155話:龍への導き
七星佳奈は、俺達の前にやってくると、溜息をついた。どこか疲れた様子はあるが、その体……服にいたるまで傷はない。まあ、どんな敵だろうと、この人が相手ならば、敵はどうやってもダメージを与えることは出来なかっただろう。ナナホシ=カナ、「聖騎士」だからな。
だが、その対峙した敵と言うのはどこにいるんだろうか。まさか、そのまま放置してきたわけでもあるまいし、消し飛ばした……なんてこともないよな。いや、ありそうで怖いが、流石に、幾らなんでも、ねぇ?
いや、騎士として、敵をそのままにして帰るとか、遺体も残らないくらい散り散りに消し飛ばすとかはしない、と思いたい。まあ、当人に言えば、「戦場でそんなことを言っていたら殺されますよ?」と言われるかもしれないが。
「こちらに来た敵とは戦っておきました。元々、私を狙ってきていたようなので、特にそちらには非はないでしょうが」
元々、七星佳奈を狙ってきていた……だと。つまり、《死古具》の使い手で、この地にいると知っていたってことか。で、この《魔堂王会》と手を組んで襲ってきた、と。
「で、その人はどうしたんですか?」
俺の問いかけに、七星佳奈は、ますます溜息をつく。何か嫌なことでもあったんだろうか。それとも、敵が弱すぎて……とか?
「もう、この世にはいないでしょう」
え……、ちょ、ちょちょ、ちょっと待てい。この世にいないって、それガチでダメなやつやんけ。え、殺したの?
「え、殺したんですか……?」
恐る恐る聞いてみると、七星佳奈が何を言っているんだ、みたいな目でこっちを
見てから、何かに気づいたようだ。
「そういう意味ではありませんよ。この世界にいないというだけです」
この世界に……、つまり異世界に行ったっていうことだろうか。異界の人間が、何で七星佳奈を直接狙ってきたんだ。前に、七星佳奈が居た世界の関係者ってことなんだろうか。
「本局直属世界管理委員会とか名乗っていましたが」
世界管理委員会?なんじゃそりゃ。またよく分からん組織とかそんなんか。そう思っていると、秋世が口をわなわなしながら言う。
「本局直属……、まさか、あの101人委員会?!実在してたの?!」
101人委員会って何だよ。世界管理委員会とやらが101人委員会のことなんだろうけど、意味不明すぎるわ。
「叔母様も、実在しているか分からないって言ってたのに、まさか、この世界でも動いているとはね……」
よく分からないが、まあ、その辺は俺には関係ないことだと割り切ろう。しかし、彼女もつくづく厄介ごとに首を突っ込むなぁ~。
「とりあえず、私は、そのことを伝えに来ただけです。では、これで」
七星佳奈はそれだけ言うと、この場を去っていった。俺は、静かに息をつくと、とりあえずどうするか考える。
今は、もう11時になりそうだし、帰るなら早めに帰りたいのだが、ミランダちゃんを含めた《魔堂王会》の面々をどうするかも決まってないのだ。その辺がハッキリしないまま帰っても気になって眠れないだろう。まあ、秋世たちのことだからそこまで酷い処分にはしないだろいけど。
「とりあえず、もう1人のことは置いておくとして、この4人をどうするかだな」
俺の言葉に、皆もどうするべきなのか考えていた。ビッチカラーのピンク頭になったユノン先輩が口を開く。
「と、言われても、基本的に、私達は、攻撃を受ける前に勝負してた感じだし、私達以外に実害はないでしょう?だったら、特にこっちでの処分理由はないと思うけど」
その通りなのだ。俺達は、襲ったり襲われたりしているが、一般人に被害が出たとか、何人も殺している、とかではないのだから……傷害事件?
