11話:部活の視察
話が飛んで悪い。さらに、需要だ何だという話をするようで申し訳がないのだが、我等が三鷹丘学園に「水泳」と言う授業は存在しない。無論、体育の中に含まれる、などというオチではなく、本当に存在しないのだ。
それゆえに、必然的に、我が学園には、スクール水着と言うものが存在しないことになる。
しかし、実際のところ、我が学園には、プールと言う施設が存在する。プール、……正確に言うなら室内プール。それも室温の調整、水温の調整が自由なプールだ。
このプールが何に使われているのか、と言うと、「水泳部」が使っているのだ。いや、正確に言うなら「水泳部」と「競泳部」が使用している。
男子だけなんでしょ、なんてオチは用意していない。ましてや、そう、マネージャーは女子だから男子だけじゃないよ、なんてオチでもない。
はっきり記そう。「水泳部」も「競泳部」も「男子禁制」「女子のみ」だ。
つまり、女子の花園である。男子禁制の聖地だ。
「水泳部」が、月、水、金。「競泳部」が火、木、土、日。と、曜日によって使っている部が異なる。平日は、大会に出ない「水泳部」が多めに貰っていて、大会などの練習に専念するために土、日を丸々「競泳部」が使用できて代償に平日の使用日は少ない。
さて、このプールへの入室条件は、2つある。「女子であること」と「仕方がない事情があるもの」である。
そして、このどちらかを満たしていなければ入ることは出来ない。窓は天窓のみで入り口以外に覗くところはなく、男子にとっては、まさしく未知の領域。
そんなプールに俺は居る。無論、正攻法で入った。
部活の点検と言う「仕方がない事情」があるのだ。合法的に入れる。なんてすばらしいことだろう。どうやって自慢しようか。
さて、話を戻すと、俺は、ユノン先輩に、あのとき、こう言った。
「水泳部の点検がしたいです!」
気づけば、俺は土下座していた。
そうして、俺は、この聖域への入場券を手にしたのだ。土下座一つ、なんて安いものだろうか。
さて、とでは、「水泳部」について詳しく説明するとしよう。
所属人数15名。1年生6名。2年生7名。3年生2名。活動曜日、月、水、金。顧問は橘鳴凛先生(24歳独身)。部長は櫛嵩夢夜先輩。副部長は明日咲現火先輩。
そして、この部活の最大の特徴と言っても過言ではないのが、この学園に存在しないはずのスクール水着を所有するという選ばれた者たちだ、ということだ。
「水泳部」は、主に遊び半分の水泳で、本気で泳ぎたい方は「競泳部」へどうぞ。ダイエットしたい女子達はこっちです、みたいな感じだ。
まあ、尤も、俺は、「水泳部」と「競泳部」の部室が供用か別かも、更衣室の場所も、シャワー室の場所も知らないんだが。
「きゃあ」
俺がユノン先輩に連れられて屋内プールに入ると少し甲高い声が聞こえた。男子禁制だ、仕方がないことだろう。
「あ、あの……、青葉、紳司先輩ですよねっ」
1人の部員が寄ってきた。どうやら、俺のことを先輩と呼ぶ様子から1年生らしい。普通に可愛らしい女の子だ。
「そうだよ」
俺は、一応、怪しくない人物である、とアピールするために、はにかんだ。すると、後輩は、顔を真っ赤にして、そっぽを向いてしまう。変な顔をしただろうか?それとも、胸を見たと誤解されたか?
「あ、あの……、あ、握手してください」
「ん?いいよ」
どうやら先輩と後輩の友好関係を築くことにしたのだろう。まあ、生徒会の人間である俺と反発してもいいことはないんだ。言い判断だと言えよう。
むぎゅ、と女の子の手を握ってあげる。その手は、少し濡れていたけれど、とても柔らかくて、すべすべした小さな手だった。
「あ、あの……、あ、あた……、わたし、冥院寺律姫って言います。その、あの、……、こ、今度、一緒にご飯食べに行きませんか?」
ふむ、今日に「あの……」が多い子だな。律姫ちゃんか。ふむ、先輩なんだから後輩におごれ、ってことだな。
「別にいいよ。それじゃあ、今度の日曜日の……朝9時くらいにしよっか。集合場所は、鷹之町中央駅前の噴水公園でどうかな」
何か、デートをするっぽくなってしまったが、まあいいだろう。たまには後輩にアクセサリーなりキーホルダーなり買ってあげるのも。
「え、あ、はい!だ、だだ、大丈夫です!!」
ふむ、勝手に予定を決めてしまったが大丈夫らしい。しかし、冥院寺って何か凄い名前だな……。
「ちょっと、青葉紳司君。仕事中にナンパしてないでこっちに参加して頂戴」
ナンパなどしていない。と言い返そうとして、俺は、思わず動きが止まった。後ろでさっきの律姫ちゃんが友達と「リツってば抜け駆けだー!」とか「ずるい!」なんていっている声は全て耳から通り抜ける。
美しい方がいた。
