12話:部活の内情
シャワー室、と言ってもそこまで大きいわけではない。シャワーが5台、仕切られて設置されているだけだ。しきりは、さほど大きくなく、と言うか、普通に考えて、ほぼ見える。何が、とは言わないが、見える。へそしか隠れない。
5台と言う台数だが、15人なので少し時間をズらせばキチンと機能する台数だろう。目に見える破損はない。シャワーも念のために捻ってお湯と水を出したが、全ての台がキチンと出ていたので大丈夫だろう。
変なものがないか探すが、毛1つ落ちていない。無念だ……。いや誰のかわからん毛を拾ってもどうもしないんだが……。
「しかし、シャワー……?」
シャワー室を見て回って、特に何もないのだが、妙な違和感を覚えて仕方がなかった。いや、男子禁制の場とか、初めて来た場所とか、そんな理由ではなく、違和感を覚えたのだ。
「何だ、何がおかしい?」
ただのシャワー室のはずなのに、俺は、何でこんなにも違和感を覚えているんだ?別に、おかしいところはないはず。
タイルも、変な模様が刻まれているだけで、特に普通のものだ。天井にもさほどおかしな点はなく、普通に……。天井?そういえば、天井にはタイルがないな。
……。奇妙、奇天烈。それに心なしか、視線を感じる気がする。まあ、俺は、一般人なので、視線とかはっきりいって分からないんだが、それでも何か……。
目を凝らす。静かに、周りの背景を全て個として分割する。妙なものを……。そういえば、あのタイルの模様。5つだけ違う。それも、ちょうど、シャワーの対面になる部分に。
なるほど、これは、カメラか。ふむ、なるほど、頭がいいな。まず、ここならばれないだろう。男子禁制、カメラを仕掛けるものなどいないと思うだろうし、電気はシャワー室の壁を這うように裏にはりめぐらされている。そこからパクるのは楽だ。
「と、思ったら」
流石に、そこまでの頭は内容で、電池式だった。まあ、たかが学生が電気を直接盗むようなまねは出来ないか。
「まあ、そんなもんか」
違和感の正体はこれか……。まったく、苦労させてくれるな。
……。何か、まだ、見落としが……。
「ちょっと、青葉紳司君?いつまでシャワー室を見学しているの?」
ユノン先輩がやってきた。て、言うか
「フルネームは面倒なので紳司で構いませんよ?あと、カメラ見つけました」
「あ、あ、そ、そう?って、カメラ?」
俺は、ユノン先輩に、カメラがあるタイルを指差した。ユノン先輩はタイルを覗き込み、カメラに気づく。
「あ、カメラってこれ?タイルの模様の所為で全然分からなかったわ」
そもそも模様が紛らわしいのだ。黒い丸を囲むように多重の四角がズレて重なっている妙な模様だから。中心の丸をくりぬき、カメラをはめ込めば、ばれにくくなる。
「あら、それ、天姫谷さんの発注したタイルだったと思いますけど……」
橘先生がそう言った。どうやら、他の担当箇所は全て終了したらしい。
「更衣室で問題の品が出たけど、こっちはそれ以上ね……」
問題の品、と言うのは、きっと櫛嵩先輩の私物だったのだろうけれど、まあ、その話は後に回すとしよう。
「天姫谷……?あの、天姫谷の人間が、ウチの学園に?」
ユノン先輩はなにやら驚いている。聞いたことがないな、天姫谷って。なんだろうか。
「天姫谷は、ウチと同じ京都の旧家の一つよ。京都にあるウチと同種の旧家の8つの中の1つ。【呪憑き】の天姫谷家」
妙な二つ名だな。【呪憑き】ってのはなんだろうか。
「【呪憑き】の天姫谷家。
【退魔】の市原家。
【古武術】の明津灘家。
【日舞】の雪白家。
【我流】の支蔵家。
【殲滅】の冥院寺家。
【仏光】の天城寺家。
【天狐】の稲荷家。
この8家が今の京都司中八家よ。昔は、天龍寺家もそこに並んでいたわね」
なにやら中二っぽい名前が羅列された。そしてそんな中にある日舞と古武術。普通じゃん。え?何、何なの?
「まあ、それなりに因縁ってのがあるのよ。ウチと他の7家には」
何か、一気に異能バトルラノベ系の設定が出てきたな。まあ、《古具》とかの時点で、十分に異能系ラノベなんだが。
「天姫谷家の子が発注したタイル?何か怪しいわね……」
怪しいって、どんな因縁があるんだよ。しかし、俺は、シャワー室を見渡してみる。妙な模様のタイル。……。
「そういえば、その天姫谷って子は、今日は?」
ユノン先輩が橘先生に問いかけた。橘先輩は、ボーっとしてるところに声をかけられた所為でとても慌てていた。
「えっと……、天姫谷さんでしたっけぇ?彼女は、この間、ちょっとした問題で、自主休部中なの」
ちょっとした問題?どんな問題だよ。
「その……、女の子同士で、シャワー室で……、あの……」
ふむ、なるほど。そういうことか……。だが、ふむ……。いや、まさか、な。だが、あくまでレ……百合っ子ととるか、それとも何か目的があったのか?
