01話:プロローグ
この作品の更新は不定期です。
SIDE......GOD
俺、どうしちまったんだ?
なんて言う風に、考えてみるが、考え付きようもないので、考えるのはやめた。まあ、まず、今の状況を整理しよう。
寝ていたはずの俺は、なぜか、真っ白な部屋にいる。しかも俺以外に何もない。簡素な空間にもほどがある。
ふむ、分からん。まあ、もっと遡って整理するなら、俺は、青葉紳司だ。三鷹丘学園に通う高校二年生だ。
それから、まあ、何の変哲もない高校生活を謳歌していたはずの俺が、何でこんな真っ白な空間にいるのか、というと謎。謎も謎。意味不明ってことだ。
「ふむ、白いな」
とにかく部屋を調べることにしたけど、特に白いことしか分からない。材質は、分からない。固いことは確かだが、一般人の俺が、大理石がどういったものか知るはずもなく、しかし、コンクリートでもないのは確か、としか言えない。
「隠し扉のようなものは見当たらないが……」
喋りながらやったからと言って結果が変わるわけじゃないが、もはや、何か喋らないと音がなさ過ぎて怖い。
無音ってのは、思いのほか恐怖感を覚えるもんだな。まあ、常に音があるのが当たり前なのだ。常にあるもんがないってのは、それなりに落ち着きがなくなるものであるのは確かで……。
「それにしても、部屋ってよりは、物置だな」
俺はそう思ったので、口にしてみた。なぜ、俺がそんな感想を抱いたかというと、窓がない、灯りもない。
そういえば、灯りもないのに、どうしてこの部屋は明るいんだろうか。疑問は増える一方だな。
そうして、何かないか探ること1時間。いや、時計がないからおそらく1時間くらいとしか言えないけど。
「いや、物を置くところが物置だから、何も置いてないのに物置ってのもおかしいか?」
そんなことを考えているうちに、ふと、気づく。いつの間にか、俺の背面の壁に、文字が彫られているのに。
「何だ、これ。いつの間に」
俺は、手でそれをなぞった。不思議と意味が分かる。知らない言語であるはずなのに、知っていた。
「――天道を行く我等。その道標は、紅と蒼を孕んだ矛盾の天使。第一は、天使を拾え」
神々の言葉、悠久聖典に刻まれし神聖語で彫られた言葉。
「拾え、ね。天使なんて落ちてるもんじゃねぇだろ」
俺は、そんな風にぼやいた。なぜか、父さんの顔がチラついたが気のせいだろう。父さんはまだ生きてるから天使に会ったことなんてあるはずないし。
「それに紅と蒼の天使なんて聞いたこともねぇぞ。どこの神話だよ」
俺の知る神話の中に、そんなけったいな奴はいない。けったいってのは「奇妙な」って意味だ。主に関西地方で遣ってるけど、最近じゃどこでも遣うんじゃねぇかな?
あと言葉は遣うなのか?言葉遣いってあるから、……。ってんなことはどうでもいいんだ。
「紅……。紅の天使、ね」
俺が紅の天使で思い浮かべたのは、とあるロボット物のアニメだった。まるで、汚い紅の粒子が翼のように広がる様子は覚えているが……。
「ぜってぇ、違ぇ……」
まあ、そんなものが落ちているわけもなく、そもそも蒼はどこにいったってことで……。しかし、まあ、蒼の方も考えてみるが……。
「蒼の天使……」
全然知らん。そもそも天使に色なんてあるのか?
「考えても分からん!」
そうして、俺は、白い部屋にゴロンと寝転がろうとして、地面に倒れこんだ。地面を待つ僅かな間に、不思議な浮遊感に包まれた。
「は?」
思わず声が漏れる。そう、地面がない。寝転がろうとして、さっきまでそこにあったはずの白い部屋の床がない。
「うぉおおおおおおお!」
バッと体を持ち上げると、そこはベッドだった。見慣れた部屋。俺の部屋だ。紛うことなきいつもの俺の部屋だった。雑多に積まれたラノベは、いつもどおり。
「っはぁ、はぁ……」
心拍数が早くなっていた。なんちゅー夢だ。床だと思って寝転んだら落とし穴とか、マジやめろ!
