126話:帰宅SIDE.GOD
バスで関西空港に向かう。ロビーで大きな荷物を伝票と共に配達業者に預けて、行きと同じようにバスに乗り込んだ。業者に預けた荷物は後日、家に届くようになっている。そのため、貴重品は入れないようにと注意もキチンとされていたな。
しかし、この修学旅行、全然、寺とか見れた気がしないんだが……。まあ、中学校の頃、京都で散々、寺とか見たからいいんだけどさ。
もう、ホント、色々と忙しかったよな……。だが、まあ、色々と収穫はあったよな。前世のこととかは特に。【神刀・桜砕】も俺達の元に戻ってきたし。なお、【神刀・桜砕】は、静巴の物として静巴に預けたままにしている。本来、俺が静葉に送った刀だからな。
さて、行きと同じ、と言うことは、俺の前には七星佳奈、俺の横には静巴、俺の左斜め前には秋世が座っているのだ。
この3人、特に秋世、静巴は、この修学旅行でぐっと距離が縮まったのだが、行きのバスでは距離を取っていた静巴、むっちゃくっついてきてるし、秋世はチラチラ見てくる。
「はぁ……」
俺は溜息交じりに静巴とは逆の隣の方を見た。通路を跨いで向こうに座る女子達。同じクラスの……まあ、A組のバスなのだから当然だが、……雷鳴尊と茉雪雪子だ。よく一緒にいる2人なので、バスも隣同士らしい。
「え、何で私が?」
誰かと電話しているらしい雷鳴は、少し焦ったような顔をしていた。何か電話の相手に無茶な注文でも付けられたのだろうか?
「ちょっと、雪子さんからも言ってやってくださいよ。太陽君たら、また厄介事を押し付けてくるんですよ?」
どうやら、電話相手は太陽と言う名前らしい。それも茉雪とも共通の知り合いみたいだな。俺は、秋世や静巴から意識を逸らすのに丁度いいといわんばかりにそちらに集中する。
「え、別にいいんじゃない?厄介事かどうかもまだわかんないし。それに、団長の命令は絶対っしょ?」
だ、団長……?またおかしな奴が出てきたもんだな。こいつ等も一般人じゃないのかよ……。
「もぅ、せめて氷雨先輩が居てくれたらよかったんですけどね」
ああ、もう、魔法少女の一件みたく別の組織とか出てこないでほしいんだが、どうすんだよ。
「副団長は、お仕事中だからねぇ。ま、副団長が何言っても団長のサボり癖は直んないと思うよ。だってあの2人は、あたしら以上に付き合いが長いんでしょ?
流石にあたしもあの2人の間に割って入るのは無謀だなぁって思って、それで王条君派に鞍替えしたんだもん」
どうやら、それなりの人数でやっているようだが数十人とかは流石に無いのだろう。個々の名前が互いに分かる程度の組織だ。
「嵐君は、随分年下ですけどね。て、それどころじゃなかったです。それで、今回は何ですか、太陽君」
電話してる途中だったのを忘れていたらしい雷鳴は、慌てて、電話の向こうの太陽という奴との話に戻る。
「え、『八咫鴉』からのタレこみ、ですか。それ信用できるんですか?」
八咫烏って言うと、足が3本ある烏のこと……じゃないよな。この場合は、おそらく、守劔の言っていた「【神代・大日本護国組織】第一師団『八咫鴉』」の「八咫鴉」なんだろうな。
「え、ああ、はい、奈良で確かに守劔さんは見かけました。え、あの守劔さんからのタレこみなんですか?
でも、うちとは分野が違いますよね。諜報系が主流の第一師団の情報は、まあ、信憑性が高いのは分かりますが……。え、勧誘ですか?」
やっぱ守劔の名前も出てきているし、そう言った関係なのは確かだな。しかも分野が違うってことは、第一師団ではないが【神代・大日本護国組織】の一員なのだろう。
「え、勧誘って珍しいね。誰の勧誘なの?」
茉雪もその話に興味を持って、ぐいぐいと2人が1つのスマートフォンに密着する形になる。
「え、……ああ、はい、知っていますけど。彼をどこへと勧誘するんですか?」
どうやら、勧誘相手は知り合いみたいだな。名前を聞いた瞬間に、ちらりと俺の方を見た気がしたが、俺の視線に気づいたのだろうか。
「え、第零?!」
大きな声を出した所為で、バスの中の皆が雷鳴と茉雪の方を見た。2人は「なんでもないよ」とジェスチャーでアピールしながら、電話に戻る。
「だ、第零か、第一って特務レベルじゃないですか。何故、そんな待遇を……、え、特務待遇第一特殊事案ですか?」
何か、大事になってきたな。そんなヤバイ奴を勧誘するのか。なんか、特務待遇を適用するとか凄い奴すぎだろ。【神代・大日本護国組織】ってのがどんな組織かは知らないけど、それなりに凄い組織なんだろ?
