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《神》の古具使い  作者: 桃姫
魔剣編 SIDE.GOD
149/385

149話:将院VS佳奈

SIDE.KANA(SEVEN STAR and WHITE KNIGHT)


 私は、静かに前からやってくる気配を捉えます。とても強大な力を持った戦士であることだけは、私の直感で分かりました。それも気配を偽れる……その大きな力を隠すことの出来る手練(てだれ)であると。この感じは間違いありません、つわものほど、その実力を隠すのが上手くなります。


 例えば、初級騎士は、自分の全力を常に偽ることなく発揮し続けますが、これは、上にその実力を示すためです。中級騎士になると、任務柄、徐々に気配を消すことを覚えるようになります。相手が雑魚であるならそれでも気づかれないので大丈夫でしょう。上級騎士になると気配を消すだけではダメなのを悟り、徐々に偽れるようになれます。そして、私達、11子騎士のような、騎士団最高レベルとなると完全に偽れるようになります。まあ、もっとも騎士団長(ティアマト)にだけは気配の偽りで敵う気はしなかったんですが。


 そうして、やっと手に出来るレベルの技術を、この気配の持ち主は持っているということは、その人物は相当な修羅場を潜り、様々な訓練を受けてきた人物であるということです。


 では、それほどの者が、こちらにまっすぐに向かってくるということは、間違いなく狙いは私と言うことになるんでしょうね。おそらく、只者ではない、と言う直感を元に、《殲滅の斧ジェノサイド・ラブリュス》を呼び出して構えます。


 《殲滅の斧ジェノサイド・ラブリュス》は、大きな斧の形をしていて、ダブルアックスと呼ばれるものに近い形をしていますね。これは、私の騎士団でも同様の形状の武器を使う者もいたので分かりますが、斧の中でも相当大きなものであり、私には重さを感じられませんが、普通の斧で言えば、常人には持てないサイズの代物なのです。まあ、尤も、ランドルなら……魔嵐騎士(ウム・ダブルチュ)のランドル・グルーラと言う筋肉の塊ならば、このサイズも余裕で扱えるのでしょうが。


 そして、私の前に姿を現した男は、どこと無く荘厳そうな雰囲気を持った男でしたね。しかも、見た目どおりの年齢ではない、確実に異常者。

 何者かは分からないけれど、私は、構えた《殲滅の斧ジェノサイド・ラブリュス》をいつでも振るえるように力を込める。すると、男の方にも動きが出ました。


「ふんぬっ……!」


 男は、瞬間的に、右手にハンマーを出して、私に向かって振るいます。あのハンマー……まさかっ!


「ハァッ!」


 私も遅れをとらぬように、そのハンマーに向かって《殲滅の斧ジェノサイド・ラブリュス》を叩きつけました。


――ガズンッ


 奇怪な衝突音と共に、周囲に衝撃による突風が吹き荒れ散らします。地面に……アスファルトに亀裂が生じ、破片が当たりを衝撃派と共に駆け抜けていったので、足場が崩れましたね。これは、少し失敗でしょうか。まあ、相手ももろともですしね。


「中々やる……。俺様の《破壊の鎚(ブレイク・ハンマー)》を防いだのは、この世界の人間では初めてだな」


 この世界(・・・・)と言う表現をしたということは、この男は、異世界に行った事がある人間……つまり私の同類ってことですか。ならば、あの気配の偽り方には納得できますね。


