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《神》の古具使い  作者: 桃姫
京都編
119/385

119話:結衣VS由梨果SIDE.Lily Pear

 自分の様な者が、この場で、紳司様のために戦えることを光栄に思いながら、自分は入室しました。部屋には、一人の女性がいます。年齢は、おそらく自分よりも5、6歳ほど若いでしょう。


 大人びた雰囲気ではありますが、まだ子供然としたところが見え隠れしていますね。黒い髪をローポニーテイルでまとめていますね。化粧っけはなく、そこがそこはかとなく質素さを醸し出して、まるで自分の様な使用人と同質の感じがいたします。


 まるで、誰かのために懸命に己を殺して尽くしているかのような忠誠心をそこはかとなく感じるんです。


 彼女は、まさに、自分と鏡の様な存在であり、そして、その意思は揺るぎないものであることは明白。彼女のその心に負けないように、自分も気を引き締めて戦う必要があるようですね。










 戦う……、それは、自分にとっては、ほとんど経験の無いことです。この世には、《古具(アーティファクト)》なる物が在れど、それを持つ者同士の衝突は局地的には多少あるかもしれませんが、ほとんど起こっていないものでしたし。


 それこそ、数度、三鷹丘で繰り広げられた戦いが有名なだけで、他の戦いは個人的な小規模の物でしたしね。自分は、どれも経験したことがありませんでしたが、しかし、戦闘と言う面において、全く経験がないわけではありません。


 自分の師であるシュピード・オルレアナ。黄金のように眩い金色(こんじき)のセミショートヘアに、純白のカチューシャを着け、不知火家のメイド服の様なフレンチメイド服ではなく、ヴィクトリアンメイド服を着て、昔ながらの従来のメイド、と言った雰囲気を醸し出す、そんな彼女の姿を自分が忘れることは出来ないでしょう。

 彼女の瞳はキラキラと翡翠のように翠色に輝いていて、それを縁取るように長く伸びた金色の睫毛。清楚に整えられた金の眉。桜色のしっとりとした唇。高い鼻。すべての顔のパーツが整いすぎているほどに整っていたのです。

 格式の高いお嬢様の様な容姿ではありますが、彼女はれっきとした人生使用人一筋のスーパーメイドなのです。


 そんな彼女は、武道に置いても常人を逸脱していました。その拳は、岩をも……アスファルトをも砕き、その蹴りは掠れば気を失うという、武道と言うより、彼女の力が常人のそれではなかったという話なのですが。


 如何なる時においても主を守ることを使命とするメイドにおいて、力は必要である、とは彼女の言葉です。


 そのため、師である彼女には、長い間、武道は元より、根幹である体力や膂力の鍛錬を弛まぬように叩き込まれてまいりました。


 そのため、自分の体は、見た目は常人の柔なそれではありますが、その力量は、常軌を逸脱した非凡なそれなのです。


 ただ、それを【メイド奥義243】で封じていますがね。

 243個あるメイド奥義は、日常生活にて主を支えるものから、主を守るために敵を撃退するもの、情報収集のためのもの、など幾つもの種類があるのです。

 これらの奥義は、全て主のためだけに使用が許され、それ以外に使用しようとすると、脳が拒絶反応を起こします。


 幼少の頃からメイドとしての精神論を擦りこまれたが故に、それはもう、自分ではどうしようもないのです。自分はメイドの中のメイドとして育てられたのですから。メイドオブメイドです。


 自分は常に、主を守るために、暗器を体中に忍ばせるようにしているんですが、それは、まあ、例の如く師の教えで。


 例えば、靴の中には、鞭が靴敷きとして入っていますし、つま先には仕掛け刃、ヒール部分を外せば折りたたみ式のコンパクトナイフが入っています。両腕の袖口にもコンパクトナイフを仕込んでいますしね。


 ですから、自分は、主……紳司様のために、この【メイド奥義243】を使うことにします。








 目の前の女性の名前は、確か、市原(いちはら)結衣(ゆい)さんでしたね。自分の勤める三鷹丘学園の3年B組に所属している市原(いちはら)裕音(ゆのん)さんの姉君であると紳司様がおっしゃっていました。


 その面影の重なる女性は今は自分の敵で、戦うべき相手、そして、倒すべき相手でもあります。


 そういえば、昔、師がこのようなことを申していましたね。


「いい?戦う相手が女、子供の場合は手加減をするように、とよく言うけれど……言いますけれど、まあ、ぶん殴っていいわよ?……ぶん殴っても大丈夫ですよ?」


 あの頃は、丁度、自分にメイドの言葉遣いを教えていたころだったのですが、師の方が言葉遣いがなっていないということがありまして。最後の部分は「いいわよ?」よりも「ぶん殴って」の方がいけない表現だと思うのですが。


 まあ、師はいい加減な人でもありましたから、仕方がありませんが、それでも一応、スーパーメイドと呼ばれていたの……ですよね?


