第三十話 このダンジョンに危機が訪れるなら?
……難産でした、予定オーバーするくらいに、難産でした。
弁解のしようもありません、今後はもっと早目に纏められる様に精進します。
前回のあらすじ、巨大木製ゴーレムVS天空の迷宮、ゴーレムが迷宮を引きずりおろして勝利しました。勝利を迎えたのもつかの間、イキナリ上空から怒鳴り声が上がる。
何事かと思い上を見上げると、そこには一羽の鳥が空を舞っていた。怪訝に思いながら暫く見続けていると、その背から突然何かが落下する、回転しながら地面に向かっているそれが人だと気が付いたのは私の目の前でそれが綺麗に着地した瞬間だった。
無駄にカッコいい、だが……飛び降りる意味は有ったのだろうか?鳥に乗っていたのならそのまま降りて貰えば良かっただろうに。いやそんな事よりもコイツ……
「……だれ?」
うん、わかんねぇ。いや、この迷宮の関係者なんだろうけど、着地して決めポーズまでとってるこの人、さっきから一言も喋ろうとしないんだもん。まるで自分の事は知っていて当然だろう、とでも言いたげに不敵な笑いも浮かべてるし!
「……何?俺を知らねぇとは潜りだな、天空を駆る空賊一門が頭目!人呼んで烈風のアレス様だッ!!」
……あぁ、やっぱり知ってて当然だと思ってたみたいね。なんだろう、どことなく発想がリベラに似ている、そして説明を受けたのにほとんど情報が更新されなかった、どうしよう。
「一門?えっと確か家族とか同族って意味だっけ?フィアしってる?」
「……やっぱり知らないのね、空賊一門っていうのはの近年百近く存在する飛行船相手の盗賊たちの元締め組織の事、そしてあの男は迷宮……追風の舟の支配者よ。あと自称義賊って名乗ってるわね、襲うのは専ら地上の盗賊達みたいだけど、略奪者には違いは無いわね」
……若干毒舌が入っているのがフィアらしいが、まあ概ねどんな存在なのかは解った。
それはそうと、あの人が迷宮の主か、それにしても組織を創ってると言うのは意外だった。まあ私に人脈が無いだけで、他の迷宮も何かしらの繋がりを持っているのかもしてないな。
「あれ?その盗賊団のリーダーさんが何で一人で来てんの?こういう時って手下数人は引き連れて来るもんじゃ無いの普通?」
流石に一人で“賊”とは名乗らないだろう、私が素朴な話を聞いた途端、眼前のリーダーさん物凄い怖い形相で睨んできた。正直めっちゃ怖い、憎しみで人が殺せそうな面だよ、私そんなに悪い事言った?
「……お前が、お前がそれを言うのかッ!誰のせいで迷宮内が水に浸かってると思ってんだよ!あいつらが砲撃してる間に放水なんざしやがって!意識の有る奴らも全員救助に回って無傷なのは俺位なもんだ!!」
中に……他の人?
…………か、考えてなかったぁ!!!いやだって私が来た時は一人だっだたじゃん?その流れでダンジョンに居るのは一人って考えても可笑しく無くね?だから私は悪くねェ!!
ッて弁明してる場合でもねぇわ!さっさと助け出さないとマジで死人がでかねんぞ!!
「み、ミーさ~ん!排水!!無論水だけで!!」
「……ちょッ!、正気!?」
フィアの制止もむなしく、ミーさんは迷宮からの排水を始めた、上空から大量の水が勢いよく流れ落ちた。それにしても流石ミーさん、言われた通り水だけを排水してくれている。これなら下に人が落ちる事は無いし、多分怪我人は出ないだろう。
……うん?下に……人…………ハッ!!!
――――――鉄砲水だぁ~!!!
――――――全軍姫様を高所にお連れしろ!ここは俺がっ!
――――――な、何を言うのですか!?この状況で貴方以外にだれが指揮を……
――――――うろたえるな副長!……この場の指揮、任せたぞ!!
――――――た、隊長ぉ!!!!