「俺様は、龍ヶ浜崎(りゅうがはまざき)将院(しょういん)だ。お前が七星(ななほし)佳奈(かな)だな」


 やはり、私と分かっていて直接狙ってきたようですね。ならば話は早いでしょう。倒せばいいんですから。まあ、もっとも、私を直接狙ってきていなくても倒すまでですがね。


「知っているようですが、名乗りましょう。女神騎士団筆頭騎士、天龍騎士(ウシュムガル)のナナホシ=カナと言います」


 その名乗りに、些か意味不明だというように眉を顰める様子を見て、少し疑問に思いますが、その次の言葉で、それが確信に至ります。


「なるほど、それが、お前が異世界で得た地位と言うわけか、《殲滅の斧ジェノサイド・ラブリュス》の持ち主よ」


 なるほど、この男、私のことは知っていても、私の異世界での経験や《聖騎士(しろきし)》としての力のことを知らないようですね。


「しかし、お前がそう名乗るのなら、俺様も、また、名乗るとしよう。本局直属世界管理委員会、ナンバー16の龍ヶ浜崎(りゅうがはまざき)将院(しょういん)だ」


 世界管理委員会……?何でしょうか、聞いたことも無いんですが、馬鹿にしているんでしょうかね。それとも、本当にそういう組織が存在していて、私に接触してきた、とでも。


「本来なら前任の、ナンバー12である天岩上(てんがんじょう)虚唄(きょうた)の役目だったんだがな。奴は、【超自然的輪廻転生存在(リンカネーション)】を追う役目を受けているからな」


 【超自然的輪廻転生存在(リンカネーション)】……、意味は分かりませんが、追っているということは、この男の敵か何かなのでしょう。


「そして、俺様は【超自然的輪廻転生存在(リンカネーション)】の接触した可能性のある、お前を見極めにきたのさ」


 ……【超自然的輪廻転生存在(リンカネーション)】の接触した可能性のある、ですって?知りませんね。少なくとも、私の知り合いに、そんな人物はいないのですが。


「【超自然的輪廻転生存在(リンカネーション)】……《終焉の少女》と呼ばれる化け物を知っているな」


 《終焉の少女》、マリア・ルーンヘクサ。私が異世界に飛ばされた原因でもあり、今、この世界に戻ってきている元凶でもある存在のことよ。それが【超自然的輪廻転生存在(リンカネーション)】っていう名前なの?


「ええ、確かに知っていますけど?」


 とりあえず、この場は、《殲滅の斧ジェノサイド・ラブリュス》だけで乗り切るのはきつそうですよね。ならば、いつでも私の相棒達を出せるように準備をしておきましょう。


「そうか、ならば、お前は我々の管理下に(くだ)ってもらう」


 3年我慢したら向こうに行ける、と言うから私はその条件を呑んだのに、なんで、こんなことになっているのでしょうね。とりあえず、この男の組織、世界管理委員会とやらの元に(くだ)ったら、絶対に3年程度では、あの愛おしい世界に戻ることは出来ないでしょう。だとしたら、この男を倒して、(くだ)らないと言う意思を見せ付けるしかないでしょうね。


「俺様の言葉に、したがう気がないのなら、力尽(ちからず)くで連れて行くまでだぞ」


 力尽くと来ましたか。ならば、力には力で抵抗するだけと言うことですよ。敵にも動きはあるでしょう。でも、こちらも……


「その沈黙は、したがう気がないということでいいな。ならばっ、――顕現せよ(ターン・アップ)!」


 その瞬間、男の体が、暗い風に包まれ、その姿が霞んで見えなくなります。目くらまし……ではないですね。風が徐々に、男の身体に密着するように凝縮されていき、やがて鎧と化す。


「【風龍鱗鎧(マリューシカ・メイル)】。実在したとされる風龍の鎧を俺様の身に顕現させたのだっ!」


 風龍、マリューシカっ。現在は、【彼の物】の4つの眷属が1つ【彼の物を起こす者(マリクス)】と契約した【起天眼(マリクス・エデン)】に宿っているとされる伝説の龍だとマリア・ルーンヘクサが言っていましたが、あれですか。ただし、この男は鎧だけ、と言うことは、【起天眼(マリクス・エデン)】ではないということでしょう。ならば、充分に勝ち目はあります。


「――天龍騎士(ウシュムガル)として、そして、聖騎士(しろきし)として、貴方に見せましょう。私の……本気を」


 そう、だから、私は、あの鎧に勝つために、力を解放する。……初めてではないですけれど、全ての力を一気に使うのは久々で滾りますね。どのくらい上位変身(クラスアップ)しましょうか。5段階の上位変身(クラスアップ)の全てを解放すると流石に、世界に盛況が出ないとも限りませんし、3ぐらいで勘弁してあげましょう。


