112話:麗しの園SIDE.D
あたしは、はやてを誘って、ロビーで紅茶を飲んでいたわ。今日は、個人行動の日なので、外へ出る者は、申請して外へ、別に旅館で過ごしていてもいいってことになってるのよ。
まあ、そんなわけで、大半の生徒が、部屋に引きこもってるわけだけど、あたしは、別に部屋にこもっていてもやることが無いから、外へ出てきたってわけよ。それで、はやてはついでに無理やり付き合わせたの。
まあ、頼めば嫌と言わないのが、はやての特徴なので、もちろん、即答で「いいよ」と答えたから無理やりと言う表現が正しいか、正しくないか、で言えば正しい。正しいんかい。
それで、あたしとはやてが、ロビーでお茶をしていると、見知った顔が通りかかったわ。少し声をかけてみようかしら。
「花月ちゃん」
ロビーの椅子から、声をかけて、ちょいちょいと手招きをする。あたしに気がついた花月ちゃんが、ひょこひょこ寄ってくる。
「どうも、今朝ぶりですね。青葉君のお姉さん」
おっと、やっぱり覚えてたわね。それにしても、彼女も彼女で可愛いわよね。紳司って恵まれてるわねぇ。
「暗音ちゃん、お知り合い?」
はやてがあたしに問いかけてきた。はやては初対面だったわよね。ちょっと紹介しておこうかしら。
「あっと、こちら、ウチの弟の仲間の花月静巴ちゃん」
そういいながら、花月ちゃんを手で示す。そして、その手がはやての方へ移動する。そのままはやてを紹介するわ。
「こっちは、あたしの親友の篠宮はやて」
あたしが紹介すると、花月ちゃんは少し訝しげな顔をして、はやての方を見る。あら、何か変なことを言ったかしら?
「失礼ですが、篠宮真希さんの御息女ですか?」
おや、その名前は、確か、はやてのお母さんの名前だったかしら?何で知っているのかしら?
「えと、真希は私の母ですけど?」
ああ、やっぱり、はやてのお母さんの名前なのよね。どういう関係かしらね?
「ああ、どうりで。よく容姿が似ていらっしゃいますね。わたしは、真希さんとはパーティなどでよく顔を合わせていましたから」
容姿がよく似てるってことは性格は似てないってことよね。どんな感じなのかしら、はやてのお母さんって。
「え、お母さんがパーティに?!」
はやてが凄く驚いてるんだけど、何よ、親がパーティに言ってるってこと知らないのかしら?
「ええ、割りと頻繁にお見かけしますよ。南方院家の御当主と一緒にいる様子は、パーティの定番になりつつありますから」
へぇ、南方院家ね。南方院財閥の当主ってことは、あの南方院ルラさんよね。テレビとかでも見かけるから、あたしも顔は知ってるわよ?
「まあ、パーティと言っても地元の権力者ばかりが集まるもので、必然的に見知った顔ぶれが揃うようになるので、こういったように定番、なんていう表現が出来るようになるんですけどね」
まあ、そら、全国のパーティで同じような顔ぶれだったらビックリよね。まあ、地元の権力者と言っても、三鷹丘辺りは、日本有数の企業、大財閥、グループが点在しているせいでかなり凄い人たちのパーティになってるけどね。
同じ理由で、響乃学園の辺りも凄いけど。
「うちのお父さんとかも、よくパーティには出てるけどね。まあ、パーティなんて、あの辺じゃ珍しく無いし」
三鷹丘は、さっき言ったように、有数の企業等があるせいで、しょっちゅうパーティを開いてるのよ。
クリスマスに、月初め、誕生日、年末年始、ずっと一年中、パーティ開いてるのよねぇ……。何が楽しいのかしら。まあ、あたしは行ったことは無いんだけどね。
「あ、そだ。じゃあ、あたし等で今からミニパーティでもやらない。女子会的なやつを」
まあ、流石に、あたしとはやての部屋でやるにしても大人数は呼べないわよね。それに、こっちから男呼ぶと花月ちゃんがぼっちになるし、それを防ぐために紳司まで連れてこさせたら、人数はキツキツよね。
流石に、呼べて後1人ってところよね。
こっちで呼べそうなのは、輝、友則……ダメね、女子は居ないわ。花月ちゃんは紳司って言うと思うけど、紳司はどうなのかしら。そういえば、花月ちゃんは紳司と相部屋だったわね。少し聞いてみようかしら。
「花月ちゃん、呼べて後1人なんだけど、紳司って今どうしてるか分かる?」
あたしの問いかけに、少し拗ねる様に見えた花月ちゃん。ああ、そういえば、一昨日、あたしが紳司に電話して邪魔しちゃったことがあったわね。それのせいかしら?
「電話して聞いてみればいいじゃないです。青葉君なら、どんな状況でも出てくれると思いますよ?」
ああ、やっぱり。まあ、あれはパブロフの犬状態だしね。仕方ない、ちょっと電話してみようかしら。
無料通話をタップして、通話画面に切り替わる。しばらく耳元でけたたましい音がするけど……。
「でないわね?」
珍しいことに紳司は出なかったわ。何かあったかしら?