……下でドラマが繰り広げられてい気がしますが、ナニモキコエナイナニモキコエナイ。
「成程……上空の迷宮へ水を貯め込み無力化させ、それを排水する事で下の騎士団も一掃するか。なんと言う鬼謀、一つの策にて二つの敵を崩すとは流石よなウァリィ!!」
マジ止めてください勘弁してください、お願いだから非情な現実を突きつけないでぇ。と、そんな辛い現実と戦っている私を尻目に、空賊と名乗った男は話を切りだしてきた。
「……下が何か騒がしいが今は置いておこう、水の件も取り敢えずは良い。おれはここに来た本来の目的を果たす!そこの吸血種に用が有る、そいつをこちらに引き渡せ!」
……また男扱いされているが、気を取り直して空賊さんの方に向き直る。吸血種、つまりリベラの事か、あぁやっぱりリベラが言っていた闇の眷属云々は真実だったようだな。
そしてこの空賊、以前リベラから聞いた無賃乗船したと言う話に出てきたな、たしか怒り狂った船長さんだったか。まぁその船が空を飛んで、しかもここと同じ迷宮だというのは全く語られなかったが。意図的に隠したんじゃないだろうけど、もうちょっと詳しい説明を……あれ?私が遮ったんだっけ?
まぁとりあえず、要件の有るという本人に話を聞いてみるか、それが一番手っ取り早いし。彼がここまで来たのはリベラを追いかけてきたからだ、なぜそこまで必要に追いかけるのか理由を聞かなければならないな、……本当に何を仕出かしたのかリベラさんは。
「えっと、そもそも何で、リベラを追い回してんです?こんな所まで来たって事は相当な理由があるんでしょう?まさか無賃乗船が理由って訳じゃないですよね?この子いったい何したんです?」
「なんと失礼な、我が不作法なぞ働くはずが無かろう!」
「……あぁそうね。それで何があったのか、教えてくれませんかね?」
リベラがなんかっているがとりあえず無視、彼から理由を聞き出すべく話を進めた。リベラの言葉に一瞬眉間が動いたが私の対応を見て直ぐに表情は収まる、私の方をじっと見ていると思ったらいきなり溜息を吐く、そのあと誰かに目を合わせるでもなく愁いを帯びた表情を浮かべていた。
「……俺は今、ある特殊な部隊を編成中だ、それは幻獣達による騎乗部隊だ。自在に空を駆けまわる幻獣達、飛び交う固有魔術、それは想像出来る最強の部隊と言って過言ではないだろう」
……なんかいきなり語りだした、話が唐突すぎて意味も関係性も全く掴めないが、とりあえず最後までは聞いておこう。
「……そして今回編成していた幻獣、心血を注ぎ調査を積み重ねて手に入れた絶滅種達をやっとの思いで揃え、いざ部隊登用の為に数を増やそうかと思った矢先……そいつが全て血を吸い尽して干物にしちまったんだよ!!」
…………あぁ、リベラってちゃんと吸血するんですね。普段何も吸っていなかったから口だけかとも思ったが、その種族名が指す通りちゃんと吸って吐いたみたいだね。
……いや、そうじゃないな、問題なのはそこじゃない。
「……リベラ?ひとの飼っている動物に手を出しちゃダメでしょう」
「……いや待て、少々誤解がある。確かに我は幻獣の血を啜っておったが、手を付けたのは大体15頭程だ。この程度では奴の全軍に宛がうには程遠い、つまりほんの一部に過ぎないのだ」
「全く誤解なんてねぇよ!!全15頭だコラ!!!それだけの数用意するだけでどれだけ時間と労力浸かったと思ってんだ!!!あぁ俺のシャーリーがッルビアがッエミリーがぁ!!」
なんかすっごい面倒な話だなおい!えっとつまりはこの人が名前まで付けて可愛がっていたペットをリベラが食べてしまったと、……まぁコレは確実にリベラが悪いわ。
しかし当の本人はよく理解はしてい無さそうだ、まぁダンジョン中には野性のモンスターが闊歩してる物だと思っても仕方ないかな、うちのダンジョンもそんな感じだし。その幻獣達がどんな感じで飼育されていたかは知らないがな、どんな形で飼育をしていたかで結構話が変わってきそうだ。
ただこの人がその話を聞き入れるかは微妙かもな、もう怒りが天を衝いている様だし、ここは先に謝ってからの方が話が進めやすそうだ。仕方がない、リベラに折れて貰うよう説得してみるか。
「はぁ……リベラ、アンタがやったのは人の物を盗んだり壊したりしたのと同じだ、それが悪い事だってのは分るよな?だったら先ず謝罪、そのあとでどうやって償えば良いか考えよう」
「だッだがウァリィよ、早朝目を覚ました所に古今東西の絶滅した幻想種が眼前に並んでおったのだぞ!?あれ程の流血は滅多にお目にかかれん!特にスノーペガサス!あ奴の血はシャーベットの如く甘く……」
「やめろぉ!フランソワーズの死を侮辱するなッ!!」
「いや知らんわ。……とりあえず謝っとけ、私も一緒に謝ってやるから。」
双方なにやらズレた事を言っているが無視無視、私はこの話をさっさと片付けたいんだよ!