たびたび、美女として俺が名前を挙げていた櫛嵩先輩だ。櫛嵩夢夜先輩。
目の前に、彼の、噂の、噂に聞く、学園中に名が轟く、超美少女の櫛嵩夢夜がいる。そして、そのスクール水着姿。
肩、肩に食い込む肩紐。ピッチリと柔い肌に食い込んでいる。水気をたっぷり吸った紺色の水着は、肌にピッチリと吸い付いていて体の線が浮かび上がっている。まるでその裸体を見ているかのようなボディラインは、その体型をくっきりと、はっきりと浮かび上がらせていた。
少し肉付きの良いむっちりとした体。腰元からヒップラインも如実に浮かび上がっていてその美しさに息を呑まざるを得ない。少しズレたスパッツ調の裾の部分から覗く真っ白な肌は、その下のむっちりとした太ももの浅焼けた色と差があって色っぽく思えてしまう。スパッツによって締め付けられるように抑圧された太ももの肉感には、思わず触って見たくなる様なむっちりとした様子が窺える。
そして、全体的に濡れ、水滴が全身を伝っている様子は、とても色っぽかった。まとめた髪は濡れて水を滴らせ、それが肩元に落ちを伝う雫が、必然的に大きな胸の谷間へと流れていく。水着によって寄せられた胸には谷間が作られ、そこに水滴がどんどんと溜まっていく。
ああ、なんてすばらしいんだろう。そう思わずにはいられない。土下座程度で来られて、本当によかった!
良いよな、普通に水泳の授業がある学校は!夏になればいつでも見られるんだから!
なお、スクール水着、と言っているのに「スパッツ部分」とは何ぞやと感じられた先輩方。現在のスクール水着の多くは、旧スク、スク水のような形をしていない。今のスクール水着と言うのは、スパッツのようにズボンのような形をしている。尤もそれは下の方のことであり、上の方は従来と大差ない、露出の少ないものである。
そんな、――そんな昨今のスクール水着であるが、果たして露出が減ったからと言って俺のテンションが下がるか、と問われればそんなことはない。むしろ、上がる。いや、それは嘘だ。
しかし、俺にとっては、子供の頃からスクール水着とはこう言ったものであったし、いくらインターネットが普及し、昔のスクール水着はこんなに露出が多い、だの言われても、へぇ昔はよかったな、くらいにしか思わない。
なお、「競泳部」は、競泳水着を着用するらしい。
「あら、君が、青葉君よね。へぇ~」
ちなみに、櫛嵩先輩は俺にあまり興味がないようだ。まあ、元から相手にしてもらえるとは思っていないのだが。
「それで、生徒会さんが来たということは、抜き打ちチェックってことでいいのよねぇ?」
顧問の橘先生がそう言った。ユノン先輩が「そうです」と言い、俺たちは頷いた。
「では、えっと……?」
橘先生は経験が浅いのでチェックがよく分からないようだ。
「わたしが処理を手伝います」
静巴が、先生に書類を渡して、活動実態についてのチェックをしていくようだ。静巴の行動にユノン先輩は、頷く。
「じゃあ、花月さん、お願いね。それで、紳司君は……」
どうやら、今、ユノン先輩の中で俺をどこに向かわせるか検討しているらしい。暫し間が空く。
「しゃ、シャワー室で……。くれぐれも変なことをしないようにね」
どうやらシャワー室に行くことになったようだ。理由はよく分からないのだが、一体どうしてだろうか。
「紳司っちは知らないかもだけど、ここの部室は、更衣室も兼ねてるからねー。男子の目がないと、普通にパンツとかがベンチの上に置いてあったり、パッドやらなんやらが落ちてたりするんだよー?」
ファルファム先輩が教えてくれた。なるほど、そういうことか。
「じゃあ、俺はシャワー室に変なものがないか、あとは、シャワーの数が適切か、シャワーが壊れていないか、をチェックしてくればいいんですよね?」
まあ、他にも、何か落ちていないかチェックするが。
「青葉紳司君、チェックするのは、それだけにしておいてよ?」
ダメ押しするようにユノン先輩は言った。まあ、守る義理はないのだが。
「分かってますよ。大丈夫です」
俺は、なるべくさわやかにそう言ってシャワー室に向かうことにした。
そういえば、余談だが、櫛嵩先輩には、とある疑惑があるのだ。もしかしたら、部室探りのユノン先輩とファルファム先輩は見つけてしまうかもしれない。見つからなければいいのだが。それと、俺、爽やかに言って出てきたけど、シャワー室の場所しらないんだよね。
「はぁ」
シャワー室どこだ……。
そうやって、迷い歩き、シャワー室を見つけたのは5分後だった。場所がそんなに広くないのでそこまで時間はかからなかったが、途中で更衣室、すなわち部室らしきものを見つけてしまって、なおかつ、誤ってあけてしまったので、パンツを見つけることは出来た。誰のかは知らないが、ピンクと白のストライプだった。