンクを?」
俺の問いかけに、讃ちゃんも興味深そうに耳を立てていた。やっぱり気になるんだろうか……。
「何でも、蒼刃深魔と言う奴が……と言うより、どうしてその手に渡ったかを説明すればいいのか。バルムンクのおおよその伝承は知っているだろう。その続きに当たるのだが……。
バルムンクは八斗神空虚と言う男が拾って、それが八斗神火々璃と言う子孫に渡り、その子孫から息子の蒼刃光へ、その娘の燦檎に、さらにその娘の深子に、そして、【バルムンクの悪魔】、【クリームヒルトと契約せし者】と呼ばれた蒼刃深魔へと渡っていった。そして、その深魔がクリームヒルトと契約した内容の1つが、真の持ち主が現れたら返すことだったということだよ」
そうか、燦檎からその娘に……と、バルムンクはキチンと受け継がれていったのか。よかった。母さんから受け継いだものだから、キチンと伝承されていることが分かるとホッとする。捨てたのを偶然子孫が拾った、とかじゃなくてよかったよ。
「それで、蒼刃って名前からあたしんとこに辿り着いたってわけね。でも、何で、あたしだったのかしら?ウチのほかにも青葉って苗字はあるでしょ?」
そういえばそうだ。青葉の家は、燦檎の子孫である今、言っていた蒼紅の一族と、もういくつか派生した家があってしかるべきだけど、何で、その中で暗音さんを選んだんだろうか。
「神託で鷹之町と出たので、この地で蒼刃と表で輝くという言葉に当てはまりそうな者が君しかいなかったのだよ」
……なるほど、蒼刃で表、輝く。姉さんは、八斗神で裏で闇を率いる人間だったから。その点、俺は蒼刃で表を行き光と言う名を持っていた。
「何からツッコめばいいか戸惑ってんだけど……てか、ツッコミはあたしの担当外なんだけど、1つ言わせて貰うなら、あたしんちは三鷹丘で、この鷹之町の人間じゃないってのよ」
盲点だった。そういえば、暗音さんは、三鷹丘市からここに通ってきているんだったよな。
「そういえばそうだったかい?それで、持ち主は一体……」
不知火先輩は、そんな風に呟くけど、まあ、俺から名乗るわけにもいかないし、と思っていると讃ちゃんが微笑みながら言った。
「バルムンクは輝さんの物ですよ」
ニコニコ笑顔でしれっと言う讃ちゃんには、どこか有無を言わさぬ迫力を持っているようにも見えた。讃ちゃんは、時々怖いことがあるんだよなぁー。
特に、俺が逆ナンされたときとか、女が絡んでいるとき、俺の声名や評判に関わってくるときに、笑っているのに有無を言わせぬ迫力で解決することがある。その怖さが俺に向けられることもあったけどな。
仕事の都合で夜の町に行って、まあ、色々あって、女の子に誘惑されて、その話をしたら「少し用事が出来ました」って天羽々斬を持って行こうとしたことがあってだな。今で言うところの所謂、ヤンデレの気質が昔からあったんだ。
「あ、ああ、そうなのか」
不知火先輩も気おされ気味だな。暗音さんが俺達の方を見て、呆れたような顔をしていた。
「相変わらずのヤンデレっぷりよね……。あんたは知らんでしょうけど、あたしも結構ヤバイ目で見られてたのよ?あと、お向かいのタブラスちゃんとかも」
タブラスって、タブラス・ミルネラのことかな。姉さんとよく遊んでいた。でも俺とはあまり関係なかったような気がするんだが……。
「ああ、あの女ですよね。光さんに色目を遣っていた」
讃ちゃんの声が驚くほどに冷たかったので、俺は思わず震え上がった。怖すぎる……。やっぱり、ヤンデレ気質なんだろう。俺は、讃ちゃんを安心させるために頭を撫でてあげる。
「大丈夫。俺は、讃ちゃんしか目に入ってないからさ」
その言葉に顔を真っ赤にさせる讃ちゃん。もう、可愛いな。俺は、讃ちゃんの頭を撫でていると、皆から向けられる生暖かい視線に気がついて、顔が真っ赤になってしまった。
今回はちょっと短めです。すみません。