165話:私と僕
SIDE.Five Dragons and Nine tale Fox
僕は、蒼紅瑠音。僕は、親の代から不思議なことに、その体に2つの人格を宿して生まれたんだ。それも、男女2つの人格と体も持っている。僕の状態なら男の体、もう1人の状態なら女の体に変わる。それはもう、奇妙なことだと僕も思う。絶対に普通のことではないよね。
そもそも、その2つの人格が宿ることに関しては、祖父の代が原因となっているんだ。僕の祖父、蒼紅龍麻は【《コウ》龍王】と呼ばれる5匹の龍を父……つまり、僕の曽祖父から受け継いだ。そして、祖母、稲荷つくなは天狐と呼ばれる高位の狐を宿していた。【《コウ》龍王】は男を、天狐は女を象徴していたために、父、蒼紅瑠菜は、男の瑠菜と女の瑠菜の2つの人格を宿していたんだ。そして、母である白尾九音は白面九尾と呼ばれる天狐の上位種を宿していたので、その間に生まれた僕には、【《コウ》龍王】と九尾の狐が宿っている。
僕は【《コウ》龍王】を、もう1人が九尾の狐を。そう言った分担が既に生まれたときにはされていたんだ。
そのもう1人と言うのが蒼紅瑠音と言うんだけれど。まあ、僕と違って剛毅と言うか、強気と言うか、僕と瑠音は性格が逆だったんじゃないかなと思うほどだよ。
【《コウ》龍王】……【甲龍王】、【紅龍王】、【光龍王】、【鋼龍王】、【劫龍王】の5匹。
甲龍王・アルシャリグノス。その身は硬き甲羅に守られ傷つかない。その甲羅の強度は、ダイヤモンドを優に超え、人工的に造った金属の強度の数億倍とされるらしい。
紅龍王・ベルシャリグノス。紅炎龍ベリオルグのレプリカとされ、その口から吐かれる炎は、鉄すらも熔かすと言う。マグマにすら耐えられる皮膚の構造をしているが、長時間は耐えられない。
光龍王・エルシャリグノス。光の象徴でもある始祖の龍の眷属。闇、悪魔に対して絶対の加護を持つ聖なる龍。その翼が振るわれるたびに、光の剣が地に降り注ぎ、聖なる者には癒しを、邪なる者には痛みを与える。
鋼龍王・ガルシャリグノス。鉱物の象徴にして、鉄造の加護を持つ。鉱物を食らい、その体内で高濃度に圧縮され、排泄される。それにより精錬された金属は、アルシャリグノスの甲羅すら切り裂ける刀を生み出せる。
劫龍王・ワルシャリグノス。永劫の「劫」にして、劫火の「劫」を背負いし龍。その炎は紅炎龍ベリオルグの炎にも勝るとも劣らない威力を持ち、まるで地獄の劫火のようだと言われている。
この5匹が僕に宿っている龍王なんだ。まるで、化け物だよね。そもそも、一般的に龍を宿すとされているのは第六龍人種とされる数列種だけど、それでも1人1匹しか宿ることはないんだ。それなのに僕は5匹だ。普通ではないし、異常であるとも言えるだろう。でも、僕の家は、代々……曽祖父、蒼紅ミララの代から脈々と受け継がれていたんだ。
そして、九尾の狐。狐の神でもあるその狐は、神託を告げることが出来るんだ。まあ、狐は瑠音の領分だから詳しくは知らないんだけどね。かしこみかしこみとか何とかとか言うんだよ。
――かしこみかしこみ申す、よ
あ、瑠音からの注釈が入った。でも、どういう意味かはやっぱり分からないね。
――かしこみかしこみは、かしこまってかしこまってって意味よ
へぇ、そうなんだ。まあ、僕には特に関係のない話だから、どうでもいいんだけどね。それよりも気になることが有るんだけど、【紅龍王】、何で、さっき、青葉暗音さんに話しかけたの?
《俺が話しかけた理由か……?ククッ、妙なことを気にするな、お前は》
【紅龍王】がそんな風に笑う。でも、理由は本当に分からなかったから気になっていたんだ。あそこで、龍王が口を出す理由がないんだもの。
《まあ、説明を簡素にするなら、懐かしい気配があったから、だな》
懐かしい気配って【紅龍王】の関係者だったの?僕にはとてもそうは思えなかったんだけれど。どう見ても普通の……ではないけど、女子高校生と言う感じで、瑠音よりはよっぽど普通だと思う。
――ちょっと、それ、どういう意味よ?
なんて、瑠音は文句をたれるけど、あの服のセンスはないと思うんだ。それを着させられる僕の身にもなってほしい。
《俺ではなく、ベリオルグの方の感覚だがな。俺の一部は、ベリオルグと同期している。その中の何かが、あの女の中にいる存在に反応したのだ》
青葉暗音さんにそんな何かがあるとは思えなかったんだけど、狗美から鈍感って言われるから、気がつかないだけなのかもしれないね。
《私としては、邪なる気配を感じましたがね》
【光龍王】が渋い声で言う。そんなに禍々しくなかったと思うけど。瑠音の方がよっぽど恐ろしいから。
――あんた、さっきから失礼すぎないかしら?
