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《神》の古具使い  作者: 桃姫
クリスマス編 SCENE.one year ago.
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133話:クリスマスSIDE.AKIYO

 私は、パーティで静巴さんと会話した後、会場を出て、こっそりと休める場所を探してたのよ。すると、前から、よく知った人がやってくる。


 黒色の髪を流麗に靡かせてやってきた、私よりも5、6歳程年上だけど、全くそんな様子が見えない大人の女性と言ってもいい、私の家、天龍寺家当主。


「姉様」


 そう、私、天龍寺(てんりゅうじ)秋世(あきよ)の姉、天龍寺(てんりゅうじ)彼方(かなた)姉様。


「あら、秋世。元気そうね」


 そんな風に姉様が私に声をかけてきた。会うのも数年ぶりだから、まあ、納得のやり取りよね。


「ええ、そちらもお変わりないみたいで」


 ていうか、変わらなさ過ぎるみたいで、ここ数十年、見た目に変化なしだもの。まあ、お互いに人のことを言えないんだけどね。


 それにしても、クリスマス、ね。クリスマスと言えば、恋。さっきの静巴との話もあってか、余計にそんなことを思ってしまうのよね。


 私も姉さんも、かつては、清二さんに恋をした。でも、その恋は、儚く散ってしまった。美園(みその)さんは、確かに綺麗で魅力的な人だったので、清二さんが靡いたのも納得できるんだけど、まあ、姉さんは未だに清二さんを諦め切れていないみたいだし。


 私には、その諦めきれない、って感情が無いって言ったら嘘だけど、そこまでの執着心はないのよね。だから、足掻(あが)くことなく、次の恋へと進もうとしたのよ。


 今思えば、あれは、恋愛感情よりも、憧れとか恩情とかに近かったのかもしれないし、でもそこから始まる恋が無いわけではないってのが、また何とも言えない、曖昧(あいまい)な感情だったのかもしれないわね。


 次の恋は、初恋の人の息子だった……なんていうと背徳感のあるものだけど、確かに恋をしていたわ。それは、王司君に、清二さんを重ねていた部分も否定はできないけど、絶対にそれだけでは無かった。

 あの小生意気で、気障ったらしく、悪人のように人の悪い笑みを浮かべて作戦を立てる、そんな彼に、本当に惹かれていた。


 でも、彼は、彼のことを理解して、彼のことを思うことを忘れない、そんな人と結ばれた。七峰紫苑さん。

 私は、彼女になら譲ってもいいと思ったわ。何せ、彼女以上に王司君を理解できるのは、王司君の相棒である、あの子を除けば彼女だけだもの。

 まあ、尤も、ルラさんも真希さんも愛美さんも彩陽さんも諦める気は無かったみたいだし、真希さん以外は、今でも諦めが付いていないみたいだけどね。


 真希さんだけは、諦めたのか、他の人と婚約して、いまや一児の母となっている。

 そう、またしても私は、諦めたのよ。もう、恋を諦めた、と言っても過言ではなかったかもしれないわね。


 その後は、ずっとアメリカの特殊能力研究開発機関エリア51支部やフリーメイソンのワシントンDC支部とかを行き来して研究に没頭する日々が続いたわね。そういえば、後輩の祭囃子ちゃんはちゃんとしてるかしら。私の後任として色々とやっていたみたいだけど。


 まあ、そんなふうにして恋から逃避に逃避を重ねて、今の私がいるんでしょうね。


「姉様は、……まだ、清二さんを諦められないんですか?」


 私は無粋なことと分かっていながら、姉様に聞いてみた。すると、姉様は、頬を赤らめてそっぽを向きながら言う。


「う、……うん」


 乙女かっ!