 話していて徐々に自身がなくなってきましたが、おそらく、はい、スーパーメイドでした。


 …………スーパーメイド、でした?


 いえ、まあ、現在もご存命で在らせられるので「スーパーメイドです」が適切な表現なのでしょうが、自分が疑問を抱いているのはそのような部分にではないのです。


 いえ、そもそものところ、自分でもスーパーメイドとは何かがよく分かりません。師は、確か……


「スーパーメイドってのは最強のメイドのことを言うのよ。世界中を捜しても、この称号を得たのは3人だけよ?あいすちゃん、元気にやってるかしら?」


 とおっしゃっていました。つまり凄いメイドのことですが……ピンときません。誰かからいただいた称号のようですが、その送り主もよくわかりませんしね。

 そもそも、メイドの中のメイドで最強のメイドであるスーパーメイドなどと言う称号は誰が何の目的で……。まったく意味がないと思うのですが……。せめてメイド長程度になりませんか?


 いえ、そうなったら全てのメイド長に謝罪しなくてはなりませぬか?


 自分は一体何の話をしているのでしょうか。そして、何故、彼女は攻撃してこないのでしょうか。

 基本的に、メイドは主の危機に対して、その危機を確認してから対処する力を養っているので、特に何もしてこない相手を相手にするのは苦手なのですが。

 しかし、どうやって戦いましょうか。ナイフ……いえ、まずは《古具》で身体能力を強化しなくては……。


「《戦舞の闘歌(バトル・ドライブ)》」


 自分の体が高揚感に包まれるのを感じます。これが自分の能力であり、これと【メイド奥義243】を合わせたなら、主の盾として最強になることができるのです。


「《影に形はない(しのび)》――最終解放(ラスト・バースト)


 彼女もまた、全力を出して、自分と戦うようです。自分は神経を尖らせ、彼女の一挙手一投足に注目します。


「《影牙魔忍(ミーサ・デルタミア)》」


 その瞬間、彼女の気配は完全に絶たれました。見失ったのです。彼女は1歩も動いていないはずなのに、それなのに、姿も気配も音も全てを見失ってしまった。


「忍びは気配も音も消せるものよ」


 彼女の声が耳元でしました。まるで、気配がなかった……。自分は、驚きのあまり、その驚きを顔に出してしまいます。ですが、分かりました。

 気配がないのなら、音が無いのなら、逆を利用すればいいのです。咄嗟に、スマートフォンに手を伸ばし、音楽を大音量で流します。


 衣擦れの音すらしないということは、自分の周囲の音を消していることになります。つまり、彼女の周りだけは、音が聞こえないのです。


「くっ」


 彼女はそれを察してか、すぐさま、自分のスマートフォンを破壊しました。流石にばれますよね。ですが、大丈夫です。


「メイド奥義59『主が為に牙を剥く』」


 両袖に隠し持っていたナイフを取り出し、彼女の足元、それも彼女に当たらぬように2本とも投げつけます。


「メイド奥義103『静かに畳む様に』」


 彼女の体を畳むように、押さえ込みます。しかし、彼女は、するりと抜け出して、されど、自分に姿を晒しています。


「まだ、まだよ」


 彼女は、息を切らしながら、それでも自分と争う意思を捨てていません。ですから、自分も、また、構えを取ろうとして、


 ゴォオオオと轟音が鳴り響きます。


 これは、一体……。自分の戸惑いの顔。しかし、彼女もまた戸惑いの顔を浮かべています。即ち、これは、彼女の仲間の力ではない、と言うことです。そうなれば、紳司様たちの力、そうに違いないのです。


 まるで、震源が2つあって、挟まれているかのような、そんな揺さぶりに、彼女はただでさえふらついていたのに、崩れてしまいます。


 自分は、メイド奥義16「如何なるときも平然と」にて、体のバランスを如何なる状況においても崩さないようになっています。壁に垂直に立つことも可能なのですよ?


「どうやら、別の方でも決着がついたようですね」


 自分の言葉に、彼女は顔を曇らせます。そんな彼女に、ヒールの中に隠していたコンパクトナイフを取り出して突きつけます。


「そして、こちらも決着です」


 彼女はこくりと頷きました。

 え~、またも更新遅れで申し訳ありません。しかもその上、あつかましいことこの上ありませんが、今週はテストなので、おそらく、一週間ほど更新を断ちます。もし更新していた場合は、「テスト勉強しろ?!」とツッコミながら呆れてお喜びください。

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