131話:クリスマスSIDE.GOD
俺は、青葉紳司だ。彼女もいない平凡な高校1年生である。さて、高校に入学して、約9ヶ月経っても俺には彼女が出来なかった。……なんでだ?!
いや、ね。そりゃ、モテるとか思っちゃいないよ?でもさ、高校生になったんだから、それなりのことがあってしかるべきだと思わない?
しかも三鷹丘学園高等部と言う、地元でも有名な進学校に入学したんだぞ。勉強が出来るからモテても……って、そうか。この学校に来るってことは、それなりに勉強する真面目な奴ばかりだから、恋愛にうつつを抜かさないのも当然か。
いや、真面目な話、告白の1つもないし、ラブレターを貰ったり、ラブレターが下駄箱に入っていたりしたことなんてない。いや、今時ラブレターは古風すぎるにしてももっと何かあってもいいだろう?
例えば、超能力的な何かに目覚めて無双、彼女も出来てウハウハなんてことが……、まあ、起きないのが現実なんだよ。
高校入ってから編入してくる奴なんていやしないし。むしろ退学していく奴で減っていくなんて学校もあるらしいし。
そう、なんの変哲もない……いや、校風が変わっていて、しかも美人が多いが、それ以外に特筆することもない学生生活だった。おっぱいくらい揉んでみたいもんだ……。
ちなみに、俺が教室でモテない、と言うと、男子共にフルボッコにされる。それだけではない。何の気まぐれか、女子がクリスマスに一緒に出かけないか、と誘ってくれることもあるのだが……
「あ、やっぱり用事があるよね、ゴメンね、わたしなんかが誘っちゃって」
とまだ何も答えていないのに気まずそうに去っていく。どうなっているんだよ!用事なんてないよ!予定なんてねぇんだよ!こっちとら家族でクリスマス過ごす悲しいルート一直線だっつーの!
あー、クリスマスだし、父さんも帰ってくるかな?それともどこかに出かけるのか?いつもその2つのどっちかで、結局家族でクリスマスか、姉さんとクリスマスの2択になっちまうんだよ。
と、学校からの帰り道、父さんを見かけた。今年は帰ってくるのか?それを聞いてみよう。
「父さん、今年はどうするんだ?」
出会いがしらに聞いてみた。父さんは、暫し、固まった。そして、すぐに頭痛がしたのか頭を押さえて、俺に言った。
「悪いな。今年は、ちょっと知り合いのパーティーに出るから紫苑と俺はいない」
へぇ、知り合いとのパーティーじゃなくて知り合いのパーティーってことは、金持ちの知り合いの主催のパーティーか。
「別にいいさ。いつものことじゃん。じゃあ、俺と姉さんで寂しくクリスマスを過ごすとするよ」
俺がそう言うと、父さんは苦笑してこう言った。
「別に、お前も彼女と熱い聖夜を送ってもいいんだぜ?」
悪かったな!彼女なんていないもんでね!ったく、父さんは分かっててからかうからな……。
「ったく、はぁ……。俺はそろそろ行くぜ。じゃあ、暗音にもよろしく言っておいてくれ」
父さんはそう言うと、頭を押さえて、フラフラとどこかへ向かっていった。一体どこに行くんだろうな?
その後は当てもなく、フラフラと町を歩く。街中はクリスマス一色。一昔前の電飾ではなく、プロジェクションマッピングで壁や木は彩られている。
そして、そこを腕を組んで歩くカップルども。見せ付けるように歩く奴等を俺は許せない!リア充は爆発しろ!
そんな風に思っているのも嫌になってくるので、俺は、とぼとぼと人気のない路地を歩いて、家を目指す。
――ドンッ!
何かが肩にぶつかった気がしたが周囲には何もないから気のせいだろ。ったく、こんなクリスマスに心霊現象とは笑えねぇなぁ……。
まっすぐ行くと図書館があった。図書館で暇でも潰すかな?流石に図書館までリア充カップルでいっぱいなんてことは……。
……いっぱいでした。マジ勘弁してくれよ……!
どっかに、「カップルお断り」とかの店ねぇのかな?ホント、来年になったら、俺も恋人作ってウハウハしてぇなぁ……。
来年こそ、いい出会いがあるように、正月になったら神頼みでもしてみるか……。あぁ……おっぱい揉みてぇ……。
「あ、あの……」
ん?声をかけられたな。俺は、声のする方へと振り返った。するとそこには、同い年くらいの女の子がいた。
お、俺にも春が来たか?