 姉様、あんた幾つですかっ!もう、相変わらずな感じで、この調子なのよね。まあ、見た目もさほど乙女と変わらないんだけど。


「そう言うところも相変わらずなようで安心です。私は、一通り回ったので、このまま帰りますが、姉様は?」


 私の言葉に、姉さんは、溜息をつきながら会場の方を見た。ってことは、まだ会場に用があるってことね。


「まだ、挨拶回りしなくちゃならないから、パスで」


 どうやら、このまま、会場で挨拶回りに興じるらしい。私は、あまり、挨拶をしたくないので、見て回る程度なのよね。


 他人の顔をうかがえば、その人が何を考えているか、大体のことは分かる。

 それは、私が、昔からパーティに参加し続けた……参加させられてきたからだろうと思う。

 かつて、私が齢10の頃、私は、家の関係でパーティ漬けの毎日だったわ。来る日も来る日もパーティで、金に塗れた汚い奴等の顔を毎日毎日見て、そいつ等の上辺だけの言葉を聞かされ続けた、だからこそ、その言葉の裏が分かるのよ。


 これは、静巴さんも同じね。だからこそ、私達は気が合うのよ。もしかしたら男の趣味も一緒かもね。


 まあ、冗談はさておき、私も、こうして、三鷹丘学園の教職に戻ることになったしね。また、恋愛の1つや2つできるかもしれないわね。


 三鷹丘学園には、何度か行っていたのよ。学生時代は、特別学業免除生で、ほとんど学園に行かないで、チーム三鷹丘の仕事を手伝ってたけどね。私は、能力的にも重宝するから、とあちこち引っ張りまわされて……。学園を卒業したらアメリカの大学に行って、そのあと、日本に戻ってきて、教員免許を取ったわ。

 それで、その後、新卒で、教師になって、三鷹丘学園に来たら、王司君たちがいたのよね。もう、本当に、清二さんの家とは縁深くて驚いたわよ。示し合わせたわけでもないのに、何の偶然か、清二さんそっくりの人が居たときには心臓が止まるかと思ったわ。


 そんな懐かしい思い出は今は、どうでもいいわね。しかし、まったく、私には恋愛なんて向いていないのかしらね。


 私が、ボーっとしながら、《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》を発動させようとした、そのとき、不意に誰かが通りかかって、慌てて使うのをやめる。


「おや、貴方は……?」


 少年だった。どこかの御偉いさんの息子だろうか、少し態度の大きそうな子供だった。誰なのかしら。


「天龍寺家の天龍寺秋世ではだな」


 呼び捨てかい、このクソガキ。何なのよ、一体。私のことを知っているってことは、それなりの知識はあるんでしょうけど。


「おっと、失礼。俺は、王条(おうじょう)(あらし)だ」


 王条……嵐……。聞いたこと無い名前よね。王条なんて、名家も無いし、新進企業化何かかしら?


「ああ、こちらの名前に聞き覚えが無くても仕方が無いものだ。俺は第四師団・『天候色彩(てんこうしきさい)』の人間だ」


 天候色彩(てんこうしきさい)……?知らない名前なんだけど、組織的なものよね。異世界関係だったりするのかしら。


「おっと、雪子(ゆきこ)が呼んでいるな。すまないが、またいつか会うだろう」


 高校生くらいの女性が「王条君」と呼んでいる声が聞こえたから、その人が雪子と言う名前なんでしょうね。


「まあ、今のは気にしないことにしましょ」


 そんな風に呟いてから、再び《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》を発動しようとする。いいえ、今度は、普通に《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》を発動させて、移動したわ。


 銀朱の光と共に移動したのは、自宅ではなくて、三鷹丘学園高等部の屋上よ。今度から再び働くことになったこの学園に、なんとなく足を運んでみただけよ。あの輝かしき学園に、今となっては、私の知る人は誰1いない内学園に。静巴さんが転校してくるのが唯一の救いかしらね。


「確か、今の生徒会長は、市原家の人間だったわね。副会長は、海外留学生だし。中々に興味深い組み合わせよね……。日本の伝統の塊である京都司中八家の1つと、海外からきた人間ってのは」


 京都司中八家は大概が、外部との……特に、海外との交流を極端に嫌う家が多いのよ。天城寺がいい例ね。まあ、冥院寺みたく、最近西洋にかぶれた家もあるんだけどね。

 まあ、そんなメンバーの生徒会顧問を務めなきゃいけないのよね。ああ、そうね、静巴さんも生徒会に入れましょう。そのほうが楽だもの。あ~、でも、するとえっと、書記に静巴さんを入れるとしても会計が空いてるわね。まあ、会計職は空いてても会長とかでもどうにでも埋められるしね。

