127話:帰宅SIDE.D&面影SIDE.ZERO
京都駅から、新幹線で東京駅へと向かうってんで、まあ、整列して、順番に予め決めた席のところに座れるように並んで、新幹線に乗り込んでいくわ。まあ、順番は行きと変わらないから、あたしとはやて、友則と輝って感じよ。
新幹線の座席はくるりと回せるところがあって、丁度向かい合うようにできるの。対面式ってやつよ。それで、あたし達と輝達が向かい合うようにした。無論、はやてと友則が、あたしと輝が向かい合う形よ。
はやてと友則は、いつものようにバカップルさながらの会話をしているので、放置するけど、輝は、何かを考え込んでいるようね。
その顔は、かつての光を髣髴とさせる悩み顔で、懐かしさと一緒に笑いがこみ上げてくるわね。
「ほぇ、どうしたの、暗音ちゃん。急に笑って」
はやてが聞いてくる。あら、微笑レベルだと思ってたんだけど、どうやら、不審に思われるくらいには顔に出てたみたいね。
「ううん、思い出し笑いよ」
気にしないで、とはやてに笑いかけてから、あたしは、輝に向かって話しかける。いつもの感じで、何気なく。
「輝、燦ちゃんのこと、考えてるんでしょ?」
あたしの言葉に「ぼはっ」と何かを吹き出す。あらら、やっぱ、正解みたいね。まあ、あれだけ真剣に悩むのは、それくらいしかないわよね。
燦ちゃんってのは、輝の前世の光が婚約した九浄天神家の令嬢、九浄燦ちゃんよ。
「え、鷹月君、彼女いたのぉ?」
はやてが、驚きながら、あたし達の話に入ってくる。すると必然的に友則も会話に加わってくるわけで……
「マジか……、何で教えてくれなかったんだよ」
コイツが会話に加わると、何か真面目な話じゃなく感じるのは何でかしらね。まあ、いいわ。
「いや、いたって言うか……」
まあ、現在進行形でいるわけじゃないけど、「輝」に彼女がいたわけでもない、っていう何とも言えない状況よね。あたしも零斗とのことを聞かれても彼氏がいたともいるとも言えないっていう。
「ああ、もう、そういうお前等こそ……ああ、うん、なんでもないです、はい」
そういうお前等こそ彼氏彼女いるのか、と聞こうとして、聞くまでも無いことに気が付いた輝は問うのをやめた。
「じゃあ、あん……暗音さんはどうなんですか?」
輝の矛先があたしに向けられた。それに対して、はやても友則も興味津々、と言った反応を見せる。
「暗音ちゃんって彼氏いるのぉ?どんな人?」
と言うのがはやてで、
「まあ、いてもおかしくねぇよな。どんな奴なんだろ。物好きにも程があるか、見た目に騙された奴か」
と、友則。……友則、あんた、失礼にも程があるわね。まあ、零斗が物好きか物好きじゃないか、と言われれば、物好きな部類だったんでしょうね。あたしの裏の顔に惹かれたんだから。
「いないわよ。あの馬鹿、どこにいるのかもわっかんないし」
てか、マジでいるのかしらね。あの【零】の眼を貸してくれたのは、きっと零斗なんでしょうけど。生きてるのか死んでるのかも分からないのよね。
「え、あの馬鹿ってことは、いたことあるのぉ?」
はやてが聞いてくるけど、まあ、何て答えりゃいいのかしらね。かつて、共に闇の道を歩んだ、あの馬鹿の顔は未だに忘れない。でも、それは八斗神闇音の記憶。あたし青葉暗音では、決して無いのよ。
「零斗さん、どうしてるんだろうな?燦ちゃんもそうだけど」
輝がそんなふうに苦笑を浮かべた。まあ、もし、本当に転生しているとしたら、いつか、あたしの前に姿を見せるでしょうね。
「まあ、きっと、運命と言うものがあるのなら、導きの元に、再び会えるでしょ」
あたしは、そんなことを呟いた。それに対して、輝もまた呟いた。
「星の導き、か……」
それからしばらくは他愛もない話をして、盛り上がった。その後、全然寝てなかったあたしは、熟睡して1時間半くらいを潰したのよ。
ちなみに、大体、京都から東京まで新幹線で行くと2時間20分~2時間30分くらいで着くので、割りと寝てたことになるわよね。
東京駅に着くと、これまたあたし、輝、はやて、友則の4人で、固まって、東京から千葉方面の電車に乗って、千葉まで行って、千葉で乗り換えて、あたしは鷹之町中央駅、はやてたちは鷹之町東駅で下車したのよ。
さて、と、たぶんあたしの乗ってきた電車の折り返しに紳司が乗ってくるでしょうから、のんびり帰るとしましょうかね。
時間を見るに、紳司が帰ってくるまで、あと20分から30分ね。
父さんの説明会もあるからとっとと帰ってきてほしいんだけど。
【SIDE.ZERO】
