第六話 この場所で生きるのに必要な知識を付けるなら?
今回は樹についての説明回です。この話が終わってようやく一区切りとなります。
前回のあらすじ、何やら高価な物をプレゼントされました、妖精さんの男前さ加減にトキメキを隠せません。
まぁ、冗談は置いといて。
私の事を命の恩人と言ってくれる妖精さんから頂いたそれを、私はもう一度調べる。
≪ 魔晶 (自然/鉱物) コスト:0 ≫
・詳細:魔素を吸収する性質をもった物質や生物から採取出来る結晶、魔力の塊。
・効力:魔術強化/魔力消費軽減/潜在魔力増幅
・生産:エネルギー還元 3000
なんというか、二つの意味で破格な代物である。
まずは三つの効力。ここに表記されている魔術の事は良く解らんが、その性能が凄まじいのは素人目にも明らかだ。RPG的に考えれば魔法攻撃力が上昇し、最大MP増加した上にMP消費量も軽減される破格っぷり、これは所謂チートアイテムと言う奴だろうか。まぁ、魔法なんぞ使えない私が持っていても無意味な代物だが。
次にこの魔晶のエネルギー還元のデカさ。今まで召喚してきた物の還元値がコストの四分の一だった事を踏まえると、この魔晶にはエネルギーにして12000程の価値が詰まっているという事になる。この事実からも、魔晶から得られる効力の強さも窺えるというものだ。ざっと河川12本分、魔壊樹の倍以上の力をこの小さな球体が持っているというのは驚きである。
正直な話、私がこんな物を所有しても絶対に持て余す。しかし、このアイテムのエネルギー還元は3000、目下財政難中な私には是非とも頂戴したい代物である。やってる事は知人からのプレゼントを質屋に流しているのと同義だが、正直背に腹は変えられません。心に貯まる罪悪感は半端無いけどね。
「おきにめしませんか?」
と、そんな邪な事を考えている私の足元から、愛らしい声が呟かれた。
暫く無言だった私を心配してか妖精様が話しかけてくる。私が何を考えているのかを読み取ろうとしているのか、澄んだ視線を私にむけている。やめて、そんなつぶらな穢れ無い瞳で私をみないで!
「だ、大丈夫、ちょっと驚いただけだから。」
いかん、相手の余りの綺麗さに不覚にも動揺してしまった。しかし、ここで話しかけられたのは良い展開だ。プレゼントの件で脱線してしまったが、私にはこの妖精に聞きたい事が山ほどあるのだ。
「あのぅ、妖精さん?」
「はい?」
「これ、魔晶っていう物だよね?何処から持ってきたの?」
そう、まずはコイツの出所。還元値3000もするお宝を、この妖精さんはどうして持っていたのか、いったいどうやって手に入れたのかを聞かねばなるまい。もしこれが定期的に入手できる代物であるならば、エネルギー問題は即解決、この樹を立てたコストを帳消しにする事も可能だろう。
それに、私はこの魔晶という単語を、事前に見た事がある。
「……もしかして、この魔壊樹、マキさんと関係してるのかな?」
「はい、まきさんからもらいました」
っ!ビンゴ!!!
私は表情に出さぬようにして、喜びを噛みしめる。そして、四つ有った魔壊樹の効力の一つを想い出していた。
“魔晶生成”
今までは全く解らなかったが、私の手にある現物と妖精さんの発言により確信を得た。そう、この大樹は還元エネルギー3000もの物質を生成できる存在なのである。正に怪我の功名、あの大量消費がここにきて妙手になろうとは思わなかった。
そしてもう一つ解った事がある、それはこの妖精さん、木妖精が魔晶の採取方法を知っているという事実だ。
「へぇ、マキさんが譲ってくれたのか。」
会話が途切れぬよう、簡単な相槌を打って話を繋ぐ。相手はきまぐれな妖精種、このタイミングを逃せば二度と語ってくれないかもしれない。よって相手に不快になる様な対応もしてはならず、大げさなリアクションも極力避ける事にした。ひそかに冷や汗を流しながら、次の言葉を必死に考える。
「それって、私が頼んでも貰える様な物なのかな?」
この言葉の真意はずばり、「私には魔晶の採取は可能なのか」である。その意図を知ってか知らずか、少し悩んだ末に小さな知恵物は答えを出した。
「むりだとおもいます、すくなくともいまはぜったいにむりです」
答えは否、だか言葉の言い回しから考えるに将来的には出来るかもしれない、と言う風にも取れる。詳しく聞きたいが、ここでの質問攻めは相手の機嫌を損ねかねない。踏み込まず、しかし話題は逸らさずに話を続ける。
「そっかぁ、出来るようになりたいなぁ」
「そうですね、まぁひとつきくらいのしんぼうです」
……ん?今の言い回し、何か可笑しかった。この妖精「ひと月くらいの辛抱」とか言ってなかったか?
「ひとつき?」
「はい、ひとつき。ひとつきたたないとぼくにもできません」
この情報、つまり一ヶ月後にならないと妖精さんでも魔晶の採取が出来ないということ、言い方を変えれば魔晶は“月に一度”採取が出来るという事か!?
