表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《神》の古具使い  作者: 桃姫
古具編 SIDE.GOD
10/385

10話:生徒会の活動

 俺が作業スペースに戻ると、ユノン先輩が非常に、何かか聞きたそうな顔をしていた。なんだろうか?


「どうかしました?」


 俺の問いかけに、ユノン先輩が「あはは」と頬を引きつらせながら、俺に聞いてくる。


「あ、あのさ、どっちが素なわけ?」


 ユノン先輩の言いたいことの意味が分からず柄にもなく小首を傾げてしまった。女々しいのであまり取りたくないのだが。


「どっち、というのは?」


 俺は、ユノン先輩に聞き返した。質問に質問で返す奴は馬鹿だ、と言うが質問の意図が分からないので仕方がないだろう。


「さっきの電話のときみたいな軽薄な態度と今の真面目な態度、どっちが青葉紳司君を形成する人格なのかな、って」


 なるほど、どれが俺の人格なのかって言うことか。そんなもの簡単だろう。即答する自信がある。


「どちらも、と言うのが正しいと思いますが」


 まあ、どっちも俺だ。二重人格と言うわけではないが、二面性ってやつだな。人に見せる部分を使い分けるんだ。


「ふぅ~ん、そうなんだ……。ちなみに今の電話相手は彼女さん?」


 ユノン先輩が妙にトゲトゲしい態度で睨みながら言ってくる。何か気に障っただろうか。まあ、いい。


「いえ、違いますよ。俺、フリーですから」


 言っていて悲しくなるな。彼女の1人くらい欲しいものだ。


「え、彼女いないのぉ?」


 ファルファム先輩が凄い意外そうに聞いてくる。そうっすね、いまどき、誰でも彼女くらい作ってますよね。いなくてすみませんね!


「いませんよ。何ですか、悪いですか?」


 少し苛つきを混じらせた怒気ある声で威嚇(いかく)するように言った。


「ううん、悪くないよっ!うん!悪くない!」


 なにやらガッツポーズをとるファルファム先輩。そんなに俺に彼女がいないことがうれしいのか。(ひで)え。人の不幸を笑うな。


「それにしても、相手が誰にしても、あんな難しい話するもんなの?」


 秋世がそんなことを言った。そこまで難しい話じゃないだろ?


「そうか?いつもあんな感じ……ではないが、今朝もパンツとブラについて語り合ってたしな」


 俺の発言に、秋世が目を丸くした。


「え、相手、男?」


「女」


 姉さんは女である。男の場合兄さんだ。


「紳司君って女の子と朝からパンツの話をするような人間なの?てゆーかその話をできる女の子って!」


 秋世が五月蝿かった。ちなみに、静巴は黙々と、ユノン先輩がやっていない書類を片付けている。流石だ。


「別に普通じゃないのか?」


「どういう話の流れでそんなことになったのよ?!」


 秋世は騒がしいな。


「どういう流れって、え~と、シャワー浴びようとして、風呂で出くわして、一緒に風呂は入って、その流れだな」


「一緒にお風呂って、……ど、同棲(どうせい)?」


 同棲とは違うだろ。家族だ。


「何言ってるんだ?」


 俺は、秋世を頭の悪いものを見る目で見た。


「な、何よ!その、何コイツ、馬鹿なの、死ぬの?みたいな目で見ないでよ!」


 そこまで深い意味は込めてない。やはり馬鹿か。


「そういえば、アレ、片付けないといけないんでしたよね?」


「アレ?アレって?」


 唐突にユノン先輩が言い出す。アレってなんだ?


「えっと、その学園行事の……、えっと……、5月12日が締め切りだった……」


 えー、とか、うー、とか唸るユノン先輩。これは、あれか。肝心なことが思い出せないってやつ。


「ベイカーベイカーパラドックスですか?」


 俺が聞いてみる。すると、ファルファム先輩が小首を傾げた。可愛い。しかし、どちらかといえば、小首をかしげる動作は静巴の方が似合いそうだ。


「ベイカーベイカーパラドックスとは、肝心の部分が思い出せない心理現象の一つです」


 静巴が書類に目を通しながら言った。仕事をしながら話も聞く。なんとも出来た人間だろうか。この年増教師に見習わせたいものだ。


「思い出したいことを中心に記憶は樹形図状に広がっていくんですが、この樹形図のようなネットワークの中で個人名は結び付けにくいので思い出しにくいんです。

 ちなみに、ベイカーベイカーパラドックスの名前は、その人がパン屋、つまりベイカーであるのは思い出せるが、ベイカーと言う名前は思い出せない、と言うジョークから付けられたものですね」


 そんな風に俺が言った。


「相変わらずの歩く図書館ね」


 秋世の感想。だからその歩く図書館ってのは何なんだよ!


