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《神》の古具使い  作者: 桃姫
魔剣編 SIDE.GOD
143/385

143話:家族で食事を

SIDE.YOU KNOWN(HAPPY MELODY)


 私、市原(いちはら)裕音(ゆのん)は、何故か、京都からわざわざ、三鷹丘市にやってきた縁を切っていた家族とこの後、ホテルで食事を取ることになっているのよ。どうやら、今回の件には、私の思い人……片思いしてる1つ下の学年のし、紳司が絡んでいる様なのよね。


 ……紳司って呼んでいいとは言われたものの、未だに、呼び捨ては慣れないし、……その、恥ずかしいわね。で、でも、呼んでいいって言われたのに呼ばないのは、何か失礼だし。


 まあ、その話はこの際、どうでもいいわ。で、今回の一件に、その紳司が関わっていることは間違いないのよ。


 この間まであった修学旅行に参加していた2年生の中でも、おそらく集中的に狙われたでしょうからね。……今、思ったけど、紳司は《古具》に開花してないのにどうやって、うちの家族を退けたのかしら。一般人にやられるほど弱くはないと思うんだけど……。


 まあ、紳司のことは、幾ら考えても仕方が無いから、とりあえず、どうにかして退けたんでしょうけど、何で和解してんのよ?

 しかも絶縁した私のところにも何か仲直りしにくるし……。私は、絶対にあの家には戻らないって決めてんのよ。


 それで、昼休み、その話を紳司にしようとしたら、紳司来ないじゃないの。花月さんに聞いても知らないって言うし、教室には居なかったし……。まったく、どこに行ったのかしら……。相変わらず謎が多いのよね。


 と言うことで昼休みに会えなかったので、放課後になって、彼に会う。今日は生徒会を無ということにしたので、紳司も得に居残ることは無いはず。なので、校門のところで紳司のことを待ち伏せする。


 すると、花月さんと一緒に、のんびりと歩いてくる紳司を見つけたわ。私は、彼の前にゆっくりと歩いていく。


「ん、会長、どうかしましたか?」


 彼は目敏く私に気がついた。相変わらず注意力がいいというか、よく見ているというか、凄いわね。常人のそれを裕に越えているのだから恐ろしいわ。


「悪いわね、ちょっと、家族での食事についてきてくれないかしら」


 私がそう言うと、彼は、嫌そうな顔をして私に反論をしてくる。そんなに嫌なのかしら……?


「家族水入らずでいいんじゃないですか?俺なんかは、邪魔だし、家に帰って探し物をしなきゃいけないんで」


 探し物って何かしら。まあ、はっきりいって、探し物よりも私のことの方が大事だと思うんだけど。


「何よ、探し物って」


 私は「私と探し物、どっちが大事なの」って聞こうと思ったけど、そんなことは聞けないので、ぶっきらぼうに、そんなことを聞いた。


「『アストラル体に関する霊体的或いは超常的現象について』のレポートです。家にコピーがあったと思うのでそれを捜さないといけないんですよ」


 何じゃそりゃ?相変わらず難解なものを読んでいるのね。てか、そんなモン読んでどうすんのかしら?


「そんなものよりも、私のピンチを助けてちょうだいよ」


 私がそう言うと、紳司は、仕方がなさそうに肩を竦めて、スマホを手に取り誰かに連絡をしだす。


「あ、もしもし。うん、俺。ちょっと、車とスーツを用意して欲しいんだが、できるか?

