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《神》の古具使い  作者: 桃姫
京都編
111/385

111話:由梨果SIDE.GOD

 お互いに秘密を打ち明けあった俺と桜麻先生。


「紳司……様?」


 俺は、呼ばれなれない呼称に首を傾げた。「様」付けとか、滅多にされたこと無いぞ?極稀に後輩にされることがあるが。何なんだろうな、あの後輩ども。


「ああ、申し訳ありません。癖の様なものです。今の誓いは、教師としての自分ではなく、この世に生きている自分ですので、青葉君と呼ぶより、紳司様とお呼びしました」


 ああ、そういえば、師がメイドということは、メイドとして生きてきたんだろうから、「様」付けも仕方ないのか……?


 そもそもにおいて、俺の身の回りにメイドが居ないから何ともいえないんだが、そういえば、静巴の家もそうだが、知り合いには割りと大きな家の人間が多いから、メイドに縁があってもよさそうなものだが、今のところ全然無いな。

 似たようなものなら帝とかが居たが、帝は執事だしな。明津灘家の女中は……またメイドとは別だし。


「まあ、呼ばれる分には全然構わないんですが」


 と俺が言うと、桜麻先生は、暫し考える様な仕草をしてから、俺に言う。


「敬語はやめていただけませんか。自分は、このような2人切りの場所で、敬語を使われるような人間ではありません」


 さっきまで何も言ってなかったやんけ?!何で急に敬語やめろとか言い出したの?!


「ああ、別にいいけど。それで、力を貸してもらうという話だが、今夜の10時に迎えが来ることになっている」


 俺は、待ち合わせの時間を告げた。そろそろ食堂が閉まる時間だからな話は早めに終わらせるに限る。


「ええ、了解しました。その時間には全ての予定をキャンセルしておきましょう」


 いや、予定が入ってるなら断ってくれてもいいんだが……、今更そんなことも言いづらい雰囲気なので口をつぐんだ。


「それで、紳司様、お食事は、既にお済ませでしょうか」


 ナチュラルに「紳司様」呼びしてくる桜麻先生。やめて欲しいんだが。そして、飯は食ってない。


「まだだけど、それがどうかしたか?」


 俺の問いかけに、桜麻先生が、席を立つ。話の途中でどこへ行くんだ?


「では、まいりましょうか」


 え、どこに?まったく分からないんだが。とりあえず俺も席を立つ。すると、俺の横と言うより少し後ろに彼女が並ぶ。


「この時間ならば、宴会場は()いていますので」


 なるほど、この時間なら空いているってのは、経験則だろう。いつもこのくらいの時間に食べていたに違いない。


「そうか、じゃあ、宴会場に行くとしよう」


 ちなみに、今更だが、静巴は、俺が桜麻先生に会うことを伝えて先に食べているように言ったので、とっくに食べ終わって部屋に戻っている。


「ええ、では」


 俺が歩くのにあわせて、後ろを付き添うように歩く桜麻先生。一体何なんだよ、これ!


「えと、何で俺の後ろをついてくるんですか?」


 俺の問いかけに、小首をかしげる桜麻先生。そんな姿も可愛らしい26歳めっ!

 こうしているとメイド服を着ていなくとも、メイドを連れているような気分になってしまう。


「全く」


 俺は溜息混じりに、そう呟いた。人間扱いしたいのだ、メイドではなく。だから、俺は言う。


「後ろじゃなく、隣を歩いてくれませんか?」


 俺は、彼女にそう微笑みかける。彼女は、少し困ったような反応をした。……まあ、今までメイドとして生きてきたのだったら仕方が無いことか。

 きっと、前の旦那のときも、こうして3歩後ろを歩いていたんだろう。だから、旦那も……って、この話は別にいいか。昔より今が大事だな。


「隣、ですか……?」


 困惑した表情で、俺に問いかける彼女。これは少し、無理やりやらなくちゃいけないかもな。

 そう思いながら彼女の腕を掴んで、無理やり引き寄せた。抱き寄せるのではなく引き寄せる。


「きゃっ」


 甲高い悲鳴をあげつつ、俺の横に立つ彼女。俺は、その彼女の腕に、自分の腕を絡めるようにして、無理やり横を歩かせる。


「あ、あのっ……」


 手をわたわたして、何とか抜け出そうとする彼女をガッチリと掴んだまま宴会場へと向かう。


「隣を歩くだけだ。何でそんなに慌ててるんだよ?」


 別にそんなにおかしなことじゃないだろ?そんなに後ろを歩きたいの?


「ち、ちがっ……。違いまふ……違います」


 あ、噛んだ。凄い珍しい場面を目撃してしまった。いつも噛まずに冷静沈着に話してるから得した気分だ。


「違うって何が?」


 桜麻先生は何を言っているんだろうか。全く持って意味が分からないんだが、横を歩いているのが嫌なんじゃないのか?