そう思って花月ちゃんの方を見ると、花月ちゃんが、ぽむっと手を打ったわ。何か思い当たるのかしら?
「そういえば、青葉君、最近、充電して無いから、夕方までは充電しておくから、用がある場合はがんばって捜してくれって言ってましたね」
ああ、ここんところ忙しそうだったものね。なるほど、充電してるから手元にないってことね。なら、紳司は、部屋には居ないってことよね。
「紳司が部屋に居ないってことは、何やってるか聞いてる?」
あたしは、花月ちゃんに聞く。花月ちゃんは、「あ~」と何かを考えるように唸ってから答えた。
「えと、確か、桜麻先生の……」
とそこまで言って、はやてを見る花月ちゃん。ああ、なるほど、朝の話ってことね。まあ、一般人の前で《古具》については話せないもの。
「ああ、そう。なるほどね。確認に言ってるのね。あー、まー、それなら、呼び出すのも悪いわね」
館内アナウンスで呼び出そうかとも考えてたんだけどね。仕方ないから、それは勘弁してあげましょ。てか、決断の結果をあたしに連絡するって言ってなかったっけ?
「じゃあ、3人で女子会しましょうか」
あたしがそう言ったとき、ロビーに1人の……おそらく、三鷹丘学園の生徒がやってきた。何かを探してるみたいなんだけど、どうしたのかしら。
「あの、すみません」
女生徒は、申し訳なさそうな顔で、あたし達の方に寄ってきて、声をかけてきたわ。何か用かしら。
「明津灘さん。どうかしたんですか?」
花月ちゃんが知っているってことは、三鷹丘学園の生徒ってことね。……ん、明津灘?
ってことは、京都司中八家の明津灘の人間ね。そういえば、三鷹丘とかに司中八家の人間が来てるって時にも名前が挙がっていた……ってことは輝の知り合いの紫炎って子ね。
「貴方、輝の知り合いよね。明津灘紫炎ちゃん?」
念のために問いかけてみると、女生徒は、こくりと頷いてくれたわ。よかった、間違ってたら恥ずかしいものね。
「輝の知り合いですか?」
まあ、知り合いでは、あるわよね。てか、この敬語2人やめてもらえないかしら。
「ええ、クラスメイトよ。てか、敬語じゃなくていいわよ」
まあ、同い年だし。え、同い年よね。流石に飛び級とかってことは、見た目の感じからして無いと思うけど。
「いえ、これはわたしの癖の様なものですから」
「あ、はい」
前者が花月ちゃんで、後者が紫炎ちゃんね。まあ、急にフランクになられても困るけど、固すぎるのもあれよね。
「ああ、それで、紫炎ちゃんは、何のようだったの?」
何か探してたわよね、この子。たぶん、それのことで聞きたいことがあったんでしょうけど。
「あ、そうでした。花月副会長、空美さん、見ませんでしたか?」
なるほど、人を捜してたのね。それで、その空美さんってどんな人なのかしらね。あたしとしても見かけていたら協力するでしょうし。
「空美さんでしたら、先ほど、申請書を出されて、京都市内にいるご友人に会いに行くと。確か……偉鶴さん、と言う方だそうですけど」
何だ、花月ちゃんが行方を知ってたのね。だったら、あたしの出る幕もないわね。安心安心。
「あ、姉さんに、ですか。そういえば、そんな話を聞いたような。……そうですか。困りましたね。空美さんが鍵を持っているので……」
今、話している相手があたしじゃないからか、紫炎ちゃんは敬語ね。別に、花月ちゃんに対してもタメ口でもいいと思うんだけど。
「あ、だったら、あたし達と女子会しない?」
あと1人は、加えられるから、せっかくだから誘ってみたわ。はやてに目でいいわよね、と問いかけると、にっこりと頷いたのでいいってことで。
「女子会?私、初めてだけど、大丈夫ですか……大丈夫?」
あ、この子、敬語で言ってから、気がついて直すタイプなのね。可愛いわね、そういうところ。
「ところで、名前は……」
あ、まだ、あたし達、名乗ってなかったわね。まあ、名前を言う前に話が進んじゃったから仕方ないわね。
「あ、私、篠宮はやてです。鷹之町第二高校の2年生です」
ぺこりと頭を下げるはやて。相変わらず礼儀正しいわね。あたしは、肩を竦めて、はやての丁寧なものいいに呆れながら自己紹介をする。
「あたしは青葉暗音。青葉紳司の姉よ」
その言葉に紫炎ちゃんは目を見開いたわ。ああ、面白い顔するじゃない。まあ、これで、やっぱり紳司と関係の深い子だってことは分かったわね。
「じゃあ、女子会と行きましょうか。さあて、盛り上がりましょ」
そうして、あたし達は、夕方まで、あたしとはやての部屋で、女子会を開いたのよ。まあ、主に紳司と友則の話だったわね。