 ああ、できれば15分以内に。……ああ、助かる。ああ、あとお前も、あの服を着てきてくれ」


 誰に連絡しているのかしら……。まあ、車を用意してくれているみたいだからありがたいんだけど。


「じゃあ、頼んだからな」


 スマホから耳を離して、彼は、一息ついた。そして、私の方を向いて、頭を掻きながら言う。


「とりあえず、車の用意はしたんで、ついては行きますけど、途中で帰りますよ?」


 まあ、妥協点よね。とりあえず、対面の時に居てくれればいいのよ、その後は、紳司について帰りまーすって帰ればいいんだし。


「それで、誰が車を持ってきてくれるのよ?」


 彼の両親のどちらかだろうか。それとも知人か親戚か。いえ、まあ、それはどうでもいいわね。っと、そのとき、校門前に、一台の車が停まったわ。


「紳司様、少々時間がかかりました」


 目を覆う仮面をつけたメイドが降りてきたわ。誰、これ。そのメイドを見た彼は、「あー」と妙な声を出していた。


「何だ、その仮面?」


 メイドは、恭しく彼に頭を下げながら、私と彼を車に乗せた。そして、車を発進させると、メイドが口を開いた。


「申し訳ありません。この仮面は、生徒の中には自分を知っている者も多くいますゆえに、念のためです。紳司様、スーツは、後部座席のスーツケースに入っていますので」


 そう言って、運転しながら仮面を取ったのは、桜麻先生だったわ。え、桜麻先生なにやってんのよ。紳司様って何?!


「ああ、そうか。しかし、早かったな。助かるよ、由梨果」


 彼がメイドに微笑む。メイド……桜麻先生は、その言葉に嬉しそうに頬を緩ませていた。何よ、絶対、桜麻先生も彼のことが好きなんじゃないの。顔見りゃ分かるわ。


「てか、いつから紳司は桜麻先生を呼び捨てに?」


 一応、聞いてみることにしたわ。さて、ちゃんとした答えが返ってくるのかしら。誤魔化されそうな気がしないでもないけどね。


「修学旅行中に、色々あってな。俺と由梨果は主従になったんんだ」


 どう色々あったのよ、何があったら教師と生徒が主従関係に発展するのよ、ありえないでしょ。


「まあ、いいわ。でも、これから私の家族に会うんだけど、桜麻先生はどうするの。同席させるの?」


 紳司のメイドとは言え、同席を許されるかしら。まあ、兄、姉、妹、研究者はオーケー出すでしょうけど。問題は父上よね。


「大丈夫だろ。一応、結衣さんを倒したのは由梨果だからな」


 え、姉さんを倒した、ですって、どういうことよ。桜麻先生も《古具》使いだって言うことは聞いてるし、おかしなことではないんでしょうけど。


「いえ、倒したというほどのことではありませんよ。それよりも、目的のホテルはあそこですよね。とりあえず、紳司様は着替えがあるので、残っていただきますが、市原会長は降りてください」


 え、私だけ降りるの。……え、本当に私だけ。私が降りるとドアが閉められる。マジで降ろされたわよ?!







 しばらく待っていると、スーツ姿の紳司が、メイド服姿の桜麻先生を連れてきたわ。様になっているわねぇ~。


「じゃあ、行くか」


 紳司が、先陣を切って進んでいく。途中で、男とぶつかりそうになってしまっていた。ぐるぐるに布を巻いた大きな何かを持った若い外人の青年は、謝って、とっとと行ってしまった。


「どうかしたの、今の彼が何か?」


 私の問いかけに、紳司は、少し戸惑うような顔をしてから、一度目を閉じ、自分を落ち着かせるような仕草をしてから私に言う。


「あいつは、敵だな。薄暗い【力場】が肌に当たった。さしずめ、《魔剣》か《妖刀》のどちらかの使い手と言ったところか。アレが、剣か刀だってのは、鍛冶師ゆえか分かっちまうんだよなぁ……」


 鍛冶師って、どゆこと?趣味で家事をやってるとかじゃなくて鍛冶師って言ったわよね、確実に。


「何、し、紳司って中二病ってやつなの?」


 力場とか魔剣とか妖刀とか、変なことを言い出したし大丈夫かしら。無理に同行を頼んだから、何か変になっちゃった可能性もあるわよね。


「違いますよ。てか、たぶん、あいつとは、近いうちに戦うことになりますよ」


 何か、バトル漫画のキャラクターみたいなことを言ってるわ。本当に大丈夫かしら。まあ、ダメだとしても、もう手遅れよね。


「えっと、あそこのレストランよね。席が足りなかったらどうしよ」


 紳司と桜麻先生を急遽つれてきたけど、席が足りない可能性の方が高いわよね。万が一に足りなかったら……。


「だから、俺はすぐに帰りますんでいいですよ。なかったら帰る理由になりますし」


 紳司はそんな風に言う。帰って欲しくないから、どうしようか必死に考えてるんじゃないのよ!


