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《神》の古具使い  作者: 桃姫
京都編
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109話:姉弟ⅡSIDE.GOD

 俺は、どうにか過去の因縁……もとい、真実から立ち直ることができた。いや……、しかし、まさかバレてたとは……。


 そんなことを考えながら、俺は、静巴……もとい、静葉を見る。すると、静葉のトロンとしていた目が、パチクリと2、3度まばたきすることで覚醒したようだ。まあ、静葉とも話さなきゃいけないことはいっぱいあるだろうからな。これを機に話しておくか。


 そう思い、静葉に声をかけようとしたときに、いつものあどけない表情で、静巴(・・)が俺に疑問の声を上げた。


「ふぁれ?こ、こは……?

 あ、青葉君……?

 え、これは、どうなっているんですか?」


 周囲を確認するようにキョロキョロとする静巴。間違いない、いつもの花月静巴の方である。


 どういうわけか、静巴に戻ってしまったようだ。少し積もる話もあったのだが、タイムオーバーってことか。


「しっかりしろ、静巴。ここは楽盛館の前だ」


 俺の言葉に、自分が今いる場所をようやく認識した静巴。驚きのあまり、目をパチクリしている。


「大丈夫、花月ちゃん?」


 姉さんがそんな風に声をかけた。どうやら静巴には「静葉」である最中の記憶はすっかり抜け落ちているようだ。


「あ、青葉君のお姉さん」


 静巴は、まだ状況が飲み込めない状況ながらも姉さんのことを認識したようだ。そして、姉さんの方を見ようとして、腰にぶら下がる物騒なものに気がついたようだ。


「あれ……?」


 その物騒なもの……【神刀(しんとう)桜砕(おうさい)】を静巴、いそいそと自分の腰から外して、自分のいつもとは違う大胆な格好に気がついたっぽい。


「って、何ですか、この格好?!」


 いつもよりも女子高生らしいといえば女子高生らしい格好だ。尤も、三鷹丘学園においては、珍しいが。


「も、もしかして、青葉君が着せたんですか……?」


 俺に疑いの眼を向ける静巴。いや、自分で着たんだがな。さて、この場合は何て声をかければいいんだろうな。「お前の前世の人格が出てきて、さっきまでお前の体で動いてた」とか言い出したらヤバイ奴じゃね?


「いや、自分で着てたんだが?」


 まあ、そういうのが一番だよな。嘘は言って無いし。うん、言ってない……よな?


「え、わたしが、ですか?!」


 静巴は当然驚いて、目をパチクリとさせる。そして、もう一度、自分の格好を見て、俺の顔へと視線を移す。俺は、静巴の露出高めの服に、ニヤニヤしないわけがなく……。


「や、やっぱり青葉君が着せたんじゃないんですか?ふ、不潔です!」


 いや、着せてないっての。まあ、証人はどこにも居ないけどな。静巴と静葉が同時に存在しないと証明は不可能だ。俺の無実を証明する人物を呼べば、被告が居なくなるという……。


「自分で着ておいてよくいうよ。まあ、確かに、今の少し露出度の高い静巴も好きだけどさ……」


 俺の言葉に、頬を染める静巴。そのやり取りを呆れたように見ている姉さん。はぁ……、まったく、どうしてこうなった。


「でも、紳司、おかしな話よね。静巴であって、静葉でもある、そんな存在でありながら、彼女はもう片方を認識していない、なんて。あたしや紳司は明確に覚えているじゃない?」


 まあ、確かにおかしな話ではある。そもそも、転生なんていうこと自体がおかしな話ではあるんだがな。


「そもそものところ、近親者以外への転生って、そうとう少ない確率らしいのよ。さもなくば、人格の分離や統合、反発で脳が死んじゃうんだってよ?」


 え、そうなのか?だとしたら、俺の周りで、確認できるだけでも、3人以上はありえない転生をしているのは奇跡と言うよりは異常。なんらかのイレギュラーであるといえるはずだ。


「よく分かりませんが、どういう状況なんですか?」


 静巴が聞いてきた。ここは素直に静葉と俺の関係を話すべきだろうか。それとも……。よし、ここは「それともの」方で行こう。


「い、いや、最近、ちょっと、色々あったからさ、お前とのよりを戻したいって言うか、俺は本当にお前のことが好きなんだって証明したくて、布団に潜り込んだら、急に抱き寄せられて、キスされて、そしたら、【神刀(しんとう)桜砕(おうさい)】が外に敵が3人いるからって言って、下着のまま出ようとするところを止めて、服着るように言ったら、その格好になったんだよ?」


 俺は嘘は言ってない。全て事実だ。虚偽を言っていない証明のために、静巴が手に持っている【神刀(しんとう)桜砕(おうさい)】に何かを言うように促す。


「そうだったよな、桜砕」


 俺の問いかけに、【神刀(しんとう)桜砕(おうさい)】が口を開いた。……口が無いので、口を開く、という表現は些かおかしいので、喋った、でいいだろうか。


『ええ、確かに流れはそのような感じでしたね。信司様が夜這いをかけ、がっちりとホールドされ唇をしゃぶりつくされていました』


 【神刀(しんとう)桜砕(おうさい)】はちょっと誇張した表現をしたが、概ねが事実であることには変わりなかった。


「もう、そんなことしなくても、青葉君の思いは分かってますよ」


 頬を染めて、モジモジと股を擦り合わせる静巴。どことなく息も荒いし、目も潤んでいる気がする。


「発情すんな」


 姉さんが静巴の頭を小突いた。発情してたのか……下手に構うと引っかかれそうだな……猫かっ?!


