137話:説明会
俺は、溜息交じりにソファに座りながら、話が始まるのを待つ。イラついている所為か、無意識に貧乏揺すりをしていたようだ。まあ、何もイラついているのは俺だけではない。隣に座る姉さんも相当イラついているらしい。
何故、俺達がこんなにもイラついているか、と言うと、父さんと母さんが、どうやって説明するか考えると言って、和室の方へ言って、キャッキャうふふとイチャつく声が聞こえているからだ。
そもそもの発端は、父さんが修学旅行へ行く姉さんと偶然会って、「じゃあ、修学旅行から帰って来たら本格的な説明するよ」的なことを言ったらしい。そして、修学旅行から帰って来た当日は、何故かホテルで行われている南方院財閥主催のパーティに参加させられて、その所為で説明会は本日に流れたわけだが、朝10時、我が家、青葉家に在住する、俺、青葉紳司と俺の姉である青葉暗音、父さんの青葉清二、母さんの青葉紫苑が一堂に会したのだ。これは非常に珍しいことで、滅多にあることではないのだが、説明会があるということで、ネボスケの姉さんですら10時とは家、キチンと起きてきたのだ。
普通なら姉さんは午後になるまで起きてこないだろう。その姉さんが起きてきたのに、説明会は、父さんの「あー、悪いが、話すことまとまってないからちょっと待ってろ。考える」と言って母さんと和室に消えたのだ。普通、昨日のうちに考えをまとめておくだろ?!
俺と姉さんの文句なんて気にせずに、2人はイチャこら。まあ、声に出しているわけじゃないから、聞こえてないんだろうけど。
そして、1時間後、やっと父さんと母さんは、俺達の待っているリビングに戻ってきた。その顔は、明らかな笑顔だった。そして、明らかに不機嫌な俺と姉さん。
「さて、と、とりあえず、どこから話すか?」
それをまとめにいっていたんじゃないのかよ?!とツッコミたくなったが、それをグッと堪えた。ここで一々ツッコンでたらきりがないからな、大人の対応をしなくては。
「それをまとめにいってたんじゃないの?!」
姉さんがツッコンだ。俺が堪えた意味を教えて欲しい。まあ、ツッコンでしまったものは仕方がないか。俺も同意見だと頷いた。
「あ~、まあ、内容は決まっているんだが、切り出し口がな。……じゃあ、まず、お前等、天使って知ってるか?」
父さんがそうやって切り出した。俺は、実際に天使って奴に会ってるしな。明津灘家の明津灘守劔は、天使の1人、【赤紫色の仲介者】のヴェーダ・ルムバヨンって言う赤紫色の天使に。
「小世界の新天使……シンフォリア天使団、第四翼人種、【彼の物】の4体の眷属」
姉さんがそんな風に言う。第四翼人種ってのは秋世の言っていた数列種とか言うやつなのだろう。
そして、俺も知っている【赤紫色の仲介者】のヴェーダ・ルムバヨンはシンフォリア天使団と言うところに所属しているとか。最後の【彼の物】ってのは知らんな。
「紳司君は……?」
母さんが俺に確認するように尋ねてきた。俺は、肩を竦めながら、その問いかけに答える。
「シンフォリア天使団に居た【赤紫色の仲介者】のヴェーダ・ルムバヨンと言う天使になら、明津灘家で守劔と会ったときに見た」
しかし、姉さんの情報量は凄いな。さすがは、自分の中にグラムファリオと言う怪物を宿しているだけある。半ば辞書のように扱われているのだろう。
「どちらもそこまで知っていたか。なら、話は早いな。俺の中には、【断罪の銀剣】のサルディア・スィリブローと言うシンフォリア天使団の天使が宿っている」
そう、気がついていたが、ヴェーダと言う天使が、「サルディアが契約結んでんのに……」と言っていた、そのサルディアと言うのが父さんの中の天使なのではないか、と言う俺の予想は当たっていたようだ。
「今、相棒を呼んで話すとややこしいから、会うのはまたいずれ、と言うことで、次は俺の《古具》についてでも話そうか」
そう言って、父さんは、自分の《古具》を呼び出した。大剣と呼ばれる部類の剣だ。俺の家には、剣が多いのだろうか、姉さんも母さんも、そして父さんも刃物に関する《古具》である。
まあ、これは、剣帝の血筋というやつなのかもしれないな……。剣の一族がゆえに、剣を持って生まれる、と言うことなのだろう。
「この剣は、かつて《古神の大剣》と言う名前の《古具》だった」
だった、と言うことは、母さんの《古具》が《神装の双剣》から《神双の蒼剣》になったのと同じで、今は別の名前なのだろう。
「そして、今は《勝利の大剣》と言う」
フラガラッハ。アンサラーや回答丸とも呼ばれ、ケルト神話の太陽神ルーの作った剣ともルーが与えられた剣とも言われている。
「一応、お前等の《古具》についても教えて欲しいんだが?」
父さんは、俺達に言う。しかし、俺のは説明が面倒なんだよな。姉さんから説明するように、俺は姉さんに目で訴える。姉さんは肩を竦めて、俺にウィンクした。
「あたしの《古具》は、まあ、昨日も見せたんだけど……」
と言って姉さんは《古具》を発動して、黒いドレス姿になる。そのまま、机の上に置いてあるお菓子カゴの中のクッキーを一つ取り出して、上に投げた。落ちてくるクッキーを空中で指でつつく。クッキーは、綺麗に四等分されて姉さんの手のひらに落ちる。
「《黒刃の死神》。刃神グラムファリオ……宵闇に輝く刃の獣の力を宿したものよ」
姉さんの《古具》は相変わらず凄いよな。俺の《古具》なんて、ほとんど斬り飛ばされそうだし……。
「グラムファリオ……ムスペル12神の旧刃神か。いや、あの神話の神も今や刃とベリオルグが抜けて10神になっているか。しかし、それほどの化け物が身内に入っていたとわな」
父さんは肩を竦めて笑った。まあ、かく言う父さんの中にも天使が入っているわけで人のことは言えないだろう。……あ、あれ、俺って何も宿してなくね?