すごい、新しい情報が次々に出てくる。妖精さんとの会話が真実なら、立ち回り次第で月3000のエネルギー確保できる事となる。この展開は、相当幸先がいい。後の問題は、それを私一人で実行できるかという事だ。
「じゃあ、一ヵ月経てば私にもできるかな?」
「それはわからないです」
やはりそう上手くは行かないか。この発言、魔晶の採取は力技などでは出来ず、何か特別な方法が使用される様だ。妖精さんが幹の近くで何かを呟いていたが、恐らくそれが採取方法だったのだろう。妖精固有の能力だとしたら私には確実に不可能、定期的に妖精さんに手伝ってもらう必要が出てくる。
……ダメ元で交渉してみるか?
「……妖精さん」
「はい?」
「来月になれば、もう一度魔晶がとれるんだよね?」
「はい」
「……もしよかったら、次の月もマキさんから譲って貰えないかな?」
「いいですよ、まいつきもらってきます」
妖精さんマジイケメン!!! 私が望んでいた事を平然と言ってのけるッ、そこにシビれる!憧れるゥ!
「本当!?ありがとう!!」
「いえいえ、おんじんさんはともだちなので」
「……そ、そっか~、ありがと~」
眩しすぎるよこの子!!こっちは打算100%なのに友達扱いとか勘弁してください!私の良心はズタボロです!
なんという罪悪感、腹がキリキリしてきた。いかん、このまま話が続けば胃が崩壊する。なにか別の話題を見つけねば。
「そういえば、マキさんが有名って言ってたけど、そんなにすごい樹なの?」
そういって、もう一つ気になっていた事を質問する。この魔壊樹には、“魔晶生成”以外の効力がまだ三つもある。“魔素吸引”、“魔術破壊”、“魔力放出”、それぞれがどの様な力を秘めているのかを調べ、危険があるようなら事前に対策を考えねばならない。新たな問題を発生しない事を祈りながら、妖精の回答を待つ。
「すごいゆうめいですよ、くいしんぼうで」
「……く、食いしん坊?」
ここに来て、すごく意外な言葉が出てきたな。しかし、食いしん坊とは、もしや“魔素吸引”の事を指しているのであろうか。さらに追及してみる。
「えっと、マキさんって普段なにたべてるの?」
「そうですねぇ……めにみえない、いろいろなものですかね?」
あまり要領を得ない答えが出た。目に見えない色々、植物的に考えれば空気や養分になるが、それだけでは“魔素吸引”なんて表記はされないだろう。少し切り口を変えて質問するか。
「……その食べ過ぎで、周りにどんな影響が出てきたの?」
「はい、まきさんがぜんぶたべちゃうので、おなかがすいてしまいます」
……つまり、こういう事か?この魔壊樹さんが周囲の栄養素諸々を吸い込んで、周囲に大飢饉を引き起こしたと?そこまでブッ飛んだ吸収力ってことか?
これは不味いんじゃないか?この空間の周囲に人間が居るかは解らんが、この空間自体に何らかの被害は出しかねない。これだけ巨大な樹だ、栄養分吸い尽して周囲一帯枯渇とかもあり得る、最悪の場合は水飲み場だって干上がってしまうかもしれない。この妖精は何か対策を知っていないだろうか。
「それは大変だね、何か解決策はないの?」
「だいじょうぶです、それとったらしばらくおとなしいです。」
実はそれほど期待していなかった質問なのだが、それは即答で帰ってきた。予想外の速さに多少驚いたが、直ぐに妖精さんが指さしたソレを見る。それは私の手の中に存在する、先ほどプレゼントされた魔晶であった。
「まきさんそれがないといっぱいたべれないです、だからしばらくはだいじょうぶ」
妖精さん曰く、この魔晶こそが周辺枯渇の原因であるそうだ。
妖精さんの言葉を聞いたあと、魔晶の効力を思い出して納得する。魔晶が持つ魔法技能強化の力、それが“魔素吸収”の効力を強化して、周囲に被害を及ぼしてしまうという事だ。これを踏まえて考えると、先ほど毎月魔晶を取るといったのは、元から取る必要が有ったからこその発言だったのかもしれない。
「本当に物知りだね、妖精さんはマキさんと関わりが深いのかな?」
「まきさんのそばはごはんがいっぱいでるので、すみごごちばつぐんです」
ご飯がいっぱい、これは“魔力放出”の事をいっているのだろうか。先ほど倒れた時もこの樹から放たれる魔力なる物を摂取したことで助かったのだろう。どうやらこの樹の傍は、妖精さんが住むのにこれ以上ない環境の様だ。
これで大半の疑問は片付いた。まだ“魔術破壊”という効力が解っていないが、魔術を使えない私にとっては関係の無い事だろう。
有益な情報、更に供給源も確保できた。そして可愛くて物知りな友達も……。最初はどうなる事かと思ったが、この妖精さんとならなんとかやっていけそうだ。そうして隣に座っている小さな友人を眺める。
「そういえば、ぼくもおんじんさんにひつもんありました」
おや、ここでそう切り返して来るか。この妖精さんからは多大な情報を貰ったし、しっかりと答えてあげなければいけないな。
「うん、良いよ、何でも聞いて」
「はい、それではえんりょなく」
「ここはどこですか?」
「……」
それ、わたしがいちばんききたいです。
この地の文から察するに……生命線確保に夢中で帰還方法のこと全く考えてなかったんだろうなぁ。柾さんの今後が心配です。次回、やっと日付が変わります。