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《神》の古具使い  作者: 桃姫
京都編
105/385

105話:蒼き猛獣SIDE.D

 道場は、さほど広くはないが、そこそこスペースのある場所だったわ。えと、そうね、小体育館的なイメージの広さかしら?

 あ、柔道場でも構わないわね、剣道場でも。まあ、そのくらいの広さよ。戦闘訓練が出来ないこともないくらいの広さって感じね。ここでやるってことは、天姫谷萬馬(ばんま)、彼の《古具》は、あまり実体のないものかもしれないわね。それか、小回りの効くものか。


 まあ、どっちにせよ、あたしは、本気で潰すだけなんだけどね。そう思いながら、結った髪を解く。


 そして、ポニーテイルに結いなおす。流石に走るときとかに重心が傾くと不安定になるからね。


「本気で来い、と言ったはずだ。何だ、そのドレスは。ワシを愚弄しているのか?」


 あらあら、怖い怖い。でもね、全く愚弄はしてないわよ。これがあたしの戦闘服。昔っからのね。


「《電馬の万場(サンダー・フィールド)》!」


 へぇ、《古具》の発動ってこと?


 道場の地面が、バチバチと音を立てて帯電しているわね。これは、一歩でも踏み出したら感電するって意味かしら?


「《黒刃の死神(ブラック・エッジ)》」


 あたしの言葉と同時に床が削れ飛び、そこから無数の黒刃が生える。でもその黒刃すらも電気が伝い帯電して自壊しているわね。

 なるほど、自分が地面と認定した部分全体に雷を覆わせる系の《古具》ってことね。認識生現型の《古具》ってところかしら?


(こりゃ、いくら地面に黒刃生やしても意味ないわね)


 生やした側から壊れちゃ意味ないってのよ。それなら、直接攻撃で斬撃をプラスして斬るか、それとも……。


 あ~、あ、面倒ね。


「ならば、刃を一点に集め、剣としたらどうだ?」


 脳裏に響くグラムの声に、あたしは頷いた。なるほどね、そういう使い方もあるのね……。それと同時に、思い浮かぶのは、【宵剣・ファリオレーサー】。

 懐かしき愛剣と共に、蒼き力を思い浮かべた……。


――ゴゥ


 何かが噴き出す音と一緒に、あたしの周りを蒼色の光の奔流が包んだ。これは……、【蒼刻】。【蒼き血潮】ね。


 体内に形成された7つの【蒼き力場】により、体の内側から蒼色に染まっていくわ。そう、かつてのように。


「《黒刃の死神(ブラック・エッジ)》」


 あたしは再度唱えることで、刃を剣の形に押し固める。


「来なさいっ!

 ――【宵剣・ファリオレーサー】ァアアアア!」


 あたしの呼びかけに呼応するかのごとく、黒刃が剣へと生まれ変わる。


――ファリオレーサー。【宵闇に輝く刃の獣(グラムファリオ)】の牙によって造られた剣。


 その召喚の反動で、道場の屋根が吹き飛んだ。月も星も見えない、暗い夜。そんな夜にあたしは微笑む。


 ――漆黒の夜。その闇を纏う様なドレスを身に纏って、束ねた蒼の髪を風に靡かせ、宵闇の剣を振るう。


 まさしく「闇色の剣客」の謳い文句。そう、あたしは……


「【闇色の剣客】、八斗神(やとがみ)闇音(あんね)。全力で行くわよ」


 周囲が蒼に染まる。帯電する床を蒼の奔流が呑み込み、全てを消し去る。もはや、戦う意味なし、って感じよね。


「馬鹿なっ?!」


 言葉を失っている天姫谷萬馬(ばんま)。いえ、「馬鹿なっ」って言ってるから言葉は失ってないけど、驚きまくってる。


「消えなさい……」


 そういいながら、【宵剣・ファリオレーサー】に【蒼き力場】を注ぎ込んで、剣を蒼いオーラが包む。

 そして、切っ先にオーラを増加させるための【力場】を生み出し、撃ち放つ!


 蒼色の斬撃がオーラを伴い道場の壁を突き破り、そのまま本邸の方へと突き進む。


――ドォオオン!


 本邸を半壊させたわね。もうちょっと出力高めの方がよかったかしら?