「ですけど、そんなの、……え、Rタイプですか。そんな馬鹿なことがあるわけ無いじゃないですか。あれは、天辰流篠之宮神に付けられたコードであって、それが適用される人間など……」
何か、色々と大変そうだ。まあ、俺には関係なさそうな話だしな、仕方ないから静巴と話でもするか。
「ええ、まあ、確かに、隣に居ますが」
隣……。雷鳴の隣にいるのは、茉雪と俺だ。で、仲間の茉雪の話をするわけは無いし、守劔との面識を考えると……。いやいや、考えすぎだよな。
「では、青葉紳司を要勧誘対象に認定するということで」
「ぶふっ」
俺は思わず吹き出してしまった。え、俺が要勧誘対象だって?
てことは、さっきまでの話は俺の話ってことになるわけであって、ああ、なるほど、さっき俺の方をチラリと見ていたのは俺の名前が出ていたからか。
「おいおい、【神代・大日本護国組織】。俺が要勧誘対象ってどういうこった?」
身を乗り出して、小声で雷鳴に問いかけた。雷鳴は、俺の言葉にビクっとなって、周囲をキョロキョロと見渡して、小声で言ってくる。
「き、聞いてたんですか?」
まあ、そりゃ聞いてたが、それよりも【神代・大日本護国組織】って読みは当たってたみたいだな、否定されないし。
「耳いいね、青葉」
茉雪も意外そうに俺の方を見ていたが、それどころではない。俺が要勧誘対象って言うのはどういうことなんだよ。
「はぁ……。私達は【神代・大日本護国組織】第四師団・『天候色彩』です。
私は、団員、【雷鳴の巫女】こと雷鳴尊といいます」
いや、名前は知っているんだが。そういえば、こいつ等よく休むと思っていたが、そういう理由だったのか。
「あたしは、【粉雪の雪女】こと茉雪雪子よ」
この2人の他にも、会話から団長の太陽、副団長の氷雨椿だか椿氷雨だか、あと王条嵐だか嵐王条だかがいることは分かった。
「青葉君、貴方は、R体だという情報が入っているんですが、それは本当ですか?」
あ、R体?何だ、そりゃ。何かの隠語か何かだろうけど。俺が関係ありそうなもので、守劔が知っていそうなもの……。
ああ、なるほど、Rはリターンとかリサイクルとかそういう系統のRだな。即ち、転生を意味している。R体は転生体ってことだろう。
「ああ、かつては、異世界で鍛冶師をしていた。その頃は六花信司。現在は青葉紳司、ただの学生さ」
その言葉に、驚いたようにしていた2人を見て、やはりR体は転生体のことだったんだな、と安心する俺。
「鍛冶師……。どの世代の鍛冶師ですか?」
どの世代って、まあ、俺は有名じゃないから分かりづらい時代の人間なんだろうが……。まあ、いい、俺の世代と言うと。
「レン・オオミ、シーゼル・フュー・フォン=ガレオン、ナオト・カガヤとかが居た時代だけど?」
俺の言葉に、目を見張る2人。どうやらこの3人のどれかには聞き覚えがあってくれるようだ。
「三大刀匠の時代ですか。となると、統括管理局が出来た辺りの年代の人間ですね」
お、ご明察。その通りで、俺とか静葉、英司は、あの時代に、リアルタイムで、その誕生を知った世代だ。まあ、管理外の辺境世界のさらにその辺境に居たため、関わってくることはなかったけどな。
「その通り。まあ、細々と経営してたし、大した作はないから無名だったけどな。ほら、俺の唯一の傑作さ」
俺はそう言いながら、静巴が小脇に抱えていた【神刀・桜砕】を抜き取り、2人に渡してやる。静巴が何事か、と驚くし、秋世も不審そうにこちらを見ていたがとりあえず、今は2人に、これを見せてやるのが先だろう。
「ふぇ、あるんですか、実物が?」
雷鳴が恐る恐る受け取って、鞘袋からチラリと抜き出して見た。桜色の刀身に、かなり驚いているようだ。
「ま、そういうことだよ」
そう言っているうちに関空に着いた。そのまま、【神刀・桜砕】を回収して静巴に渡しつつ、俺は2人言った。
「俺は、【神代・大日本護国組織】に入るつもりはねぇよ」
そのままスタスタとバスを降りて、空港の中へと向かう。そして、流れるように手続きを済ませて飛行機に乗る。飛行機の席はバスとは位置が変わるので、近くにあの2人がいない。
飛行機の中では、秋世をからかいつつ、静巴とイチャつきながら、長いフライトを終えて地元の空港に着いたのだった。
さあて、早く家に帰ろう。今日は父さんの説明会があるのだから。姉さんも家に帰ってるといいんだが。
え~、本日2話目でございます。