 いえ、まあ、そんなことを言ったら書記もいなくても大丈夫なんだけどね。まあ、今の状態でも生徒会は回ってるみたいだし。まあ、尤も、その分、私にも仕事が回ってきそうだから、静巴さんを入れて、こっちに回ってくる分を減らす作戦なんだけど。


 これが、王司君の時代だったら、七峰さんと王司君で全部片付けて、それでも足りない分はルラさんと彩陽さんが片付けちゃうから。彩陽さん、生徒会役員じゃなかったのにね。そして、生徒会役員なのに何もしてなかった真希さんは……。まあ、いいわ。ここの現状は大体把握できてるし、別のことでも考えようかしら。


 恋……。それにしても、恋って言うのは何のかしらね。


 私がそんなことを考え始めて、空を見上げたとき、不意に、背後に誰かがいるのを感じて振り返る。そこには金銀髪(プラチナブロンド)の女が居たわ。うん、知り合い。


「あら、白羅(びゃくら)さん。こんなところで何してるの?また、実家に帰ってたの?」


 氷室(ひむろ)白羅(びゃくら)さん。ここ、三鷹丘学園高等部の生徒会室と繋がる場所に家がある関係上、実家に戻っていて、こちらに戻ってくるときは、ここにいるのよね。この人も、また、清二さんを愛していた一人。


「あら、秋世ちゃん、どうも。ええ、少し用があってね」


 かの龍神の元に集いし子供たちの1人して、氷の龍を身に宿した女性よ。第六龍人種と呼ばれる存在。


「用って何ですか?」


 少し気になったので、私は白羅さんに詳しく聞いてみようと思い、問いかける。すると、白羅さんは苦笑を浮かべていた。


「ちょっと気になる2人組が偶然にも、あの場所に訪れてね。何でも『元は同じ剣だ。それゆえに呼び寄せられるのだよ』とか言ってたけど、なんつったかしら、あお……アオヨ・シィ・レファリスとリリオ・ララリースって言ったかしら。妙な2人組だったわね。たぶん、片一方は【蒼刻】の使い手よ」


 【蒼刻】……、もしかして、清二さんの隠し子とか?


 そんなことを考えてしまったけど、そんなわけ無いわね。あの清二さんが、他の誰かに靡くなんて考えられないから。清二さんは美園さんにぞっこんだし、美園さんも普段は顔に出さないけど清二さんに甘えまくりだし。


「それにしても、アオヨって名前、何か、青色を意識した名前ですね。もしかして、そっちが【蒼刻】ですか?」


 単なる連想であって、特に大した根拠は無いけど、もしかしてそうなのではないかな、と思って聞いてみた。


「ええ、その通り。故郷に息子を置いて、次元旅行中らしいわ」


 息子、ねぇ。またそういう話なのね。そういえば、白羅さんに清二さんのことをどう思っているのか聞いてみようかしら。


「白羅さんは、……まだ、清二さんのことが好きなんですか?」


 私の問いかけに、白羅さんは頬を赤らめて、そっぽを向いた。だから乙女ですかっ!


 なんなの、私の周りの年上たちは。


「そうね……。私はね、恋って、絶対に相手から逃げちゃダメだと思うのよ。相手が、いくら突き放しても、追いかける。私の思いから相手が逃げても追いかける。そうやって、ずっと喰らい付いていくものだと思うのよ。あ、ストーカーじゃないわよ?」


 そんな風に言う白羅さんは、とても女々しく、女性らしさをそこはかとなく感じたわ。


 そうね、恋と言うのは諦められない、諦めたらそれは恋ではなくなってしまう。そういうものなんでしょうね。

 だから、私は覚悟を決めたわ。次に恋をしたら、その恋だけは絶対に諦めないって。


 その後、白羅さんと談笑をしてから、家に跳んだ。

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