 モクモクと砂煙と木片、埃が宙を舞う。あたしは、懐かしい剣を一撫でし、腰に収めようとして、そういえば黒刃によって作られたものだったことに気づいたわ。全く、習慣と言うものは恐ろしいわね。


 手を振る様にして、黒刃によって出来た【宵剣・ファリオレーサー】を消す。パッと手から消えたので、すっぽ抜けた様な感覚で違和感を覚えて、ニギニギと何も持ってない手を2、3回握って違和感を消す。


 うん、ばっちしね。


 さぁて、どうしましょうかね……。当初の目的どおり家は潰せたんだけどね。まっ、そんなもんっしょ。


 それにしても【蒼刻】、ね。かつての前世……八斗神(やとがみ)闇音(あんね)の頃は、常時、体内に7つの【力場】があって、ずっと蒼い髪と目だったんだけどね。


 まあ、こんな世界じゃ蒼髪なんて、まず見かけないしね。……あ、どっかの近所

の床屋に左半分青色で右半分紫のおばちゃんなら見かけたけど。


 まあ、世界に馴染む関係で引っ込んだのか、それとも、徐々に蒼の力が衰えていって特殊なときにしか現れなくなったのか、それはあたしには分からんわね。


「これほどの威力……だと」


 天姫谷萬馬(ばんま)は、そんな風に呟くわ。これがあたしの力量ってやつよ。


「で、力量を弁えたのがどうとか言ってたけど、あんたは力量を弁えていたのかしら?」


 あたしの言葉に、言葉が詰まる天姫谷萬馬(ばんま)。ま、そりゃそうよね。力量を弁えろって言っておいて、自分が弁えてなかったんだもの。


「何が言いたい」


 いや、言いたいこと今、全部言ったけど?!

 え、何?今のあたしの言葉全部スルーですか?


「あ~もう、あんた、力量弁えてないんだから、仕来りだの何だのは放り出してちゃんとした力量を弁えるか、それとも自分の身を引いて、力量に見合った地位に着くかしろってことよ」


 もう、はっきりぶっちゃけてやったわ。全く、何なのよ!


「ふっ、そうか。ワシもまだまだということか。……長らく、仕来りに従い、忘れていたな」


 老人かっ!何このおっさん、70歳くらいのジジイを倒したときのイベントみたいなことを言い出したわね。何なのよ。え、40歳くらいでしょ?ジジ臭っ!


「ワシは呪里と亞火を連れて、暫し修行へ出るとしよう。帰ってくるまでの仕切りは、そちらに全て任せる。ワシとの連絡役は御草(おくさ)にでも任せる」


 そう言って、天姫谷萬馬(ばんま)はボロ崩れた道場から出て行くんだけど……、え、ちょっと待って。


 家は半壊状態で、あんたは修行に出るからいいでしょうけど天姫谷家のメンツはどうやって暮らすのよ!


 いや、家壊したのはあたしだから言えた義理じゃないけどさ!え、マジどうすん

のよ、ねぇ?!







 それから小一時間。気が付いたら萬馬、呪里さん、アビニスの3人は居なくなっていた。この家に住んでいたのは、現在は萬馬、呪里さん、アビニス、龍馬、螢馬だけで、後の、ほら、春のときの黒い奴らとかいたじゃない?あいつらは、それぞれの家に住んでるらしいわよ。何でも、配下……と言うより門下生と言うか、部下と言うか、とても表現しづらい関係らしいけど。


 とにかく、まあ、3人が出て行った以上、残りは龍馬と螢馬が住むだけだから、半壊でもどうにかなるでしょうけど……。


「まあ、工事するしかないだろうな」


 と、当たり前のことを言ってきたわ。まあ、そりゃ工事するしかないでしょうね。でもその間、どうすんのかしら?


「神社の管理は御草に任せるとして……家の修理も御草に任せるか」


 御草が過労死するわよっ!何でもかんでも御草に押し付けんなっ!

 まあ、それはいいとして……いえ、よくないけど、まあ、ひとまず置いておくとして、こっちの2人はどうするのかしらね。


「俺と螢馬は、再び三鷹丘へと戻るとしよう。螢馬は休学扱いの三鷹丘学園に復学させ、俺は、鷹乃町第二高等学校3年に編入する出来るようにしようと思っている」


 へぇ、なるほどね。いいんじゃないの?


「じゃあ、あんたが当主ね、龍馬。まあ、その辺、色々と自分でどうにかしなさいな」


 あたしは龍馬にそう告げると《古具》を解き、ドレスからラフな格好へと戻りながら言うわ。


「それじゃ、またね」


 そう言ってから、ふと思った。帰りの車、どうしよ……。









 結論から言えば、車の心配はなかったわ。半壊した家の前にずっと停まっていた行きに乗ってきた車があったのよ。そういえば運転手の顔を見たことがなかったんだけど……。


「お帰りで?」


 そう聞いてきた運転手は……御草だった。……本当に大丈夫かしら?過労死したらどうしよ。


「ええ。楽盛館までお願い」


 そう言って、リムジンに乗り込むあたし。あ、普通にリムジンにもう1回乗ってるわ。修学旅行終わってないのに……。誰よ、メタ的に言えば修学旅行終わった後とか言ったの。


 リムジンに乗ってしばらくして、動き出す。さて、明日は、修学旅行4日目……。明後日が最終日で、明後日には新幹線で家に帰ってしまうわね。


 ってことは、明日には、市原家と決着をつけなきゃならないわね……。




 そんなことを考えながら、あたしは、「楽盛館」に着いたので、リムジンを降りて、気配と息を殺してとっとと部屋に帰ることにした。

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