「でもさー、あたし達は、一般人じゃないとはいえ、学生だよ?」
ミュラー先輩がそんな風に言う。確かに、俺達は、警察でもないし、地位的にはただの学生なのだ。あれ、てことは、国際問題じゃね。
「あぁん?三鷹丘の生徒会に所属している時点で、その辺の地方公務員とほぼ同じだけの地位を得てるわよ、あんたら。特に警察で言えば、この辺の警察署の署員だったら命令できるくらいの」
と、そんな聞いてないことをポロリとこぼす秋世。何でそんなとんでも情報を黙っていやがったんだ。まあ、警察とかのもろもろの諸機関が協力状態にあるのは知っていたが、そこまで偉いとは思っていなかった。
「まあ、そんな話はどうでもいいんですよ。今は、彼女達の処遇の方が大事ですから。こういった場合は、大抵、この市、と言うよりも『チーム三鷹丘』の方が色々と動いていそうですよね?」
静巴が、話を切って、秋世に聞いた。あー、確かに、こういうことには父さんたちが関わってそうだな。実際に、《聖剣》の時は、聖騎士王が出てきたけど、あの人もチーム三鷹丘所属だしな。
「そうね、それがいいわね。つっても、……清二さんと美園さんにはクリスマスから連絡つかず、お姉様は、蓮条家に訪問中、真琴さんは久々李さんと新婚旅行中、白羅さんと煉巫さんは龍神様のところ、アーサーさんはイギリス、月見里さんは例の件の綿密な計画を立てているところ、ってことで初期メンバーは無理ね。あと、王司君は今、アメリカにいるから無理。
ってことで第二世代のメンバーで王司君を除いた面子を呼んでみるわ」
確か、父さんの仲間ってことは、母さん、南方院ルラさん、愛藤愛美、あとは、祐司さんとか八千代さんとかだよな。
「あっと、祐司君と烏ヶ崎さんは取材で無理、と」
ああ、あの2人は来れないのか。まあ来てもなぁ……。っと、そんなことよりも、母さんも来るんだろうか。
しばらく談笑をして待っていると……無論、《魔堂王会》の面々は縛っているが、起きる様子はない……車がやってきた。リムジンだ。住宅街でリムジンに乗るのは相当勇気がいる行為だ。長いから住宅街みたいなところはきついだろうに。
そして、リムジンから母さん、ルラさん、少女、茶髪の女性、大人っぽい女性がそれぞれ降りてきた。
「天龍寺先生、久しぶりです」
母さんが秋世に挨拶をする。そういえば、全然会っていなかったようだな。俺が秋世のことを話したときも、戻ってきてたんだ、みたいな反応だったし。
「あら、紳司君、こないだのパーティからそんなに経ってないから、久しぶり、って表現は変ね。こんばんは」
ルラさんが俺に挨拶をしてくれた。静巴もそれなりに面識があるのだろう、軽く挨拶をしていた。しかし、他の面々は、知らない人が多すぎてきょとんとしていた。
ミュラー先輩は、母さんとはちょこっと話していたが、他の人は知らないだろうし、ユノン先輩に至っては誰も知らないだろう。いや、ルラさんの様に著名で知っていることはあるかもしれないが、直接の面識はないだろう。
「お互い、面識のない人もいますから、それぞれ、自己紹介しませんか?」
と、そんなことを提案してみた。一応、相手が年上には見えないが、年上なので、敬語で話したんだが。
「とりあえず、チーム三鷹丘の方々は知っているでしょうが、青葉紳司です。青葉清二の孫で、青葉王司の息子です」
と、そんな風に自己紹介をして、ユノン先輩の方を見た。会長なのだから、ここは、最初に挨拶をしておくべきところだろう。その視線の意味を悟ったのか、会長が頷いた。
「三鷹丘学園、現生徒会長の市原裕音です」
ぺこりと頭を下げたユノン先輩。そして、俺が視線で、ミュラー先輩を促した。ミュラー先輩も俺の視線には気づいて、軽く手を振りつつ言う。
「副会長のミュラー・ディ・ファルファムでーす。《古具》と《聖剣》の両方を持ってまーす」
妙に間延びした挨拶だったが、まあいいだろう。外人だから日本語が不自由程度に思ってもらえるだろうし。そして、静巴は、視線で促すまでもなく自分から挨拶をした。
「生徒会書記にして、花月グループの花月静巴と申します。……桜砕、貴方も一応挨拶をしてください」
小声で、そういう静巴。俺と秋世以外の面々は、きょとんとしていた。秋世は一応、喋ることを知っているから、特に変な反応はなかった。
『了解しました。信司様に打たれた静葉様専用の刀、銘を【神刀・桜砕】といいます』