逸る鼓動を抑えながら、俺は、ジャージを脱ぎ捨てた。そして、制服に簡単に袖を通し、着崩した状態で、部屋を出た。
俺の部屋は二階にあるから、階段を降りてリビングへと向かう。リビングに着くと、母さんが俺の格好を見てため息をついた。
「ちょっと、紳司君。もっとちゃんと服を着なさい」
母さんは、割りと細かいところにこだわるというか、うるさいというか。父さんは、母さんと違って大雑把というか、まあ、父さんの言いたいことは大抵母さんが言ってしまうらしいのだが、夫婦ってそこまで以心伝心なのか……。
「いや、俺はまだ、ちゃんと着てる方だと思うよ」
そう言って俺は肩を竦めた。そのとき、タンタンと階段を降りる音が聞こえてくる。いつも通りだ。
「ぉはよ」
振り絞るような眠たげな声で姉さんが言った。俺の姉、青葉暗音だ。ちなみに母さんは紫苑って名前だ。
「もぅ!暗音さん!」
母さんが声を荒げたのも当然だ。姉さんは、下着姿だったからだ。まあ、いつもこうなんだが。
「年頃の女の子がはしたない格好しないでください!」
母さんも口うるさいが、いい母さんだと思う。なんてことを考えていると、珍しくいたのか、父さんがリビングに顔を出した。
「何やってんだ?……あ~、いい、大体分かった」
父さんは、そう言うと、母さんの方を向いて普通の口調で言った。
「まあ、落ち着け。お前も昔は全裸でリビング降りてきてたろ、寝ぼけて」
「わーっ!ちょっ!青葉君?!何子供の前で口走ってるんですか!」
母さんは、学生の頃は、父さんのことを「青葉君」と呼んでいたらしく、未だにその頃の呼び方が出てしまうときがある。
「いや、だって、お前。ちょっと、裸エプロン的な、とか言ってごまかそうとしてたけど、筒抜けだったし」
「いいじゃないですか!分かるんですから、そこは、わたしの深層心理を汲み取った方で対処してくれたら!」
こんな風にイチャイチャする両親だが、父さんは、滅多に帰ってこない。って言っても、月一くらいで帰ってくるけど。
「そういや父さん。紅と蒼を孕んだ矛盾の天使って何か分かる?」
俺は、ダメ元で父さんに、夢で見たあの言葉について聞いてみることにした。
「紅って言えば……、あ~、何だ?」
父さんは、暫し、額に手を当ててぶつぶつと呟いている。父さんは、時折こうするんだが、未だに中二が抜けていないのか……。
「【意思を統率せし紅の翼】のルージュ、か」
父さんの言葉に、母さんが険しい顔で聞く。
「超高域ですか……」
何だ、この中二両親。よく分からんが、紅がルージュ?
「蒼は、あれか、【蒼き剣嵐】のソウジか。だが、両方を孕んだってことは、混ざってるんだから……」
父さんがぶつくさと考えるが、その間、母さんも黙っている。姉さんが、ふらふらと席につく中、父さんは、ハッとした表情で言う。
「まさか、……」
「ええ、その可能性は、非常に高いでしょうね」
父さんが、「まさか」としか言っていないのに、母さんには、全て分かったようだ。やはり、この両親は、凄い。
「なあ、お前等、最近、変な夢を見たりとか、変なことに巻き込まれたりしてないか?」
唐突な父さんの質問に、俺は驚いた。変な夢なら見たばかりだからな。しかし、どうして父さんはそれを知っている?
「んぁ?何で?」
姉さんのボケた返事。しかし、反応したということは姉さんも変な夢でも見たのだろうか。いや、姉さんが夢なんて気にするはずもないか。
「いや、まあ、いい。そのうち、話す機会があるだろう」
父さんの意味不明な言葉で、その空気を打ち切り、食事が始まった。すると、姉さんがパンをかじりながら父さんに聞く。
「そういや、次はどこにどんくらい行くの?」
姉さんの質問に、父さんは、「う~ん」とは言わないものの唸って、考えている。ホント、いつもどこに行ってるんだ?
「今回は3週間くらいじゃねぇかな」
割りと長いが、いつもほどじゃないな。そして、今回も行き先は言わない、と。
「あら、今回は、青森なんですか?」
しかし、母さんが行き先を言った。しかし、青森?結構遠いな。父さんって何の仕事してるんだ?
「まあな。ちょっと、親父の知り合いと会ってくる」
「ふぅん、女の人ですか……」
母さんの中では、じいちゃんの知り合い=女の人、なのか?ちなみに、生きているらしいのだが、じいちゃんには会ったことがない。
「ああそうだ。大丈夫だって、俺は、お前以外を好きになったりなんてしないって」
「ホントですか?……サルディアさん、しっかり見張っていてくださいね」
母さんは一体何に話しかけているんだ?目に見えない何かが、そこにいるのか。割りと怖いな。
「大丈夫だっての。相棒も……」
なにやら父さんと母さんは話しこんでいるが、俺はとっとと飯を食ってしまう。
「さて」
俺は、食い終えると、たったと学校に行こうと、席を立った。すると目敏く母さんが俺に声をかける。
「あ、紳司君、学校に行くなら制服を正してから行ってください!」
そんな声を聞きながらのんびりと玄関へ向かう。そんなとき、後ろからもっと大きな母さんの声が聞こえた。
「って、暗音さん!そんな格好で学校に行くつもりですか!服を着てください!」
姉さんはどこまで寝ぼけてるんだ……。
この作品は、《覇》の古具使い、《勝利》の古具使いの続編として書かれた作品ですが、この2つの作品は読まなくてもさほど問題がないように進行していく予定です。
また、この作品は、2つの視点で進んでいく予定です。先に「SIDE...GOD」、次に「SIDE...D」です。これが交互に進んでいくように書けたらいいな、と思っています。