「ま、周りを見てください。う、腕を組んでいるので、周りの方々が、自分と紳司様の関係を妙に勘繰ってしまっています」


 ……?


 ああ、なるほど。腕を組んでたから、ウチの学園の奴も向こうの学園の奴も、妙な視線を向けてきているな。


「別に俺は勘繰られても問題は無いんだけどな」


 勘繰られたところで今更だ。何でか知らないが、静巴や秋世、ユノン先輩にミュラー先輩、紫炎、律姫ちゃん、果ては明日咲先輩までもが俺との噂が立っているらしいしな。


「そ、そうですか……?」


 どういう意味で受け取ったのかは分からないが、頬を真っ赤に染めて、態勢を整えなおす彼女。その所為で、豊満な胸が俺の二の腕の辺りにふにふにと当たって気持ちいい。


「う~ん、1つ、こんなことを聞くのは失礼だと思うが、前の旦那って、あまり物事を主張しない性格だっただろ」


 唐突な俺の言葉に、彼女は目を丸くした。


「えと、前の旦那、と言う表現をいたしますと、自分と紳司様が婚約して、紳司様が今の旦那で、前の旦那について聞かれているように聞こえます。

 それと、確かに、あの人は、そのような性格だったような気もします」


 前の旦那についてはとにかく曖昧だな。てか、前の旦那って言うと確かにそんな風にも聞こえないでもないな。


「まあ、そんなことはどうでもいいか。とっとと朝飯にしよう。遅くなると、旅館の方にも迷惑がかかるしな」


 俺はそう言って、結局のところ、彼女と腕を組みながら宴会場に入るのだった。









 宴会場には、もはや人がほとんど居なかった。しかも僅かにいる人というのが旅館の人間であることを考えると、誰も居なかったといってもいいかもしれない。


「あら、今日はお2人ですか?」


 いつも1人で食べていた所為か、俺と桜麻先生が席に着くと、そんな風に声をかけられた。少々失礼だが、まあ、許容範囲の世間話で済むものだろう。


「え、ええ」


 桜麻先生が何とも言いがたい顔をしていた。まあ、その辺はどうでもいい。とりあえず俺と桜麻先生は席に着く。

 すると早速、料理が運ばれてきた。俺は、早速食べようとするが、桜麻先生の手が震えていることに気がついた。


「どうかしたのか?」


 俺の問いかけに、ダラダラと汗をかく彼女は、震える手をなんとか押さえながら、俺に言う。


「い、いえ……。ほ、他の方と食事の席を共にするだけではなく、共に食事をするのは」


 どんだけメイドとしての生き方が身に染み付いてるんだよ。やっぱり、真人間にしていく必要があるよな。


「お前なぁ……。これも隣を歩いたのと同じだよ。メイドとか使用人じゃなくてさ、普通に一緒に食いたいんだよ」


 てか、早く食わないと旅館の方にも迷惑がかかるから、俺が食べ終わってから食べ始めるとか言う時間のかかる真似はやめて欲しい。一応、生徒会の人間である俺の方にも「キチンと早く食べるように連絡しろ」とかお小言くるんだぜ?


「は、はい」


 お、震えが治まったな。さて、ととっとと食べてしまうとしよう。俺が箸を持とうとした瞬間、箸が桜麻先生に奪われる。おい。


「何故、俺の箸を持ったんだ?」


 俺は、桜麻先生に問いかけた。すると、彼女は、何故そんなことを問うのか分からない、と言うような顔で俺のことを見る。


「いえ、食事は自分がお口に運びます」


 つまり、「あーん」してくれるってことだろう。……なんでだ?!


「いや、いいって。さく……由梨果!」


 彼女の場合は、名前を呼び捨てた方が、メイドとして反応するだろうと思った。人として扱おうとするのに、メイドとしての意識を使うってのは矛盾してるよな。


「は、はい。で、では、いただきましょう」


 俺に箸を渡してくれた。ふむ、やはり名前を聞くと由梨果は素直に反応するようだ。


 ……はっ?!いつの間にか、桜麻先生を由梨果と呼ぶようになっている。まあ、秋世のような感じに扱うのなら、それでもいいんだろうけど。


「なあ、由梨果。……由梨果って呼んでいいか?」


 無論、2人きりのときだけだがな。流石に、人前で「由梨果」と呼び捨てにするのはまずいだろう。教師を呼び捨てるとか。

 ……え、秋世?あんなの教師じゃないからいいんだよ。まあ、確かに、秋世は可愛くはあるが、アレを教師だと思うのは無理じゃないか?

 どちらかと言うと、生徒か、それ以下だ。理解力が壊滅的過ぎてヤバイ。


「ええ、好きなようにお呼び下さいませ、紳司様」


 俺は好きなようには呼ばれたくないから「青葉君」って呼んでもらえないだろうか。

 そんな会話を交わしながら、俺達は、食事をするのであった。

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