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《神》の古具使い  作者: 桃姫
京都編
123/385

123話:喜びと共に夜は更けるSIDE.GOD

 裕蔵が「成果を出せ」と言うだけ言って席を立とうとした、そのとき、バタバタと慌しい足音が廊下に響いた。どうやら誰かが走っているようだ。こんな夜に家の中を走るなんて迷惑な奴だな。でも、歩幅とか速度的には女の人かな?


「む、誰だ。このような時間に走るとは」


 裕蔵も、眉を顰めてそう言った。そして、その足音はまっすぐにこっちに迫ってきていて……。


 コンコンと障子の節をノックする音が響いた。障子をノックすると破けるからだ。俺達は、障子の方を見る。

 そのシルエットから、女性なのは分かった。ていうか、たぶん、俺も知っている人だと思う。


「入れ」


 裕蔵がそう言うと、障子が開き、俺の予想したとおりの人物が姿を見せた。祭囃子祭璃さん。裕太の部下の女性だ。


「し、失礼します。裕太様、大変ですっ!」


 入ってくるなり、裕蔵をガン無視で、裕太の元へと駆け寄った祭璃さん。その手にはブレスレットのようなものを持っていた。


「どうしたんだよ、祭璃。そんなに慌てるなんてお前らしくもない」


 裕太が祭璃に対してそんな風に言った。しかし、祭璃さんは、落ち着かない様子で、手に持っていたものを裕太に渡す。


「こ、これをっ」


 裕太は、6つのブレスレッドが繋がったようなものを祭璃さんから受け取った。そして、よく分からなさそうに見ていた。


「これは?」


 裕太が祭璃に聞いた。祭璃は、2、3度、深呼吸をして、自分を落ち着かせてから、裕太に説明する。


「これは、4つ目の《人工古具》、《やがて来る福音(しあわせ)》です」


 その言葉に、裕太、結衣さん、カノンちゃんが驚きのあまり、目を見開いた。そして、祭璃さんは、裕太に一枚の紙切れを手渡した。

 受け取った裕太は、その紙に目を通す。しかし、よく分からなさそうな顔をしていた。その紙を裕蔵が奪い取る。


「なるほど、結音の文字だ。《やがて来る福音(しあわせ)》の設計図。共通語で書かれているから、一般人には読めないものだろうが……。祭囃子博士、どうして、これを読めた?」


 裕蔵の問いかけから察するに、それは異世界の言語で書かれたものなのだろう。だから裕太は読めずに、よく分からなさそうな顔をしたのだ。


「い、いえ、私にも読めません」


 祭璃さんは、読めない、と否定する。祭璃さんはこの世界の人間なのだろう。異世界の文字は流石に研究員でも読めないようだ。


「では、何故、その名前を?」


 そう、確かに祭璃さんは、《やがて来る福音(しあわせ)》と言った。そして、裕蔵は、紙切れにそれが書いてあるのが分かったからこそ、「何故読めるんだ?」と言った趣旨の質問をしたのだ。

 祭璃さんは、読めないのだとしたら、どこかでその名前を知る必要があるのだ。どこで知ったのか……。


「えと、先ほど、魔法幼女うるとら∴ましゅまろんと名乗るスクール水着姿の少女が……」


 怪しすぎるっ、と言いたいところだが、もっと怪しい魔法少女……もとい魔法童女を知っているので、スク水ならまだ許容範囲だろう。

 もっと怪しいってのは、こう、全裸にマントとか言う……タケル、お前のことだよっ!


 しかし、魔法幼女(・・)と言うあたり、本物っぽいな。普通に怪しい少女なら「魔法少女」と名乗るはずだ。そこを魔法幼女と名乗るってことは本物の……タケルの仲間の可能性が高いな。


「うるとら……?」


 しかし、俺は、全く知らない名前に、心の中で首を傾げつつ、記憶を当たった。しかし、俺の記憶に該当する名前は無かった。


「魔法幼女うるとら∴ましゅまろんと言えば、マナカ・I・シューティスターよね?」


 闇音さん……ではなく姉さんだ。いつのまにか、姉さんに戻っていた。姉さんがグラムから聞いたであろう事を言う。俺は、その名前に聞き覚えがあった。


 タケルが捜している人物……「愛藤(あいとう)愛美(まなみ)」。またの名前を「マナカ・I・シューティスター」である、と。タケルの所属する組織のCEO……最高経営責任者であるとのことだが。


「愛藤愛美……。父さんの仲間でもあるっぽいしなぁ……」


 また、父さん関連が関わってきたのか、と溜息交じりに呟いた。その魔法少女……もとい、魔法幼女は、何だってこんなところにいたんだろうか。


魔法少女(まほうしょうじょ)独立(どくりつ)保守(ほしゅ)機構(きこう)か……。まさか、奴等までもが関わってくるとは。しかし、完成したのか……」


 裕蔵がたらりと汗を垂らす。そう、他人が関わっていたとはいえ、成果ができてしまったのだ。


「……、分かった、認めよう。男に二言は無いからな。……そうだろう、植野よ」


 裕蔵は驚くほど、あっさりと裕太、結衣さん、カノンちゃんを認めた。そして、どこか遠い目をして、見上げながら最後の「そうだろう、植野よ」と呟いていたのだ。植野とは、姉さんがグラムから聞いたことを言っていたのを聞く限り、仲間だったのだと思われる植野瑠治のことなのだろう。

