166話:2人の過激な朝
微性的な描写あり
R-15?73話程度です
SIDE.SHINING
俺、鷹月輝は、神奈川県に生まれて、小、中学とその地で育った。その後、黒浜高校への入学も決まっていた、とある時期に、展望台で星を見たことをきっかけに、《古具》に目覚めてしまった。それでも俺は、紫炎とは違って、黒浜高校で一般人として暮らすことにしたんだ。でも、1年経って、気がついた。俺は、ここにいてはいけないんだ、と。
些細なことだった。俺の力が、グランドを割ってしまったんだよ。幸いにも怪我人どころか、目撃者すらいなかったが、俺は、その力の強さに危機感を抱いてしまったんだ。しかし、紫炎の家族が勧める三鷹丘学園には、当然紫炎がいる。だから、そこから一番近い鷹之町第二高校に編入してきたんだ。
そして、そこで、俺は出会ってしまった。運命とも言える女性、青葉暗音さんに。眩い全ての美を集めたような女性。
その姿にどこか懐かしさも感じながらも、それを一目ぼれだと判断したんだ。でも、それは違った。彼女は、その女性に感じた懐かしさは、本当の意味での懐かしさだったのだと分かったんだ。
修学旅行の最終日に、俺の寝惚けた耳が聞いた声は、「闇音姉」のものだったんだ。言っておくけど、俺は一人っ子で、姉も兄も妹も弟もいないんだ。でも、「闇音姉」の声だった。
そこで、全てを思い出した。「蒼刃光」としての俺を。前世って言えばいいんだろうか、かつて、剣士として暮らしていたころの「蒼刃光」を思い出すことが出来た。
それと同時に、俺の妻……愛した人のことを思い出してしまう。――九浄燦ちゃん。
ゆるりふわりとしたサイドポニーテイルが特徴的な、その彼女は、優しい笑みで、俺に笑う。
「光さん」
と、そんな風に。でも、もう、二度と会うことは出来ない、そう思っていた。いや、そうとしか思えなかった。でも、会ってしまった。
今朝、俺は、燦ちゃん……もとい恐山讃ちゃんを迎えに来ていた。讃ちゃんは、俺の家から程近いところに住んでいたので、訪ねるのは容易だった。それに、かつて……前世では、護衛と護衛先の娘だったという関係上、俺が迎えに行くことが多かったので懐かしい気持ちもある。勢いあまって午前6時だというの訪ねてきてしまった。
――ピンポーン
今時珍しいくらい古風なインターフォンの音が響く。そして、しばらくして、大人っぽい女性の声がインターフォンから聞こえてくる。
「はい、どちらさん?」
その口調が違うので戸惑うが、その声質は、九浄家の九浄燦宕さんの声質にそっくりだった。まあ、そんなことは偶然だろうなー。
「えっと、讃ちゃん……恐山讃さんのクラスメイトの者なんですが」
さすがに讃ちゃん呼びは、馴れ馴れしいよな。そう思って、俺が、言い直したんだが、インターフォンの向こうの女性は、なにやら嬉しそうに笑っていた。
「讃ー!」
インターフォンの向こうで、女性が讃ちゃんに呼びかけます。一応、インターフォンのARシステムとパラメトリック・スピーカーのおかげで、俺にしか聞こえていないが、近所に聞こえたら恥ずかしいレベルの声だ。
「あ、お母様、帰ってたんですか?」
そんな風なやり取りをする讃ちゃん。ああ、そういえば言い忘れていたがパラメトリック・スピーカーと言うのは、超音波を用いることで、特定の人物にだけ音を届けることが出来るものだ。その特殊性からオーディオ・スポットライトやハイパーソニックサウンドなどとも呼ばれる。現在は、これが一般に普及しているので、インターフォンの正面に立てば声が聞こえるようになっているんだ。
「讃、彼氏が迎えに来てるわよん」
うふっ、と笑いながらそういう女性。それに対して、讃ちゃんが面倒なものに対する声で言う。
「どうせ怜斗君でしょう?」
そんな風な声に対して女性は、御機嫌な様子で、笑って讃ちゃんに答える。
「ううん、違うわよぉ~。もう、男っ気がないから七鳩家とお互いに結婚させるしかないって言ってたのに、よかったわぁ~。うん、中々にいい男だしぃ~」
そんな会話を聞かない振りをして、讃ちゃんを待つ。それにしても、おそらく、讃ちゃんのお母さんと思われる女性には、俺はそれなりに好評らしい。
「っ、ひ、輝さん?!」
インターフォン越しに、がたんと言う音がした。大丈夫かな、と思いつつ、様子を伺っていると、
「ちょ、お母様?!輝さんなら輝さんって言ってください?!」
なんて声が聞こえたと思ったらドタドタと言う音とともに、玄関のドアがガチャリと音を立てて開いた。
「ひ、輝さん」
「さ、讃ちゃん?!」
俺は驚いてしまった。それもそのはずだ。薄ら透けた半襦袢が扇情的で、俺は思わず息を呑む。しかし、このままにしていれば、他の人にこの姿を晒してしまうことになる。それだけは避けないと!
