117話:華音VS紳司SIDE.GOD
大部屋、と言っても、さほど広いわけではなく、道場の試合スペース程度の広さの部屋であり、そこに巨乳女子中学生と2人きり、と言う状況になったにも関わらず、俺は、いささか、いつものような浮ついた気持ちにはなれずにいた。なぜなら俺は、今から彼女と戦わなくてはならないからだ。
巨乳女子中学生こと市原華音ちゃん。俺はカノンちゃんと勝手に呼んでいるが、彼女は、京都にある京都司中八家の市原家に生まれた三女であり、しかしながら《古具》を持って生まれなかったという長男、長女と同じ境遇の元に生まれたらしい。
唯一、《古具》を持って生まれた次女にして、俺の先輩にして生徒会長の市原ユノン先輩が家を出て行ってから、《古具》使いでなくても当主に成れる……《古具》使いを超える力があることを証明するために、母親の残したものを改良した《人工古具》を用いて、《古具》使いたちに戦いを挑んできた。
しかし、そんな戦いも無益なだけと悟った彼等、彼女等は、1対1の3本勝負を挑んできた。
と、大まかな回想と共に、現状を振り返った。別に、回想と共に現状を振り返る理由は特に無いのだが……。
そして、目の前にいるカノンちゃんは、ゆるふわのセミロングの髪を指にくるくると巻いて弄んでいた。よほど暇だったのだろうか……。
大きな瞳が、俺を捉え、手を止め、立ち上がる。スラッとした、しかし、女性っぽさの溢れる体に思わず目がいってしまう。
真っ赤な果実の様な唇が、ニィとつりあがり、笑みを浮かべたのが分かる。女性っぽさの無いジャージに身を包もうとも、しっかり主張する豊満な胸と尻。
姉のユノン先輩とは大違いの主張の激しさに、思わず見とれてしまうのも仕方がないというものだ。中学3年生で、この魅惑の体を持つとは将来を期待せずにはいられないが、姉さん曰く、「だんだん垂れてくるし重いし、夏のパイ下の汗がむっちゃ掻くのに拭くの面倒だから汗疹がメッチャできるし、正直邪魔」とのことで、中学生からこれだと、相当大変なんだろうか……?
そんなどうでもいい感想を抱きつつ、俺は、彼女の不敵な笑顔の理由が分からず内心で首を傾げた。正直、男が首をかしげたところで可愛くも何とも無いので、実際に行動としては行わなかった。
男の娘や童顔の少年ならともかく、普通の男が首を傾げるのを可愛いと言える感性を俺は持っていない。
して、このジャージを着て戦う準備万端の彼女は、いつもの様な《守りは命》と言う《人工古具》を使用していないようだ。使用している場合は、彼女の姿はノイズの様な違和感として感じ取ることが出来るようになっている。
なお、一般人には彼女の姿が完全に見えなくなるらしい。少なくとも七星佳奈ですら見えていなかったようだ。しかし、姉さんは完全に看破できるなど不思議な点も多いんだがな。
彼女が見えない場合は、俺はよく胸を揉んでしまうのだが、それの原理もよく分からない。しかし、自然と手が胸へと伸びるのだ。カノンちゃんしかり、宴しかり。
そういえば、今更ながらの疑問だが、《守りは命》と言う名称で、姿が見えなくなる結界を展開するだけと言うのは、些か防御力に不安があると思うのだが。
ようするにそれだけではない可能性があるということだろう。今までに見てきたのは、不思議な模様を描き、それで囲んだ範囲内を不可視にする結界で覆うというものだった。また、結界を張っている間は人払いの効果もあるかもしれない。
おそらくそれが、カノンちゃんの不敵な笑みの理由なのだろうと俺は予測する。
しかし、それがどんな能力かは、俺にもよく分かっていない。何せ、ほとんど見たことが無いのだから。
《守りは命》と言うからには、自分の防御力に回す力なのかもしれないが、結界と言う意味を踏まえると他の効果の可能性も考えられる。
「さて、と、勝負と行きましょうか、色欲魔」
俺にそう声をかけるカノンちゃん。てか、俺は色欲魔ではないんだが……と今更言っても仕方が無いので、俺は口を噤む。そもそも、そんな風に言われるのは、俺がカノンちゃんの胸を揉みしだきまくったことが原因なので、否定しきれないというのもある。
「《守りは命》――最終解放」
最終解放……、確か、使うと二度と《古具》が使えなくなるって言う……、そうか《人工古具》は壊れても再補充できるのか。それなら使っても不思議ではないな。
しかし、このタイミングで、最終解放したと言うことは、カノンちゃんは全力で俺を倒しにきているということだ。
「《最硬度守護結界》!」
最終解放した瞬間に、周囲の空気が変わった。部屋全体が何かに包まれたかのような感じだ。
「この結界の中では、如何なる《古具》も発動しないわ」
カノンちゃんが、そう言った。わざわざ敵に伝えることなのだろうか。しかし、如何なる《古具》も、か。
試しに俺は《神々の宝具》を発動させ、武器を手元に呼び出そうとするが、何の反応も無い。なるほど、本当に《古具》が発動しないようだ。
「本来は、あらゆる《聖力》、《魔力》、《竜力》、《科力》、《霊力》、《神力》を無効化するって話だけど、まあ、母さんの話をまとも聞いても意味は分からないから気にはして無いわよ?」