なんて、瑠音は文句をたれるけど、女の子としてその口調はどうなんだろうか。
――あんた、女の子って……。てか、口調ならあの女も似たようなもんでしょ?
何で女の子って言ったら妙な声を出したんだろうか。よく「女子」って自称してるのに。それに、まあ、口調は置いておいても、どちらが女性っぽいかと言われると青葉暗音さんのほうだと思う。
《某は、特に何も感じぬのだが》
【甲龍王】がそういう。【甲龍王】はかつて、【血塗れの月】と呼ばれる剣士に討たれたことで名を捨て、自分を「某」と称すようになったらしい。
【血塗れの月】って言うのが誰かはよく分からないんだけどね。でも、瑠音は知っているらしい。何でも神託ででたとか。
――そら、あたしの神託は、四門と同じで悠久聖典の内容を読み取っているからね
よく分からないんだってば。まあ、僕は分からなくても構わないんだけどね。それよりも、このバルムンクをどうするかが問題だよ。青葉暗音さんの妹のものらしいって話だけど、それが真の持ち主と決まったわけじゃないしね。
――そうね。それに、あんた、昨日の資料、よく見てないでしょ?
え、うん、まあ、彼女の顔が分かればいいかな程度何だけど。何か問題があったのかな?
――読み返してみなさいよ、青葉暗音の家族項目
え、家族の項目……?えっと、両親と弟あり。おかしくないと思うんだけど。これがどうしたんだろうか。
――その下よ
その、下……?えっと、両親は不明。紳司と言う弟がいるようだが、詳細は不明。三鷹丘学園生徒会会計青葉紳司と同一人物だと思われるが、詳細は調べることが不可能と判定された。
――そう、弟は紳司って名前だし、何より不知火家で調べて詳細不明と言う事実
確かにおかしい。光って名前じゃないし、不知火財閥が調べても詳細が分からないってことは、日本の有力などの家が調べても分からないってことになるよ。でも、それこそありえない。この日本と言う地に存在している以上、それだけはありないことだよ。不知火家、蓮条家、天龍寺家、朱野宮家、この4つの家のどれかが調べても分からないことは、ほとんど存在しない、と言うより、下手したら総理大臣よりも発言権のあるかも知れない。特に天龍寺家は政財界に深く根を張る立原家とも交友関係があるし、不知火家も政財界に情報提供者くらいいるからこの2家にはほとんど表のことで分からないことはないはず。
それに蓮条家は国家の秘密組織にも関わりがあると噂されるくらいに国の裏事情に詳しい家で、4つの家は仲がいいから表と裏、どちらも分からないことはないはずなんだ。なのに、詳細不明。これは一体どういうことなんだろう。
この世に生を受けた人間であるなら、こんなことはありえない。でも、異世界に生を受けたものなら、戸籍がなく高校には入ることが出来ないはずだよね?なら、彼女は一体何なのだろうか。
――青葉、暗音。あの女、神託によるとグラムファリオを……刃神を宿しているけど、それだけじゃないのよ。刃の神とそして刃の……
刃の、何……?瑠音の声はよく聞こえなかった。でも、それは、そこはかとなく不安を誘うような言葉だった気がする。
――アンタは、いずれ知るでしょう。あの女が何なのかを。でも、まだ、そのときではないわ
何か急に予言でもするみたいに言うんだから怖いなぁ……。言っておくけど、僕らは、この件が片付いたら狗美のところに帰んなきゃならないんだよ?
――月吠は、この際、置いておいた方がいいわ。アンタ、しばらく戻れないもの
嫌な予言をするなぁ……。狗美、怒ると怖いんだよねぇ……。本当に、はぁ……。
――大丈夫よ。あの馬鹿狼には私が後で説明してあげるわよ
そんなことを言ったってねぇ。怖いものは怖いし。と、そんなことを考えていると、遠くからチャイムの音が響いた。おっと、そろそろ時間かな。学校の方に行ってみようか。
僕はそんなことを考えながら鷹之町第二高等学校へと足を向ける。このバルムンクと言う剣の持ち主に会うために。
――そういえば、あの、資料の紳司って言う弟……
どうしたの瑠音?僕の問いかけに、瑠音は、「ううん」と否定をする。
――何でもないわ。ただ、その名前に、どことなく覚えがあるというか……紳司……信司……。いえ、考えてもわかんないからいいわ
瑠音がそんなことを言うなんて珍しい。気になったことは神託で結論を出しちゃうのに。
――いいえ、これは神託に頼ってはいけないものな気がするから
そんなことを話しているうちに、僕らは待ち合わせの場所に着いたのだった。