俺はスマホを取り出した。
「何故に取り出したのよ。し、紳司」
なぜか俺の名前を言うのに言いよどんだが、まあ、かまわん。しかし、名前で呼んで言いとは言ったが、鵜呑みにするとは……。
「少し写真を撮っておこうと思いまして」
「誰もいないシャワー室の?!」
俺は、シャワー室の写真が撮りたいわけじゃないっつーの。
「タイルの、ですよ。少し気になりましてね」
「ふぅん、タイルが気になるの?私があんなことを言ったあとで言うのもなんだけど、別に結界とか魔術とかはないと思うわよ」
呪術結界とか、呪いとか、って話だろう。まあ、ないとは思うが、気になるからには調べたい。
「そういえば、自主休部しているのって天姫谷って子だけなんですか?相手の子は?」
俺は、気になったので橘先生に聞いてみた。橘先生は、バツが悪そうな顔で、少し間をおいて耳打ちするように顔を近づけてきた。
「内緒にしてほしいんですけど、その相手だった夏崎さんは全く覚えていないらしいんですよぉ?」
覚えていない……?自分はノーマルだと言ういいわけなのか、それとも、本当に覚えていないのか。
「まるで、記憶喪失になっているみたいで……」
……カメラが仕掛けられたのは、いつだ?まだ、少し電池が残っていたから、推定数週間前だよな。
「事件を起こしたのはいつですか?」
「えっと、12日前ですね。自主休部は2週間の予定でしたから明後日には復帰するかと……」
なるほど。2週間ときたか。なるほど、俺の中で仮説が立っていく。しかし証明することは不可能だ。だが、おそらく天姫谷は、自主休部するにしても「2週間」でなくてはならない理由があったんだろう。
「ねえ、し、紳司。何か分かったの?」
ユノン先輩が俺に聞いてきた。まだ言いなれないのか、やはり俺の名前を言いよ
どんだ。
「もしかしたら、このカメラに助けられたかもしれませんね。カメラがなければ、その横暴が続いていたかもしれないですし……。まあ、横暴っていうか、百合的事件?」
「どういう意味?」
どういう意味かと聞かれてもな……。ユノン先輩も察しが悪いな。まあ、秋世よりマシだと思う。
「カメラは電池的に数週間前に仕掛けられたもの。天姫谷さんは12日前に事件を起こした。天姫谷さんの自主休部は2週間。タイルは天姫谷さんの発注したもの。もしかしたら天姫谷さんは以前から同じようなことをしていたかもしれない。夏崎さんは全く覚えていないらしい」
俺は今分かっていることを羅列した。しかし、ユノン先輩はいまいちピンと来ていないようだ。
「カメラの所為でタイルの模様の一部が崩れた」
俺がそう言ったところでいつの間にいたのか、静巴がボソリと言う。
「カメラによってタイルの模様が崩れたことで、タイルの模様の本来の意味を失った、と言うことですね?」
静巴の察しのよさは凄い。俺の言いたいことを言ってくれた。しかし、ユノン先輩は未だに分かっていないようなので、ずばり言う。
「ようするに、もともと、そのタイルには全て貼られてこそ意味があったんです。そして、の意味は分かりませんが、おそらくそれが原因で、記憶が消えるなり人が来ないなりの効果を持っていたんでしょうね。だから、12日前にバレるまで、ほぼ2週間に1回程度、行為に及んでいたんでしょう。ですが、カメラによって、模様が崩され、人が来るようになって、行為がバレた、と言うことでしょう」
俺の推理を聞かせたが、ユノン先輩は難しい顔をしていた。正直言って、そんなことをが出来るとは思っていないのだろう。
「そんな魔法みたいなことってありえないと思うわよ?」
ユノン先輩がそんなことを言うが、《古具》も充分に魔法みたいなものだろう。
「催眠術って言う線はないですかね?もしくは、そう言った《古具》」
俺がそんなことを聞くがユノン先輩の反応は芳しくない。
「そんなもんあったらたまらないわよ。まあ、ありえない話ではないかも、ね。でも現実的ではないわよ」
「俺等に現実的なものなんて求める権利は、ないと思いますよ?」
「《古具》使いは、非現実的って意味ね。まっ、そうだけど……」
そう、俺たちは、非現実的な立場にいる。と、言っても俺は《古具》使いではない。一般人だ。
「まあ、《聖剣》に《魔剣》、《聖盾》、《聖鎧》なんてものまである世界で催眠術ぐらいあっても驚いちゃだめよね」
初耳だ。《聖剣》や《魔剣》、《聖盾》、《聖鎧》なんてものまであるのか……。先に言え!
まあおかしくはないだろう。しかし、催眠術、か?