喚装(かんそう)


 その言葉は、私の武具を呼ぶために必要な言葉であり、今のを唱ええることで初めて、私は、本気を見せる覚悟をします。


「来よ、見えずの月――【聖鎧(せいがい)新月(しんげつ)】っ!」


 まず、不可視の鎧を召喚。見えないながらも、私の周りにしっかりと存在するその鎧は、重さは無く、耐熱、耐電、耐水、耐衝撃、耐魔力、その他もろもろが完全に完備されている最強の鎧です。


「来よ、大きく欠けた月――【聖籠手(せいこて)三日月(みかづき)】」


 左右の手を守るように籠手が現れる。見えているのは手の甲を覆う部分だけですが、実際は、腕全体を守っています。この籠手には筋力を大きく上昇させ、振るう力を増進させる効果を持っている最強の籠手です。


「来よ、半分の月――【聖鉄靴(せいくつ)半月(はんげつ)】」


 左右の足を守るように靴が現れました。見えているのは、(くるぶし)までを覆う部分だけですが、実際は、脚全体を覆っています。この鉄靴には、脚力の上昇と微小な飛行能力が付与されている最強の靴です。


「来よ、照らす満開の月――【聖兜(せいと)満月(まんげつ)】」


 そして、頭を守るように兜が展開されます。兜も不可視の効果を持っているのですが、こちらは新月と違い、切り替えが可能となっています。特に効果はないただの兜ではありますが、邪悪なものを打ち払うという効果があるとかないとか。


「来よ、七つの星に連なる刀――連星刀(ナナホシ)


 そして、連星刀剣の中の1振り、連星刀(ナナホシ)。私と同じ名を持ち、神より授かった神秘の刀。単星剣(ヒトツボシ)を持つ火雲(ひぐも)夏桜(かざくら)連星剣(ミツボシ)を持つ七峰(ななみね)(しずか)四星剣(シセイ)を持つ東雲(しののめ)(ゆずりは)、そして、連星刀(ナナホシ)を持つ私。8振りの刀剣を持つ選ばれたものたちの1人であることの象徴の様なもの。


上位変身(クラスアップ)ッ、1st(ファースト)


 髪が一房だけ金色に染まり、瞳も青みがかっていることでしょう。ですが、あと2段階、上位変身(クラスアップ)をします。


2nd(セカンド)……、3rd(サード)……ッ!」


 髪の半分くらい、と言っても右半分や左半分と言う意味ではなく、上下に半分と言う表現で分かりますかね。髪の先の方は黒ですが、おそらく前髪から頭頂部にかけては金色に染まっていると思われます。瞳もほとんど青色に近い黒……青灰色と言った感じでしょうね。


「これは……っ!」


 驚愕に、男は目を見開いて、私を凝視しました。その視線は、私の刀と髪に注がれているようですね。


「師匠と同じ連星刀剣、だと……」


 師匠……先ほど挙げたいずれかの人物か、はたまた、未だ行方知れずの連星刀剣の持ち主なのかは分かりませんが、知っているのならその威力も分かっているでしょうね。


「ぐっ、ならば、――顕現せよ(ターン・アップ)、【風龍鱗剣マリューシカ・ブレード】ッ!」


 男は、手元に剣を呼びました。あれも、鎧と同様に、風龍のどこかを使って作った件なのでしょう。荒々しい闘気が感じられますね……。


「……」


「……」


 お互いに、間合いを計るように、そして、タイミングを逃さないように、構えながら前後左右に少しずつ動きます。


 互いに隙を見せぬように動くので、中々にタイミングがつかめず、ジリジリと間合いを詰めては空けを繰り返すだけ。しかし、私の背後から(かす)かな風を感じました。これは、チャンスですね。


 ……静かに、この間隔を保ちつつ、風を、自然を、この空間の全てを全神経を集中して感じ取って……


――ヒュゥー


 今っ!