「そんで、紳司は?」
父さんが俺の《古具》は何か、と言う意の言葉を投げかけてきた。俺は、今出せるものの中で、どれを出すか考えたが、特に何も浮かばなかったので、《無敵の鬼神剣》にすることにした。
「《無敵の鬼神剣》」
1つ大剣が手元に現れる。朱色の柄に緋色の巻き布の大剣だ。俺が始めて呼び出した武器でもある。
「アスラ……阿修羅か。アパラージタと言うと、アレだな、神が王とかに与えた最強の剣。しかし、また妙なモンを引き当てたな」
ああ、そっか、これ1つだと思われるのか。えと……とりあえず、俺は《無敵の鬼神剣》をしまって別の武具を呼ぶ。
「《破壊神の三又槍》」
三又の槍が手元に現れる。そのまま、すぐさま《破壊神の三又槍》をしまって、他のも呼ぶ。
「《帝釈天の光雷槍》」
このくらい見せておけば大丈夫だろう。父さんなら見当がついたに違いない。そして、俺は、《古具》の説明をする。
「まあ、と、このように、いろんな神の武具を呼ぶのが、俺の《古具》、《神々の宝具》だ」
俺がそう言うと、父さんが納得していた。まあ、特に何が宿ってるわけでもないから大した説明はないしな。
「そんでもって、前世の説明か……。あ~、これがややこしいんだが、えっと、紳司の方が昔の人間なんだよな?」
あ~、そういえば静の子孫だったよな。ってことは、俺の方が世代的には前になるわけか。
「ああ、たぶん、そうだな」
俺の回答に、じゃあ、お前から説明しろ的な視線が俺に突き刺さる。俺は、肩を竦めながら、俺の前世について語る。
「あ~、俺の知っていることと言えば……、俺の前世は六花信司って言って、妻は七峰静葉。静葉は、八塚英司と結婚して静って言う娘を産んでいて、俺の方は、その後に六花紳って言う息子が産まれた。紳は俺が育てて第五代剣帝の五威堂弓歌ちゃんと婚約して俺の孫が生まれている。
静の方は、第三代剣帝と結婚しているって事と、まだ存命しているってことぐらいしか知らないな。何でも半天使化してるとか」
俺の天使化とか言う発言に、目を丸くしているのが姉さんと母さん。父さんはどうやら知っていたらしい。
「ああ、まあ、存命しているのも知ってたしな。前に【空白】で会ったから。あ~、時系列的に俺達か……」
父さんと母さんの語るターンか。しかし、前世の話もそうだが、父さんと母さん自身の話をもうチョイ聞きたいよな。
「あ~、俺の前世は蒼刃蒼衣って言うんだが……。ああ、紫苑は、七峰蒼子な。えと、前世の両親は放任主義っつーかなんつーかで、父は行方不明だし、母は父を追っかけて消えるって言う、まあ、凄い家だったんだが。第四代剣帝篠宮無双の影響で蒼子姉さんは双剣を、第五代剣帝五威堂弓歌の影響で俺は大剣を使うようになったんだが、……まあ、色々とあってな。
俺は、八斗神火々璃って言う貴族の子と結婚することになってな……、まあスターゲイザーとかも関与してるんだが。そんでもって、蒼子姉さんは弟子の六花竣と何やかんやで結ばれたらしい。俺の方は、バロールの所為で、俺と火々璃の無理心中みたいな形で終わったけど」
あ~、なるほど、父さんの前世にも弓歌ちゃんがちょっとは関わってるみたいだし、母さんの方には、孫……と思われる竣も関わってるみたいだな。
父さんの話を補足する形で母さんが、話を始める。
「え~と、まあ、何やかんやで、わたしの前世である蒼子は、蒼衣と火々璃の死後に、2人の残し子であった、蒼刃光と八斗神闇音を育てました。2人がある程度育つと、わたしたちの方も子育てに専念しなきゃいけなかったので、息子の七峰剣兎を育てました。
あ~、その後の時代は、暗音さんの方が詳しいですよね?」
母さんが姉さんに話題を振った。姉さんは、しかたがなさそうに、苦笑を浮かべながら語る。
「そうねぇ……。つっても、あたしは零斗……七夜零斗と結婚して零祢を、光は、燦ちゃん……九浄燦ちゃんと結婚して双子の光燐と燦檎ちゃんを産んで……って感じよ」
前世話は長くなるな。しかし、「零斗」と「燦」。聞き覚えがあるが……あれは、まあ、関係ないよな?
でも、俺と静巴の様に、姉さんにも姉さんと鷹月がいるが、たぶん、あの2人はうちの両親のように結ばれることはないだろう。だとしたら、もしかして、あの2人、「七鳩怜斗」と「恐山讃」と言う2人は……いや、俺がとやかく言う話じゃないな。
俺は、あの2人のことを、心に秘めることにした。まあ、何か、近いうちに姉さんもあの2人と出会いそうだけどな。
「あ~、後は……」
父さんはそう言って、別の話をはじめる。
結局、この日、1日中、俺達は、情報交換を家族中で行ったのだった。