「してませんっ?!」


 何だ、発情して無いのか……。それはそれで、何か、こう……発情してる女の子って見てみたいじゃん。


「まあ、それはいいんだけど、とりあえず、もう1人を決めない?」


 ああ、そういえば、すっかり忘れていたな。市原家との3本勝負。俺と姉さん以外にもう1人いるよな。


 静巴は静葉のことを覚えてないし、安定して、静葉に成れるとも思えないからなぁ……。


 紫炎は相手が司中八家なので除外せざるを得ない。色々と家同士のいざこざとかがあると余計にややこしくなるしな。


 秋世も紫炎と同じ理由で元司中八家なので除外。そもそも、あれが戦闘に協力するとは思えないがな。


 七星佳奈は頼めば不可能では無いだろうが、裕太が一度相手をして規格外さを思い知っているはずだからダメとか言われそう。まあ、そもそも、頼んだところで「私はあまり剣を抜きたくないと言ったでしょう?」とか言われる気がしないでもない。


 後は、タケルか……?でもあの全裸マントに攻撃の術があるのかすら分からんしなぁ……。幻術とかが得意って話だけど。


 あと頼れそうなのは桜麻先生だろうか。他に思い浮かぶメンツは、守劔なんかを含め、全員が司中八家の人間だ。


「姉さんは誰か候補がいるのか?」


 姉さんにそう問いかける。俺の方は、桜麻先生以外は全滅だからな。しかも、桜麻先生にはあまり頼りたくないんだよな。


 昔、桜麻先生は頼めば大抵のことをすぐにやってくれると噂になったことがあってな、そのときに、生徒達があまり無茶なお願いをしないようにしようと言うことになって、後輩達にもそれが伝わっているのか、無茶なお願いをしないようになったんだ。今回はかなりの無茶だろ。


「あたしは、う~ん輝くらいしか候補が居ないのよね。でも輝をこっちから外すと、守りが格段に落ちるし、たぶん戦闘経験皆無の輝は役に立たないわよ?」


 あ~、なるほどな。と、なってくると桜麻先生に頼るほか無いか……。正直な話、こっちも桜麻先生の戦闘経験……どころか《古具》がどんなものかも知らない状態だ。しかし、どちらかと言うと、桜麻先生の方が頼りになりそうだよな。


「こっちは、1人だけ当てがあるが……」


 静巴は俺達の会話についてこれず、不満そうな顔をしているが、仕方が無いだろう。俺は、姉さんに、その候補を言ってみる。


「桜麻先生くらいしか居ないと思っている」


 俺の発言に、首を傾げるのは静巴だった。まあ、姉さんは桜麻先生を知らないからな、そうなるだろう。


「まあ、あとは司中八家とか、戦闘能力皆無とかばっかで……」


 俺の言葉に戦闘能力皆無(しずは)が憤慨した。


「ちょ、誰が戦闘能力皆無ですかっ!」


 まあ、正確に言えば戦闘能力皆無はもう1人いるんだが……。てか、自覚はあるんだな。


「安心しろ。戦闘能力皆無は静巴だけじゃない。秋世もだから」


 俺の言葉に静巴は頬を膨らませてそっぽを向いた。どうやら()ねたらしい。とりあえず放置しておこう。


「う~ん、その人の《古具》は?」


 知らないんだよなぁ……。鷹月は戦闘系及び非戦闘系《古具》を多用できる俺と同じタイプの《古具》使いだ。

 一方で、桜麻先生の《古具》は不明で、戦闘能力的に頼りになるかも分からない。しかし、実戦経験の有無は分からずとも気配や捜索などのスキルは高そうなので期待できる。


 それに、もし、市原家との戦闘中に別の家が襲ってきた場合のことを考えると七星佳奈と紫炎以外にもう1つは戦力をおきたい。そちらは、さほど経験がなくてもサポート程度は出来るだろう。


「とりあえず、桜麻先生に聞いてからだな。あとで、桜麻先生とのやり取りの後の俺の決断をメールするよ」


 俺はそう言った。夜も、もうじき明ける。そろそろ部屋に戻って休んだほうが賢明だろう。


「分かったわ……。

 部屋でエッチなことして乳繰り合わないでとっとと寝なさいね」


 釘を刺された。……し、しないしっ!しようとも思ってなかったしっ!


「じゃ、じゃあ、静巴。俺達も部屋に戻ろうか?」


 少し声が上擦ってしまった。それを見て、拗ねていた静巴も吹き出して笑ってくれたのでよしとしよう。


「分かりました。でも、お触りはなしですよ?」


 そんな風に静巴が、俺に冗談を言って笑う。俺と静巴、2人は、声を殺して、それでも笑いながら、部屋に戻った。

 余談だが、もちろんお触りした。

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