「……むぅ、すまなかった、もうしない」
プライドが邪魔をしている様で言葉はそっけないが、ちゃんと頭も下げてるし、反省はしている様だな。喧嘩って言うのはどちらかが折れてしまえば結構終わるのは早いもんだ、ただ当事者達は折れたら負けって思ってしまうから難しいんだけどね、リベラが折れてくれて助かったわ。
さて、言った手前、私も謝らんとな。
「私の友人が迷惑を掛けたみたいで、本当にごめんなさい」
「……けっ、言葉だけで済むわきゃねぇだろ!じゃあそいつは連れて行かせて貰うぜ、そいつにメアリー達の墓前まで連れて行く、そこで始末もさせて貰うぜ。多少はエネルギーの足しにもなるだろうしな」
……始末、それにエネルギーだと?それはあれか?リベラに“奪取”を行うって意味か?
それは流石にさせられない、ちょっと我侭で自分勝手で我が道を行くマイペースな彼女だが、それなりに良い所もある友人だ。その友人が目の前で失われる様な事を言われたら、こちらも黙っている訳にはいかないな。
「……アンタの事情は分かった、怒りも当然だと理解できる。……んで、次の話なんですがぁ」
「あ?俺はもうお前なんぞに用はねぇぞ?話は終わりだ」
「うん、アンタの被害総額の話はね。だからさ、こんどはこっちの被害について話し合おうか」
相手方の意見を無視し、話を続ける。……というか私はコレが言いたかった為にあの迷宮を落としたのだ、これはちょうど良いので存分に言わせてもらいましょうか。
「まず一つ、先程の無差別な攻撃によって私の家が大破した!中には家財やら貰い物やらが結構あったんだけど、それを撒きこんで全てが吹っ飛んだ!あんたの狙いはリベラのみの筈だよな?何で無差別に攻撃してるんだよ?そのおかげで私は寝床が無くなったんだけど?まさか破壊した張本人がまた出せばいいとか言うまいな?どうなんだ?お前はどうするつもりであんな攻撃を仕掛けたんだ?」
「え、は、いや、えっと……」
多少の怨みもあり、若干攻撃的になりながらも、言葉を続ける。相手方は私の勢いに圧倒され、言葉がねない様だ。……ふむ、これはチャンスかな?この勢いに応じてこっちの被害を上乗せして行こうか。
「んで次、この木製ゴーレムなんですけど、今までこの迷宮のシンボルとしてあってとても重要な樹だったんですよ、アンタを止める為に改造するしか無くなったんですよねぇ。だからこの樹も弁償して下さいね、エネルギー五千くらいだけど妖精さんに頼んで周囲に被害が出ないようにしてもらってたし、まぁ三倍くらいは払って貰いましょうかねぇ?」
「あ、ああ……いや待て!?なんだその理屈は!?」
「だって他に材料無かったですし、他のモノ出す程エネルギー溜まって無かったんですよ。それにそもそもアンタが無差別に攻撃しまくったから発生した問題ですよ?アンタが攻撃しなければ改造もする予定無かったし、事の発端である人物が賠償を支払うのが世の理です」
私の理不尽な物言いに、彼は口をあんぐりと開けた茫然としている。なにか言い返そうと言葉を選んでいる様だが、あちらに反撃の隙は与えない、私は畳みかける様に次の議題を口にする。
「後これで最後だけど、この迷宮の全体的な被害ね。これは見た通り地盤に多大なダメージ負わせちゃってる、しかもこの迷宮には地下が存在するんだけどさっきから岩盤が落ちてきてたりしてるからそこの修繕もしなくちゃいけなね。さらにはこの下、あんなに穴がでっかく開いちゃったよ、コレの修繕費もよろしくねぇ」
「その大穴俺のせいなの!?そんなデカイの開けれる程威力ねぇぞ!!?」