【神刀・桜砕】の挨拶の「信司様が打った」と言う部分で、「え?」と言う顔をした人が多かったが、母さんには前世のことを言っているので、大体の事情は分かっているっぽい。
「では、次は、……っと、その前に、天龍寺先生、本来は、紳司君のやった場の仕切りは、先生の仕事だった、と言うことをお忘れなきように。
では、わたしは、青葉紫苑です。かつては、生徒会長を務めていました。そこにいる紳司君の母でもあります」
ペコリと挨拶をする母さん。秋世に文句を言っている辺りは、さすがだな。俺も同じことを思っていた。
「えと、南方院財閥の当主、南方院ルラよ。昔は、副会長だったわ」
ルラさんが挨拶をすると、次は茶髪の女性が、面倒くさそうに、けどルラさんにせかされて挨拶をする。
「あーっと、篠宮真希よ」
ああ、この人が。てことは、姉さんの友達のはやてさんのお母さんにあたるんだよな。それで、次が、大人っぽい女性の挨拶。
「どぉーもー!お姉ちゃんはぁ、九龍彩陽って言うんだよぉー?」
うん、おかしな人だが、確か、父さんの姉さんの様な人だったと聞いている。一人称が「お姉ちゃん」なのはスルーするしかいないのか。最後に少女の番。
「どうも、愛藤愛美でぇーす。勝利の魔眼を持ってまーす」
そうか、この子……もとい、この人が、マナカ・I・シューティスターにして、魔法少女独立保守機構のCEO。
「マナカ・I・シューティスター……。魔法幼女うるとら∴ましゅまろんとも言いましたか?」
俺の質問に、チーム三鷹丘の面々は少し驚いた顔をしていた。母さんも驚いているのは、流石に魔法少女のことは、説明会で聞いていても名前までは話していなかったはずだからだ。
「ほっほぉー、お目が高い。そうです、魔法少女独立保守機構最高責任者マナカ・I・シューティスターとは私のことでぇーす!」
むっちゃテンションの高い幼女だが、見た目どおりの年齢でないのは分かる。しかも相当上だ。父さんたちよりも断然だろう。
「と、自己紹介が終わったところで、この人たちの処理はどうしますか?」
結局、秋世が仕切りそうにないので、俺が仕切ることにした。まあ、とりあえず、秋世には期待しないことにしているので構わない。
「そうですね……。彼女達の処分は、こちらで勝手にやっておきましょう。あ、紳司君、今日は暗音さんも帰ってこない様ですし、わたしも彼女達の処分があるので、家に帰れそうにないので、どうしますか?」
いや、別に1人でもいいんだが。てか、姉さん、今日、帰ってこないのか。まあ、色々あるんだろうな。
「そういうことなら、これから、生徒会のメンバーを龍神の部屋に案内するわ。生徒会に入ったなら紹介しておきたいし、修行と勉強にもってこいの場所だから」
秋世がそんな風にいいながら、静巴の両親に連絡を取っていた。俺は親が目の前にいるし、ユノン先輩は一人暮らし、ミュラー先輩もユノン先輩同様一人暮らしだ。
「さ、行きましょうか。とりあえず、生徒会室に」
そう言って、急かすように秋世は俺達を引っ張っていく。しかし、そのとき、俺は、ふと違和感とも言える呟きが耳に入った気がした。
「「「「暗音さんって、誰……」」」」
ルラさん、真希さん、彩陽さん、愛藤愛美の4人の口から、そんな言葉を言っていたように聞こえたのだ。
どういうことだ……、と言うこのときの疑問は、そのうち、すっかり忘れてしまうのだった。
え~、これにて、一応、魔剣編SIDE.GODが終わったわけですが、この流れでそのまま聖剣編SIDE.Dの次になる龍神編SIDE.GODに話が続いております。
なお、予定よりも5話多くなった、この魔剣編ですが、総文字数95000ちょいくらいだったので、大体2章分に匹敵しております。自分でもびっくりですね。
次章予告
――その刀は、神話にすら記された伝説の刀
――その剣は、ドイツの叙事詩にも登場する伝説の剣
かつて、彼女は、その刀を振るい、かつて、彼は、その剣を振るった。
2つの聖なる刀、剣が、その場に揃うとき、前世の記憶は甦る。
修学旅行が明けてすぐのこと、鷹之町第二高等学校に2人の転入生がやってきた。
七鳩怜斗と恐山讃。
この2人と出会った暗音、輝はそれぞれ、己の前世に胸が締め付けられた。
そして、恐山讃、彼女の持つ聖剣《天羽々斬》は……。
一方、再会を果たした闇音と零斗の元に蒼紅瑠音と言う少年が尋ねてきて、聖剣の持ち主を捜しているというのだった。
《神》の古具使い――聖剣編SIDE.D――