ああ、俺でも意味はさっぱり分からないが、どうやら市原結音さんが考えて造ったようだ。
彼女は、話を聞く限り異世界の知識を持った非凡な人だったようで、俺でもよく分からないことが非常に多い。
もしかしたら姉さんなら……姉さんの中にいるグラムファリオなら分かることがあるかもしれないが、あれもあれでよく分からないから。
しかし、本当に《古具》が使えないとなると、一体どうしようか。俺の力は、剣術……【天冥神閻流剣術】と《古具》くらいだ。そして、俺の今持っている唯一の刀である【神刀・桜砕】は、静巴に預けてきているために俺の手元には無い。
預けてきているといっても、本人に手渡したわけではなく、部屋に置いているだけだが。秋世が居たなら取ってきてもらうところだが、秋世は連れてきていない。何が役に立たないだ、全然役に立つじゃねぇか。連れてくればよかったぜ。
こうなれば、無劔で戦うという手もあるが、流石に女子相手にアレを使うのは気が引ける。
何せ、運が悪ければ、腹に穴があくからな……、峰なんてないし。加減をしていても腕が滑ったり、相手が変に動いたりすればグッサリいくんだよな。
「さてと、どうすんの?」
カノンちゃんが挑発してくる。俺は、どうするか考える。素手で戦うか、どうにかして、結界を破るか。しかし、結界の模様的なものは、一切見られない。つまり、壊すには、カノンちゃんをどうにかするか、全力解放の効果切れの時間を待つかのどちらかだ。
「あ~、何で、俺、こんな面倒なことに巻き込まれてんのかなぁ……」
本当に訳が分からないよ。俺としては、別に市原家とかどうでもいい気がしてきたし……。まあ、ユノン先輩の家だし、カノンちゃんとのいざこざもあるから、とっとと勝ってケリをつけてしまいたいんだが。
「ふふんっ、《古具》がなきゃ、何にも出来ないんでしょ?」
それが《古具》使いの弱味よっ、っとでも言いたげに大きな胸を張る。おっぱいが揺れたので、そこに目がいく。
しかし、《古具》使いよりも優れていることを証明するのに、相手が《古具》を使えない状況にして戦うってのはどうなんだ?
いや、間違っちゃいないのかもしれないが。さて、俺は、どうするか。《古具》が使えないんじゃ、確かに何も出来ないが……。それでも身体能力で女子に負けるほど柔ではないし、カノンちゃん程度だったらどうにかできなくもないだろう。
「こないなら、こっちから行くわよ?」
その構えを見て、俺は、先ほどまでの考えを改める。この子は武道をたしなんでいる。それも、おそらくほんの少しではあるが、あの構えは、【龍舞柔術】の初歩、龍気の構えだ。
「その武術、どこで嗜んだ?【龍舞柔術】なんて、龍巫女くらいしか使わないだろうに」
俺は、かつて、前世で出会った龍の巫女なる人物が使っていたことで知っていたが、異世界の端の端でやっている流派の武術で、龍と舞う様子を柔術で体現した、龍との親愛の舞柔術らしい。
「瑠菜さんに教えてもらったのよ」
まてよ、確か、そいつは、数十年前にも京都に来て【神刀・桜砕】を明津灘家に渡した奴じゃなかったか?
ここ数年のうちにも……もしくは十数年のうちにも訪れたということだろうか。【神刀・桜砕】を持っていた俺の子孫。
「なるほど、面白い」
しかし、まあ、それらの謎は置いておいて、俺の子孫である瑠菜って奴に教わっているなら面白い。試してやろうじゃないか。
「【蒼刻】」
俺は呟いた。そして、その瞬間、俺の体から、足元から、いたるところから蒼色のオーラが噴き出す。
蒼き魂の慟哭、蒼天の血潮、様々な呼ばれ方はあれど、これは、【蒼刻】だ。【蒼き力場】が7つ、俺の体内で形成される。溢れんばかりの力で、この部屋を壊してしまう勢いだ。
ゴォオオオと鳴り響く轟音。
……いや、違う。俺の……この部屋からだけじゃない。2つ隣の部屋からもすさまじい轟音が響いていた。
まるで、2つが共鳴しあうように地面を揺らす。
おそらく、姉さんだろう。俺は、もう1つの轟音の主を見抜いていた。やはり姉さんも【蒼刻】が使えるのだ。さすがは蒼刃……青葉の血筋だ。
元は別の家とはいえ、この家に生まれた俺にすら宿っている【蒼刻】。これが本当に魂の力ならば、前世も今世も青葉であろう姉さんは、おそらく……。
「な、何、これ」
カノンちゃんが尻餅をついた。ペタンとへたり込み、内股で座りこむ。腰が抜けて立てないようだ。いや、それどころか、鼻をつくツーンとした臭いまで漂ってきたのだが……。
「きゅぅ」
あ、パタンと倒れこんだ。腰元は水浸しだし、ああ、これは、まあ、俺の勝ちでいいんだろうか?
俺は、まともな戦いをしたことがない気がしてならないんだが、どうだろうか。ほとんど、俺が直接倒した、みたいなことは真呼十くらいじゃなかろうか。
まあ、相手がほとんど女性であったことも原因だが、しかし、これは酷い気がするな……。まあ、いい、いずれ戦う機会はあるだろう。
え、ホントに、あるよね?ある……よね?
え~、レポート提出のために更新が遅れてしまったのです。申し訳ないです。
紳司、全然戦ってないんですよね。あたしが戦闘シーン苦手なのが主な原因な気が……