「うんうん間違いないです、アンタが来なければこれ程の大穴は開いていなかった、きっと相性か何かが悪かったんでしょう」
まぁ嘘では無い、あの砲撃の所為で周囲の岩盤が削れて穴が拡大してしまったのだから事実である。しかしこちらの勝手な言い分に真剣に考えてくれている辺り、この人実は良い人か?自分で義賊だって言っていたし。
さて、無茶ぶりはここまでにしようか。そろそろ落とさないと、この人が暴れだしかねん。
「……そんで被害総額なんだけど、私はこの国の物価とか分かんないし、ここに来て日も浅いから取引における制度や条約なんてわからないんですよぉ。だからこの場は価値が大体同程度のモノを交換、というので手を打ちません?」
「?……何企んでやがる」
「そちらさんの言う、幻獣15頭分、じゃあ駄目ですかね?」
「!……ウァリィ!?」
私の提案にリベラが誰よりも早く声を上げた、その声に反応しくるりと顔向けて見ると、珍しく驚いた表情のリベラがそこにはいた。それを見て私はニヤリと笑った後、空賊の方へと再び意識を戻した。
「今回リベラがやった事は問題ですが、一応反省もしているみたいだし許してやってください。その代わりに、今回ここを襲った事はこちらも不問にします、お互い戦闘が長引くのは不毛でしょう?このまま痛み分けで終わらせませんか?」
……ぶっちゃけこれは賭けである。盗賊紛いの組織にこんな当たり屋見たいな強引な手が通用するとは到底思えないが、話して見た感触的にこの人は結構いい人だ。それに自分の事を義賊的な存在だと言っていることから、双方の被害が最小限になる提案なら呑んでくれるのではないか、そういった希望的観測での発案である。
良い返事を願いながらも内心かなり緊張している、なんせこの交渉が通らなければ、あとは正面衝突するしかないのだから。
「……お前、そいつと知り合ったのって、多分一昨日だろ?付き合いが浅いそんな奴に、そこまでする必要はあるのか?」
「友人になるのに時間はあんまり関係ないですよ、気が合ってたり話していると楽しかったり、困ってるときは自分の出来る範囲で助けてやりたい……そう思えれば十分でしょ?」
「……ハッなんだ、意外に人情家じゃねぇか、そう言うのは嫌いじゃねぇぜ。だがそれとこれとは話が別だ、シンディ達に顔向けできなくなっちまうしな」
……うぅんやっぱり交渉決裂か、まあ初めから思ってなかったけど。結局は力ずくになるか、まぁ今の流れは彼が解決策を提示したこちらの意見を完全に否定した形になる、それを突っぱねて強行手段に出る様な相手なら遠慮なんかしなくていいよね?
「……だが、これでは俺が悪役になるな、俺は義賊だからなそれは頂けん。だから俺の要求を一つ呑んでもらおうか、それが呑める様なら考えてやるよ」
お?なんか思ってたのと違う展開になってきた。こちらとしてはリベラと私の二人掛りでこの人おさえこむ気だったんだど、意外に好感触?
いやまだその要求ってのを聞いていない、内容によっては今まで以上の波乱を呼ぶことになるかもしれないしな、油断はできん。
「じゃあ「きゃあ!!!!」!!?」
彼が話を切り出そうとした直後、突然私の後方から叫び声が上がる。この場に居る女性、それは私と横に居るリベラを除けば、一人しかいない!!
「フィア!!?」
「動かないでください、これの操作は私も完全ではないので、下手に力が入れば彼女の命にまで影響を与えますよ」
そこに居たのは意外な人物、この迷宮が来る前まで私と交渉の席に付いていた男性、アフィリシア聖教国の政務官だ。……生きてた!?よかったぁ!……いや良くはねぇわ!フィアが大ピンチじゃん!!