 そんなやり取りをしながら店内に入ると、店員が私達を見て、私は制服で、紳司がスーツ、桜麻先生はメイド服だし、私と紳司達が別々の客だと思ったようで、2人の店員がそれぞれの組み合わせに聞きに行く。


「お一人でしょうか。禁煙席にいたしますか?」


 この辺のホテルのレストランは、三鷹丘学園の生徒が利用することもあるため、制服を着ていても怪しまれることはない。


「いえ、待ち合わせで」


 私がそう言うと通してもらえた。紳司達も通ってきたので、一緒にうちの家族を捜す。きょろきょろと見渡しても、私には見つけられなかったが、紳司は見つけたようで、スタスタと行ってしまう。


 私は、慌てて後を追ったわ。すると、見覚えのある面々が私の前に見えてくる。懐かしいようで、二度と会いたくなかった顔が。


「待っていたぞ」


 私達の姿を見て、父上が開口一番にそう言った。偉そうに……と思ったけど、紳司や桜麻先生は特に気にしていないみたいね。


「青葉暗音はいないのか?」


 裕太兄さんが紳司に向かって聞いた。暗音……、苗字的に紳司のお姉さんよね、いるって言ってたし。え、うちの家族、家族全員、紳司のお姉さんを知ってるってこと?


「お久しぶりです、市原会長のご家族の皆様」


 桜麻先生もメイドらしく恭しく、丁寧に挨拶をした。桜麻先生も結衣姉さんだけでなく、うちの一家全員と面識があるらしいわね。修学旅行で何があったのよ?!


「それでは、夕食を楽しむとしよう」


 父上がそんな風に言って、席に着くように勧める。元々紳司が来ることは想定していたみたいで、父上、裕太兄さん、結衣姉さん、華音、祭囃子さんって言う研究者、私と紳司で7枠あったので、席は8人掛けのものだから桜麻先生もキチンと座れるようになっていた。


「それで、裕音。青葉さんと交際しているんですか?」


 結衣姉さんが、そんなことをド直球で聞いてきた。何言ってんの、てか結衣姉さんってこんなキャラだったっけ?!


「してませんよ。てか、俺、前世の婚約者がいるんで」


 紳司は、そんな風に主張する。前世の婚約者ってなに?!また、中二病ってやつなの、本当に大丈夫?!


「ほぉ、今世の婚約者もいっぱいいるようだがな」


 父上が言う。え、婚約者、しかも今世ってことは今の紳司よね。てか、だから前世って何よ?!


「うぐっ」


 紳司が言葉に詰まった……ってことは婚約者がいるって事なのね。マジなの?!


「明津灘の次女に、冥院寺の次女。この2人とも婚約の話が進んでいるそうではないか」


 明津灘の次女って……しーちゃんじゃないのよっ!偉鶴さんが長女で、しーちゃんが次女……よね。守劔さんは、嫁いできたんだし。

 それに冥院寺の次女って、うちの学園に通ってる水泳部の子じゃないのよ?!

 え、その2人と婚約って、何で?!それも修学旅行の所為なの?!凄いわね、修学旅行!!


「まあ、そういう話も含めて、今日はたっぷり盛り上がろうじゃないか」


 父上のあの顔は、絶対に紳司を話さない顔ね。こりゃ、適当な時間に帰るのは無理ね。諦めましょ。



 結局、この16時過ぎに始まった話は、23時前にようやく終わったのよ。しかも私は、華音に捕まって、このホテルに泊まることになっちゃったし。紳司は、資料を探さなきゃならないからって、父上に捕まる前に脱走して、桜麻先生を連れて姿をくらましちゃったわ。明日、この恨みを……、まあ、楽しいから、勘弁してあげましょうか。



…………――ありがとね、紳司。

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