俺は、讃ちゃんの家に上がりこむことを承知で、急いで讃ちゃんを家に押し込めた。そのとき、玄関に躓き、讃ちゃんを押し倒したような形になってしまう。
「あらあら」
お母さんが、俺たちのことを見て微笑みを浮かべていた。あー、どう説明するのがいいのかな。
「ごゆっくり」
って、っちょっと待てい!まさかとは思ったが、そのままスルーだと……。どんだけ寛容なんだよ。まあ、怒られるよりはマシなんだけどさ。それにしてもどうしようか、この状況を。讃ちゃんは何か期待してるし、お母さんは、部屋に引っ込んだと見せかけて覗いてるし。でも、ここで、キスの1つもしないのは男としてどうなんだろうか。
「讃ちゃん……」
俺は、その場の勢いに任せることにした。たぶん、俺は今、相当鼻息が荒くなっているだろう。だけど、讃ちゃんも受け入れる覚悟をしてくれているようだ。向かいあうように床ドンしている俺の近づく顔に、また、讃ちゃんも顔を近づけていく。
「……輝、さん」
お互いの吐息が顔にかかる距離に迫る。そして、引き合うように、唇と唇が重なった。讃ちゃんの艶のあるしっとりとした唇が、俺の唇にその柔らかさをしっかりと伝えてきていた。この柔らかさ、懐かしい……。そして、もっと味わいたい。
それはほぼ無意識だったのだろう。お互いに気がつけば、舌を絡ませ合っていた。唾液が、お互いの口の中で行き来する。でも、態勢上、讃ちゃんの方に唾液が流れていってしまう。それを啜るように口内で行き来させる。傍から見れば、さぞ濃厚なキスをしているように見えることだろう。
どのくらいそうしていたのかは分からないけど、そう長くはなかったはずだ。でも、汗に濡れて透けた半襦袢の向こうに讃ちゃんの胸が……大事なところが見えてしまっている。
もはや、抑えきれないくらいになりつつある感情を、何とか堪えて讃ちゃんを抱き起こした。はだけた半襦袢の所為で、片方の乳房が見えてしまっていたが、それを慌てて正して、恍惚とする讃ちゃんの意識をしっかりとさせる。
そこで、俺は、讃ちゃんにあの言葉を言っていたないことに気がついた。
「――愛してるよ」
耳元で囁くように讃ちゃん伝えた。すると、讃ちゃんの体がブルッと震えてい
た。まるで待ち望んだ言葉を聴けて昇天してしまいそうな程に嬉しいように。
「――私もっ。私も愛してる」
ギュッと抱きしめる讃ちゃん。そして、もう1度、今度は軽くキスを交わす。さすがに、そう何度もあんな熱烈なものをしていられない。
学校に行くまで時間はあるくらいには来たが、讃ちゃんもシャワーを浴びたいだろうし、そういうことを考えると、そうそうやってられない。
「あ、終わった?」
そのとき、わざとらしくお母さんが顔を覗かせた。あれ、いつの間にか、さっきの部屋じゃなくて、別の部屋にいる……。
「シャワー浴びるんじゃないかと思って、準備しておいたわよん」
そう言って、再び姿を消すお母さん。……ここでシャワーを浴びれば、お母さんに負けた気がする。
……負けてしまった。目の前には肌色と湯気。床のタイルが冷たいけど、そんなことは、目の前の「大事」に比べたら些細なことだ。
目の前には、自分の愛する人がいるんだ。昔は、よく一緒に風呂に入った。それは、燦檎や光燐が生まれた後も一緒だった。
泡と湯気とタオルでその体は覆われている。しかし、チラリズムだ、透けたタオルの婿に見えるものが俺の心にぐっと来てしまう。今すぐにでも襲い掛かってしまいたくなるが、さすがにそれはがっつきすぎだろう。昔は、ああいう世界倫理だったからいいけど、今の倫理感で付き合ってすぐに襲うのは肉食系にも程がある。
「どうしたんですかっ?」
その微笑は、いつもの優しげな微笑ではなく、小悪魔的な誘惑をする男心を刺激する微笑だった。
前かがみに俺を見る。ぎゅっと胸が強調されて、思わず見入ってしまう。そこに泡がツーっと垂れて、溜まっていく。その様子は扇情的でそそられる、が、ここはなんとしてでも堪えてみせる。
「ふふっ」
――むぎゅっ
讃ちゃんがその胸を俺のお腹に押し当てる。俺の腹は、そこまでではないが、腹筋が割れている固めの腹だ。そこに柔らかい双丘が押し当てられている。そのまま、上目遣いに俺のことを見る讃ちゃんは、小悪魔以外のなんでもなかった。
――むぎゅ、むぎゅ
何度も押し当てる讃ちゃん。その柔らかさに、俺の理性が負けそうになるのを必死に堪えてシャワーで汗を流す。
この攻防は、およそ10分以上にも亘って続き、シャワーを浴びるだけで30分を要して、気づけば7時になっていたのだった。まだ、登校時間に余裕があってよかった、と思いつつ、さっと拭いて着替えてしまう。俺が出てから讃ちゃんが着替える約束だ。
――ガラッ
だというのに、タオルを巻いただけの讃ちゃんが風呂場から出てきてしまう。俺は慌ててそっぽを向きながら言う。
「な、何で出てきたんだよ、讃ちゃん」
……ハッ、どこを向いても、鏡があって、讃ちゃんのあられもない姿が見えてしまう?!
「ひ、輝さん、まだ時間はあるから……その、……いいんですよ?」
はらりとバスタオルを落とす讃ちゃん。
この後どうなったかは、俺と讃ちゃんと、神のみぞ知る、と言うやつだろう。実際のところ、そんなことを知っている神様は覗きの常習なのでとっ捕まえたほうがいいだろうが。
1つだけ言えることは俺の理性が勝った……はずだ。
讃ちゃんと輝君のラブラブな朝を描いたものです。らぶらぶは苦手なので、遅筆化してますね。
初めての輝君視点です。