「セイッ!」


 一気に踏み込み連星刀(ナナホシ)を男に向かって振り切ります。右から左へ薙ぎ払って、


――ガキンッ


 男が自分に当たる前に剣で防ぎます。金属の衝突音と共に、男は、手に痺れと衝撃が伝って思わず手を離しそうなる……わけもなく、しっかりと握り締めていますね。まあ、この程度ではどうにもならないでしょうね……。


「うぉおらよっ!」


 まるで、風を纏っているかのような剣に力が込められて、軽く弾かれると私の刀が弾かれて胴ががら空きになります。そこを狙って男は剣を突き刺しに来ました。


――バンッ


 ですが、私の体は【聖鎧(せいがい)新月(しんげつ)】に守られているので、無傷。軽い衝撃と共に、後ろに弾かれましたが、バランスを崩さずにすみました。


「結界……、いや、……障壁か?」


 どうやら不可視の鎧のことには気がつけず、私が障壁を展開していると勘違いしたようですね。さて、そろそろ、どのくらいの力を持っているのか見極めるのはこの程度でいいでしょう。


 刀に力を……聖なる【力場】を込めます。3段階目の上位変身(クラスアップ)状態の【力場】を大量に込めれば、その威力は、解き放てば辺りどころか、この国くらいのサイズだったら消し飛ばせるほどの威力があるんですよ。それをあえて、刀に込めることによって、その一撃の威力を数億倍に引き上げています。


「弾け飛びなさい……」


 その言葉と共に、連星刀(ナナホシ)を振り上げます。そう、こうすると胴ががら空きどころか、全身ががら空きになり、攻撃は好き放題打ち込まれるでしょう。ですが、【聖鉄靴(せいくつ)半月(はんげつ)】の飛翔能力を発動し、高さを、位置を微妙にずらしながら、男の剣をかわします。

 そして、そのまま、振り下ろしました。


――ギィイン


 私の刀の一撃は、【風龍鱗鎧(マリューシカ・メイル)】によって防がれます。しかし、その瞬間に、刀身に込めた【力場】を少しずつブーストをかけるように解放して……


「ハァアア!」


 切っ先から白い光を放ちながら、【風龍鱗鎧(マリューシカ・メイル)】を切り裂いていきます。そして、そのまま下まで一気に振り下ろしました。


「グッ……」


 私が切ったのは鎧だけ、それはわざとですけどね。身体までを切る必要はないんですよ。まあ、尤も、戦場でそんなことを言うのは甘えで、明確な敵ならば切り殺します。

 しかし、この場合は、殺す必要もないですし、力尽くが無理と分かってもらえればいいのですから、これでいいんですよ。この世界では無用な殺生は避けるべきですからね。


「私は、あの世界に、もう一度行かなくてはならないんですよ。残念ながら、それを邪魔するというのでしたら、今度は鎧だけではすみませんよ?」


 その言葉は、鎧の先も切れるという宣言でもあるのですが。男は、確認するように問いかけてきます。


「その世界に戻って、お前は、行うべき使命があるのか?本当に、戻らなくてはならないのか?」


 その問いには、即答できますよね。


「ええ。使命はあります。そして、絶対に戻らなくてはならないんですよ」


 そう、騎士団長やレイジ、ユウカ、シュラード、セルム殿、リエル、ランドル、海魔騎士(ラハム)、レンドラ、シューラック、ィエラ、バーズ……皆が待っているので。ええ、バッズはどうでもいいので、はい。


 私は、あの世界で、天龍騎士(ウシュムガル)として、再び刀を振るい団長の為に戦うと決めています。それは、団長からの命令でもありますし、レイジとの約束でもあるんですよ。


 だから、私は、あの世界に絶対に戻るんです。団長が笑い、レイジとユウカが暖かく迎えて、騎士団の皆と肩を並べて戦う、あの世界へと。


「そうか、なら、俺様たちは干渉しない。俺様たちの役目は、無意味でよく分からぬまま異世界に行ってしまい、その人物に不幸が降りかかるのを防ぐことだからな。しかし、強いな。師匠と同じくらいに……」


 そういいながら、男は、私の前から姿を消しました。私は、全ての【喚装】と 上位変身(クラスアップ)を解いて、溜息と共に、あの愛しい世界の思い出を描くのでした。

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