「道を聞きたいんですが……」
女の子……、少し変わった格好だが、アレだ、露出の多いサンタコスだ。ケーキの配達でもやっているんだろうか、近くに大きな袋もある。
「えっと、どこっすか?」
俺は、暇だし、クリスマスにバイトが入って大変そうなこの子を手伝ってあげることにした。
「あ、はい、ここなんですけど」
何だ、地図があるのか……、って地図にめっちゃ印してあるんですけど?!これ全部回んのか?
「えっと、ここなら、こっちの道だけど入り組んでるから、一緒に行ってあげるよ」
こうして、俺は、このクリスマスをこの少女と過ごすことになるのだった。
100件以上の家を回った。もうヘトヘトだったぜ。女の子は、と言うと、全然疲れていない。何なんだ、この子?
「てか、家の前に置くだけでよかったのか?普通に考えて冷蔵庫に入れないと……」
ケーキって保存するのは冷蔵庫の中だよな?生クリームとか使ってるし。家の前に放置って……。
「ふぇ?アレを冷蔵庫に入れるんですか?と言うか食べるんですか?!」
あれって何だよ!ケーキじゃなかったんかい!
「えぇ……、一体、俺は何を配っていたんだ?」
マジで気になるんだが。てか、結局この子は何者だったんだ?
「あ、そういえば、名前を教えていませんでした。本来なら名前を教えるのはご法度なのですが……。セリュー・ニコライと申します。今日はありがとうございました」
ニコライ……?まあ、いいか。セリューだな。何で外人っぽい名前なんだ?
確かに、見た目は、かなり外人っぽい。怪しい格好の所為で見落としガチだが、顔の造詣は、ウチの学園の美人会長とかと同レベルだ。
赤いサンタ帽から覗くのは茶髪と金髪の中間の様な色。露出の高い肌は、真っ白で、ほとんど日に焼けていない。普段は外に出ないのか、いつも相当厚着しているのか、日焼け対策バッチリなのか。
胸もそこそこ大きい。ウエストはくびれているし……。色っぽいな。変な格好してるけど。
「えっと、その、もしよかったら、来年も……、そのまた来年も……、私の仕事、手伝ってくれませんか?」
仕事、年単位なのかよ!てか、まあ、べ、別に暇だったらいいけどな。ほ、ほら、来年は恋人できて忙しいかもしれないし。
「まあ、暇だったら、いつだって手伝ってやるよ。それに意外と楽しかったしな。毎年一緒にやってやってもいいくらいだぜ?」
俺がそう言うとセリューは目を輝かせた。な、何だよ?
「ほ、ホントですね!嘘じゃないですよね!ろ、録音しましたから!や、約束を破ったら怒りますよ!」
何をそんなに興奮していらっしゃるのやら?
「う、ウチの家業を手伝うってことはそういうことですからねっ!」
どういうことだよ?意味が分からんが、とりあえず快くうなずいておこう。
「ああ、もちろん、分かってるさ」
「名前、教えてください」
そういえば、名乗っていなかったな。
「青葉紳司だ」
こうして、俺は恋人のいない不思議なクリスマスをそれなりに楽しく過ごせたのだった……。
SIDE.???
うん、今年も無事、プレゼントを配り終えたよ、おじいちゃん。大丈夫、うん。
え?今年は早いって?それは慣れてきたからだよ。
……それに、今年からは一緒にやってくれる人ができたからね。
え、許さないって、家を継いだのは私だよ?
そう、セリュー・ニコライ。
仕事のときの便宜上の名前は、セリュー・サンタクロースだよ。
分かってる。私は、サンタ。サンタクロース。極寒の地で、普段は、シロクマやペンギン、アザラシを狩って暮らす狩猟民族で、クリスマスになると私達の民族全員で、プレゼントを用意して配る。それが今日、この日。
クリスマス。我等が主、イエス・キリストが降誕なされた日。
さらに、今日は、私が初めて仕事を任された日。
そして、愛に目覚めた日。
どうか、……どうか主よ、我が罪を許し、我が恋を成就させてください、そうでありますように。
前にも短編として正月あたりに載せていたのものです。
言っていた通り、もう一回載せます。