「ほう、あの放水から良く生き延びたな、感心したぞ」
「ふ、我が聖騎士団の精鋭を侮ってはいけません、まぁ彼らは私と姫様を庇うので精一杯なようで、全員重傷は負いましたが……」
誠に申し訳ございませんでしたァッ!!そしてリベラさん思い出させないでください後生だから!
……ま、まぁ今はそれどころではない、フィアもピンチだし私もピンチだ。つうか結局、この人は何を考えて行動してるんだ?人質まで取ってどうする気だ、一応この場は抑えられているが、この後の事は考えているのか?
完全に抑え込まれているフィアの様子を窺う、彼女を捉えているのは彼の兵士達では無い、兵士たちとは仕様の違う豪華な騎士甲冑を来ているそれは足が地に付いておらず浮遊しているのだ。そして数は一体では無く、前衛に二体と後衛に二体、そしてフィアを捕まえているのを含め合計五体が確認できた。
というかアレは何?人ではないよな、人形?もしかしてゴーレムの一種か?ゲーム機で調べてもいいが、下手に行動すると立場が悪くなりそうだ、迂闊な行動は控えなければ……。
とはいっても、今出来る事と言えば……口先で話を聞き出す位だけどね。
「なあ、結局アンタの目的って何なんだ?アンタ最初は迷宮の遺産なんて欲しがって無かっただろ?姫様を助けられる可能性があるから、コイツがほしくなったんだ。じゃあそれが解る以前は何の為にここへ来たんだ?」
ここで私は、彼らに付いての一番の疑問を投げかけた。そう、私が飲めた事から考察するに、政務達の目的は私の討伐って訳じゃない。
じゃあ一体何か、もしその願いをかなえられたなら、私達にはもう用は無いはず。フィア釈放、とまではいかないかもしれないが、この場を一先ず収める切っ掛け位にはなるかもしれない。
「……では単刀直入に言いましょう、魔晶を渡しなさい」
魔晶?ここにきて意外な物の名前が出てきたな。あの魔壊樹から採取する事が出来るレアアイテム、それが今何の関係が有るんだろうか。
「強大な力を有する生物の中には体内で魔力の結晶を創る者が存在します、私が調べた所この魔壊樹もそういった生物の一体だそうです。曾祖父の残した資料から考察するに、姫様の症状は恐らく魔力の欠乏。ならば魔力を増幅させ循環を最適化させる魔晶があれば、その力が有れば姫様は目を覚ます筈なのです!」
そういえば兵士たちが樹を切り倒すとか言ってたっけか、装備もこの魔壊樹をどうにかする為に揃えたって言ってたし、やはり最初から私は眼中に無かったって事なのか。
しかし……魔力の欠乏ねぇ、魔力がこの子にとってどれだけ重要なのかは解らんが、ただの燃料切れで死亡なんて表記は出るのだろうか。曾お祖父さんが残した資料っていうのがどれ程の物かは知らないが、このゲーム機からの情報を鑑みるとそれが本当に正しいのか疑問が残る、そもそも政務さんが正しく理解できているのかも妖しい所だな。
まあ、そんな確証得られないこと悩んでもしゃあないか。話を聞いて行けば何か新たな情報も見つかるだろう、ということで話を進めるか。……あんまりストレートも良くないし、ちょっと方向性変えて見るか。
「ということは、初めからこの樹を切り倒して魔晶を手に入れようとしていたってことか。……そう言えば、あの時言ってたバカけた要求は何だったんです?責任とってとかってヤツ」
「フフ、あの要求はただのブラフ、正しくは貴方がどの様な人かを調べる為の布石ですよ。貴方が無理をして強気に出てるのは分かっていましたし、ちょっと脅かせば従ってくれるのではと考えていたのですが、存外に心の方は強かった様ですね」
全く褒められている気がしねぇ、まあ実際褒めてないんだろうけど。こっちの考え全部見切られているみたいだし、私この人苦手だな。
……正直もうお帰り頂きたいし、欲しているのが魔晶なら渡しても良いと思っている、この魔壊樹ゴーレムにも入っているみたいだしな。でもなぁ、なんか引っかかると言うか、まだこの人隠してる事がありそうなんだよなぁ……
「……早く決断してください、私達の国にとって、姫様は命より重いのです、彼女の命なんて私としてはさほど重要ではないのですよ」
あ、イカン、考えるのが長過ぎた。そしてこの人、やっぱり姫様のことしか考えていない、となると隠している事も姫様関係になる可能性があるな。……そこに活路が有るかもしれない、さて、どうやって聞き出すか。
「……けッ白々しい奴だなぁおい!さっきから聞いてりゃお前、自分のやってる事の本質は全く語っちゃあいねえだろ」
あれ?なんでこの人がいきなり割り込んできてんの?いや置いてけぼりしたのは悪かったけど。だが彼の言葉は少々気になる、もしかして私の知らない何かに気が付いたのか?