唐突で、突然だが、俺、七鳩怜斗は、最近、妙な夢をよく見るのだ。生まれながらに色素の薄い、薄紫の眼を持って生まれたのに、誰もそのことを気にした様子はないし、眼科医も異常は見られないという。俺は、この夢に、この目が関わっているのではないか、とも思ったがどうやら違うらしい。
この目は【零】の眼と言う眼で、夢の中の俺は、それを用いて気配を消して、暗殺を主な仕事にしていたらしい。
そして、そのうち、夢の中の俺には婚約者ができた。最初は、暗殺任務のときに偶然であっただけだったが、そのうち、どうやって調べたのか、俺の家に乗り込んできて、「結婚するわよ!」と顔を真っ赤にして言ってくるんだ。夢の中の俺は、何がなんだか分からないままに結婚して、子供も生まれた。
暗殺もやめて、子育てに専念して、それでも遺伝じゃあ、無いんだろうが子供も気が付けば暗殺者になっていた。
零祢の奴が暗殺者になってどのくらいだったかな、あいつが14か15歳のとき、いや、13歳だったか。ともかく、そんな頃に、ある家の令嬢を掻っ攫ってきたんだよ。しかも、零祢の奴、その一都呉菜って令嬢との間にはいつの間にか、もう、子供すら出来てたってんで、俺も闇音も反対できずになし崩しで結婚を認めたんだがよ。
まあ、妊娠と同時期……てか、掻っ攫ってきた時点で暗殺者も辞めて真面目に働くようになったんだが。
そして、呉零が生まれた。
そんな騒々しくも暖かい日々の夢を最近よく見るようになった。そして、あの日、道に迷って、何かの偶然か、それとも導かれたのか、奈良に行ってしまった次の日にはっきりと自覚したんだ。
あれは夢なんかじゃないって。俺の前世なんだってな。
そして、引越しの日だ。俺と、幼なじみの讃が引っ越すことになっている。引っ越す場所は、鷹之町って言う、それなりの規模の市だ。鷹之町市であって、町じゃないって言うな。そこの東町に引っ越すことになっている。
編入先の学校は、鷹之町第二高等学校。なんか、編入試験はむちゃくちゃ難しかったっていうな。今は、学校の俺の学年の奴等は修学旅行中だから、今日、引っ越して土日休みで、月曜日も休み。その次の日から学校と言う形になるらしい。
修学旅行明けは一日休みを入れるのだが、今回は土日に重なっているため3連休になった、と面倒くさそうに事務の人が言っていた。
「ん、ああ、讃か」
俺の家と讃の家は仲がいいため、引越しのときも、俺の親が運転する車に俺と讃で乗る。讃の引越し先も、俺の引越し先の隣なため、どれに乗っても変わらない。
「あ、怜斗君。おはようございます」
恐山讃。俺の幼なじみにして、いつも日本刀を持ち歩く変わり者。何でも家に代々伝わってきたものらしく、絶対に離さない。むろん、許可を取って帯刀しているので、何ら問題は無い。
「それ、持って行くのか?」
俺は、答えが分かっていながらも聞いてみる。すると、讃は「また、それを聞くんですか?」と言った表情で言う。
「当たり前です。日本神話にも出てくる高明な刀なんですよ?……それに、何て言ったって、……」
ん、何かいつもの文句に追加されて何かを言ったみたいだが、声が小さくて聞こえなかったな。
「この刀は再会の証になるんですよ。まあ、怜斗君には分からないでしょうけど」
再会の証、ねぇ。誰とのだよ、まったく。まあ、いいや。俺は俺で、闇音との再会が出来たらいいと思っているが、闇音も転生しているかどうかなんて分からないしな。
だが、1つだけ確かに言えることがあるとしたら、俺は、どうやってでも、闇音を見つけ出して会いに行ってみせる、ってことだけだ。
「早く乗ってください、怜斗君、車が出ますよ」
讃の声で、俺はボーっとしていたことに気づき、急いで車に乗り込んだ。車は、引越し業者に頼んでない荷物が積み込まれていて、ギュウギュウ詰めになっている。
「はぁ、だるいな……」
溜息をつく俺を、車が運んでいく。さて、ここからの道のりは長いぞ?
だいたい車で高速を飛ばしても8時間30分くらいかかるし、途中のパーキングエリアとかでの休憩を含むともっとかかる。着くのは今日の夜になるだろうし。
「まあ、気長にいきましょう」
讃はそう言って、紅茶を飲む。和風な家なのに、何故かこいつは昔から紅茶がすきなんだよな。
「でも、向こうで、きっと……きっと会えますよね、光さん」
そんなボソリと呟いた声が俺の耳に入る。さっきの再会の証が関係しているんだろうか、刀をぎゅっと抱きしめながら窓の外を見て、思い耽る讃。
俺は俺で、闇音のことでも考えるかな……。