 彼との約束か、はたまた、彼の口癖だったのか。それとも両方か、いずれにせよ、裕蔵は裕太を、結衣さんを、カノンちゃんを、それぞれを認めたのだ。


「あとは、市原先輩が戻ってくれば、な」


 俺は、ボソリと呟いた。ユノン先輩、貴方の父親は……貴方の家は、貴方が思っているよりもずっと優しい家ですよ。ただ、少し不器用なだけで、貴方が忌み嫌うほど、酷いものじゃあ、ないんです。だから、……夏休みにでも、帰省してみてくださいよ。


 俺は、そんな風に、ここには居ない生徒会長へと思いを心に綴った。そして、6つのリングの付いた《人工古具》を皆で見る市原家の人間を置いて、俺と姉さん、由梨果は、そっと席を立つ。部屋の傍らに居た祭璃さんが、それを見て、静かに声をかけてきた。


「送りましょうか?」


 そう問われたが、俺たちは首を横に振る。そして、そっと部屋を出て、まっすぐに市原家を出た。市原家を出ると、昨日……いや、一昨日とは打って変わって見事な星空が広がっていた。


「あたし、星空って苦手だわ」


 姉さんが肩を竦めて、そう言った。まあ、姉さんの前世は、暗殺家業っぽかったし、暗い夜の方が好きなのかもしれないな。


「さて、と、そんじゃ、タクシーでも呼んで、帰りますか」


 もちろん、そのタクシーとは秋世のことである。しかし、その必要は無かった。一台の車が……真っ黒なバンが通りかかって、俺達の前を少し通り過ぎたところで停まったのだ。


 そして、そのバンから、俺の見知った顔が出てきた。それは、明津灘守劔。紫炎の義理の姉である女性だ。後から出てきたところを見ると、運転しているのは 別の人物なのだろう。


「あら、奇遇ね、青葉の紳司君」


 守劔は、ニヤリと笑みを浮かべていた。その中で蠢く別の気配が相変わらず気持ち悪く感じてしまう。姉さんも同様に気持ち悪く感じたらしく、自分の腕をさすっていた。


「青葉?」


 その声は、運転席の方から聞こえてきたものだ。その男の声に、妙な聞き覚えを感じつつ、運転席から降りてくる人物の顔を見た。


「おおっ?!王司に超そっくりな奴、発見」


 運転席から出てきた3、40代くらいの男は、俺を見るなり、そう言った。王司……つまり父さんの知り合いのようだ。


「あら、本当に、青葉先輩にそっくりですね」


 助手席から降りてきた女性も俺の顔を見ながらそう言った。どうやら、この女性は言動から察するに見た目どおりの年齢では無いらしい。いや、無論、父さんと年の離れた後輩の可能性は無いわけではないが、おそらく見た目どおりの年齢では無いほうだ。


「お察しの通り、俺は、青葉王司の息子の青葉紳司ですが?」


 俺は彼等に自己紹介をした。姉さんは自己紹介をする気は無いらしく知らん振りを決め込んでいる。由梨果は、自分から自発的に自己紹介するなどおこがましい、メイドは名乗らずに半歩引いて置物のようにしていればいいのです、と言わんばかりにジッとしていた。


「俺は、月丘(つきおか)祐司(ゆうじ)。新聞記者をやっているもんだ。王司とは親友だったんだぜ?」


 ああ、この人が、父さんの唯一の男友達か。前に律姫ちゃんと出かけるときの朝に母さんが言っていた「男友達は1人だったんです」と言う言葉が再度、頭に甦った。


「わたしは、月丘(つきおか)八千代(やちよ)です」


 そこで、守劔が明津灘家で言っていたことを思い出す。そういえば、「伯母の婚約者の友人が青葉王司殿でしてね」と彼女は言っていた。つまり、この八千代と言う人物は、守劔の伯母に当たるのだろう。やはり、見た目どおりの年齢ではないはずだ。

 いや、まあ、八千代さんが祐司さんの娘という可能性もなきにしもあらずだが、父さんを先輩と呼んだことから十中八九、俺の予想通りだろう。


「守劔義姉さんの伯母さんってことでいいんですよね?」


 俺は確認の意味を込めて聞いてみる。すると、八千代さんと守劔は、少々驚いていた。祐司さんは驚いていなかったけど。


「どうして分かったのかしら?」


 守劔が俺に聞いてきた。なお、祐司さんは「まあ、王司の息子ならこんなもんだろ」とか呟いていた。


「前に聞いていたし、口ぶりから見た目どおりの年齢ではないことは察しがつきましたからね」


 自分でもむず痒い敬語で解説ともいえない解説をした。まあ、ぶっちゃけた話、予想した、としか言えないんだが。


「さすがは王司の子だな。理解力、推理力が半端ねぇ」


 同じく王司の子である姉さんが、ぎゅむ、と俺の足を踏みつける。どうやら、俺ばっかり褒めれているのが気に食わないらしい。


「あ、そだ。それで、こんなところで、何してたのかしら?」


 守劔が俺に聞いてくる。なるほど、それを聞くために車を停めたのか。俺は、経緯を説明するわけにもいかないので、適当にでっちあげた説明をする。


「ちょっと、道に迷ってですね。で、帰ろうにも帰れず、この家で車を借りようとしたら追い出されました」


 すっごい適当だ。なお、車を借りようと、のところで由梨果を見て、由梨果が運転する人みたいなアピールを念のためにしておいた。


「まあ、市原家だしね。うちの縁者は追い出されるか……。いいわ、送っていくわよ、祐司伯父さんが」


 それを聞いた祐司さんが「俺がかよっ?!」と声を上げた。いや、運転してたのアンタだろ?





 こうして、市原家との京都でのいざこざは解決したのだった。そして、明日……もとい、今日は、もう修学旅行最終日である。

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