「じゃあてめぇはなんでその大事な姫様をこんな危険地帯に連れてきてんだ?ありえねぇだろ、本当に姫様が大事ならなぁ。そもそも可笑しいんだよ、国を掛けての危機だってのたまってる割りにゃあ国の兵士が全く動いてねぇ、しかも一般の民をおさえこまず軍以外の実力者を派遣する事で支援までしてやがる、どう考えても異常だよなぁ」
……そんなことしていたのか聖教国。
しかし他国の事情にくわしいなこの人、空賊は世界に何人もいるって話しだし、彼独自の裏情報的な物を持っていたりするんだろうか。
「今回その人形の嬢ちゃん見て確信したぜ、そいつは“心霊”の加護憑きじゃねぇか、しかもその強さ……そりゃ周囲に影響与える訳だな。その力で近衛の心を支配し統率を取っていたってとこか、そして一定以上離れてしまうと魔術対抗力の強い精鋭たちが正気に戻っちまうかもしれねぇ、だからここにまで連れてきたんだろ?」
えっと、加護憑きってのはあの子“詳細”に付いていた“愛心霊の加護”ってやつの事か?そしてこの姫様、集団催眠的な効果を持ってんのか、怖ッ!
しかし政務がここに大事な姫様を連れてきた理由は分かったな、あの巨大な魔壊樹の解体作業なんて大仕事は彼一人では到底できない、国外における相応の人員が必要になる作業は姫様同伴じゃないと機能しなくなるのか。……つかそれが本当なら、姫様居ないとなんも出来ない国ってこと?それはもうダメだろ!
……あれ?じゃあ今姫様の居ない国は、どういう状況になってるんだろう?
「てめぇ混ざりモノがどんな弊害を起こすのか知らねぇ訳がねぇだろ?まあそのおかげで国が発展したんだから結果良かったのかもしえねぇが、その人形娘が国民騙くらかしてたのには違いねぇよな。そしてお前、態々そんな状態の奴を連れてきたって事は、そいつの能力を知ってるってことだよなぁ」
なんか辛辣な事を言っている、しかも混ざりモノ?なんか前にフィアもそう呼ばれていた気がする。加護憑きという存在はこの世界では差別の対象にでもなっているのか?
……というか、話の流れが若干ずれてね?もしかしてこの人、自分の言いたい事言ってるだけで、私達の事情とか状況って考えてないんじゃ?……なんかいやなよかんがしてきたぁ。
「その始まりが偶発的にか意図的なのかは知りゃしねぇ、だがそれ以前にそう言う能力を持ってる奴が人を導くなんざあっちゃならねぇんだよ!その力を知り裏か操ってるてめぇも同様になぁ!!しかも姫様の治療だぁ?そもそもそいつ死ん「黙れぇ!!!!」!?」
いままで声を荒げる事の無かった政務が怒鳴り上げている、そりゃ全く無関係な人が入ってきたら怒るか?いやそれとは方向性が違う気が……やっぱり姫様関連か?
「黙れ!貴様に!姫様の何が解る!!姫様の真実の言葉を知らぬ貴様に!!解ってたまるか!!!」
政務の叫びと共に浮かんでいる甲冑の一体強襲してくる、狙いは……空賊の人!?
「ちょ、危な!!?」
「は!?何す!!?」
……あ、ヤバイ、とっさに守ってしまった。
柾さん大ピンチ!無事なのか?次回、姫様騒動解決!
魔壊樹のゴーレムは現在も名前募集中です。ご協力よろしくお願いします。