「ちなみに、会長が思い出そうとしたのは、『修学旅行のしおり』製作の原案だと思います」


 静巴が書類をトントンと整えながらユノン先輩に言った。そういえば、もうじき修学旅行の時期か。


「あ、それよ!それ」


 ユノン先輩がナイスといわんばかりに静巴を見た。そして、書類もついでに片付けられていることに気づいた。


「あ、私、職員室に戻るわ。職員会議の前に戻らないと」


 秋世が思い出したように消えた。一瞬、銀朱に光ったので《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》を使用したのだろう。せめて完全に人がいない時間を選べと言いたい。


「そういえば、話は戻りますけど、さっきの姉さんから電話で、向こう……鷹之町第二校でも《古具》使いがいるみたいなことを聞いたんですけど」


 その言葉に、ユノン先輩、ファルファム先輩、静巴が目を点にした。驚いたらしい。それもそうか、そんな近場に《古具》使いがいるなんて灯台下暗しってか?


「さっきの電話、お姉さんからだったの?」


 ユノン先輩が俺に聞く。そっちかよ、と思わず俺は心の中でツッコミを入れてしまった。


「ええ、そうですよ。言いませんでしったっけ?」


 俺、最初に、「ん?姉さんか?」って呟いたはずだが。


「聞いてないわよ。まあ、それなら一緒に暮らしているのも、一緒にお風呂に入るのも……って、姉弟でも一緒にお風呂に入るのはおかしくない?!」


 まあ、当然の反応と言えよう。


「で?鷹之町第二って言うと……、あ~、不知火(しらぬい)御曹司(おんぞうし)んとこの《古代文明研究部》のこと?」


 どうやらユノン先輩は、古研を知っているらしい。それにしても不知火?確か、名家の1つだったはずだが。


覇紋(はもん)っちのとこにおねぇーさんがいるんだ?おねぇーさんってことは三年だから覇紋っちと同じ年でしょ?」


「あ、双子です。同じ二年生で、今日から《古代文明研究部》の部活に参加したらしいですけど」


 一応、姉弟事情を説明をしておく。

「ってことは、さっきのむずかしぃー話は、おっくーの《千里の未来(シーン・フューチャー)》だねっ」


 ファルファム先輩が言って、「おっくー」について引っかかったが、占夏(せんげ)十月(とつき)の十月=オクトーバー=「おっくー」か。


「それにしても向こうも二年生を補充してきたのは修学旅行対策、かな」


 修学旅行対策?修学旅行というのは、ウチの学園では二年生の6月上旬に京都・奈良まで6泊7日の1週間使ったものだ。向こう「も」と言うことは、こちらもそれの対策になるわけで、修学旅行の対策ってのが何かよく分からん。


「それは、どういう意味でしょうか?」


「あっ、ううん、なんでもないわ」


 俺の問いかけにユノン先輩は首を横に振った。なにやら修学旅行にはいろいろとあるらしい。


「はぁ……、あの人たち、今年もきっと……」


 ただ、ユノン先輩は、何かを(うれ)うように、呟きざまに溜息を吐いた。実家関連で色々あるのだろうか。


「あっ、そういえば、明日から部活の部室や活動点検をしなくちゃいけないんだけど、どこ担当する?」


 部活の部室や活動の点検と言うのは、つまり、抜き打ち検査で、その部がきちんと活動しているのか、部室に余計なものを持ち込んでいないか、を確認するものだ。俺は、無所属だったから経験はないが、割りと没収物が出るらしい。


「どの部活をやるんですか?確か、もう先月にサッカー部、野球部、陸上部、悪魔部、家庭科部の点検はしていましたよね」


 俺が知り合いに聞いた限りだとその部活だけだったと思う。


「うっ……、男子が多い部活って、どうしても部室にあれな本が多いのよね……」


 あれな本ってのは「宝物(トレジャー)」のことだろう。仕方がないものだ。まあ、俺は一冊も持ってないんだが。なぜなら、姉さんが物色して持っていくからだ!


「まあ、その、す、すみません」


 なぜか分からないが、一応、俺は謝った。


「まあ、いいわ。それで、今回の部活は、魔術部、理科部、山岳部、水泳部、軟式テニス部ね」


 これらの部活は、すべて明日活動予定の部活だ。部活に関しては、一日で全て回りきらなくてはならない。抜き打ちにするために、数日かけると生徒達の連絡でバレる恐れがあるので、その日、一日で予定していた部活を全て消化するようになっている。


 しかし、俺は、行きたい部活があった。

 ちなみにだが、テニス部は、この学園に3つ存在する。軟式テニス部(男女混合)、女子硬式テニス部、男子硬式テニス部の3つだ。本格的なテニスを望むなら硬式だけで、軟式テニス部(男女混合)は、イチャつきたい男女が集まるサークルのような部活だ。


 むろんのことながらそんな部活には行きたくない。


 そして、魔術部。違和感を覚える名称だが、これは、かなり昔から存続している部活で、いわゆる、昔の伝承から魔術を科学的に解明していく方向の部活で、所属している生徒全員が中二病患者であることは有名だ。しかし、それなりの結果を残しているので、実績だけはかなりあり、何度か表彰をされていた。


 まあ、むろん、興味がないわけではないが、違う。俺が行きたい部活はただ一つだ。


 俺は、静かに、懇願するようにユノン先輩を見て言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